師匠(Bellcess Side

やっほー。ベルだよー。剣士になってからあちこち旅をして楽しい毎日を過ごしてるよ。実は4日前にフェイヨンを出てから道に迷っちゃったみたいで、砂漠に出れずに困っているんだよね。どうにかなんないかなあ・・・。途方に暮れていると、日も暮れた。
「この分じゃ、また食料買いにフェイヨンに戻らないとだなあ・・・。」
あたしは保存食をかじりながら呟いた。
暫くして、木々の間から満月が見えていた。
「綺麗な月だなあ・・・。」
少し欠伸しながらあたしは綺麗な月を見ていた。
「ん?」
ウトウトしていると、急にウルフの遠吠えが聞こえた。それも、一匹じゃなく複数聞こえる。更にどんどんとその声と数が増えていく。あたしは背筋に悪寒を感じた。
(な、なんかやばそう?)
あたしは、火を消して木の陰に隠れてカタナを構えた。よく耳を澄ますと、遠くの遠吠えの中に悲鳴や断絶間が混じって聞こえていた。あたしはその場にいるのが我慢できずに、声の方へと走り出した。ラッキーな事に月明かりが夜道を照らしてくれた。
でも、その場に着いたのはアンラッキーだったのかもしれない・・・。
凄惨な状態で商人の小隊らしい馬車が数台あって、護衛をしていたであろう人や、小隊の人は既に全滅だった。人だけでなく荷物の食料も既に食い荒らされていた。一気に複数のウルフの目があたしに向いた。
「うふふふ・・・。でりゃー。いったるよー!!!」
あたしは半ば自棄気味に叫んで突撃した。ウルフは数は多いけど、今のあたしには相手じゃなかった。頑丈に生んでくれた母さんに感謝。カタナを振り回して殆どのウルフを倒した。残った少ないウルフ達は逃げていった。
「ふいー。何とかなったあ・・・。」
あたしは馬車の車輪に寄り掛かってから水筒の水を飲んで一休みした。
(さっきの悪寒は気のせいだったのかな?)
あたしは首をかしげながらも、生存者が居ないか念の為調べてみる事にした。時々運良く荷物の間とかにいて助かる場合があるからねえ。
この凄惨な状態の中でせめてそういう人が居ればと願ったが、残念ながら居なかった。
「完全に全滅かあ・・・。」
あたしは俯いて溜息混じりに呟いた。そして、その直後にまた、背筋に悪寒が走った。びっくりして一方を見ると、暗闇に爛々と光る瞳が見える。あたしは唾を飲み込んで、カタナを構えた。
そんなあたしの前にそいつは姿を現した。とにかくでかい・・・。多分高さだけであたしの3倍はあるのかな・・・。その大きなそいつの足元や後ろには多くのウルフが居る。多分ウルフの親分なんだろう。あたしはその迫力に完全に気圧されていた。でも、そこはあたし、覚悟を決めて一気に突撃した。
「てりゃ〜!!!」
足元に切りかかったが軽くかわされて、反対側の足で蹴られた。
「ぐはっ!」
あたしは一気に近くにある木まで吹き飛ばされて叩きつけられた。
(こんなのかすり傷だから、まだまだ全然いけるけど・・・勝てるのか・・・あたし。)
すぐに起き上がって、再び突撃した。今度は距離が空いたのもあって、親分だけでなく普通のウルフ達も大挙して突っ込んで来た。周りの普通のウルフは相手じゃないんだけど、親分には全く攻撃は当たらないし、やられっぱなし。
小一時間やり合って、ウルフをかなり倒したんだけど、全然減ってる様子が無い。流石にあたしの方が息が上がってきた。防具は既にボロボロ、親分に噛まれた所はかなり出血してる。
「はあ、はあ、まだまだ〜!」
あたしはよろけながらもカタナを構え直した。
丁度その時・・・
急にあたしの前の空中に穴(?)が開いて、そこから凄い鎧をつけた人が飛び出してきた。その人が空中で止まって、出てきた所に向かっていく途中でその穴(?)が消えた。
「マジかよ!」
その鎧の人はその場で浮きながら怒鳴った。あたしも、ウルフ達も思わずそっちを見た。凄く綺麗な青い鎧に、鳥みたいなんだけど、金属みたいな羽根みたいのがついている。持っているのも綺麗な青い色をした物凄く大きな剣だった。あんなに大きいのは初めて見るなあ。あたしは思わず見惚れていた。
一瞬時間が止まった感じだったが、ウルフ達はあたしの方と、向こうの青い鎧の人に向かって分かれて襲い始めた。親分はあたしではなく青い鎧の人の方へ向かって行った。青い鎧の人もかなり大きいけどそれでも、ウルフの親分と比べたら全然小さい。
「あぶな・・・。」
あたしがウルフを無視して叫ぼうとした瞬間、青い鎧の人の一撃が親分の横面に入った。あたしは夢でも見ているのかと思った。
ウルフの親分は数本の木をなぎ倒しながら吹き飛んで、倒れ込んだ。少し地面が揺れてピクピクしていて、立ち上がってこなかった。
「す・・・凄い・・・。」
あたしはぽかんとしてその場に立ち尽くしていた。周りにいたウルフの動きもぴたっと止まった。
「ったく、無闇に襲うのは習性だからしゃあねえか。とりあえず、安心しとけ、お前等の親分は生きてるからよ。暫くすりゃ目を覚ますだろ。じゃあな。」
ウルフ達にそういうと、青い鎧の人は歩き始めた。
「ああっ!待ってー!」
あたしはよろけながらも青い鎧の人を走って追いかけた。
「ん?」
青い鎧の人はあたしの声に立ち止まってくれた。あたしは、木の根っこでつんのめって青い鎧の人に体当たりしてしまった。でも、微動だにせずにあたしをしっかり受け止めてくれた。
「大丈夫か?女なのに酷えなりだな。」
「えっ!?」
あたしは驚いた。髪が短いのもあるしいっつも男と間違われるんだけど、この人フルフェイスのヘルメットかけてるのにあたしが女だって分かってる!
