〜Before Story〜 PULEA(プレア)後編
一旦撃ち切ったプレアは、実弾系の爆発等で出来たもやが晴れるのを静かに待っていた。
もやが晴れると、無傷のマザーブレインが姿を見せる。
「む、無傷ぅ!?」
流石のプレアも驚いて動きが止まる。
〔プレア様、外見が変わっていないだけです。内部にダメージは行っている筈です。プレア様でもそれなりのダメージでしたら、今のもやが晴れる間に外装は回復し切れます。マザーブレインから衝撃波来ます!〕
((せやな!バリアフィールド展開衝撃に備えるでぇ。))
プレアはPULAの言葉に我に返って水色の綺麗なフィールドを発生させて防御体勢をとる。
ガガガガガガガガガッ
物凄い音と勢いで、バリアフィールドが削られる。
ゴギャギャギャン!!!
バリアフィールドはあっという間に消え去って、プレアは衝撃波でダメージを受けながら一気に吹き飛ばされた。
「ぐうぅっ!」
壁に叩きつけられた後も、暫く動けない状態で衝撃波が体中を通り抜けた。
衝撃波が過ぎた後、プレアは力無くズルズルと床に膝から崩れ落ちた。
((な、なんちゅう威力なんや・・・。PULA被害報告と同時にディメンションバスターロック解除、カウント入ってやぁ。))
プレアはヨロヨロと立ち上がりながらPULAへ指示を出した。
〔バリアフィールド消滅。システムは生きていますので出力は下がりますがまだ出せます。
内部ハードへのダメージ25%主要機能に支障無し。ソフトへのダメージゼロ。外装ダメージはカウント10で完全修復。リジェレネート機能異常なし。ディメンションバスター最終ロック解除、カウントダウン開始。1%出力で撃てる最速発射までカウント700です。何とかそれまで持ち堪えて下さい。〕
(このペースで食らい続けたら、700なんてとてももたへん、どないするぅ・・・。)
プレアはPULAからの報告を聞いて少し焦っていた。そんなプレアの視界に不思議なものが映った。
「ん?」
マザーブレインの体の一部で透明になっている部分の向こう側に、数人の人影が見えた。一瞬目を疑ったが、足音や胴体反応、熱センサーなどでデータを拾ったので向こうに見える人は存在する事が分かった。ただ、なぜ今まで分からなかったのだけがプレアには疑問だった。
((PULA。今うちが見とるお人達わかるなぁ?))
〔はい。ただ、我々はマザーブレインの強烈な干渉等によってまともに周りの様子が分かりません。ただ、プレア様ご自身に相手が近付いてくれている事によって分かったのだと思います。正直私からでもデータとして捉えられますが、プレア様のようにそこに何かが居るとは正直今でも認識できません。私達プログラムにはマザーブレインの向こう側には何も無いとしか分かりません。〕
プレアの問いに申し訳無さそうに答えるPULA。
(今こっちから撃ってしもうたら、向こうに当たりかねんわぁ。敵か味方かわからへん。せやけど、認識できない向こう側から数人だけや何ておかしい・・・。)
プレアは無意識に防御体勢をとりマザーブレインに向かって駆け出しながら、考えていた。段々と向こう側の様子が見えてくる。
(あれは!?ガイラに収容されとったうちの四人やんかぁ!)
