〜Before Story〜 FELIATE(フェリアーテ)中編
・・・次の日・・・
フェリアーテを見送りにラジャとお付の二人が一緒に来ていた。ラースの方は寒さに耐えられずに先に宇宙船に乗り込んでいた。
「気を付けて言ってくるのじゃぞ。」
「分かってるよ。さっさと片付けてちゃんとお土産も買ってくるからさ。」
返事をした後フェリアーテは少しおどけるように言った。
「フォフォフォ、モタビアの土産か。期待して待っておるぞ。」
ラジャの方も笑いながら答えていた。
「フェリー、くれぐれも気を抜かないようにな。」
「ああ、分かってるよ。きちんとあたいの役目を果たしてくるよ。」
お付の一人から言われて、こっちには真面目に答える。
「ハンターを雇って駄目だったと言う事は力押しでは駄目だったと考えるのが妥当だろう。そこからも分かる通り、相手は腕だけでなく頭も切れる奴かもしれない。策には十分に気を付けろ。」
「うん、あたいの悪い頭なりに考えて頑張ってみるよ。アドバイスありがとうね。」
もう一人のお付から言われてフェリアーテは答えた後最後にウインクした。
「実際にここで多くの修行を積み、それなりの実戦経験も不可抗力とはいえ積んできた。だがな、今回は今までとは違い、間違いなく命懸けになる。それだけは忘れるでないぞ。そして、必ず生きて戻ってくるのじゃぞ。」
「はいっ、ラジャ様や多くの人から貰った全てを懸けます。一度は失った命、惜しくはありません。ただ、無駄に散らしはしません。必ず成功させ、生きて戻って参ります。」
真面目な顔をして言うラジャの言葉に、フェリアーテも真面目に答えてから深々と頭を下げた。そして、その後フェリアーテは宇宙船に乗り込んでいく。
「フェリアーテ、土産頼んだぞ。」
「任しといてっ!」
最後のラジャからの言葉に手を振って答えてから宇宙船の中へ消えて行った。
「ラジャ様。最後はあれで良かったのですか?」
「良いんじゃ。最後くらい肩の力を抜かせてやらんとな。上手く行くものも失敗してしまうわい。」
発進準備が始まっている宇宙船から離れながら二人はそんなやり取りをしていた。
「フェリアーテは大丈夫でしょうか?」
もう一人のお付が心配そうに他の二人に聞くように呟く。
「・・・。」
お付の一人は何とも言えない顔で黙り込んでいた。
「な〜に、わしの一番の秘蔵っ子じゃ。あやつなら上手くやるわい。お前達も先輩として無事くらい祈ってやれ。わしは大丈夫だと信じておるわい。」
ラジャは飛んでいく宇宙船を見上げて、微笑みながら言っていた。
「しっかし、本当にデゾリスは寒い所だな。あれで一番暖かい時間だって言うんだからな。」
ラースは宇宙船を自動操縦にしてからホットコーヒーを飲んで愚痴るように言った。
「ふふっ、そうさね。あたいはもう慣れちまったからねえ。生粋のデゾリアンにゃ適わないけどそれなりってとこかな。外での修行もかなりやった成果かもね。」
フェリアーテは笑いながら言った後、ラースの差し出すコーヒーの入ったカップを受け取って飲み始めた。
「こんなとこで変な質問なんだが、良い相手は見付かったか?」
「ぷっ、全く本当に変な質問だよ。命の恩人&師匠とたま〜に弟にも思えちゃう二人の兄貴分だけだね。それ以外はそんなに深い付き合いも無いし、何より殆どが修行だったからね。」
ラースの質問にフェリアーテは苦笑いしながら答えていた。
「昨日あそこで話を聞いた時に、ファリーは異例の速さで神官になったって聞いた。お前には才能があったって事じゃないのか?」
「まあ、あたの才能とかは分からないけどね。師匠が良かったんだと思う。ちょっと癖があって他の皆は避けてる感じはあるけど、あたいは師匠があの中では大神官様の次に実力があるって思ってる。」
フェリアーテはラースに聞かれて真面目な顔をして答える。
「確かにあのラジャってのはただものじゃないと思った。大神官ってのも名前に恥じない凄い奴だと思ってる。この俺でも何ていうか雰囲気に飲まれたしな。」
ラジャの事は普通に言っていたが、大神官の話をする時は苦笑いしていた。
「まあ、あたいが言えた事じゃないけど大神官様あってのガンビアス大寺院だと思ってる。もし、大神官様が何かの形でそのお立場を離れる事になったら混乱するかもしれないね。ラジャ様は法力はあるけど、それだけじゃ大神官には慣れないと思うし。」
「人の上に立つには少なからずカリスマが必要になってくるからな。特にあそこじゃそれは不可欠なものになるっぽい。いっその事お前がなっちまえば良いじゃねえか。」
ラースは最後笑いながら言う。
「何馬鹿な事いってんだい、あたいがそんな恐れ多い事っていうか大役務まる訳ないだろ。」
