聖一と恭子2(後編)



聖一はいつもの慣れた道のりを急いでいた。

(何か今日はいつもと違うな。)
そんな事を考えている内に恭子の家の玄関へ着いた。
ピンポーン!
いつに無く緊張しながら中から中からの反応を待った。
「どちら様ですか?」
聞きなれた恭子の母親の声だった。
「聖一です。」
「あら、聖一さん、いらっしゃい。今開けるわね。」
少しして恭子の母親が玄関の扉を開けてに姿を現した。
「恭子は寝てると思うけれど良いかしら?」
「はい、夜遅くにすいません。」
聖一は頭を下げて言った。
「良いのよ。恭子起きたら驚くだろうけれど、聖一さんが居てくれて安心するだろうし、嬉しいだろうから。宜しくね。」
「はい。」
聖一のはっきりした返事に恭子の母親は軽く微笑んだ。そして、聖一を家の中へ招き入れた。
「春那ちゃんの話だと今日は来ないような事言っていたけれど用事とかは大丈夫なの?」
「あ、いや、えーと・・・。」
(どう言ったもんだか。)
聖一は少し口篭った。
「良いのよ、無理に答えなくても。」
「あ、すいません。」
聖一は苦笑いしながら謝った。恭子の母親はそれを見て少しクスクス笑った。
それから二人は少し黙っていた。部屋の前まで来て恭子の母親は、無言で微笑んでから去って行った。
聖一は一回深呼吸してから、そっと恭子の部屋の扉を開けた。中を見渡すと布団で恭子がスースーと寝息を立てていた。聖一は枕元に座って恭子の寝顔を静かに見た。
(顔色はあまり良くないかもしれないな。これでも良くなったんだろうな・・・。)
顔色を見て少し苦笑いした。


そんな頃、春那はメッセで相手と話していた。そして、話題が丁度途切れて切り出した。
「「あの〜聞いても良いですか?」」
「「ん?何?」」
春那は相手にお伺いを立てるように改まって聞いた。。
「「私は来なくて良いですよって伝えて、分かったって聖一さん答えたんですけれど、どうやって恭子さんの所へ行く気にさせたんですか?」」
素朴な疑問だった。
「「行けって言っただけだけど?」」
「「本当ですか?」」
「「こんな事で嘘ついてどうするのよw」」
(うーん、この人相変わらず。)
少しクスッと笑ってから返信を返した。
「「何か色々駆使したのかなって思って。」」
「「あっはっは。聖ちゃんにそんな事しても無駄だし遠回りなだけだよ。最初が肝心だから行けって押し切っただけよw」」
(あの聖一さんを押し切るかあ。でも・・・)
「「でも、行ってくれて良かったと思います。恭子さん起きたら驚くと思いますけれど。」」
「「だろうね。こういう企み大好きw」」
「「そういう狙いもあったんですね?」」
(こういうも所はっきり言っちゃうんですよね。この方は。)
春那は可笑しくなってクスクス笑った。
「「今回はそっちは副産物だよ。こういう時は誰かに居て貰いたいものさ。」」
「「そういう経験あるんですか?」」
「「まあ、弱っている病人ってのはそんなもんよw少しでも元気になれば意地も張れるし嘘もつけるからね。」」
(鋭い真理・・・。)
笑うのを止めて春那は少し姉の事を思い出して手が止まっていた。
「「恭子ちゃんは少しでも元気だと我慢しちゃうからね。こういうのも良い機会なんじゃないかな。本音でぶつかってみれば良いさ。聖ちゃんだもの楽に受け止めてくれるさ。」」
「「うふふ、そうですね。」」
少しにこやかに微笑みながら春那はそう返信した。


