旅立ち(Bellcess Side

みんなーどうもー。
あたしはベルセス・ミューラー。ベルって呼んでねー。
今ね−非常に不味い状況に陥ってるんだ。
何が不味いかって?それはね、なんとあたしが政略結婚させられそうになってるんだよね。
生まれを間違えたみたいでさー。こんなんでもイズルードの貴族ミューラー家の長女なんだ。あたし自身は全く気にしてないし、今日も泥だらけで遊んで来た所なんだよねー。
それでさ、今日帰ってきて偶然父さんの部屋を通り掛かったら聞いちゃったんだよねー。「ベルセスも結婚してしまえば少しは女らしくなるだろう。」だってさー。全く人の知らない所で何言ってんだか。
それで、只今家出の準備の真っ最中なんだ。あっはっは。ただねえ、妹のナスカは勘が良いから気付かれそうなんだよねー。後は母さんはあたしの味方なだけに、黙って家を出るのはちょっと気が引けるかなー。
「姉様、ベルセス姉様いる?」
あっちゃあ、ナスカだよ。思った通り気付かれちゃったかな。さてどうしたものかな・・・。
「今開けるからちょっと待ってー。」
そう言ってすぐに家出道具をベッドに隠してから、ドアを開けた。
「どうかしたのナスカ?」
ナスカはあたしの問いかけに答えずにじろじろと部屋を見ている。結構目ざといなあ。
「いえ、夕食なので呼びに来ました。もうお風呂には入ったのですか?」
ふう、どうやらまだ気付かれてはいないみたい・・・かな?
「うん、泥だらけだったからねー。さあ、ごはん行こー。」
あたしはナスカをそのまま押しながら階段を降りて行った。食堂につくと既に父さんと母さんが座ってた。あたしとナスカは急いで自分の席についた。
「頂きまーす。」
お腹減ってしょうがなかったんだよねー。うーん美味しい。
「ベルセス。もっと行儀良く食べなさい。」
いつも通りのお父さんのお叱りだ。ここからはパターンなんだよねー。反抗期真っ盛りだからねー。聞こえないよーんだ。気にしないであたしは掻き込むように食べ続けた。
「ベルセス!聞こえなかったのか!」
「じゃあ、食べないよ!」
乱暴に食器を置いて食堂から出た。あたしには几帳面な食べ方は向いてないんだ。いいじゃん、楽しく食べられれば、少しくらいさー。機嫌が悪くなったあたしは部屋に戻って家出の準備を再開した。
少しして、部屋がノックされる。あたしはびっくりしてあたふたした。
「だ、誰?」
「母さんよ。まだお腹すいてない?少しだけど持って来てあげたわよ。」
くー。母さんは優しいなー。ってそれは良いとして・・・、あたしはすぐに荷物をベッドに隠して、ドアを開けた。母さんを中に迎え入れて隣同士で座った。
まだ、お腹が満足していないのもあってすぐに食べ始めた。
「ベルセス。貴方家を出るの?」
「ぶっ!」
あたしは突然言われたので噴出してしまった。な、何故それを!?
「ベッドから荷物がはみ出しているわよ。」
あたしの顔を見て少し笑いながら母さんは言った。
「あちゃあ。ばれちゃったらしょうがない。あのね今日父さんが知らない人と話しているのを聞いちゃったんだ。結婚勝手に決めてたの。そんなの嫌だから出ようと思って。」
あたしの言葉を聞いて母さんはなんとも言えない顔をした。
「私は今のままのベルセスが好きだし今のままで良いと思うの。何もミューラー家に生まれたからって貴族にならなければいけない訳じゃないのにね。貴方の人生は貴方が決めれば良いと思っているわ。ごめんなさいね、私に力が無くて・・・。」
しょんぼりする母さんを見てられなかった。
「ううん、母さんのせいじゃないよ。母さんはあたしの味方だって思ってるしね。母さんと別れるのは辛いけど、決めたんだ。もしかしたら行き倒れになるかもしれないけど、今母さんが言ったみたいに、これからはあたしの生き方はあたしが決めるよ。ごめんね親不孝な娘で。今まで育ててくれてありがとう。最後に母さんに言えて良かったよ。」
あたしは苦笑いしながら言った。
「いいのよ。頑張りなさいね。傍にいてあげられないけれど、私はいつでもベルセスの無事を祈っているわ。」
そう言って母さんはあたしを抱きしめた。ちょっと涙が出たけど我慢した。
「どうだわ、ちょっと待っていなさいね。」
