寄り道

セツナは赤沙羅神社を出た後、少し京都見物をしようと思い歩いていた。
どのくらい歩いたのか、並木道の入口に立っていた。両側の木を眺めながら歩調をゆっくりと変えた。
並木道の中間辺りに差し掛かると、正面から男が一人走ってくる。更にその後ろから追うように走ってくる三人がいる。後ろの三人は見るからに、その手の関係者に見えた。
セツナは一旦目を閉じてから、ゆっくりと開けて初めに走って来ている男の行く手を阻むように立った。
「うわっ!仲間がいたのか。見逃してくれ。俺は何もしていないんだ。」
男は必死だった。どうみても嘘がつける状況ではないし、嘘をついているようにも見えない。
「これから先、絶対に振り向かずにそのまま走れ。そうすれば助かる。ただし、振り向いたらその時は死ぬ。いいな?」
セツナは静かにいった。男は只頷いて、セツナの横を抜けて走って行った

そして、後から来た三人の前にも立ち塞がるように立った。
「何や、姉ちゃん。邪魔しよういうんか?痛い目見たくなかったらそこどきや。」
一人がそう言うと、セツナは少しニッと笑いながら手で挑発した。
「そのまま、犯したるわー!」
男はナイフを出して切りつけたが、あっけなく避けられて手刀で喉元を切られた。凄まじい出血をして男は倒れた。口でパクパク何かを言おうとしているが声帯も切れているらしく、ヒューヒューとしか息が出来ていない状態だった。
「何もんや!」
「偉そうな口を叩く割には自分が誰かも誇示出来ないか・・・。まあいい。セツナだ。戦慄のセツナといえば分かるかな。」
相手の一人は、セツナの言葉にムッとしていたが、その名を聞いてもう一人は青くなっていた。
「俺らじゃ、無理や。ここは引いた方が身の為や。」
青くなった男はいきり立っているもう一人をなだめながら言う。
「誰も、逃がしてやるとは言っていないんだがな。」
「しゃらくせえ!これでも食らいやがれ。」
いきり立った男は拳銃を抜いて、いきなり発砲した。セツナは残像が残るかのように動いて5発全てかわした。その後に一気に間を詰めて、左胸を手刀で貫いた。男は驚いたまま血を吐いて絶命した。
セツナはすぐに腕を抜き取って、もう一人の方に向き直った。もう一人は既に戦意は無く、ガタガタと震えていた。
「名を聞いたのが間違いだったな。恨むのなら、そいつを恨め。」
そう言ってからセツナはその男も殺した。その後、ポケットから白手袋を出して三人の身元や交友関係を知る為に上着やポケットを素早く探した。目に付いたのは、

名刺[鳳友会]
名刺[京都風情館]
[現金25万]

(鳳関係か。鳳も質が落ちたな・・・。こんな奴等からクリーニング代は取りたくないな・・・。)
セツナは、2枚の名刺を持ってすぐにその場を後にした。


「す、すいません。東京で新幹線に乗るまでに手間取ってしまって。遅くなってしまいました。」

真矢は京都駅で待っていた赤沙羅神社の巫女さんにペコペコと謝っていた。
「良いんですよ。さあ、行きましょう。」
「は、はい。」
真矢は巫女さんに着いて駅から出た。少しキョロキョロしてから手を上げてタクシーを呼んだ。
(何で沢山タクシーいるのにあのタクシーを選んだんだろう?)
真矢は不思議に思っていたが、あえて聞かなかった。そして、二人はタクシーに乗り込んだ。
「すいません。またお願い出来ますか?」
「はい、分かっていますよ。ちょっと飛ばしますね。」
運転手は分かっているようで、駅から少し離れると一気にスピードを上げた。


