雲ひとつ無い快晴。街路樹はそれぞれの色を見せ、空は高く、暑くも無く寒くも無い良い日だった。

今日は三浦あずさ、菊地真、水瀬伊織のトリオユニットのラストコンサートだった。
「いよいよ今日で最後なんですね〜。」
あずさはいつも通りのんびりとした口調で言った。
「全く・・・。あんたはいつでも緊張感ってものが感じられないわよね。」
伊織は呆れたように言う。
「そんなこと無いですよ〜。今日はかなり緊張してますよ〜。」
「はぁ?どこが?意味不明なんだけど・・・。」
(ほんっとに、あずさは変わらないわよね・・・。)
いつもの二人のアンバランスなボケとツッコミが繰り広げられている中、真は無言で窓の外を見ていた。
(今日で最後かあ・・・。)
外に並んでいる客の列の一部が目に入った。あずさ・真・伊織のそれぞれのファンが色々な格好やアイテムを持って待っていた。
「な〜に黄昏てるのかしら。」
そんな真の背中をジト目で見て腕を組みながら伊織は言った。
「きっと今日が最後だから私同様緊張してるんですよ〜。」
「アンタが言うと説得力無いのよっ!」
伊織は力一杯きっぱりと言い切る。
「え〜、伊織ちゃんそんな事言わないで〜。」
あずさは悲しそうな顔をして言う。
ガチャッ
「おーい、三人とも良いか?」
元気な声でプロデューサーが中に入って来た。
「はいはい。」
「は〜い。」
二人はすぐに返事をしたが、窓際に一人で立っている真からは全く反応が無かった。
「ま〜こ〜と〜。」
プロデューサは業を煮やして真のすぐ傍まで言って耳元で名を呼んだ。
「えっ!?あっ!プロデューサー。す、すいません。ちょっとボーっとしていました。」
真の方は驚いた後で頭を下げた。
「いや、構わんよ。それじゃあ、今日の打ち合わせするから三人とも座ってくれ。」
今日の楽曲、流れをプロデューサーは丁寧に三人に説明した。


1.Here we go!!

2.エージェント夜を往く

3.9:02pm


途中に他の曲も入るのだが、主要曲はこの順だった。9:02pmが最後に来ている事であずさがメインになるのは明白だった。
(やっぱりプロデューサーはあずささんの事が・・・。)
真はそう思いながら少し憂鬱になっていた。
「何で最後が9:02pmなんですかぁ?」
あずさは不思議そうに聞いた。
「そんぐらい、察しなさいよ・・・。」
思わず横で伊織がツッコミを入れる。
「はぁ?何ででしょう?」
あずさは本気で分かっていないようだった。
(本気っていうか・・・本音・・・。)
「ちょっとあずさ来なさいよ!」
「えっ?えっ?」
「お、おいっ伊織?」
伊織はプロデューサーを無視して驚くあずさの手を引き、強引に控え室から出ていった。
「行っちゃいましたね・・・。」
「あ、ああ・・・。」
残された真とプロデューサーはポカンとしていた。
「あっ、そうだ。プロデューサー。」
「ん?どうした真。」
「本当に今日ここまでプロデュースして貰ってありがとうございます。」
真はそう言うと立ち上がって深々と頭を下げた。
「それは、まだ早いぞ。ラストコンサートが終ってからにしよう。」
「はいっ!」
真は元気よく返事を返した。
「それじゃあ、本番まで後2時間。ゆっくりしててくれ。30分前になったら呼びに来る。」
「わかりました。」
楽屋を出て行くプロデューサーの背中に返事を返した後、椅子に座り直した。
(後・・・2時間・・・その後・・・どうなるんだろう・・・。)
真は天井をボーっと見ながら考えていた。

