交差する出会い〜恭しい夜(プロローグ)〜


某ファミリーレストラン

「いやあ、久しぶりだね聖ちゃん。」
ニコニコしながら相手は言った。相手は例の知り合いの年上の男性だった。
「確かに。体の方は大丈夫なのか?」
聖一は少し心配そうに聞いた。
「まあ、ここに来て食べれるって事は大丈夫って事だよ。」
「それもそっか。」
実際に相手の方からお呼ばれが架かるかと思っていた聖一だったが相手の方が入院したりなんかでなかなか会えていなかった。今日は突然声が掛かったがいつものことでもあるし久しぶりでもあったので快く会う答えを出したのである。
「ご注文はお決まりですか?」
ウエイトレスが聞いてきて、相手の方がまだという感じで軽く手を出す。
「御決まりになりましたらお呼び下さい。」
一礼してウエイトレスは去っていった。
「食べるの決まった?」
「ああ、このセットにしようかなと。」
聖一はメニューを見せながら答えた。
「じゃあ、私はその隣のにするかな。それでね、今日呼んだのは食事もあるんだけど、実はプレゼントがあってね。」
「プレゼント?」
聖一は不思議そうな顔をする。
「これなんだけどね。」
そう言って相手は封筒を取り出した。特に宛名など書いてないものだった。
「とりあえず、中身見てみてよ。」
そう言って、封筒を渡しながら相手の方は手を上げてウエイトレスを呼んだ。聖一の方は受け取って封筒の中身を確認してみた。
「これって、映画のチケット?」
聖一が聞き返すと、いつの間にか相手の方がウエイトレスに注文をしていた。
「じゃあ、お願いね。っとそうそうペアのチケットだよ。」
(相変わらず手際が良いって言うかなんて言うか。)
聖一は少し呆れた感じで見ていた。
「でもさ、何でペアチケット2枚入ってるのさ?」
「嫌だなあ、聖ちゃんと恭子ちゃんに二回行けっていってるんじゃないってば。春那ちゃんと葵ちゃんも良かったらって事だよ。」
「なーる。」
聖一は納得して頷いた。
「でもさ、駅ビルのお姉さんと行けば良いじゃん。」
少しニヤッとして聖一は突っ込む。
「ああ、それは別で行かせて貰うから。」
余裕の笑みで相手は軽く答えた。
「ちぇっ、同様どころか焦りもなーんもないし。」
聖一はつまらなそうに言う。
「何を期待してるんだか。」
相手の方は笑いながら言った。

「まあ、そんな訳だからその期間中の好きな時で良いから行って来なよ。貰い物だから行かなくても良いけどさ。その辺は聖ちゃんに任せるよ。」
「場所は・・・東京の劇場指定かあ・・・。」
ちょっと面倒そうに呟く。
「電車賃くらいは自腹で頼むよ。今日はおごるからさ。その分で行って来い。」
「ぐわっ、そう来たか。」
聖一は苦笑いしてから、封筒にチケットをしまった。
少しして料理が来て二人はそれぞれ食べ始めた。
「最近、恭子ちゃんとはどう?上手くやってるかい?」
「まあ、それなりにかな。」
聖一の答えを聞いて嬉しそうに相手は微笑む。
「後は暑いから体気をつけてね。疲れ易いしね。」
「まあ、分かってるけどさ、どっちかって言うとそっちの方だろ、それは。」
「あっはっは、まあそりゃそうだ。大丈夫大丈夫、元々半病人の自覚はあるからさ。」
相手は冗談交じりに笑いながら答える。
「ったく、本当に大丈夫かよ。」
そんな様子を見て聖一は呟いた。
「葵ちゃんや春那ちゃんも元気かな?」
「ああ、変わりない・・・。いや、良い意味で少し変わったかも。」
「そりゃ何よりだ。後は聖ちゃん自身はどうなの?」
「俺は変わりないよ。まあ、最近訳分からん事はあったくらいか。」
聖一は数日前の事件を思い出していた。
「訳分からんねえ・・・。」
相手は目を細めて聖一を見る。
「細かくは話せないけど、春那ちゃん以外がちょっとした事件に遭遇したってとこ。」
(隠そうとするだけ無駄だからな、言えるとこだけ言っとくのが得策だろ。)
「そかそか、だから待ち合わせの時も必要以上に回り気にしてたのね。」
「見てたのかよ・・・。」
聖一は何とも言えない顔で相手を見た。
「別に、ストーカーみたいにじーっと見てた訳じゃないさ。パッと見てそう思っただけだよ。」
(怪しい所ではあるが、実際に良く見てるからなこの人は。)
聖一はちょっと呆れた顔をして再び食べ始めた。相手もそれを見て食べ始めた。
「それでさ、あの駅ビルのお姉さんとはどうなのさ?」
「ん?お友達だよ。」
(まーた、微妙な言い回しだな。)
「時々食事に行ったりとかする感じかな。聖ちゃんとかと同じだよ。」
「俺と同じって・・・。」
(相手がどう思ってるとか関係ないんかな・・・。)
「聖ちゃんがどういう真意で聞いてるか分からないけど、そんなとこだよ。」
相手は笑いながら言う。
「本気で相手作ろうとか思わないのかなって。」
「うーん、そうだねえ・・・。まあ聖ちゃんが完全に恭子ちゃんを手中に収めたら考えてあげる。」
相手は意味ありげに「完全に」という所を強く言った。
「へいへい、分かりましたよ。」
そう答える聖一を見て、相手は満足そうに微笑んだ。
食べ終わってから、送って貰って車を降りた後に助手席のパワーウインドウを開けて相手が声を掛けた。
「まあ、とりあえず、映画の方は気が向いたら行って頂戴な。」
「ありがたく貰っとくわ。」
聖一は軽く手を上げる。
「それじゃあ、また連絡するね。今日は御付き合いありがと。」
「こっちこそご馳走さん。」
「それじゃあね。」
「ああ、またな。」
そして、そのまま相手の方は車を出して去って行った。聖一の方はすぐに家の中へと入っていった。


