シルバーVSパープル

「嫌あぁーーー!!!」
真矢は半狂乱になっていた。神主の持っている一本の日本刀から感じられる恐怖が体中を駆け巡っていた。その場でへたり込んで髪をかきむしりただ叫んでいた。
そして、段々と真矢の体から黒っぽい靄が立ち始めた。


セツナは腕に包帯を巻いたまま暇そうにベッドに座っていた。
「雪志乃さん。ご面会の方が見えてるけどどうする?」
「面会?名前は?」
(組織の人間はさっき帰った・・・。)
不思議そうに聞き返すセツナ。
「紫さんという貴方と同い年くらいの男の子よ。」
「!?}
(どういうつもりだ・・・。)
セツナは一瞬厳しい表情になった。
「通して。」
「じゃあ、呼んでくるわね。」
そういって看護士は部屋を出ていった。少ししてノック無しに扉が開いた。確かに数時間前まで対峙していた相手に間違い無かった。
「何しに来た・・・。」
セツナの表情は硬くなり、鋭い視線で相手を見る。
「は?見りゃ分かるだろ。見舞いだ。」
そう言うと、持っている花を近付いてきてセツナ本人に渡す。セツナの方は一瞬呆気に取られていた。そんな様子を全く気にせず相手は椅子に座った。
「結構良い病院じゃねえか。」
相手のその言葉でセツナは我に返った。
「他の目的は何だ・・・。」
「お前の護衛。」
「な・・・に?」
セツナは相手から出た言葉の意味が理解出来なかった。
「頼まれたんだよ。俺の知ってる奴からな。」
「それで・・・お前は納得がいくのか・・・。」
理解出来ないと言う表情で言うセツナ。
「俺は気にしねえよ。お前の方が納得出来ないって顔してるけどな。」
そういって、気楽に笑う相手。セツナの顔は少しひくついていた。
「狙ってるのはファイだ。」
「何っ!」
流石にセツナは驚く。
「もう一つおまけに狙われてるのはお前だけじゃない。天王 真矢って奴もだ。」
「!?」
その言葉には声も出なかった。
「向こうは俺の知り合いに頼んであるし、赤沙羅神社になんぞ手だせんだろ。出した所で無駄だろうしな。」
その言葉には納得できたので小さく頷く。
「一度殺りかけた途中で手を引いたから、今回やっこさんやる気満万だぜ。ったく弱ってる奴に止め刺すってのはせこいと思うんだけどな。」
「・・・。」
セツナは相手の言葉に黙り込んだ。
「さっき・・・。」
「ん?」
「お前が、シルバーチェイサーを引かせた事があると聞いた。本当なのか?」
セツナは真剣な眼差しで相手に聞く。
「ああ、だがお前と同じさ。俺の知り合いが、気を使ってあいつの雇い主消したんだ。それでお流れになった。マジでやりあって引かせた訳じゃねえよ。」
「そうか・・・。」
(こいつ程の男でもまともにやりあった事は無いのか・・・。)
セツナは苦い顔をして黙り込んだ。
「まあ、正面切ってやりあってみたいとは思うけどな。シルバーチェイサーも戦慄のセツナのあんたもな。」
そう言って相手はニヤリと笑った。その言葉にセツナの表情が険しくなる。
「さてと、やっこさん思ったよりも早いな。雪志乃、手負いでもファイ以外ならどうにでも出来るな?」
「無論だ。シルバーチェイサーとて狭い場所で一対一なら今でも殺れる。」
お互い言い合ってから口元だけ笑い合う。
「まあ、怪我人に無理させるつもりはねえしな。じゃあ、後は自分の居場所を守ってくれ。きっと今頃天王って奴も頑張っているだろうからな。」
それだけ言うと立ち上がって、部屋を出ていった。
「紫 比呂猛・・・。不思議な男だ・・・。」
小さく呟いてから、セツナはベッドから起き上がった。


「よう、ファイ久しぶりじゃねえか。」
「紫 比呂猛さん?何故こんな所に?」
流石にファイは驚いて比呂猛をまじまじと見ていた。
「微力ながら、戦慄のセツナ様の護衛を仰せつかってるんでね。」
ニッと笑って、何処からとも無く斬馬刀を抜く。ファイの方も銃を持っているが、額から汗が流れていた。
(何故・・・ブラッディーパープルが戦慄のセツナを守る?昨日は敵同士だったはずなのに・・・。)
ファイは1発撃つがあっけなく、広い刀もの面で弾かれる。
「迷いはいけねえな。あの時みたいなキレが無えぜ。」
「ふっ。」
一回軽く笑った後ファイは、もう一つ銃を取り出して、そこから二人の戦いが始まった。


