生徒会選挙

3月10日 10:20

三送会(3年生を送る会)も終り、三年生は既に3月8日に卒業式を迎えていた。如月高校は2月中に1年生、2年生の三学期の期末テストを終らせる。ちなみに3年生は1月末に終らせる。
三送会は3月1日に行われ、それが生徒会の最後の仕事だった。
そして、今日3月10日が次期生徒会を決める日、俗にいう生徒会選挙である。今立会演説会が行われていた。
生徒会役員は定員、会長1人、副会長2人、会計1人、書記1人。
それに対して、会長立候補に宮原 富男、保積 賢の2人。副会長立候補に赤木 由美、山名 正一、矢崎 超炎の3人。会計に横山 秋子、逆井 唯の2人。書記は高坂 誠1人。
書記は定員1人に対して立候補が1人なので信任投票になり、それ以外は定員に対して立候補者数が多いので選挙となる。
この立候補者の中で生徒会の経験があったのは本来ならありえない、1年生の横山 秋子だけだった。
学校規則には「生徒会役員不信任」という項目がある。
そして、それが今年度創立以来初めて実施された。丁度去年の4月に決まって1ヶ月余りで会計をやっていた生徒が不正を働き、不信任確定で解任された。
そして、それに伴う臨時の会計補欠選挙で秋子が選ばれたのである。
入学したての秋子が選ばれたのは一部の人間や教師には不思議に思われていたが、その疑問はあっけなく解消される事になった。もともと秋子はこの如月高校に来る前の中学時代からここの先輩達に可愛がられていたのである。信任票を含めてほとんどの票が2年生と3年生から入っているのがその確たる証拠になっていた。
今回の生徒会選挙では既に3年生が卒業してしまっていて、自分に入る3年生票は無くなってしまったが、この1年弱で大きな信用を多くの生徒から得ていた。
今期の生徒会での使い込みの事実を暴いた事は大きなポイントだった。
まず、秋子は当選間違い無いと言われていたし、対抗で出てくる立候補もいないと思われていた。
そして、この秋子を相手に無謀とも言える立候補をしたのが逆井 唯。彼女も別に悪い要素は無かった。成績優秀で、美人。会計または書記向きではあった。
会長立候補の保積 賢、副会長候補の矢崎 超炎の2人を合わせて生物部トリオと言われていた。
そして、丁度秋子の演説の番が回ってきた。秋子はステージの上に上がっていった。しっかりとした足取りに自信が伺える。マイクの前につくと位置を固定し直して演説を始めた。
「会計立候補の横山 秋子です。前回4月の臨時会計選挙では若輩者ながら選んで頂き本当にありがとうございました。そして、今日まで全力で会計の仕事をやらせて頂きました。途中使い込みの事実が発覚しました。正直まだ、あるのではないかと思っています。しかし、任期が終ってしまいまだ不充分だと思っています。その事も含めもう1年私に会計をやらせて下さい。使い込みももっと明らかに出来るでしょうし、このような事が2度と起こらないようなより良い予算の管理をしていきたいと思いますので、皆様どうか宜しくお願い致します。」
そう言って秋子は深深と頭を下げた。いらない事は言わない。誰でも言う清き一票を云々というのは言わなかった。
逆にお約束的な演説ではなかったので生徒達にとっては新鮮だったし、演説が終った後の拍手の大きさが全てを物語っていた。


生物部部室
選挙結果は生物部トリオが全員落選という結果に終った。一番惜しかったのは超炎だった。由美に10票差での落選だった。
保積 賢は怒っていた。
(まあ、唯は仕方ないとしても、私があの宮原に負けた事と、超炎が赤木に敗れたことは納得が行かない・・・)
思わず賢は机を叩いた。今は唯と超炎はここにはいない。
(それに、不味い事になった・・・。今年中隠し通して来た使い込みの件が公になっては不味い・・・。)
その事実をもみ消す為に2人をけしかけて今回の生徒会選挙に挑んだのである。その事実を2人は知らない。
「こうなったら、あの2人にも協力してもらうしか無さそうだな。」
独り言で言った顔は、焦りの色が消えていて何かを楽しみにする子供のような顔になっていた。た、子供と違うのは目つきが鋭い事だった。