セツナ
セツナはただ黙って冷たい目をしてそれを見ていた。
それはさっきまで自分に何かをしようとしたものだった。
それは動かない。
冷たい雨の降りしきる中セツナの髪は濡れていた。
「セツナ・・・。」
暫くして後から呼ばれ振り向く。一人の男が立っている。
やはり黙って冷たい目で相手を見るセツナ。
「組織からの命令だ。次はこいつだ。同じ事をすればそれで良い。分かるな?」
セツナは頷く。そして、それを指差す。
「大丈夫だ。後始末は私達がやる。」
それを聞くと男から写真を受け取りセツナは雨の中消えていった。
「朝のニュースです。昨夜午後0:00頃東京都新宿区で殺人事件があり。被害者は暴力団組員・・・・。」
セツナは制服を着ながらそのニュースを見ていた。被害者の暴力団組員と言っているのが昨日の「それ」だった。
興味無さそうにチャンネルを変えセツナは学校の身支度を整えた。
登校途中不意に声をかけられる。いつもの声だ。
「おはよう!」
「おはよう。」
相手の元気の良い挨拶に答えるセツナ。セツナの人を寄せつけない独特の雰囲気をもろともせず気軽に声をかけてくる珍しい同級生である。
「そういえばさあ、セツナ。今日帰りにお店よってかない?良いトコ見つけたんだ。」
お伺いを立てるように上目使いで言う相手。不思議とこの相手にセツナは素直になれる。
「良いわ。でも遅くまでは駄目ね。」
「やったね〜♪」
そう言って相手は嬉しそうにセツナに抱きつく。そんな相手を相変らず冷たい目で見ているのだが相手は全く気にしていない様子である。
霞賀裏高校は昼休みを迎えていた。
「真矢〜」
一人の女生徒が走ってきながら声をかける。
「ん?どしたの?」
不思議そうに真矢はそちらを降り向く。
相手は少し息を切らして膝に手を置いて息を整えている。真矢はとりあえず相手が話すのを待った。
「あのさ・・・あんまり言い難いんだけど・・・雪志乃さんと付き合うの止めた方が良いと思うよ・・・。」
息が整ってから相手は言う。
「何で???」
不思議そうに首を傾げながら言う真矢。
「だって・・・近寄りがたいし・・・噂だけど・・・なんか・・・不味い事やってるって・・・。」
「うーん・・・そうかなあ?別に怖くないし良い人だよ。」
ニッコリ笑って言う真矢。その言動に駄目だこりゃと言わんばかりのリアクションを取る相手。
「まあ、一応警告はしたからね。」
そう言ってまた相手は走っていった。
「なんか・・・いっつも走ってるよねえ・・・」
相手の後姿を見送りながら真矢は呟いた。
「戦慄のセツナ・・・。」
そう呟きながら一人の男が裏路地でガタガタ震えていた。
近くを足音が通り過ぎる。そしてその足音は過ぎ去って行った。男はホッと胸を撫で下ろした。
その瞬間、目の前に一人の女性が立っていた。
男はナイフをポケットから取り出す。
女性はナイフを見ても表情は全く変わらない。冷たい目で男を見ている。
「くそーーーー!」
男はナイフを持って突っ込む。一気に突き出す。
しかし、女性はいともあっけなくかわし、手刀を相手に見舞う。
ぱっと血が飛び散る。そして、男は倒れる。
女性は返り血を浴びても微動だにせず冷たい目で男を見下ろしている。
「戦慄のセツナ・・・お前がそうだったの・・・か・・・・・」
それだけ言うと静かになった。女性は踵を返し夜の闇に消えていった。