イズルードの貴婦人(hirarin Side)

私はついにイズルードにやってきた。首都プロンテラの衛星都市という事と、港がありアルベルタという街に船で行ける事を街中で教えてもらった。街中でサフィーネさんの話を聞くと、この街では有名な貴族のご婦人との事ですぐにお屋敷を教えて貰えた。
「お屋敷っていうか、何て言えばいいんだろう・・・。」
私はあまりの大きさ広さに圧倒されて呟いていた。
(日本人的感覚は捨てないと不味いな。)
心の中で苦笑いしてから、門番に案内状を見せた。
「ちょっと待ってなよ。今中に入って話をしてくるから。」
「宜しくお願いします。」
門番はそのまま屋敷の中に入っていった。私は改めて屋敷を見ていた。
(無意味じゃないんだろうけど・・・とにかく敷地は広いし、建物も大きいな。)
「ひらりんさんですね?」
「あ、はい。」
突然声を掛けられてちょっとびっくりした。何時の間にか目の前に一人のメイドさんなのかな?がいた。
「サフィーネ様の所にご案内致しますので、私に着いて来て下さい。」
「はい、宜しくお願い致します。」
私が丁寧に挨拶すると相手のメイドさんは少し驚いていた。私は何故驚いているのか分からなかったがとりあえず大人しく着いて行った。
屋敷までの道のりだけでも意外とあった。玄関まで来ると改めて大きさを実感させられた。そして、屋敷の中へ入って更に驚いた。
(テレビとか、漫画、アニメでなら見たことはあるけれど、生で見ると更に迫力あるなあ。)
「どうかなさいましたか?」
「ええ、こんな立派な所は初めてなので、びっくりしています。」
不思議そうに聞くメイドさんに正直な感想を述べた。それを聞くと彼女はくすくすと笑った。それ以降はあんまりキョロキョロするのも変なので、そのまま静かに歩いて着いて行った。途中ですれ違う人には軽く会釈をした。相手も自然と会釈し返してくれた。
(ああ、悲しいサラリーマンの性だ。悪い事じゃないのは分かっているけれど。これじゃあ、山奥から出てきた人間には見えないかな。さっきのメイドさんが驚いたのも予想以上に挨拶とかが出来ていたからだろうな。)
私は心の中で苦笑いしていた。暫くすると、一つのドアの前でメイドさんが立ち止まった。
「こちらがサフィーネ様のお待ちになっているお部屋になります。」
(普通なら・・・緊張する所なんだろうけど、場慣れっていうのは嫌だなあ。)
「サフィーネ様、ひらりんさんをお連れしました。」
私の様子を少し見てからメイドさんは中へ声を掛けた。
「どうぞ、入って頂いて。」
中からは落ち着いた感じの声が聞こえた。
「私は中には入りませんので、どうぞ。」
「ご案内ありがとうございました。」
私は軽く一礼してから中へ入っていった。少しだけ横目で見たメイドさんは明らかに驚いていたが、知らん振りした。
「失礼します。」
(ぎゃぁああ。会社のマニュアル通りだあ。)
私はしまったと思いながらも、開き直って頭を上げた。目の前には年の頃、40半ばぐらいの綺麗な女性が座っていた。
「随分と礼儀正しい方ですのね。どうぞ、そちらに座って。」
微笑みながら相手の女性は言った。
「お言葉に甘えさせて頂きます。」
促されるままに正面のソファに座った。
「初めまして。私はサフィーネ・ミューラー。貴方がひらりんさんね。紹介状は読まさせて頂いたわ。言葉の書きの方を習いたいというのと、商人になりたいという事で宜しいかしら。」
サフィーネさんは簡潔にいった。
「はい、話す事は出来るのですが字を書く事が出来なくて。それと、私自身これから先どうしようかと相談した所、何が出来るかといったら商人くらいしかないと聞いたもので。身寄りや知り合いが居なく、相談に乗って頂いたらサフィーネ様のお名前をお聞きしまして、力になってくれるのではないかと言う事でやってまいりました。」
サフィーネさんは暫く私と紹介状を交互に見ていた。
「良いでしょう。二ヶ月はここで面倒を見ましょう。その間にマスターできればそれで良し。出来なければそこまでで商人になって頑張りなさい。」
「ありがとうございます。一生懸命頑張ります。」
こうして、私はミューラー家にお世話になる事になりました。
「もし、良ければだけれど出来たら、娘の礼儀作法を少し見て頂いても良いかしら?」
「えっ?私がですか???」
いきなりの申し出に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった私だった。
「うちの執事になる道もあるからね。」
「ははは、ご冗談を。」
悪戯っぽく言うサフィーネさんの話を上手く交わすように言った後に思った。
(この人本気かもしれない・・・。)