発覚

真矢は最近寝付けずにいた。
「おかしいな・・・。何か病気なのかな?」
流石に二週間近く続くこの状態に首を傾げながら呟いた。
「どうかしたの?真矢?」
真矢の友人が声をかけてくる。
「うーん。何か最近寝付けなくって。何処か体の調子が悪いのかなって思って。」
「それならさ、遠いかもしれないけれど霞賀裏大学病院行って来たら?あそこだと他の病院で原因不明とか分からない病気とかも見つけてくれるらしいしね。」
「へえ、じゃあ今度の土曜日にでも言ってみようかな。ありがとね。」
真矢がお礼を言うと、友人は軽くてを振って答えた。

(天王の血か?)
少し離れていたセツナは真矢を見てそう思っていた。最近真矢の雰囲気が昔と違うような気がしていた。いつも傍にいるセツナはその変化に気が付いていた。
(殺すか殺されるか・・・か。)
セツナは自分の手を見て、次に真矢を見てからゆっくりと目を閉じた。


土曜日
「うひゃあ、でっかい病院!」
真矢は流石の大きさに来るまでの疲れを忘れて驚いていた。周りにいた人の何人かは笑っていた。真矢は笑われたのに気が付いて、恥ずかしくなってそそくさと病院の中へ入っていった。
国内屈指の大病院は大きい事もさる事ながら、当然患者もそれに比例するくらい多かった。
「受付・・・受付・・・。」
真矢は回りを見渡して受付を探した。受付は一つだけでなく幾つもあった。真矢は一番人の少ない受付に向かって歩いて行った。順番待ちをしていると、すぐに後ろに順番待ちの列が出来た。
(うわ、すごい人!)
後ろを見てから、前を向くといつの間にやら自分の番が来ていた。
「すいません。何科にかかって良いのか分からないので教えて頂けませんか。」
「どんな症状なんですか?」
受付の女性はとても親切そうな人だった。
「ここ、二週間程全然寝付けなくて困っているんです。」
「それでしたら、まずは内科にかかると良いですよ。この病院は初めてですか?」
「はい、病院自体が初めてなもので。どうして良いのやら。」
真矢は苦笑いしながら言った。
「それでしたら、このカードに記入して頂いてから、あちらの「初診コーナー」へそのカードを持って行って下さい。記入内容で分からない所がありましたら、「初診コーナー」でお聞き下さい。」
「はい、ありがとうございました。」
真矢はお礼を言ってから、カードを持って初診コーナーの近くにある記入場所へ移動した。
「ふむふむ、何々・・・。」
少し悩んだ所もあったがとりあえずすべて記入が終った真矢は、「初診コーナー」へカードを持って行った。
「こんにちは。初診の方ですね。カードの記入に不備はありませんので、第三内科の待合場所の椅子に座ってお名前が呼ばれるまでお待ち下さい。第三内科へは、このロビーをまっすぐ行きまして、三個目の十字路を左に曲がって頂いてすぐになります。もし分からなかったら、近くに居る病院関係者に聞かれるか、案内板をご覧下さい。」
真矢はその言葉に頷いて早速待合場所へ向かった。特に迷う事も無く待合場所へ到着した。既に、待合場所には沢山の人が座っていた。
(病院の待ち合わせなのか、そうじゃないのか間違えそうな数だな、こりゃ。)

