イズルードへ(hirarin Side)

朝起きてみるとやはり夢ではなく冗談にもならない。とりあえずパジャマを売ったお金で暫くは大丈夫そうだが、これが無くなったら一門無しになってしまう。宿屋の一階で食事を取りながら周りを見渡した。
(洒落にならない・・・。)
私は冷や汗をかきながら周りの文字が全く読めない事に危機感を覚えていた。
「兄さんどうした?青い顔して?。」
「いえ、実は田舎の出なもので文字が読めなくて。」
食事を作りながら質問してきたここの主に苦笑いしながら答えた。
「兄さんは何でまたこのプロンテラへ来たんだい?」
(うっ!素朴な質問だけど答えるのに困る質問・・・。)
少し考える時間を作る為に苦笑いして、
「とりあえずは田舎から出て、ここにくれば何とかなるかなあってね。」
(我ながら苦しい答えだな。)
心の中も苦笑いの状態で答えた。
「成程なあ。結構兄さんみたいなのが来るが、諦めて帰る奴が多いかな。そうでなければ剣士とかになって旅してるのもいるかな。ただ、兄さんは剣士って柄じゃねえな。」
主は少し笑いながら言った。
「おっしゃる通りですね。私はまだ、頭脳労働の方が少しはマシかもしれません。」
「かといって、マジシャンの才能ってのはなさそうだしなあ。言葉使いから見て素質があるならアコライトってとこかな。」
どうやら、主は私の品定めをしながらも協力してくれているんだな。協力してくれるって言う事は少なくとも悪人には見られてないって事かな?(笑)
「私は無信教ですからねえ。他に何かなれるもの無いですかねえ?」
「んー。後は兄さんに残された道は商人くらいかなあ。ただ、センス無いとすぐに破産だけどな。俺は破産になってどうしようもなくなった奴を結構知ってるからな。あんまりお勧めは出来んな。」
主は思い出すように苦笑いしていた。
「破産覚悟で商人になってみたいですね。宜しければどうすれば良いか教えて頂けますか。中途半端な気持ちでは無いので、お願いします。」
私は後が無い事もあり、頭を下げた。
「頭を上げてくれ。とりあえずはアルデバランって街を目指すといい。ちなみに兄さん金はあるのかい?」
「ええ、それなりにはあります。」
「なら、直接行くには危ないし遠い。ここから南東にあるイズルードって街から船が出てる。それに乗っていくといい。後は文字が読めねえって言ってたよな・・・。」
主はそういうと腕を組んで考え込んでいる。私はただ、主の反応をじっと待った。
「俺が昔世話になった人を頼ると良い。今はイズルードにいるはずだ。紹介状書くからそれを持って行くと良い。きっと力になってくれるはずだ。」
「ありがとうございます。」
私は深々と頭を下げた。
「まあ、上手くいってから礼は言ってくれ。」
主はそう言うと豪快に笑ってから出来上がった料理をウエイトレスに渡して、奥へと入っていった。
何か、暖かさというんですかねえ・・・ここはこの世界の都会なんでしょうけれど私のいる都会とは偉い違いだな。
私はちょっと複雑な気持ちになっていた。そして静かに主が出てくるのを待っていた。
暫くすると主が奥から出てきた。
「兄さん、これが紹介状だ。イズルードにいるサフィーネ・ミューラーって言う人を訪ねて行くと良い。有名な貴族の奥さんだからすぐに教えてくれる。」
「え!?貴族のご婦人!?」
私は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「はっはっは。皆そうやって驚く。元は剣士で世界のあちこちを旅してたらしい。俺もいろいろ聞いた。世話好きでな、きっと力になってくれる。上手くいって儲かるようになったらまた来て飯でも食いながら話を聞かせてくれや。」
「はい、何から何までありがとうございました。早速行ってみますね。」
再び頭を下げて宿代と食事代を払ってから私は宿屋を後にした。
途中でイズルードについて聞くと数日掛かるとの事なので携帯用の食料と水筒を買って水を入れて旅の準備を整えた。
アルデバランについては、歩いていくには遠い上に危険との事でお金があるなら船の方が安全で良いだろうし、ついでに船旅をしてみるのも良いと言われた。
後はモンスターがいろいろいるという話を聞いたがイズルードまでなら凶悪なモンスターはいないという事で一安心である。
間違っても自分から手を出さないようにと念を押して言ってくれた人もいた。
やっぱりここは人間的に良い所だなと思った。
それとも、私が運が良いだけなのだろうか?そんな事を考えながら、明るいうちにプロンテラを後にした。
野宿なんて何年ぶりだろう。綺麗な星空を眺めながらふと思った。当然の如く星の位置は違うし、知っている星座なんて無い(笑)
ただ、空気が綺麗なので昔冬に田舎で見た綺麗な星空をも上回るすごい星空だった。
暫く見入っているうちに、何時の間にか眠りについていた。


次の日初めてモンスター(?)と遭遇した。確かプロンテラのお店で売っていたぬいぐるみそっくりのピンクの物体。確かポリンとかいう名前だと思った。時々ぴょんぴょん跳ねている。確かに害はなさそうだ。そんな風に思っていると他の所でポリンに物を取られている人がいた。取られた方がナイフを取り出してポリンに切りかかった。ポリンはあっけなく飛び散った。そんな光景を目にした以外は特に何事も無く順調に旅は続き、いよいよイズルードの街が見えてきた。