(ったく、何突拍子も無いこと言い出すんだか。)
フェリアーテは本気で手をブンブンと振りながら力強く否定した。
「たださ、あそこでイクリプストーチを盗み損なってああなったのも何かの導きだったのかもな。」
「そうだね、ラースの言う通り何かの力が働いたのかもね。まさか盗賊のボスが神官になんて考えても無かったよ。」
しみじみ言うラースに、フェリアーテは両肘をテーブルについて両手に顎を乗せながら今までの事を思い出すように言った。
「って、あたいに聞いたんだからあんたも答えなよ。ラース、あんたは良い相手出来たのかい?」
「んっ?ああ、お陰さまでな。子供も生まれた。こいつだ。」
フェリアーテの突っ込みに、ラースは少し照れながらホログラフを見せる。そこには、ラースに寄り添っている可愛い女性と、その女性が抱えている赤ちゃん、そして、ラースに肩車されている男の子が映っていた。
フェリアーテは何も言わず暫くの間、そのホログラフを微笑ましそうに見ていた。
「そっか、良かったね。だけど、他の連中は残念だったね・・・。」
フェリアーテは気を取り直して苦い顔をしながら言う。
「ああ、残ったのは俺を含めて3人だけ。後の二人も今はホスピタルで入院してる。」
「そうかい・・・。だけどさ、クローンとかは駄目だったの?」
「それがな、奴・・・つまり相手の変なテクニックだかなんかでやられちまうと何も残らねえんだよ。そう、死体すらな・・・。」
「・・・。まともに弔ってやる事すら出来ないんだね・・・。」
フェリアーテは悔しそうな顔をして頷くラースをみて、両方の拳と肩が震えていた。
「あっち着いたらさ、行く前に二人の見舞いに行きたいんだけど良いかい?」
「ああ、驚くとは思うがフェリーの顔見れば少しは元気になると思う。逆に俺からも頼むわ。」
「ちょっとちょっと、あんたが頭下げないでよ。」
フェリアーテは気不味くなって、頭を下げるラースに困ったように言いながら頭を上げさせた。
「とりあえずさ、湿っぽい話は無しにして、ラースの馴れ初めの話聞かせてよね。」
「ああ、構わんぜ。こっちはフェリーが何してたのか知りたいかな。」
「面白くないかもしれないけどね。さっ、まずはそっちが先だよ。」
フェリアーテはそう言ってから、ウインクした。
・・・惑星モタビア・・・
「相変わらず日差しが厳しいねえ。まあ、ちょっと暑いけどこの格好でも問題ないかな。」
フェリアーテはエアポートから外に出て、空を見上げながら呟いた。
「あんだけ寒い所に慣れたってのに、この暑さも前のままで大丈夫なのか。大したもんだぜ。」
感心したようにラースはちょっとオーバーリアクションをしながら言った。
「まあ、普通に住んで居ただけなら暑くて堪らなかっただろうけどね。これも修行の成果だと思うよ。さてと、じゃあまずは二人のいるホスピタルに案内して貰えるかい?」
「ああ、じゃあ、行こうか。」
フェリアーテはラースのエアカーに乗っての案内でホスピタルにやってきた。
ホスピタルの中では、フェリアーテの神官の格好が珍しいので注目を集めていた。
そして、少しして二人の居る病室へとやって来た。
「よっ、少しは良くなったか?」
ラースが声を掛けて入っていくと、二人は一斉に振り向く。
「お頭。すいません、おめおめとこんな形で生き残っちまって・・・。」
「お頭、いっその事あっし等を楽にして下さい。」
二人は怪我をしていて、その部分が変な黒っぽい色に変色していた。
「何言ってるんだ。とりあえずな、お前等に会わせたい奴がいて連れてきた。」
「へ?あっし等に???」
ラースの言葉に不思議そうな顔をして見合っていた。その言葉を聞いてからフェリアーテは病室へ入って行った。
「あの、どちらさんです?」
神官着と帽子も被っていたので、二人はフェリアーテだと気が付かずに不思議そうに聞いていた。
「あたいだよ。」
フェリアーテは少し微笑みながら、帽子を取るとあの燃えるような綺麗な赤い髪がファサッと流れ落ちる。
「あっ!姐さんっ!?死んだ筈じゃ!?」
「先代!?お頭、これは一体!?」
二人は驚いてラースに答えを求める。
「いや、俺も実際驚いた。デゾリスのガンビアス大寺院で修行を積んで神官になったんだとさ。」
「そうだったんですかい。いやあ、生きてて良かった。」
一人は少し涙ぐみながら言った。
「死んじまったっていうか、消えちまったあいつ等にも姐さん見せてやりたかった・・・。」
もう一人は完全に涙が流れていたが、呟くように言っていた。
「フェリー、こいつ等さ。生きて帰って来たのは良いんだが、傷が一向に良くならなくてな・・・。」
ラースは苦しそうに言う。
「どれ、ちょっと見せてみな。」