様子を見て真矢は苦笑いした。周りを見て、空いている席に座った。
時間が経つ度に何だか緊張して来ていた。
「天王真矢さん。12番受付前でお待ち下さい」
待つ事一時間半。うとうとしていた真矢は、目をこすって立ち上がって移動した。
(あれれ?)
真矢は受付前に来て不思議に思った。他の番号の所の前には何人も座っているのに、自分のいるこの12番の受付前には自分以外誰も居なかった。
「天王さん。どうぞ。」
不思議に思いながらも呼ばれた真矢は中へと入っていった。
「天王真矢さんですね。」
「はい。」
返事しながらも真矢は自分の名前を呼んだ医師に何か不思議な感覚を覚えていた。
「最近寝付けないそうですが、眠気はどうですか?」
「それが・・・寝てないのに眠くないんです・・・。」
「他に調子が悪いとか、痛い所はありませんか?」
「特に無いです。」
「ふむ。天王さん。ここ以外の病院にはかかったのかな?」
「いえ、多分分かってくれそうに無いんで友人の薦めでここに来たんです。」
「なるほど。その判断は正しかったね。」
「はあ・・・。」
真矢はやり取りの中で特に馬鹿にされた感じもないし、真面目に聞いてくれたのも分かったのだが、判断が正しかったと言われたのにはピンと来なかった。
「君、すまないが外してくれるかな。」
「はい、先生。」
(ええっ!?看護士さんに外してってどういう事!?)
流石に真矢は焦った。しかし、そんな事とは関係なく当たり前のように看護士は部屋から出て行った。
「あ、あの、先生・・・。何か不味いんでしょうか?」
「これから話す事を信じるも信じないも天王さん次第だ。いいね?」
真剣な表情をして言う医師に黙って頷くしかなかった。
「親族の方などで思い当たる節もあるかもしれないが、一旦最後まで聞いて欲しい。」
真矢は緊張して唾を飲み込んだ。
「天王さんの家系は特殊な家系なんです。一部の人間には有名な話です。天王家は狂気の血を引き継いでいるのです。この血はある年齢で目覚め、殆どの場合精神を保てずに誰振り構わず殺してしまったり、破壊してしまったりするという、恐ろしいものなのです。」
真矢は余りの話の凄さに眼が点になっていた。
「自分が殺されるまでは、それが止まりません。故に最後には退魔士と呼ばれる方に退治されるケースが非常に多いです。常人には相手の出来る力では無いそうです。その中でもごくまれに、その血を受け入れられる方が居るそうです。ただ、それを受け入れられたのは、今までに数人しか居ないそうです。」
真矢の顔は真っ青になっていた。完全に血の気が引いていた。
「そして、その前兆が誰にでもあるとの事で、多分天王さんの場合、今回の寝付けないというのはその前兆なんだと思います。」
「そ、そう・・・です・・・・・か。」
流石にショックでそこまで言うのが精一杯だった。
「ただ、救われる道があるかもしれません。これからもし時間とお金があるのなら京都にある赤沙羅神社へ行くと良いですよ。そこなら何とかしてくれるかもしれません。」
「赤沙羅・・・神社・・・。」
「そうです、もし行く気があるなら今先に電話を入れて置きますよ。」
その言葉を聞いてショック状態だった真矢の意識が戻った。
「お願いします。これからすぐに行きます。」
「分かった。一刻を争うかもしれない。電話が終ったらすぐに行きなさい。ここの支払い関係の事は気にしなくて良い。」
それだけ言うと、医師は電話をかけ始めた。真矢は一旦は意識がはっきり戻ったものの、医師が電話をしている様子を見て居る途中で、ぼんやりと考えていた。
(私・・・狂っちゃうかもしれないんだ・・・。でも、家族は居ないもんね・・・迷惑なんて誰にも・・・・・・・・セツナ!!!!!どうしよう・・・セツナに何て説明すれば良いの?)
真矢はセツナの名前を思い出した途端冷や汗が体中から出ていた。
「・・・さん・・・天王さん!!!」
「えっ!?」
医師に呼ばれている事に気が付かず、真矢は驚いていた。
「とりあえず、今日は神主さんはいるんで見てくれるそうですよ。京都駅に迎えにも来てくれるそうなので、駅についたら駅員さんに「赤沙羅神社の方」と呼び出しをかけて欲しいそうです。それで、連れて行ってくださるそうです。このメモに書いておきましたから、向こうについたら見て下さい。」
「分かり・・・ました。」
真矢はメモを受け取って立ち上がった。少しふらついたがそのまま部屋を後にした。
「大丈夫かな・・・あの子。やっぱり自殺する人もいたとは言えないよね・・・。あれだけでもショックだっていうのに・・・。」
医師は真矢が出て行った後に苦笑いしながら呟いていた。
(京都で何とかしてもらうしかない。)
意を決して霞賀裏大学病院を後にして、携帯で時刻表を見ながら駅へと向かった。

セツナは霞賀裏大学病院入口で離れていく真矢を見送っていた・・・。