初めての戦闘(Bellcess Side)
あたしは暗がりのイズルードを後にして首都のプロンテラを目指した。
「ね、ねむいー。」
途中で凄まじい眠気に襲われたあたしは逆らう術も無く、あっさり草むらで大の字になって眠った。外で過ごす初めての野宿。味わうまでも無くあっけなく朝になった。
「ふぁーあ。」
あたしは大欠伸をして目をこすった。いつもと違って草の上で眠るのも悪くないなと思った。母さんから貰ったバッグから保存食を出して、水筒の水と一緒に美味しく食べた。
ピクニック気分でなかなかいい感じ。いつもだとメイドに起こされて礼儀作法を五月蝿く言われた挙句、父さんと口喧嘩になって食事の味が分からない事なんかも良くあるからねえ。これからそれが無いと思うと気が楽だー。
「んー。」
あたしは思いっきり伸びをしてから、プロンテラを目指して歩き出した。(なんかいるけど・・・なんじゃありゃ?)
ピンクの変な物体が跳ねている。よーく見てみると顔もついてるしその顔が結構可愛い。あれがモンスター???何かイメージと違うなー。襲ってこないし。
あたしは少しピンクの物体を観察した後、恐る恐る近付いてみたが特に攻撃されるような事も無かった。
(何だかホッとしたような、拍子抜けのような。)
攻撃されない事が分かったあたしはピンクの物体を放って置いて再びプロンテラを目指して歩き出した。
途中でいきなり草むらがガサガサと音を立てた。
あたしは緊張しながら慣れない手つきで母さんから貰ったナイフを抜いて構えた。
ガサッ!
「!!!」
出てきたのは・・・
「か、可愛い!」
あたしは一気にその白いもこもこした生き物に心を奪われた。ナイフをすぐにしまってからゆっくりと近付いた。白いもこもこは体を振ってくっついていた草を落とした。その仕草のまた可愛い事ったらない。
あたしは近くにある草を拾って白いもこもこの前に差し出した。ふんふんと匂いを嗅いだ後食べ始めた。
(くー。可愛過ぎだー。反則だぞこの可愛さは)
あたしは無意識に白いもこもこを撫でていた。くすぐったそうにしていたが特に嫌がられてない様子。やっりー!
(うふふー。愛い奴、愛い奴。)
あたしは時間を忘れて白いもこもこの相手をしていた。
どのくらい時間が経ったのか、何時の間にか空が赤くなって来ていた。
(随分時間経ったなあって・・・うひゃあ!もう夕方だし。)
流石に焦ったあたしは名残惜しそうに白いもこもこと別れて走り出した。少しでも遅れた分を取り戻すのに走り続けた。
バシッ!
「いったー!いたたたた。」
走っていると途中で勢い良く飛んでいた何かにぶつかった。あたしはモロ鼻を打ったんで痛くて地面にしゃがみこむのが精一杯だった。
ぶつかった相手が何かは分からないけど、向こうもかなり痛いはず。あたしは顔を抑えながら母さんから貰ったナイフを構えた。
ブウーーン
いい音がして正面から大きいハエが飛んでくる。
「でかっ!」
あたしはこんなに大きいハエを見たのは初めて。相手のハエは怒ったのか一気に突っ込んでくる。
バシッ!バシッ!
「痛っ、痛っ。」
すばしっこいハエ相手にあたしは大苦戦。ナイフを振れども振れども当たらない。逆に体当たりされまくっていた。
「こんのー!」
あたしはナイフの柄で殴りかかった。
ゴスッ!!!
相手のハエは虚をつかれたのかあたしの柄の攻撃をモロに食らって、一旦地面に落ちた。
チャーンス!
あたしは追い討で地面にいるハエにナイフを突き立てた。ハエは妙な鳴き声をあげて死んだ。あたしはこぶだらけになって痛い部分をさすってから再び走り出した。
少しすると一気に疲れが来たので少し歩いて息を整えた。
「うーん、戦闘があれじゃあ先行き不安だなあ。」
あたしは少し苦笑いしながら呟いた。そして、歩きながら今夜の寝床を探した。ちょうど良い木の根元を見つけたのでそこで休む事に決めた。
あたしは保存食を食べながら今日の事を思い返していた。
ピンクの謎の物体に、可愛い白いもこもこ、そして馬鹿でかいハエ。
「とりあえず、明日は寄り道せずにプロンテラを目指そうっと。」
あたしはなんとなくそう口に出してから、急激な睡魔に襲われすぐに眠ってしまった。