葵の独り言


「「そうなんでうねえ」」

「「あ、また葵ちゃん噛んでる。」」
「「あうあう」」
「「あははは」」

「楽しいんだ・・・。」
私は呟いた後、そんなやり取りを冷めた表情で見ていた。

私は周りに合わせたりサービスするのが得意で、
姉の恭子は私とは違い、言いたい事をストレートに表現する。
そんな姉もまた、私と同じで遥華さんが好きだった。
姉よりも、もっともっと自分に正直でストレートに表現できる人・・・。
私の憧れで大好きな人・・・。

人は多かれ少なかれ演じたり嘘をついたりする。
隣に座っている春那をちらっと見る。
それは、良い事なのか悪い事なのかは分からない。
でも、自分をその時に偽っている事は間違いない。


「「それでは、おやうみなさい」」
「「あはは、おやすみーw」」
「「交代しますね(あせあせ)」」
「「はーい。」」

「春那、交代ね。私寝るから。」
私は少し欠伸をしながらコントローラーを春那に渡した。
春那もまた、違う意味で私と対極の所にいるのかもしれない。
「うん、おやすみ。」
ニッコリと微笑む春那に少し遥華さんがダブって見えた。


朝起きて私は出掛ける。
そして、いつものお約束のワンシーン。
「だからさ、そっちが意味不明だっていうの!」
「意味不明って何よ!」
この人達は何でこういつも飽きずに・・・。
口には出さないが本当に物好きだ。
それをいつもの手際で割って入る私も私だけど。
「まあまあ、そんなに怒らないで。ね?」
暫く話していると、二人は大人しくなる。
昔から私はこういうのが得意みたい。
慣れもあるのだろうが、その人がどういう人で
何を考えていてどうしたら良いのか分かる。
人を見る目があるんだ、鋭いと姉は言う。

「うわあ、葵ちゃん上手だねえ。」
「そんなこと無いよ。」
出来上がった料理を見て言う相手。
普通に出来るものは出来るのだから仕方ない。
遥華さんみたいにありえない事は出来ない。
素でお米を洗剤で研いだり、
そういえばこんな事もあったなあ・・・。


「ふんふふーん。」
(うーん、目玉焼き作るの面倒だなあ・・・。どうしようかなあ。)
遥華は割る前の卵を目の前にして考えていた。
「そうだっ!」
おもむろにお皿の上に玉子を割って落とした。
(やっぱり何でも簡単にいかないとね♪)
そのまま、レンジへ皿を入れた。
「早く出来ないかな〜。」
遥華はレンジの中を見ながら、鼻歌交じりに待っていた。

チーン!

レンジアップの音がして、恐る恐る開けてみた。
「おおー!」
見事に白身も白くなっていて黄身も良い具合になっている。
しかし・・・
パンッ!!!
「!?!?」
突然黄身が破裂して遥華の目を襲った。
「ぎえーーー!?」
悲鳴を聞きつけて、恭子がやってきた。
「どうしたの遥華!?」
目を押さえている遥華を見て驚いて駆け寄って声を掛けた。
「黄身に謀反を起こされた。」
「謀反じゃなーい!うわあ!目医者目医者!」
暫く大騒ぎになっていたのは言うまでも無い。


それで目医者から帰って来て目に包帯巻いてて
「えへへ、やっちゃった。」
って笑ってたっけ。
でも、謀反っていう表現はどうかと思ったけれど(笑)
こんな伝説は幾つもある。
でもどんな時も飾らないあの笑顔が大好き。


周りの人から言わすと私は何でもそつ無くこなすオールマイティーらしい。
自分でも、これが苦手。と言うものは特に無い。
血液型のO型というのもあるのかもしれない。
それを自他共に思っているから、レッテルとは言わないけれど
私は何でも大丈夫って思われるのかな。自分でも思っちゃうのかも知れない。



「あれ?」
寝ようかと思ってメッセの音で気が付いて誰かと思ったら・・・。
気を抜かずに行かないと。
春那も姉も聖一さんもこの人にはやられっぱなしみたいだし。
そっか、この人あそこでは全然話した事無かったな。
どんな人か見てやろうかな。
ふふふ。

「「おはようー」」
「「おはようございます」」
「「ゴメンね。眠いとこ」」
「「いえいえ〜」」

この人も所詮あそこでの私を見て同じ風にしか思わない人なのかな・・・。

「「結構画面の向こうでは、馬鹿じゃないのとか思ってるんじゃない?w」」

えっ!?
私は一瞬止まってしまった。
こんな事いう人、まず居ない・・・。
ならこう言ってどう返してくるかな。


「「えへ、分かっちゃいました」」
「「やっぱなあw」」


即答だった。
この人・・・。

遥華さんに似ているのかも・・・。
構えた私が馬鹿みたい。
そう思った私は目を閉じて少しだけ笑った。

春那は仮面はがされて、してやられてたし、
聖一さんにも気に入られる訳だろうし、
お姉ちゃんにも認められる訳だ。

一瞬で理解出来た。
そこからは、私も特に構えずに普通に話していた。
途中で気が付いたけれど、この人は遥華さんとは違って天然じゃない事。
でも、上手くペース持って行く。
嫌じゃないのは、遥華さんと被る所があるからなのかな。
媚びたり様子見たり飾ったり、そういうのがない所なのかな。
でも、ある意味諸刃の剣かな。
ただ、この人はそんな事どうでも良いんだろうな。



「「あ、ごめんね。こんな時間まで付き合わせちゃって」」
「「いえいえ、楽しかったですし」」
「「じゃあ、ゆっくり休んでね」」
「「はい、おやすみなさい」」

自然に話しできてたし楽だったな。
変に飾ったりサービスしたり肩肘張らずに話出来たかな。
さてと、寝ようかな。
私はパソコンの電源を落として眠りについた。


「ん?どうしたの葵ちゃん?」
私はドキッとした。遥華さんには隠せない・・・。
隠そうとすればするほど分かってしまうから。
「私で良かったら話してみて。」
その嘘偽りの無い、真っ直ぐな瞳と笑顔に私は思わず抱きついた。
「あれあれ?」
堪えきれずに私は泣いていた。
「んー。よしよし。」
そんな私を遥華さんは優しく抱きしめてくれた。
「葵ちゃん、何があったかお姉さんに話してくれないかな?」
私は頷いて泣きながら少しずつ話し始めていた。


「ん?」
目覚ましが鳴って起きた。
あれ?少し泣いてたかな・・・。
でも良い夢見れたかな。
目元を気にしながらも私はちょっと笑った。


その夜、また私はコントローラーを握っていた。
「何か良い事でもあったの?」
ほんわかしているけど何気に遥華さんの妹だけあって鋭い。
「うん、ちょっとね。」
春那に聞かれて私は少し笑いながら答えた。