そう言って母さんは一旦部屋から出て行った。うーん・・・。母さんと別れるのは正直辛いなー。あたしは苦い顔しか出来なかった。少しして、母さんがいろいろ持って戻って来た。
「とりあえず少ないけれど持って行きなさい。きっと役に立つわ。」
母さんはお金と少し古ぼけたバッグや水筒なんかをくれた。あたしは遠慮なく受け取った。
「それはね、昔、母さんが旅をするのに使っていたの。」
「え!?母さんって貴族だったんでしょう?外に出してくれたの???」
正直驚いた。そんな話聞くのは初めてだった。
「私にもベルセスと同じ頃があったのよ。ただ、私は途中で家に帰って来てしまったけれどね。ベルセス程度胸も無かったし、家が恋しくなってしまってね。」
母さんは苦笑いしながらも、何か嬉しそうに話してる。
「そっかー。母さんにそんな頃があったんだねー。何かちょっとホッとしたのと、嬉しいかなー。」
あたしがニカッと笑うと母さんも嬉しそうに笑った。
「ベルセスしか分かってくれないと思うわ。だから、貴方にだけ。ナスカや父さんには内緒よ。」
「勿論だよ。でも、父さんにも話していなかったんだー。ちょっと驚きだね。」
言葉どおりあたしは正直驚いていた。って事はこのバッグとかも父さんには見せた事無いんだろうなー。
「父さんは昔から貴族の出で、本当の意味での外に出た事が無いの。貴族としては有能かもしれないけれど、一人の男性としてはちょっと魅力には欠けるかもね。」
母さんは少し悪戯っぽい笑いを浮かべながら言った、
「あっはっは。今のも内緒にするね。」
あたしは笑いながら言った。
「私はベルセスがさっき言ってた、決められた結婚だったの。」
「ええー。じゃあ何で結婚したの???」
あたしは不思議に思って率直に聞いた。
「父さんが可哀想だったから・・・かな。」
「うーん・・・奥が深そう。あたしには理解出来ない世界っぽい。」
あたしの反応に母さんは笑っていた。だって理解できないものは理解できないもん!
「外は今までに見た事の無いものが沢山あるわ。楽しい事も、辛い事もね。もし我慢出来なければ帰ってらっしゃい。父さんが何と言っても私は何時でも出迎えてあげるから。帰る所はあるって思っておきなさい。それだけで楽になれる時もあるから。」
「うん、ありがとう。あたし頑張るよー」
母さんに感謝感謝だね。母さんはその言葉を言い終わって部屋から出て行った。あたしは母さんから貰ったバッグに詰められるだけ詰めて紐を結んだ。
「おし!いったるよー。」
部屋から出ようとバッグを背負った瞬間ドアがノックされた。あたしは慌ててすぐにバッグをベッドに放り込んだ。
「誰―?」
「ナスカです。」
ぎっくーん。ばれちゃったかなー。あたしは出来るだけ平静を装ってドアを開けた。
「さっき、お母様とすれ違って何だか楽しそうだったから・・・。姉様と何を話されたのか知りたくて。」
なーんだ、そういう事かー。あたしはホッとした。
「ごめん。母さんから内緒にって言われてるから。この通り、ね?」
あたしは目の前で手を合わせて言った。
「そうですか・・・。お母様がそうおっしゃったのなら仕方ないですね。」
ナスカは残念そうな顔をした。でも、いつも不思議に思うんだよね。何で母さんはおてんばなあたしを可愛がって、ナスカはあんまり可愛がらないのかなあ?ナスカ自身かなり気にしてるみたいだし・・・。あたしが言うのもなんだけど、女の子としてならナスカの方が可愛いと思うんだけどなあ。
あたしがそんなことを考えていると、何時の間にかナスカが部屋の中に入っていて、ベッドの掛け布団を今まさにめくろうとしていた。
「どわーーーー!」

焦ったあたしは一目散にベッドに駆け寄った。それと同時にナスカを吹き飛ばしてしまった。ナスカはベッドの上で気を失っている。
「あっちゃー。やっちゃった。でも、好都合かな?今のうちに抜け出しちゃおーっと。」
とりあえず、ナスカに「ごめんね。姉より」という書置きをしてから屋敷を抜け出した。しょっちゅう抜け出しているあたしには造作も無い事だった。
外に出ると綺麗な月が出ていた。
「おーし、吉と出るか凶と出るか分からんけど・・・いったるかー。」
あたしは一伸びしてから月明かりの綺麗なイズルードの町を後にした。