セツナは、血に染まった上着を脱いで、念入りに腕と上着を洗ってから一番近いデパートのある駅を聞いてそこへ向かった。
デパートで、消臭剤と新しい服と香水を買った。
外の公衆トイレで、体に香水をかけてから、血に染まっていた上着を消臭剤と一緒に袋に入れてから服を着替えた。
その時、急に携帯が鳴った。
「もしもし・・・。」
「私だ。仕事が入った。今何処にいる?」
いつもの男だった。
「京都。」
「東京駅八重洲口までどのくらいで来れる?」
「こちらの電車次第・・・。余裕を持って3時間後。」
「わかった。3時間後東京駅八重洲口で待っている。」
男はそれだけ言うと電話を切った。
セツナは、すぐにトイレから出て最寄駅へと向かった。京都駅に着く頃に、殺した三人の噂がちらほら聞けた。

「京都名物・・・。」
駅の売店で種類が多くどれにしようと迷ったが、店員の薦める生八橋を一箱買ってから東京行きの新幹線に乗り込んだ。
(今頃、真矢はあの神主と話をしているのか・・・。)
動き出す新幹線の車窓からセツナは綺麗な夕焼けを見ていた。


真矢は唾を飲んで言葉を待った。
「天王さん。既に貴方の中の狂気は目覚めています。」
「ええっ!?」
流石に驚いて声を上げる。
「その証拠に、巫女の何人かは狂気に当てられていますし、この敷地内にいる者達にも少なからず影響を与えています。かく言う私も、感じます。
神主の真剣な顔に、真矢の顔も自然と引き締まる。
「私はどうしたら良いのでしょう?」
「一週間時間を下さい。ここで一週間精神修行を積んで、狂気と綺麗に融合すると良いでしょう。狂気と言いますが、今の貴方にとっては悪いものではありません。貴方の一つの特殊能力としてしまえば良いのです。それをコントロール出来れば、日常生活には全く支障はありません。」
真矢は神主の言葉にホッとしてその場にぐったりとなった。緊張感の糸が切れたので一気に体中の力が抜けた。
「学校の方へは、私の方から連絡を入れておきますので安心して下さい。理由は、こちらで病気になったと言っておきます。」
「病院は大丈夫でしょうか?」
慣れたように言う神主に心配になって真矢は聞いた。
「あの病院は大丈夫ですよ。臨機応変に対応してくれます。何せここを紹介する位ですからね。」
そう言われて真矢は思わず納得して、大きく何度も首を縦に振っていた。
「とりあえず、今日はゆっくり休んで下さい。明日からの修行は辛いものになるでしょうからね。」
「分かりました。明日からも宜しくお願いします。」
真矢は深々と礼をしてから、部屋を出て行った。
「しかし、あそこまで器の大きな天王の人間は初めてかもしれませんね。狂気の悲しい歴史ももしかすると転換期を迎えるのかもしれませんね。あの子なら今までに無い新しい道を歩んでくれそうです。」
神主は少し嬉しそうに笑った。


セツナは東京駅に着いた。約束の時間までまだ十分に時間がある。
「いるかな・・・。」
一応八重洲口を覗いて見た。すると、既に男は立っていた。セツナはすぐに近付いていった。
「ん?早いな。」
「お土産・・・。」
相手の男は不思議そうに受け取った。
「今日はご機嫌なのかな?」
「仕事は?」
セツナは特に問いには答えず聞いた。男は無言で封筒を取り出しセツナに渡した。
「全てはその中に書いてある。」
「わかった。」
そう言ってからセツナは袋を男の前に出した。
「頼んだ。」
その言葉に袋を受け取って、男は人込みに消えていった。


真矢の方は、明日に備える為にご飯を食べて、案内された部屋で天井を見上げていた。
(セツナ。私、頑張るよ。悲しい過去と同じ過ちは繰り返さない。私は普通にセツナの友達でいられるように死ぬ気で頑張る!)
グッと握りこぶしを作って気合を入れる。
「よし、寝るぞー。」
明かりを消して、真矢は眠りについた。


その頃セツナは冷たくなった死体を見下ろしていた。その瞳は冷たかった
廃ビルの裏から出たセツナは夜の町に向かって歩き始めた。
眠らない町に一人・・・。