ブラッディーパープル

「お願いします。」
真矢は一礼してから、はっきりと言った。
「では、本日は最終試験を行います。これに合格できれば貴方はもう大丈夫でしょう。今日までやって来た事を思い出して頑張りなさい。」
神主は優しく微笑んだ。
「はいっ!」
緊張した面持ちで真矢は返事をした。
(本当にたった一週間でここまでこなしてしまうとは・・・。正直驚きましたが、これで悲しい連鎖が断たれる可能性が出てきたのは嬉しい事です。)
神主は後ろを向いて二本の日本刀を抜いて真矢に向き直った。焚かれているかがり火が二本の日本刀を神秘的に見せていた。
(あれれ?後ろに日本刀なんてあったかな?1本は綺麗な白い刀身に、もう1本は蒼い・・・。)
真矢は不思議に思いながらも神主の左手に握られている刀を見て、顔が青褪めて後ずさった。


「くっ!」
セツナは左腕を押さえて一旦飛び退いた。
(こいつ・・・とてつもなく強い・・・。かわした筈だったのに・・・。)
血が滴る左腕の痛みに耐えながらも相手を睨みつける。腕の怪我は思った以上に深い。
「雪志乃。止めとけ。」
相手は睨むセツナを普通に見返しながら言う。
「貴様に指図は受けん・・・。」
「迷いがある奴と最後まで付き合うつもりは無えな。」
相手の言葉に一瞬動きが止まるセツナ。セツナと対峙しているのは今回のターゲットだった。一人では無理と判断されセツナも合わせて7人掛りで相手したが、今生きて立っているのはセツナだけだった。初めはセツナは自分一人でない事にとても不満だったが、今のこの惨状を見て判断は正しかったと思わざるを得なかった。
「それで、私だけ生かしているのか・・・。舐められたものだな・・・。」
セツナは悔しそうに唇を噛んだ。あまりの悔しさに、すぐに噛んだ唇から血が滴っていた。
「俺はさ、お前はここでいらねえプライドで死ぬような安っぽい奴じゃねえって思うんだよ。」
相手は構えている刀。と言っても斬馬刀のようにとても大きなものを地面に突き立てて言う。
「どういうつもりだ・・・。紫・・・。」
セツナは相手から殺気が消えるのを見て呟く。
「俺もお前の事は前から聞いて知ってるさ。戦慄のセツナ。そして、今回は調べて俺の事も知ってんだろ。俺みたいな雑魚に自分だけじゃなく6人もいてやられたってんじゃ名前が泣くぜ。」
ニッと笑いながら言う相手。
「ブラッディーパープルと呼ばれる一匹狼のお前が相手を逃がすのは名折れにならんのか・・・。」
「はっはっは。逆だぜ。お前を取り逃がしたんだったら問題ねえだろ。俺もお前も損は無え。」
「・・・。」
(私がこれだけ殺気を出していても・・・関係無いと言うのか・・・。情け無い・・・。)
セツナの目に少し悔し涙が浮かぶ。
「悔しかったら、生きて迷いを断って、そしてお前がもっと大きくなってから来りゃ良いさ。俺は逃げも隠れもしねえ。それと、その傷さっさと治療した方が良いぜ。真理もそう言ってる。」
そう言うと相手は刀を引き抜いて抱える。そして、セツナに背を向け軽く手を振りながら歩き出す。
「待てっ!」
流石に我慢出来なくなったセツナはその場で叫ぶ。
「ん?」
相手は首だけ向き直る。
「紫・・・。これは借りだ・・・。必ず返す・・・。そして、その後必ず・・・。」
「好きにしろや。」
さして興味が無いと言う感じで再び向き直って歩いていった。セツナはその場で左腕を押さえながらへたり込んだ。
(くぅ・・・。)
悔しさと痛みで何かを言いたかったが、セツナは去っていく相手を見送るしかなかった。


「あれで良かったんだろ?真理?」
さっきまでセツナの前にいた相手は担いでる大きな日本刀に向かって話しかけていた。その後、少しして満足そうに笑った。


暫くしていつもの男がやってきた。
「セツナ大丈夫か。」
近くまで来てからしゃがみ込んで聞く。
「ちょっと・・・。きつい・・・。」
左腕を押さえたままセツナは答えた。
「セツナが無理なら他に奴を殺せる奴はうちにはいない・・・。これ以上は無駄だな・・・。」
男は倒れて死んでいる6人を見てから呟いた。
「私は・・・。お情けで生かされた・・・。」
セツナは悔しそうに俯きながら言う。地面に小さな跡がつく。
「お前は良くやった。奴はシルバーチェイサーにも引かせた奴だ。自分を恥じる事は無い。今度はそれを後悔に変えてやれば良い・・・。」
セツナは黙ったまま頷いた。
「さあ、車が来てる。病院へ行くぞ。早く治して次の仕事をやって貰うからな。」
そう言って先に歩き出す。セツナは立ち上がって一旦空を見上げてから、男の後を追って歩き出した。
その顔にはさっきまでの悔しさは消え、歩き方同様すっかりいつもに戻っていた。