「あのねえ・・・。分かんないの?」
楽屋から引き摺り出した伊織は、空いている楽屋の中に入ってあずさに聞いた。
「えっとぉ、何がですかぁ?」
あずさはキョトンとした顔になって言う。
「あ・・・ん・・・た・・・ねぇ・・・。」
(怒っちゃ駄目、怒っちゃ駄目、怒ったら私の負け。)
伊織はプルプル肩を震わせながら自分に言い聞かせていた。そんな雰囲気にもあずさはニコニコしながら言葉を待っていた。
「だから、プロデューサーがあずさに気があるって事よ。」
「まあ、私もプロデューサーさん大好きですよ〜。」
(分かってて言ってんのか・・・こいつは・・・・。)
伊織は呆れ顔であずさを見ていた。
「でも、何でそんな事がわかるんですかぁ?」
「曲順だって。まあ、あたしはお互いにそう思ってないけど、プロデューサーはあずさと真の事は気に入ってるんだと思う。それは端から見てても分かったし。」
伊織は腕組みして冷静に言った。
「ふむふむ〜。」
あずさの方は真剣な顔で頷きながら聞いている。
「それで、今日ラストコンサートの最後の曲にあずさの一番の歌を持って来たんだから確定でしょ?」
「なるほど〜。」
あずさはポンッと手を叩いて大きく頷いた。
ガタッ
「んっ?そこに誰か居るのっ!」
入り口で音がしたので、伊織はそう言いながらドアを開けてキョロキョロする。そんな伊織の目に走っていく真の姿が映っていた。
「真・・・。」
(今の話聞いちゃったんだ・・・。)
伊織は苦笑いしながら呟いた。
「誰か居たんですかぁ?」
そんな伊織の上からあずさがそう言いながらひょこっと顔を出す。
「ううん、気のせいだったみたい。楽屋に戻りましょ。プロデューサーが探してるかもしれないから。」
「そうですね〜。」
伊織の言葉に返事をしてから二人はゆっくりと楽屋に戻った。

「あれ?二人はいるのに真が居ない?」
開演30分前になってプロデューサーが楽屋戻ってくると、二人はお茶を飲んでのんびりしていたが真の姿がそこに無かった。
「真、何処に行ったか知らないか?」
「一時間以上居るけど、ぜーんぜん戻って来ないわよ。」
お手上げと言った感じで両手をヒラヒラさせて言う。あずさは湯飲みを持ったまま伊織の言葉にゆっくりと二回頷く。
「参ったな・・・。」
プロデューサーは焦りながら時計を見る。
「アンタとりあえず、落ち着きなさいよ。」
「でもなあ伊織・・・。」
困ったようにプロデューサーは言う。
「良いから座んなさいって言ってんでしょっ!ほら、あずさお茶出して。」
「は〜い。ど〜ぞ、プロデューサーさん。」
「あ、ありがとう、あずささん。」
プロデューサーは伊織の言葉にたじろいだ後、仕方ないと言う顔をしてソファに座ってあずさから湯飲みを受け取った。

「やっぱり・・・そうだよね・・・。」
真は壁に寄り掛かりながら俯いて呟いた。
「ボクなんかじゃ、あずささんに勝てる訳ないよね・・・。」
薄暗い地下の廊下に雫が落ちた。
「真、こんなとこで何やってるの?」
「えっ!?」
突然声を掛けられて驚いた真は声の主の方を見る。
「久しぶりね。真。」
「律子っ!何でここに!?」
眼鏡越しに微笑んでいるのは高校の先輩でもあり、同じ芸能界で交流のある秋月律子だった。真は慌てて涙を手で拭う。
「ラストコンサートで挨拶に来たら、何処にも居ないって言うからさ。真、色々な意味ではっきりしてるから思い当たる場所を何ヶ所か回って一番らしくないかもしれないここに居たって訳。」
「そっか・・・。」
(らしくない・・・か・・・。)
律子の言葉に再び真は俯いた。
「開演30分前・・・。今頃スタッフとかプロデューサーが血眼になって探してる頃よ。」
「うん・・・。」
(何をここまで落ち込んでいるのかしら・・・。)
律子は不思議に思っていた。
「何か気に入らない事・・・いえ、気になる事があるのね。」
「・・・。」
無言なのが答えだった。