「下らんな・・・。」
ドサッ
セツナの個室に、既に6人の死体が転がっていた。部屋も白く綺麗だったのが、血しぶきなどで、真っ赤になっていた。
ふと、視線を窓の外に移すと、離れた病棟の屋上でファイと比呂猛がやりあっているのが見えた。
「シルバーチェイサーにブラッディーパープル・・・いずれは決着を・・・。」
そう呟いていると、また壊れかかった入口の扉から二人ほど武器を持って入って来た。
「死にたくなければ・・・去れ。死にたいのなら・・・かかって来い。」
セツナは静かに言う。二人は何も言わずにセツナに襲いかかる。片や日本刀持ち、片やナイフ持ち。先に一番リーチの長い日本刀の一振りが来るが、あっさりかわすセツナ。それに連動する様にナイフ使いの突きが来る。体を相手の腕より内側に入って、振り上げた手刀でナイフを持っている方の腕が落ちる。そこで、日本刀の二振り目が来る。ナイフ使いの体を盾にして切らせて、一気に間合いに入って、左胸を貫いた。ナイフ使いは日本刀の一撃で、日本刀持ちはセツナの一撃で吐血して絶命した。セツナはそのまま手を引き抜いて、死体が重なっている奥へ投げ捨てる。
セツナは自然体でまた、その場に立っていた。


ズドンッ!!!
「ちっ!」
比呂猛は遠くからの強い衝撃に、刀の面を盾にして5m程後ずさった。砂煙で周囲の視界が悪い上動けない所に、容赦無くファイが撃つ。足や腕に数発貰ったが、そのまま一気にファイに向かっていった。流石にファイは向かってくる比呂猛を見て驚いた。一気にファイの目の前で刀を振る。ファイは反射的に銃から手を放したが、凄まじい剣圧で二丁の銃は砕け散り、更に両手や体の一部が切り裂かれた。勢いで吹き飛ばされて倒れ込んだファイにもう一振りが下ろされそうになった時、比呂猛の携帯が鳴った。
「私です。比呂猛いいですか?」
「ああ、いいぜ。」
振り下ろそうとしていた刀を片手でファイにつき付けたまま電話に出た。
「戦慄のセツナを狙っているシルバーチェイサーを含む人達を雇った人は消しました。私のお願いはもう終ったと同じ思うのですが雪志乃さんは大丈夫ですか?」
相手の女性の声は携帯から漏れていた。ファイにはその声に聞き覚えがあった。
「ファイ以外はあいつにとって相手じゃねえ。ファイは今目の前で俺が相手してるしな。」
「それは良かった。京都の方は私が手を下すまでもありませんでした。」
「そうか分かった。後は良いのか?」
「ふふふ、後は貴方にお任せしますよブラッディーパープル。」
そこで、通話が終った。
「聞いての通りだ。これで狙う必要は無えな。こいつに助けられたなファイ。」
比呂猛はニヤッっと笑う。
「彼女と知り合いだったなんてね。しかも、対等の立場にいたなんてね。それもそうですけれど、対戦車ライフルを受けとめるなんて・・・貴方は化け物ですか・・・。」
苦笑いしてファイは言う。流石に両手が満足に使えない状態では何も出来ないので、体の傷口を抑えていた。
「まあ、いっつも相手してるのが化け物みたいなもんだからな。それにしてもよ、お前程の奴が弱いものいじめするとは思わなかったぜ。」
「それに関していうなら、仕事ですしね。強い弱いなんて関係無いですよ。彼女に関して言うのなら、それだけ恐れていたのでしょう。私に止めは刺さないんですかブラッディーパープル?」
ファイは一回微笑んだ後ちょっと苦しそうに言う。
「俺は雪志乃を守るのが仕事でお前を殺すのが仕事じゃねえからよ。後はあいつにも任せるって言われたしな。」
「全く・・・。私も、彼女も舐められたものですね・・・。」
あっさりと言う比呂猛に皮肉混じりに言うファイ。
「それに、弱いものいじめは嫌いだって言ったろ。」
ニッと笑って突き付けていた日本刀をしまう。
「流石に俺も無傷じゃねえから、三人で仲良く入院ってとこだな。」
笑いながら言う比呂猛を見てファイはやれやれと言う表情になった。


(気配が離れていく・・・。終ったか。)
セツナは冷たい目で奥に転がっている死体の山を見ていた。
「雪志乃さ・・・うっぷ。」
セツナを心配してきてやってきた看護士は中の惨状に思わずしゃがみ込んで口を抑えた。
「部屋の変更手続きをお願い。それと、濡れタオル貰える?」
淡々と言う返り血で真っ赤になっているセツナに手で分かったとジェスチャーして、看護士は立ち上がってヨロヨロと部屋を出ていった。
「真矢・・・。」
窓の外の空を見ながらセツナは呟いた。