フェリアーテはそう言って、一人の怪我している部分に手を当てる。本人だけで無くラースや、もう一人もその様子を見ていた。
(ん?変な感じがするね・・・。これが闇のものって奴の仕業かね。だったら・・・。)
触れた手に違和感を覚えたフェリアーテは静かに目を閉じる。
「悪しきもの・・・我がの名において・・・傷を癒し・・・浄化せん・・・。」
静かに呟くと、手から淡い光が出る。三人はびっくりしてそれを見ている。変色していた傷の部分がみるみる元の色に戻っていく。更に傷が閉じていく。
フェリアーテが再び目を開けると、一人の傷が完全に治っていた。
「姐さん・・・今のは一体???」
「まあ、さっきラースが言ってた修行の成果って奴さね。どうだい?動くかい?」
ポカンとしている相手にフェリアーテが答えてから聞くと、聞かれた方は我に返って身体を動かす。
「何処も痛くないし、動きますぜ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
驚いた後で、ベッドの上で土下座しながらぺこぺこと頭を下げる。
「ああ、まあ他の患者さんの邪魔になるからその辺でな。」
「はい、はい・・・。」
肩を叩かれて、頭を下げていた相手は返事をして涙ぐんでいた。
「うん、これならこっちもいけると思うよ。さっ、ちょっと傷口見せてみな。」
「宜しくお願いします。」
相手はかしこまって傷口を差し出した。フェリアーテはそちらにも手をかざすとやはり、嘘のように元に戻って治る。
「先代・・・。本当にありがとうございました。」
こちらは静かに一礼する。
「ふふっ、あたいの命を救ってこの術を教えてくれた人に感謝するんだね。」
フェリアーテは静かにそういうとラースの方を向く。ラースの方は驚いてポカンとしていた。
「ラース、これから仇打ちに行くんだろ?どうするんだい?」
「あっ、ああ。とりあえずハンターを雇ってそれなりの人数で乗り込むつもりだ。」
フェリアーテの言葉で我に返ったラースは真顔に戻って答えた。
「あっし等も連れて行って下さい。」
「お願いします。」
話を聞いていた二人は頭を下げてラースに頼み込む。
「いや・・・。どうするフェリー?」
少し困った顔をして、フェリアーテに助けを求めるように聞いてくる。
「ふふっ、お頭の一言で決まるんでしょ?」
フェリアーテはそれだけ言うと後は何も言わない。
「分かった。ただ、今回みたいに生きて帰ってくれるか分からんぞ?」
「覚悟の上でさあ。」
「さっきまで死んでいたのと変わらないこの命。惜しくななんかないってもんだ。」
ラースの言葉に、二人は威勢の良い声を上げる。
「こら〜。静かにね。場所を考えなよ。」
フェリアーテの言葉に三人とも口を押さえる。フェリアーテはそれを見ておかしくなって吹き出しそうになるのを堪えていた。
ハンターを数人雇ったフェリアーテを含むラース一行は、不気味な洞窟へ来ていた。
途中のモンスター達はフェリアーテが思っていたより呆気なく倒されていた。
(あたいの出番あるのかねえ?)
フェリアーテは内心で小首を傾げながら一緒に進んでいた。
「あの、フェリアーテさん。あのお二人の傷をお直しになったとか。」
一緒に同行していた一人の女性が聞いてくる。
「ああ。あれは特殊なもんにやられてたからね。普通のレスタとかアンティじゃ治らないかもしれないね。」
「そうなんですか。私もそれなりにテクニックを使うのですが、その時には是非お願いします。」
「あたいも、少しくらいならテクニックは使えるからさ。出番が無いかと思ってたからねえ。正直あたいの出番が無い方がいいとは思うんだけどね・・・。」
(感じる・・・。この違和感・・・。かなり強い・・・。)
フェリアーテは答えながらも、少し厳しい表情になっていた。
一本道を抜けると、大きく開けた場所に出る。あからさまに人工的に作られたものだと分かった。既に向こう側も来る事が分かっていたらしく、迎撃体勢を整えていた。
「全く性懲りも無く何度も何度も。今日は全員消えて貰いますよ。」
相手のローブ姿のものが静かに言う。
(あからさまに人間じゃない・・・。それに奥にもう一体居る。そっちが親玉だ。)
フェリアーテは、奥の薄暗い部分を睨んでいた。
「それはこっちの台詞だ、仇は取らせて貰う!」
ラースがそう言って、ビームガンを撃つと戦いが始まった。
何本も部屋を支える支柱があり、そこにお互い隠れながらの攻防戦になっていた。
最初は優勢に攻めていたが、ローブが放つ黒い炎に当ると、一瞬で影のようになってしまって消えたり、怪我をしてレスタなどを使っても治らなかった。
(あれが原因なんだね。あいつさえ何とか出来れば行ける!)