「とりあえず、ちと離れようや。血を拭くか洗うかして傷を治療した方が良い。結構頑丈そうだからな、抱えるぞ。」
「う、うん。」
初めてお姫様抱っこされちゃった!!!流石に照れ臭いぞ・・・。あたしは黙ったまま青い鎧の人に抱えられて、低い高度だったけど夜の空中散歩をしていた。


暫くして、再び森に降りた。すぐ近くに滝が見えた。
「一人で行けるか?」
「うん。ありがと。」
あたしは少しよろけながらも滝壷の近くまで来た。とっても綺麗な水・・・。って見とれてる場合じゃない。血でべっとりしていたが何とか脱ぎ切って水の中に入った。
「く〜。」
傷口にしみるー。少し涙目になりながらも、体を綺麗に洗った。あちこちに傷が出来ているのが月明かりで分かった。
(これじゃあ、父さんもお嫁になんて言わないよねえ。)
少し笑いを堪えながら、また、体を洗い始めた。
「とりあえず、近くに適当な服っぽいの置いておくからそれに着替えろや。」
青い鎧の人の声がする。はっきり聞こえるって事は、ヘルメットとってるな。
「はーい、ありがとう。」
あたしは返事してから、近くに置いてある布をまとい始めた。
(ん?まてよ?こんな近くに布があったってことは、ここまで来たって事だよね・・・。全然気が付かなかった・・・。)
少し動きがその場で止まって、あたしは考えていた。
「早く来ねえと、飯無くなるぞ。」
「もう食べたー・・・けど貰うー。」
あたしは急いで布を体に巻きつけて、声の方へ歩いていった。
「まあ、座れや。」
「うん。」
あたしは座りながら相手の顔を見た。青い髪に青い瞳、少し日焼けした健康そうな肌。あの時は気が付かなかったけど、この人かなりごっついなあ。
「ん?どうした?」
「あ、えーと・・・助けてくれてありがとう。あたしはベル。」
誤魔化すように自己紹介した。
「ベルか。随分とやられた割にはたいしたもんだ。俺はメビウス、見てたから分かるだろうが、ここの世界の人間じゃねえ。助けたって感じじゃなかったがまあ、構わんか。話は後にして先に食おうや。」
そう言ってメビウスはあたしに焼いた肉をくれた。あたしは喜んでそれを美味しく頂いた。流石にあれだけ血が出ると食べ物が必要だよねえ。無言でただひたすら食べ続けた。食べ終わるとホッとしたのか一気に眠気が来た。
「そのまま、寝ちまえ。」
メビウスに返事するまもなくあたしは気を失うように眠りについた。

「んー。」
あたしは眩しさで目を覚ました。
「お、起きたな。どうだ調子は?」
「うん、なかなか良い感じ。ちょっと痛い所もあるけど、たいしたこと無いね。」
「はっはっは。頑丈だし、たいした回復力だ。」
あたしが軽くガッツポーズを取るとメビウスは笑いながら言った。ちょっと違和感を感じたあたしは自分の体を見た。綺麗に布で応急処置がしてあった。
「悪いな。寝てる間にやらせといて貰った。」
「ううん。ありがとう」
あたしはぺこりと頭を下げてお礼を言った。
「さーて、どうすっかな・・・。戻れる手立てもねえし。どうせだからブラブラすっかな。」
メビウスはそう言って空を見上げた。
「あのー・・・。」
あたしは恐る恐る聞いた。
「ん?どうした?ベル。」
「もし良かったらなんだけど・・・あたしに剣とか教えてくれないかな?」
「ああ、良いぜ。どうせヒマだしな。」
「へ!?」
あっさりとOKを出されたのであたしの方がポカンとなってしまった。
「結構俺とタイプが似てそうだからな。まずは基礎体力アップ。それで、持つ獲物を変える。まずはそこまでたどり着くとこまでだな。今日はゆっくり休め。明日からお前にとっちゃ地獄のような日々が続くかも知れんからな。」
メビウスはニヤリと笑いながらそう言った。
(地獄のような日々ってどんな日々なんだろう・・・。)
あたしは思わず腕を組んで考え始めたが、答えは出なかった。考えるのを諦めて、ゆっくりと休む事にした。


次の日から特訓が始まった。そして、あたしはメビウスの言っていた地獄の意味を思い知らされていた。
「ま、まだ・・・はあ、はあ・・・走る・・・の?」
あたしは息も絶え絶えに言った。朝ご飯の後走り初めて3時間以上・・・メビウスは全然息上がってない・・・。この人は本当に人間なのかと疑うね。
