交差する出会い〜恭しい夜(完結編前半)〜


(どうしたもんかなあ・・・。)

元々小食な聖一はどうもしっくり来ない恭子の雰囲気に食が進んでいなかった。
「どうしたの?聖一。」
「まあ、ちょっとな。それより、恭子の方こそ今日は全然食べてないじゃないか?」
確かにいつもは良く食べる恭子だったが、今日は人並み以下の量しか食べていなかった。
「なんか、あんまり食欲無いんだよね。」
少し苦笑いしながら恭子は答えた。その向かい側では葵が相変わらずの食欲を披露していた。まだ、山盛りの皿が何皿も置いてある。その横で春那の方はマイペースで食べていた。
(葵ちゃんは流石だなあ。)
半分感心、半分呆れた感じでまだ残っている山盛りの料理が乗っている皿を見て聖一は思っていた。
葵が最後のデザートまで食べてから4人は店を後にした。
「今日の映画面白かったですねえ。」
春那が楽しそうに聖一と恭子に向かって言った。
「そうだね。」
「そうねえ。」
二人ともその言葉にはもって返事をした。
(やっぱりここは二人きりにしてあげるべきなのかな。)
その後も会話を続けている春那以外の二人を見て葵は考えていた。


「今日は、用心棒は居ないようだな。」
英輝と治は帰り道、数人の人間に絡まれていた。その中にいる一人はどうやら、英輝達を知っている様だった。
「英輝様下がって下さい。」
治は慣れない感じで、英気を庇う様に立つ。
「八方。お前は利用価値もあるし、痛めつけるつもりは無い。大人しく六本木をこっちに引き渡せ。」
「はい。とは絶対に答えませんよ。」
いつもニコニコしている治だが、真面目な顔をして言った。
「静成を置いてきたのは失敗だったかな。」
英輝はそう呟きながら相手の方を見ていた。
「治。君は無理しなくて良い。元々、こういう所で役に立って貰う為に居る訳じゃないしね。」
「そう言うんだったら、こっちに来て貰おうか。」
相手の方はそう言って、近付いてくる。
「許可は雪志乃 セツナに取ってくれ。セツナが了解すればいつでも行くよ。ほら。」
そう言って、英輝は携帯電話を取り出して相手に差し出す。
「そんな了解取ってる余裕は無いんでな。」
相手はそう言って英輝の手首を掴む。治はそれを邪魔しようとしたが、他の人間に英輝との間を離される。
「そこで止めた方が身の為ですわよ。」
少し離れた所から女性の声がした。
「何だと?」
「誰だ?」
そこに居合わせた10人以上が一斉に声のした方を向いた。そこには十六夜が立っていた。
「げっ!源・・・。」
一人がその場から少し後ずさる。
「大人しく、英輝さんと治さんを放して行けば、見逃して差し上げますわよ。」
いつもの少し挑発的な口調で十六夜は言った。
「んだと、てめえっ!」
一人が一気に十六夜に殴り掛かる。十六夜は軽く避けてから背中をトンと押した。
「なめてんのか!てめえ!ぐはっ!?」
何とも無く、そう怒鳴った相手はいきなり吐血して倒れた。そして、倒れた状態でピクピクと痙攣し始めた。
「今から病院に連れて行ってあげれば、助かりますわよ。まあ、全員がこうなってしまっては誰も病院へは連れて行けないでしょうけれどね。」
十六夜は残った面々を見て冷たく笑いながら言った。その言葉に、何人かは悲鳴を上げて逃げ出した。
「まあ、置いて行くなんて友達甲斐の無い方達ですわね。」
「源、動くなよ。こっちには六本木も八方も居る事を忘れるなよ。」
呆れたように言う十六夜に相手の一人が強気に言い放つ。
「それならば、私も言わせて頂きますわね。私は源 十六夜ですわ。それを分かっててその台詞おっしゃっているのよね。」
十六夜はそう言って薄く笑う。その笑いを見て何人かが、青ざめる。
「私、セツナさんより問答無用ではないと思っていますが、それも限度を過ぎれば容赦はしませんわ。」
「ほざけ!」
相手が怒鳴ると、少し笑っていた顔が無表情に変わって行く。
(もう、手遅れだな。)
その顔を見て、英輝はそう思った。

ゴトッ!