・・・次の日・・・
今日は、珍しく4人とも揃っていた。
(さーて、いつ言ったもんだか。)
聖一は映画のチケットの話しを何処で切り出そうか考えていた。
「ねえ、聖一。」
「ん?」
「昨日さ、あの人にあったんでしょ?元気だった?」
恭子の方は昨日の事が気になって聞いた。
「ああ、しっかり食ってたしな。」
「じゃあ、調子は良いんですねえ。」
春那の方はのんびりと紅茶を飲みながらゆっくりと言った。
「聖一さんおごって貰ったんですか?」
「ああ、相変わらずね。」
葵に聞かれて笑いながら答える。
「ああ、それでさ、三人とも。」
三人は突然言われて聖一の方を見る。
「実はさ、あの人から貰い物があってね。これなんだけど。」
そう言って、映画のチケットを出した。
「ペアチケットが二枚ですか?」
春那は不思議そうに聞いた。
「うん、俺と恭子だけじゃなくて、良かったら春那ちゃんと葵ちゃんもどうかってさ。」
「相変わらずというか、気が効いてるわねえ。」
恭子は感心したように言った。
「四人で一緒に行っても良いし、バラバラでそれぞれ都合の良い日に行っても良いしさ

「都合が合えば四人で行きませんか?」
聖一の言葉に楽しそうに春那が提案する。
「春那・・・。」
「えっ?」
葵に突然呼ばれてキョトンとした顔で返事をする。
「お姉ちゃんと聖一さんの二人で行かせないと駄目でしょう。」
「あ、そっか。」
「あ、そっかじゃない!」
二人のやり取りに恭子が突っ込みを入れた。聖一はあえて、そこに突っ込みを入れなかった。
「でも、あの人の事だからそういう意図も含まれていると見るのが妥当かと。」
「そうですよねえ。あの人ですものねえ。」
「うっ!そう言われると・・・。」
(すっかり、毒されてる感じだな。)
三人の反応を見て聖一は内心苦笑いしていた。
「とりあえずさ、都合がつけば四人で一緒に行こう。駄目ならそれぞれ別でいいじゃん。」
「そうだね。変に考えてもしょうがないし。」
恭子はあっけらかんと言う。
「そうですね。一緒に行けると良いですね。」
春那はニコニコしながら言う。
「都合悪くしようかな・・・。」
「あーおーいー?」
ボソッと言った葵に恭子がジト目になって言う。
「空耳空耳。」
涼しい顔をして葵はそう言って笑った。


・・・三日後・・・
当日に四人行ける事にはなったが、時間の都合で上映時間が一つずれる形になった。
先に聖一と恭子の二人、その次の回で葵と春那が入る形になった。葵と春那の上映が終るまで先に見終わった二人は時間を潰して、最終的に合流して食事をして帰る事に決まった。
「うーん、東京久しぶりかも。相変わらず人多いねえ。」
恭子は少し伸びをしながら隣の聖一に言った。
「そうだなあ、しっかし、まだ明るいし暑いな。」
「夏だからね。」
実際に夕方の時間帯だが、まだまだ明るかった。

「確か、この辺だったな・・・。」
聖一はそう言いながら辺りを見渡した。すぐに看板があって分かった。
「あそこだな。」
「へえ、結構立派な劇場だね。」
感心したように恭子は言った。
「俺来るの初めて。」
「勿論、私も。」
二人はそう言ってから何となく可笑しくなって笑い合った。
「そんじゃまあ、行くか。
「うんっ。」
恭子は聖一の腕を取ってそのまま映画館の方へ歩き出した。


・・・10分後 映画館入口・・・
「人数あわせで、私ですの?」
「しょうがないじゃん。治も英輝も静成も駄目なんだからさ。それとも、セツナでも誘った方が良かったかい?」
少し意地悪そうに美緒は言った。
「それなら、私で良いでしょう。セツナさんをわざわざお呼び立てする訳には参りませんわ。」
やれやれといった表情で十六夜は答える。
「まあ、ここまで来たんだし今更今更。って、時間不味いじゃん!走るよ十六夜!」
そう言って美緒は十六夜の手を引く。十六夜は諦めた表情で黙って美緒に手を引かれるまま走り出した。