「ん・・・。」
恭子はふと目を覚ました。
「お、起きたか。」
少しボーっとした状態で何となく声のした方を見た。
「え!?ええっ!?!?」
恭子は驚いて思わず声を上げた。
「な、な、な、何で居るの?」
少し取り乱して指を刺して言った。
「おいおい、居ちゃ不味いのか?」
恭子の言動に苦笑いしながら聖一は聞いた。
「悪くはないけど・・・驚いた・・・。」
聖一に聞かれて恭子は冷静さを取り戻して少し気不味そうに答えた。
「聖一・・・。」
「ん?」
少しの沈黙の後恭子が切り出した。
「何で今居るの・・・。」
「・・・。」
聖一は黙って只恭子を見ていた。
「こんな私見せたくない・・・。」
「何で?」
その返事を聞いて恭子は小刻みに肩を震わせる。
「嫌なの!辛いの!こういう事いう自分が嫌いなの!」
恭子は吐き捨てるように強い口調で言った。
「そっか、で、すっきりしたか?」
「えっ?」
「言いたい事言って少しは楽になったかって言ってんの。」
「・・・うん。本当に・・・辛いんだもん・・・。」
少し涙ぐむ恭子を見て聖一はドキゥとした。
「これで、少しは楽になるか?」
そう言って恭子をそっと抱き寄せた。恭子は一瞬はっとしたがそのまま、聖一の胸に顔をうずめた。少しの間二人はそのまま黙っていた。
どのくらい時間が流れたのか聖一が切り出した。
「春那ちゃんに言われて、落ち着いて寝てるって言われてさ正直な所に三日してからお見舞いに来ようと思ってたんだ。」
「じゃあ、何で来たの?」
恭子は不思議そうに聖一の顔を見上げながら聞いた。
「あの人に行けって強く言われてさ。でも、中途半端に悩んでた自分が馬鹿みた思ってすぐに出てきたんだ。最初のきっかけがちと情けないけどさ。」
聖一は言いながら後で苦笑いした。
(何て言ったか分からないけれど春那ちゃんの言葉押し切って来させるなんて流石。)
恭子は内心で少し笑っていた。
「聖一真面目に言う事無いのに。でも、聖一らしいね。言われたからかもしれないけど・・・そうだったとしても、来てくれて、居てくれて本当に嬉しい。」
恭子はそう言って少し弱々しくだが微笑んだ。本当に正直な心からの言葉だった。
「それで、調子はどう?」
「うん、まだ辛いかな・・・。」
そう恭子が言うとそのまま、聖一は恭子を寝かせた。体制はそのまま押し倒す感じになっていて、お互いにちょっとドキッとしていたが、すぐに聖一の方から体を離した。
「今夜は俺がずっと着いてるから言いたい事あれば言えば良いし、辛かったら俺の事気にしないで安心して寝てくれ。」
「うん、分かった。ありがと。寝るけど・・・手、握ってて。」
「ああ。」
聖一は恭子の手を優しく握った。恭子の方は安心してそのまま眠ってしまった。
(落ち着いたみたいで良かった。恭子の手こんなに小さかったっけ・・・。)
いつもと違う一面を見たのもあったが、聖一は改めて寝ている恭子の姿を見ていた。


「ただいま。」
葵は静かに言って、一つ靴が多いのを確認して玄関から居間の方へ歩いていった。
「お帰り葵。」
「お母さんただいま。聖一さん来てるんだ?」
いつもの事と思いながらも確認するように聞いた。
「ええ、今日ねバイト先で恭子が倒れてね。」
「えっ!?姉さん大丈夫なの?」
流石に驚いて葵は母親に聞き返した。
「とりあえず、春那ちゃんが私の居ない間に面倒見てくれてね。一旦は落ち着いた見たいね。バイト先の方が連れて来てくれたみたいだからかなりだったと思うわ。」
「そっか・・・。」
何とも言えない顔で葵は言った。
「ただ、聖一さんが来てくれたから大丈夫だと思うわ。邪魔しちゃ駄目よ?」
母親は少し冗談めかして言う。
「今回は流石にそれは無いよ。聖一さん帰ってから会うね。私はそれまで寝ておくから。姉さん只でさえ心配性なんだから、余計な負担かけない為にもね。」
そんな母親に対して葵は真面目に言った。
「うふふ、そうね。じゃあ私も寝ようかしら。葵も帰って来た事だし。」
そう言って母親は立ち上がった。
「私お風呂入ってから寝るね。」
「沸いているからすぐに入れるわよ。じゃあ、私は先に休むわね。お休みなさい。」
「お休みなさい。」
葵はそう言ってから着替えを取りに自分の部屋へと歩き出した。
途中の恭子の部屋で中の事が気になって一瞬立ち止まったが、首を横に振りながら再び歩き出した。


恭子は二時間もすると再び目を覚ました。
「結構寝てたみたいで、あんまり眠れないや。」
少し苦笑いするがいつもと違って聖一は弱々しさを感じていた。
「まだ、調子悪いんだろうから無理はしなくていいからな。」
「うん、ありがとう。でも眠れないから話でもしようよ。」
「ああ、そうだな。」
聖一は少し笑いながら言った。
「遥華もこんな感じだったのかな?」
「俺が恭子で、恭子が遥華ちゃんの立場だったんだろう。」
「遥華も私みたいに喜んでくれてたのかな?」
恭子は少し遠くを見るような目をしながら言った。
「その答えが分からなくても、心配で元気になって欲しいって気持ちは分かる筈だ。」
「うん、そうだね。ありがとう。とっても嬉しいよ。」
辛いので少しぎこちない笑顔になっていた。
「恭子、気が付いてやれなくてごめん。」
聖一はその場で頭を下げて謝った。
「ううん、良いの。今、傍に居てくれるもん。」
「ああ、傍に居たいしな。」
その言葉の後見つめ合って、どちらからとも無く近付いて唇を重ねた。

その後二人は、朝まで語り合った。