「あたいがあのローブを何とかするから援護頼むよ皆!」
フェリアーテはそれだけいうと一気に敵の方へ一人で突っ込んで行った。
「おいっ!無茶だ!!!」
後ろからラースの声が聞こえたが、フェリアーテは止まる事無く一気にローブへ向かっていく。近付いてくる他の敵を障害物を擦り抜けて行く様に避けていく。
「すげえっ!」
「流石姐さん、紅のフェリアーテだ!」
ハンターや、ラースの部下もフェリアーテの身のこなしに目を奪われていた。
「馬鹿野郎!見惚れてる暇があったら援護しろっ!」
(紅のフェリアーテ・・・着ているものは違うが身のこなし昔と変わらねえ、いや、益々磨きが掛かってる。)
怒鳴りながらも、ラースはフェリアーテを見て昔の姿とだぶらせていた。
そして、フェリアーテはついにローブ姿と一対一の状況になっていた。
「デゾリスの神官か・・・。わざわざご苦労な事だ。所詮ここで消える事になるがな。」
「後ろに居る奴は何者だい?」
フェリアーテは相手の言う事が終わると単刀直入に突っ込んだ。
「貴様には関係ない事だ。どうせ、ここで消えるのだからな。食らえっ!」
そう言うとローブ姿は真っ黒な杖を突き出して、黒い炎をフェリアーテ目掛けて放って来る。
「悪しきもの・・・聖なる炎で・・・浄化し給え・・・。」
目を閉じて言っているフェリアーテに当った筈の黒い炎はローブで弾け飛んで消えた。
「馬鹿なっ!?」
相手のローブ姿は驚く。それと同時に一気にフェリアーテの法力が上がって、ローブから白いオーラみたいなものが漂い始める。
(ここまでだな・・・。)
奥に居たものはそれを確認すると、その場から消えた。
「セイントファイヤー!!!」
フェリアーテがそう言って手をローブ姿にかざすと凄まじい白い炎が一瞬で相手を燃やし尽くしてしまう。更に消えない白い炎が周りにいたモンスターたちにも襲い掛かって全滅させた。
(へっ!?)
撃ったフェリアーテ自身驚いて手をかざしたまま固まっていた。勿論周りにいたラースを含めた全員も驚いてポカンとしていた。
「ファリアーテさん凄かったですよ。何か困ったことがあったらガンビアス大寺院に行きますね。」
「あ、ああ・・・。」
「流石姐さんだ。戻って来れないってのはちと辛いけど、あっし等は上手くやっていきますぜ。」
「ああ・・・。」
「さあ、行こうぜフェリアーテ。」
「ああ、分かった・・・。」
少しして皆から声を掛けられていたが、フェリアーテは自分のやった事が未だに信じられずに生返事だった。
落ち着けたのは、夜にラースの家に来た時だった。
ホログラフで見た通りの、可愛い奥さんと子供だった。夕飯をご馳走になって、子供達と遊んで寝た後に奥さんに外して貰って、ラースと二人で話をしていた。
「んで、これからどうするフェリー?」
「そうだね、やる事は終わったから、明日にでも帰るよ。エアポートで土産でも買ってね。」
「そうか。じゃあ、俺が送ってくよ。」
「良いのかい?奥さんや子供に悪くないかい?」
フェリアーテは気遣って聞く。
「いや、逆に送っていかなきゃ。皆に何言われるかわからんからな。」
少し笑いながらラースが言う。
「まあ、そういう事ならお言葉に甘えるよ。」
その後少しは無しをした後、ラースは立ち上がる。
「じゃあ、今日は本当にありがとうな。今夜はここを使ってくれ、それじゃおやすみ。」
「いや、あたいは自分に出来る事をやっただけだよ。じゃあ、お言葉に甘えるよ。おやすみ。」
ラースが出て行ってから、フェリアーテはシャワーを浴びてバスタオルで身体を拭いた後、そのままベッドに入り込んだ。
(やっぱ、こっちは暖かいから何も着なくて良いね・・・。ラジャ、あたいこんなに凄い力ついてたんだ・・・。だけど、もっとやばい連中が現れるって事だよね・・・。あいつみたいに・・・。)
フェリアーテは少し難しい顔をして考えていたが、いつの間にか眠りに落ちていた。