「当りめえだ。昼飯まで走るんだよ。」
「ええっー!?」
あたしはメビウスの言葉に驚いて思わずがっくりした。
「そんなんでばててたら、でかい獲物持って長時間戦えねえぞ。敵は俺みたいに待ってくれねえぞ。」
「うぅ・・・。」
言う事もっともなんだけど、きっついよ〜。
あたしは半泣きになりながらもなんとか午前中走り切った。
「はあ・・・はあ・・・。」
あたしは息を切らすのが精一杯。メビウスは軽く汗をかいてる程度。絶対おかしいってばー。あたしは心の中で叫んでいた。
「ほれ、飯・・・つっても食えねえか。思ったよりも根性あるじゃねえか。途中で音を上げる奴多いからな。息が上がってるだけで済んでるんだから素質はあるな。途中でへばったら止めようかと思ったが。頑張ったからな。明日からちゃんと色々教えてやる。落ち着くまで休んでから飯食え。」
あたしを試してたんだ。でも、とりあえずこのメビウスに色々教えて貰う為の最初の関門は合格出来た訳だ。まあ、普通は途中でばてるよねー。いやー。今現在思いっきりばててるけどさー。
息を切らしながらもあたしは少しその場で嬉しくなって笑った。
一時間位してようやく楽になった。それと同時に一気に空腹が襲ってきて、早速用意してくれたご飯に口をつけた。
「一気にかき込むなよ。ゆっくり食べろ。じゃないと体が受付ねえぞ。」
「ふぁい。」
あたしはメビウスに言われてから再度ゆっくりと食べ始めた。
「ご馳走様でした。」
「お前結構良いとこの出だろ?」
「ええっ!?分かるの!?」
あたしは驚いてメビウスの方を見た。
「まあな、いろんな奴見てきてるからな。多少雑は雑だが、細かい所で躾が行き届いてる。全然こぼしてねえし、綺麗に食べてるからな。」
「ふわぁ、凄いや。まあ、家を飛び出したんだけどね。」
「まあ、ベルや俺みたいなのは貴族や、お偉い連中とは合わねえからな。殴ったりしちまうのが関の山だな。」
メビウスは笑いながら言う。あたしが思うに既にかなりの数のそういう人達殴ったと見た。
「うん。でもさ、メビウスの鎧って凄く立派だよね。その辺の戦士とかには出来ない格好だと思うんだけど?」
「ああ、こんなんでも一応騎士とかナイトって呼ばれてるからな。別に偉い奴に忠誠とか誓ってる訳じゃねえけどな。まあ、仲間がそうだから一緒に居るってとこだな。」
あたしの疑問にメビウスは即答してくれた。腕は文句無しだろうけど、性格的にナイトって感じじゃないもんねえ。
「仲間って沢山居るの?」
「いや、俺を含めて三人で青い三人の聖騎士って呼ばれてるな。一人は騎士の鏡みたいな男前の奴。もう一人は腕も立つし頭もすこぶる良い女ったらしの色男だ。俺は基本的にその二人以外の言う事は聞かねえ。」
うーん。メビウス頑固そうだし、確かに偉い人とかと合いそうに無いもんなあ。
「でもさ、普通の人の言う事は聞いてくれるんだよね?あたしの言う事聞いてくれたし。」
「ああ、気に入った奴の言う事は勿論聞くぜ。結構な、お前とは違うんだが、偉そうな奴がな俺に色々教えてくれって言うんだけどな根性ねえ奴多いんだよな。」
苦笑いしながらいうメビウスだけど、きっとその本人が思い浮かんでるんだろうなあ。
「お前は俺に似てる。敵前逃亡しねえだろ。例え相手が強くても、立ち向かっていってそこに活路を見出す。」
「あはははは。メビウス程強くないから大した事出来ないけどね。」
あたしは苦笑いして言った。
「いや、要は気持ちの問題さ。その強い気持ちが大切なんだよ。それにお前の瞳は綺麗な色してる。余計なもの考えないし、最後まで見届けてやれるか分からねえが、お前は根性もあるし頑張れば自分が思ってるより遥かに強くなれる。」
「そうなの・・・かな?」
嬉しかったし、メビウスが冗談とか言うタイプじゃないのは分かる。でも、そう言われても良くわかんないし実感出来るのはずっと先になるだろうなあ。あたしはちょっと返答に困って苦笑いしながら首を傾げた。
「よし、気持ち新たにする為にメビウスの事、師匠って呼んでも良い?」
「ああ、何とでも好きに呼べ。「
「はいっ!師匠。明日からも宜しくお願いします。」
あたしは頭を下げて言った。よーし、師匠に呆れられないようにこれからも頑張るぞ!