その瞬間英輝を掴んでいた一人の手首が地面に落ちた。
「うぎゃーーー!!!」
手首を落とされた本人は倒れてのた打ち回っていた。他に残っていた皆は逃げ出そうとしたが、凄惨な光景が広がり、あっという間に全員が十六夜の犠牲となった。
「十六夜もこの辺に来てたんだ?」
周りの惨状を気にもせず英輝は十六夜に聞いた
「ええ、美緒に誘われまして。」
「お陰で助かりました。ありがとうございました。」
周りの惨状に苦笑いしながら治の方はそう言って十六夜の方へ頭を下げた。
「そんな、頭を下げないで下さい。お二人を助けるのは当然の役目ですわ。」
さっきまでとは打って変わって少し微笑みながら十六夜は言った。
「いや、でも本当に助かったよ。ちなみに美緒とは別れたのかい?」
「ええ、私の方がこの辺の知り合いに会いたいと思っていたので、その場で別れましたわ。」
「二人で何処に行っていたんだい?」
珍しい二人の組み合わせで何処に行ったのか興味津々だった英輝は聞いてみた。
「映画館です。確か有楽町の駅から少し離れた大きな所ですわ。」
「おや?そこって僕等が行っていた所じゃないかな?」
英輝は治の方を見て聞いた。
「ええ、そうですね。同じ所に行っていたんですね。何時からの回だったんですか?」
「私が見たのは・・・16時からのでしたわね。」
十六夜は映画のチケットを取り出して見ながら答えた。
「そうすると、丁度一つ前の時間帯だね。」
「そうですね。丁度すれ違いだったんですね。」
英輝と治は向き合って少し笑い合いながら言った。
「私が言うのも何ですが、英輝さんが映画。しかも、治さんと二人でだなんて珍しいですわね。」
少し不思議そうに独り言のように十六夜は呟いた。
「ああ、それはね、セツナからお使い頼まれていたからね。その為に治と二人で来たんだよ。流石は治で、上手くお使いは済んだけどね。」
「そうでしたの。静成さんが居なくて、おや?とは思ったんですけれど。次からは待ち合わせするなりして気をつけて下さいね。」
「ああ、そうするよ。僕は良いんだけど、治を危険な目に合わせたくないしね。」
「私は構いません。」
少し冗談めかして言う英輝の言葉に間髪要れず治はキッパリと言い切った。
「まあ、とりあえず、静成さんが帰りをお待ちでしょうから参りませんか?」
「そうだね、十六夜が居てくれれば問題なし。」
「そうですね。」
十六夜に先導されて、英輝と治はそれに着いて行った。


「私達はこれで。」
「ええっ!?」
帰り際突然の葵の言葉に春那は思わず叫んでいた。
「じゃあ、後は二人でごゆっくり。」
「えーと、あの〜。」
何か続けて言おうとしている春那を問答無用で葵は引き摺っていった。その様子を呆気に取られた表情で二人は見送っていた。
「なんだかなあ。」
聖一は苦笑いして呟いた。
「まあ、いっか。とりあえず帰ろう。調子悪いんだろ?」
「うん、そうだね。」
そして、二人は歩き出した。
「今日の映画面白かったな。」
「そうだね。あの人にお礼言わないとね。」
(あ!)
思わず声に出そうになったが、聖一はここぞとばかりに携帯電話を取り出した。
「んじゃ、今いっちゃおうか。」
「あはは、そうだね。」
恭子の言葉を待った後で、聖一はメールを打ち始めた。
「「映画
面白かったぞ。他の三人の分も含めて、ありがとう。」」
打った後ですぐに返事が帰ってきた。
「うわ!早い。」
思わず聖一と恭子の二人ははもって言っていた。
「「こりゃあ!(笑)
お礼は分かったけど、今良い所だったのに〜。」」
思わずそれを見た、二人は顔を見合わせた。
「「Re:こりゃあ!(笑)
申し訳ない。」」
聖一はすぐにそう入れて返した。


「良い所ってどういう事ですかあ?」
興味津々と言った感じで女性は聞いた。二人は静かな夜道を歩いていた。
「これからの、あっちの二人がなるであろう事だよ。」
上手くはぐらかすように男性は言う。
「「嘘だよん(笑)
二人きりで良い事しといてねえ(爆)」」
(さーて、只のからかい+α聖ちゃんは分ってくれるかな?)
何となくにんまりしている男性を見て、女性の方も少し微笑んでいた。


「のわっ!」
聖一は返信を見てこけそうになっていた。
「う〜ん。でも流石だね。二人だって何で分るのかな?」
恭子の方は感心した様に腕を組んで聞いた。
「そりゃあ、「この人だから。」で良いんじゃないの?」
「そう言われちゃうと、「そうだね。」としか言えないよ。」
恭子は笑いながらそう答えた。
(ほんと、この人こっち見えてるんじゃないかって思う時あるよな。)
「でも、案外良い所って言うのは嘘じゃないかもね。」
「それはありえる。今度突っ込んどくか。」
聖一はそう言って、携帯電話をポケットに入れた。
「今日は良い月だね。」
恭子に言われて空を見上げると、綺麗な月が出ていた。ただ、聖一には何となく綺麗過ぎる感じがした。
その後、二人で色々話しながら帰っている内に、聖一はさっきまでの違和感を感じなくなってきていた。それは、恭子がハキハキと話しているからだったのかもしれない。
「んじゃ、また明日な。」
恭子が今一人暮らしをしている部屋の前で聖一は軽く手を上げながら背を向けた。
「ん?」
腰に違和感を感じた聖一は立ち止まった。上着の裾の部分を無言で恭子が引っ張っていた。
そこから、二人は無言で部屋の中へと入っていった。