次の日

次の日も雨だった。
偶然、私は昨日と同じ場所に居た。
貴方は昨日と同じで傘を差さずに立っていた。

ただ、何故か私の傘をたたんで持っていた。
私は訳が分からずに首を傾げた。
回りは昨日と変わらない。
気がつかない人
変なものを見る目で入る人
色々いたが、やはり誰も声を掛けていなかった

私は深呼吸をしてから貴方へ近付いて行った。
「傘・・・。差さないんですか?」
どう声を掛けて良いのか分からない私はそう聞いた。
「わ、私のものではないのです。」
貴方は昨日と違い答えを返してくれた。
ただ、その瞳は虚空を見続けていた。
「誰かが、貴方に差し上げたのではないのですか?」
私は自分がとは言えなかった。
「い、いえ。お返ししなくては・・・。」
貴方はそれだけ言うと、傘を大事そうに抱え込んだ。
「傘は雨の日に差す為にあるのですよ。貴方に手渡した方も貴方に濡れて欲しくなくてお渡ししたのだと思いますよ。」
言葉に反応して初めて貴方は私の方を見た。
その瞳には光無く、ただ虚空を見ているようにしか思えなかった。
「か、傘を差した事が無くて、分からない・・・。」
貴方は意外な事を言った。
「それならばお教えしましょう。お手を拝借しても宜しいでしょうか?」
私の言葉に恐る恐る片手が伸びてくる。
私はそっと手を取り、傘を一緒に開いた。
雨の中に一輪の花が咲いた。
貴方は嬉しそうに笑った。
その瞬間、虚空を見ていた瞳に明かりがともった。
「あ、あの・・・わ、私・・・。」
貴方は話すのになれていないのか、どもりながら言う。
「何でしょう?」
私は貴方の笑顔に嬉しくなって微笑みながら聞いた。
「か、傘を渡して下さったのは貴方ですか?」
「私だったらどうします?」
「お、お礼を言わせて下さい。ありがとうございます。」
貴方はそう言って頭を深々と下げた。
「どういたしまして。それから、おめでとう。」
「えっ!?」
貴方は驚いて頭を上げる。
「これから、その瞳で色々なものを見て下さい。」
私はそう言って、貴方に背を向けて歩き出した。
「ありがとうございました。」
背中から涙混じりの声で貴方の声が聞こえた。
私は振り返らずに軽く手だけ上げた。


雨の音が優しく響いていた。