「そんなんじゃ、ラストコンサート上手く行かないぞ。」
そう言って俯いている真のおでこを軽く突っつく。
「律子・・・ボク・・・自信ないよ・・・。」
「日本を代表するトップアイドルが何言ってるの。」
真の弱々しい声に律子が突っ込む。
「あのね・・・律子・・・。」
「うん・・・。」
「今日の最後の曲、9:02pmなんだ・・・。」
真は溜息混じりに言う。
(ははーん。そういう事か。)
律子はピンと来て、メガネを手で直した。
「今の思いなら、多分真が一番上手く歌えるわよ。」
「えっ!?どういう事???」
真は律子の言っている意味が分からずに思わず驚いて聞き返した。
「切ないんでしょ。その気持ちを歌に乗せれば良いのよ。」
ドキッ
(見抜かれてる・・・。)
真はハッとして律子の目を見る。
「勝負は最後まで分からないわ。そうでしょ?真はそんな簡単に諦められるなんて思ってないし、最後の最後だったら悔いの無いように行ってきなさい。」
律子はそう言って、真の肩をポンポンと叩いた。
「ふっ、そうだね。律子の言う通りだ。ボク行って来るよ。見ててね最高のラストコンサートにするよっ!」
真ははっきりとそう言って、律子に手を振って走って言った。
「やれやれ・・・世話が焼ける。」
律子はそう言いながらも真の後姿を見て微笑んでいた。

「真・・・なにやってんのかしら・・・。」
本番10分前を切って伊織は流石に焦れてきていた。
「道に迷っているのかしら〜?」
それを聞いて、伊織もプロデューサーもこけそうになる。
「あずさじゃ無いんだから。んな訳ないでしょっ!」
「そうよねえ?」
怒鳴ってツッコミを入れる伊織にも動じずいつもの口調であずさは答えた。
「最後の最後までアンタは・・・。」
フルフルと伊織は肩を震わせる。
「まあまあ、伊織落ち着け。な?」
プロデューサーは伊織の怒りを静めようとなだめる。
「大体ねえ!アンタがしっかりしてないからいけないんでしょっ!」
ガチャッ、バンッ
「はぁっ、はあっ、お待たせ。」
伊織がプロデューサーに怒鳴った瞬間楽屋のドアが勢い良く開けられて真が息を切らしながら入ってきた。
「真っ!あんた何やってんのよ!」
「ごめんっ!伊織。その分はちゃんとステージで。」
真は片目を瞑って、鼻の前で手を合わせて謝る。
「その言葉忘れるんじゃないわよ!」
腰に手を当てて真をびしっと指差して伊織は言った。
「へへっ、勿論さ。」
真はにっこり笑ってからそう答えた。
「それじゃあ、時間が無い。三人とも移動だ!」
「はいはい!行くわよ二人とも。にひひっ♪」
「は〜い。頑張りましょうねぇ。」
「はいっ!ラストいっちょ行きますかっ!」
プロデューサーの言葉に三人はそれぞれを見ながら返事をして楽屋を後にした。


「それでは〜、私たちの最後の曲・・・9:02pmです〜。」
あずさのタイトルコールで静かな前奏が流れ始める。

ねぇ、し・あ・わ・せ〜?
(ボクは幸せなのかな・・・。)

携帯も〜
(掛けて欲しい・・・。メールも欲しい・・・。)

泣いてるよ〜
(ボクの心が・・・。)

君を今感じたら〜ずっと〜
(感じていたい・・・ずっと・・・。)

中間の伴奏に入って、いつもの真の歌い方と全然違うのが伊織にもあずさにも、そしてプロデューサーにも分かった。

ひ・と・つ・だ・け〜
(貴方だけを・・・。)

会いたい
(これからも・・・。)

心が〜
(壊れそう・・・。)

送れたら〜
(この気持ち・・・。)

抱き締めてくれたなら〜
(貴方に抱き締めて欲しい・・・。)

携帯も〜
(・・・・・・。)

泣いてるよ〜
(ボク・・・今泣いてる・・・。)

君を今感じたら〜
(今までの色々な出来事が・・・。)

ずっと〜
伊織が最初にソロで歌う。

ずっと〜〜
最後の締めであずさが歌う。

しかし、いつも終るはずのここでまだ終らない。まさに、もう一回と言わんばかりの間・・・。

ずぅっとぉ〜〜〜
(ボクのこの思い・・・。)

