悲痛と驚き

山名 正一  赤木 由美  高坂 誠  宮原 富男
5月27日 15:15

会計の横山秋子が殺されてから一週間がたった。あの日から三日間学校は休校、その間もマスコミ関係者が出入りしていた。一週間たった今でもそれは変わらない。
第1発見者という事で静と正一は警察に事情聴取を受けた。
静は目が見えないと言う事で、生徒会室のドアが完全に閉まっておらず少し開いていた事と、秋子に呼ばれて生徒会室に来ていた事を話した。
正一は先に静がいた事、後から来た富男に先生を呼ばせにやった事、それとやはり秋子に呼ばれていた事を言った。しかし、その理由は言わなかった。知らないと嘘を言ったのである。それは正一にしてみれば本心ではなかったが、自分で秋子の仇を取りたいという気持ちと、これ以上無用の動揺を広げるのは得策ではないと思ったからである。
この日も生徒会の活動は行われていたが、室内は不気味なくらい静まり返っていてしかも重苦しい空気が漂っていた。
誰かが何か切り出せば良いのだろうが、他人がそうしてくれれば良いと思っていた。正一を除いては。
正一はこんな活動はどうでも良いと本人らしからぬ気持ちを持っていた。
それは秋子の死。それと殺したであろう予算の使いこみをした人間。そして、秋子の死によって押さえられないかもしれない自分の気持ち。この三つが正一の心を支配していた。その為か授業中指されても気が付かなかったし、弁当にも箸一つつけていなかった。
この沈黙に居たたまれなくなったのか、もう一人の副会長、赤木 由美が切り出した。
「今回の事件はここにいる皆、勿論私も含めてだけど。それにそれ以外の人にとってもショックだったわ。でも、やらなくちゃならない事があるから・・・。次の会計の臨時選挙、それに前期の予算案、夏休み開けてからの文化祭だってあるんだから皆しっかりしなくちゃ・・・。」
途中から涙声になり、最後の方は何を言っているのか分からないくらい顔が崩れて泣いている由美。それを見て皆悲痛な顔になった。その中で会長の宮原 富男が、由美を慰める。
「すまない赤木君。こういう時は私がこの場を何とかしなくちゃいけないのにな。」
その言葉を聞いて泣いていた由美だけでなく正一も、そして、書記の高坂 誠も驚いていた。今まで由美の事を一度だって「赤城君」なんて言った事無いのと、自分の事を「私」と言っているのを聞いた事が無かったからだ。
今の今までこの三人と、多分秋子もだろうが、何で富男が会長になったんだろうと不思議に思っていた。しかし、今やっと何でかという疑問が解けた。
そう、富男は土壇場とか窮地に立たされると本領を発揮するのである。
いつもは、由美の事は「由美ちゃん」。死んだ秋子の事は「あきちゃん」。正一の事は「しょうちゃん」、そして、誠の時は「まこちゃん」。とそれぞれを読んでいた。
何時も明るく脳天気で、人気は一部の人にあった。その人達は本当の富男の事を知っているからこそ生徒会長にと勧めたのである。
生徒達には「明るくスチャラカな生徒会長として大分人気もあるし、実際的存在存在感も大きかった。
そんな、富男の意外な一面を見て驚いただけでなく由美はそう言われるとものすごく不安だったのが、妙に落ち着いていて逆に安心感すら覚えていた。
そして、そんなこんなから由美の口から言葉が出た。
「会長がいれば大丈夫ですよ。」
それは、正一も誠も思った事で、由美が二人の代弁者にもなっていた。
真面目な顔をしていた富男は、いつもの明るい表情に戻って言った。
「まあ、気楽にやろうよ、ね!」
三人はその変わりようにあっけに取られ、正一は小さな、本当に小さな声で呟いた。
「不思議な人だ。」
正一の素直な感想だった。


ぐずついていた天気だったが、暫く雲の間から日が差していた。しかし、空はまた黒い雨雲に覆われ、冷たい雨が落ち始めた。