降りしきる雨の中
貴方は傘も差さずにたたずんでいた
周りの人は足早に横を通り過ぎていく
気がつかない人
変なものを見る目でいる人
色々いたが、誰も声を掛けていなかった
私はふと足を止め暫く見ていた。
そんな貴方の目は虚空を見つめていた
片方の靴が少し離れていた所に落ちていた
私はそれを拾って貴方に声を掛けた。

「あの・・・。これ・・・。」
どう声を掛けて良いか分からず誤魔化すように靴を差し出す。
貴方は私にも靴にも気がつかず、やはり虚空を見つめていた。
私はどうしたものかと困惑していた。
周りの人間の視線やひそひそ聞こえる声が痛い。
私は一回深呼吸して再び声を掛けた。
「これ、使って下さい。それと靴は足元にありますから。」
それでも、貴方に反応は無かった。
私は無造作に貴方の手を取って傘を持たせた。
一瞬ピクッと動いたが、構わずギュッと握らせた。


そして、私は貴方に背を向けて走り出した。