最後に真が締めて伴奏が止むと、ドームが揺れんばかりの拍手が起こった。いつの間にか泣いていた真は涙を拭いて、二人の方へ向き直った。三人は自然と近寄って身長差はあったが、抱き合った。
その様子を見て、ドームは更に盛り上がり沸きかえった。

「三人ともお疲れ様。」
プロデューサーは袖で三人を出迎えた。
「はいはい、上手く行ったわね。それじゃ、私はお先にね〜。後はごゆっくり〜。にひひっ。」
そう言って伊織は先に袖から離れて行った。
「あずささん、後で話があるんだけど良いかな?」
「はい、良いですよ〜。」
あずさはにっこりと笑って答える。
「じゃあ、ボクもこれで・・・。」
「あっ、おいっ!」
真はプロデューサーの制止を振り切って走り去った。
「あらあら〜。」
あずさは驚いて口に手を当てていた。
「じゃあ、ちょっと離れた廊下ででも・・・。」
「はい〜。」

まだ、少しざわめいているのが聞こえる廊下で、あずさとプロデューサーは向き合っていた。
「あずささん。」
「はい〜。」
「俺・・・今朝まではあずささんって決めてたんです・・・。」
プロデューサーは苦しそうに言った。
「私もそんな気はしてました。でも、最後の最後で逆転されちゃいましたねぇ。」
「えっ!?」
少し悔しそうな感じであずさが言う言葉に驚いていた。
「すいません・・・俺、優柔不断で・・・。」
「そんな事ないですよ〜。こんな素適なラストコンサートまで出来ましたしぃ。」
頭を下げっぱなしのプロデューサーを見て、あずさは困った顔をしていた。
「今度は、浮気されないようにプロデュースして貰いますぅ。うふふっ。」
「うぐっ・・・。」
あずさの言葉に思わずプロデューサーは言葉に詰まる。
「真ちゃん、待っていますよ。行ってあげて。」
「あずささん・・・。」
顔を上げると優しく微笑むあずさの顔があった。
「すいませんっ!そして、お疲れ様でしたっ!」
プロデューサーはそう言って頭を下げる。そして、上げながら背を向けて走って行った。
「さようなら、プロデューサーさん・・・。」
そう呟いているあずさの目に涙が浮かんでいた。
「あーあ、行っちゃった。」
「えっ?」
突然後ろから声がして驚いてあずさは振り向く。
「伊織ちゃん・・・。」
「アタシも、最後やばいんじゃないかって思ったんだ・・・。後ろの奴等やってくれたよねえ。」
伊織の言葉にあずさはゆっくりと頷く。
「可哀相にねえ。このおっぱいがすぐそこにあったのにねえ。」
そう言って、軽く胸を下から持ち上げる。
「こ〜ら〜。これでもショックなんですからぁ・・・。」
「それ位分かるわよ・・・。」
(アタシだって有る意味悔しいわよ。このおっぱい星人ならフェロモン負けするけど・・・男女の真にすら届かない訳だし・・・。)
半泣きになって言うあずさの言葉に苦笑いしながら言った。その後暫く無言で二人とも俯いていた。

「まあ、私は何となく分かってたけどね。」
「えっ?」
「あっ!律子?何でここに?」
驚いてゆっくり振り向くあずさよりも先に確認した伊織が聞く。
「三人のラストコンサートだって言うから、挨拶に来たのよ。そしたら、最終的にコンサート前会えたの真だけだし。二人には終わった後、ようやく会えたわ。」
律子は苦笑いしながら言う。
「あーー。律子が何か言って、真立ち直ったのね!」
(そういう事だったのね!)
「???」
確信めいた伊織の言う言葉が分からずにあずさは首を傾げていた。
「あずさ、アンタが振られたのは律子のせいよっ!」
伊織はニヤリとしながら言う。
「ええっ!?そうなんですか?」
「ちょっ、ちょっと!何でそうなるのよ。」
あずさと律子が違う意味で驚く。
「にひひっ、これは問い詰めないと・・・。」
「そうですね〜。じっ〜くりお話伺いましょうねぇ。」
伊織とあずさは向かい合って言った後、律子の方を見てにじり寄っていく。。
「な、何でそうなるのよ!ちょ、ちょっと伊織もあずささんも目が笑ってないってば。」
律子はたじろいで後ずさった。
「あっ!あそこに真とプロデューサー!」
苦し紛れに律子はあらぬ方向を指差して言った。
「えっ!?」
「えぇっ!?」
流石に気になっていた二人はそっちを向く。二人が余所見をした瞬間律子は一気に逃げ出した。
「あー!律子待ちなさいよー!」
「待て〜。」
伊織とあずさの二人はすぐに騙されたと気が付いて、律子後を追い掛けて走り出した。

「終った・・・。」
(律子の言う通りボクは全て出し切った・・・。これで良いんだ・・・。)
真は薄暗い楽屋で電気も点けずに俯きながら呟いた。
ポタッ・・・ポタッ・・・
「うっ・・・ううっ・・・。」
(すぐになんて諦められないし・・・忘れられないよ・・・。)
最初に事務所で出会った頃からの回想が真の頭の中を流れていた。
「真ぉ――――!!!」
突然廊下から自分を呼ぶプロデューサーの声がして、真はビクッとなる。
「何で今更ボクを呼ぶの・・・。」
益々切なくなって真の涙は更に溢れ出ていた。
バンッ!
ビビクッ
凄い勢いで楽屋のドアが開いてびっくりして真は体を硬直させた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・真・・・探したぞ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
プロデューサーは肩で息をしながら息も絶え絶えに言った。
「・・・・・・。お疲れ様でした。ありがとうございました。」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、プロデューサーを見た後そう言って真は頭を下げた。下げている間も、床に止め処なく涙が落ちていた。
そして、頭を上げた後、逃げるようにプロデューサーの横を通って出て行こうとする。
ガシッ!
「!?」
しかし、突然腕を掴まれて真は驚きながらプロデューサーの顔を見る。
「放して下さいっ!プロデューサーにはあずささんが居るじゃないですかっ!お願いです・・・放・・・し・・・・・て・・・・・・。」
最初は何度も腕を振ってプロデューサーの手を振りほどこうとしたが、放して貰えずに最後の方は力なくその場に膝から崩れ落ちる。
「真・・・。」
「気安く呼ばないで下さいっ!あずささんに・・・怒られ・・・る・・・うぅっ・・・。」
(そんなに優しくボクを呼ばないで・・・。)
自分の名前を呼ばれて、顔を上げて怒鳴ったが、その内に感情が押さえ切れずに嗚咽しながら俯く。
「俺は真を迎えに来たんだ・・・。あずささんに怒られやしない。例え怒られた所で関係ないっ!」
「へっ!?」
真は驚いて顔を上げて素っ頓狂な声を上げる。
「すまない。要らない心配を掛けたな。こんな優柔不断な俺だが構わないか?」
「・・・ダメです・・・。」
プロデューサーの問いに拗ねたように真は答える。
「どうすれば良い?」
「・・・自分で考えて下さい・・・。」
声にならない声で顔を逸らしながら呟く。

「分かった。」
プロデューサーはそう言って掴んでいた腕を放して、真の右肩に左手を置いて、右手で真の顎を持って正面を向かせる。
「真、好きだ・・・。」
そう言ってプロデューサーは優しく真にキスをする。
(本当に・・・ボクを・・・プロデューサーが・・・。)
真自身夢を見ているようで目を見開いていた。
少しして一旦プロデューサーの唇が真から離れる。
「これで良い・・・ん。」
言いかけたプロデューサーの口を人差し指で止める。
「ボクも・・・。」
そう言って真は赤くなりながらもプロデューサーの首に腕を回して目を閉じて、自分から唇を重ねた。

ラストコンサートの余韻冷めやらぬドームの一部分で熱い二人の時が過ぎていく。
すっかり日が落ちるのが早くなった夜空には一つの星が月の光にも負けず一際輝いていた。