向こう側で止まって立っているのは、先程のデータにあったユーシス、ルドガー・シュタイナー、アンヌ・サガ、カインズ・ジ・アンだった。
((間違いなくあっちもマザーブレインを止める為に来たんやわぁ。どういう構造になっとるかわからへんけど、今の状態でこっちからディメンションバスターは撃てへん。せめてあっちのお人達に背を向けて撃つ為に向こう側へ突っ込むでぇ。))
〔了解です。プレア様の両手の機能があれば可能だとは思いますが、我々プログラムはマザーブレインを通り抜ける際にどうなるか分かりません。その時はプレア様だけでもマザーブレインを破壊して下さい。〕
((大丈夫やわぁ。PULA達皆うちの可愛い子供みたいなもんやわぁ。うちが存在し続ける限り、幾らでもプログラムを復旧・再生したるさかい安心しいやぁ。ほな、行くでぇ。))
プレアが気合を入れると、再び先程まで大きくは無いが水色のフィールドが展開される。更に衝撃波を軽減する為に、飛行モードに移行する。一気に推進エンジンをふかしてマザーブレインの下腹部へ向かって突っ込んで行った。
〔マザーブレインから第二波来ます!〕
((バリアフィールド先端へ75%移行、残りを前から表面に向かって展開変更!))
全体を覆っていたバリアフィールドが移動して行き、前面が濃い青色になる。そして、体全体が薄いフィールドに覆われる格好になった。
衝撃波はさっきとは違いかなり一瞬で抜けて行った。ただ、装甲が薄くなっていたのでダメージはさっきよりも大きかった。
〔バリアフィールド消滅、機能低下次回使用時出力37%へ。ハードダメージ55%。破損により一部の変形機能、武装使用不能。ソフトダメージ30%。最上級プログラム「LUEA」消滅。これにより上級プログラム以下一部消滅。主動力機能には問題なし。〕
報告を聞いているプレアの体の一部からは火花が散り始めていた。
「よっしゃ、ダメージは貰うたけど、マザーブレインにへばりついたでぇ。一気に突き抜けるでぇ!」
プレアはそう言ってから、自分の両腕をマザーブレインに当てると、速度は遅いものの穴が開き始める。そして、ギリギリ第3波が来る前にマザーブレインの内部へ潜り込んだ。
プレアが内部に入ると、修復していく周りやコードが生き物のようになって襲われそうになるが、何故かプレアに触れる前に止まったり離れていく。一定距離を置いて着いてくる。振り向くと既に後ろは塞がっていて外から見るのとは違い着た方向にはメカの塊しかなかった。ただ、向こうから見ていた通り、なぜか行く先はプレアにくっきりと見えていた。
(これは・・・どういう事なんやろぉ?)
その様子をプレアは不思議そうに見ていた。
運の良い事に穴の開いていく速度と塞がっていく速度はほぼ同じだった。一定の空間内を焦れながらも歩いて確実に進んで行っていた。向こう側では、音や声は聞こえなかったがユーシス達が何をいっているのかは唇の動きを読んで何となく分かっていた。
(やっぱり、あのお人達は味方やわぁ。今の傷ついたうちがどこまでもつかわからへんけど、何としても一矢くらいは報いなあかん。さっきからPULAの応答が無いけど、しゃあないかぁ。カウントやリジェレネートは確実に進んどる。向こう側に出て何とか二発くらいは耐えられる。その間にディメンションバスターを一発でも良いから撃たな・・・。)
プレアは神妙な面持ちになって、正面の四人を見据えながら歩いていた。
いよいよ出口になりそうな所で、向こう側が戦闘に入った。
「あかん!急がなぁ。」
プレアは一気に最後の薄い壁に両手を押し付けて消した後、向こう側へ飛び出した。
その瞬間背中から、衝撃波が来る。
(しもたぁっ!)
気が付いた時には遅く、まともに背中から衝撃波を食らってしまった。思いっきり吹き飛ばされて、勢いで床を擦るように嫌な音を立てながら滑っていく。そして、最後には頭から壁に激突した。
ユーシス達は、食らって驚くと同時にプレアの存在にも驚いていた。
「敵のロボットがまだ居たのか!?」
「しかし、味方を吹き飛ばすか?」
ルドガーはユーシスの言葉を聞いて半信半疑ながらも答えの出ない問いを出した。
「三人はマザーブレインをやってくれ。俺はあのロボットを片付けたらすぐに合流する。」
「気を付けてくださいね。」
カインズはそう言いながら、離れていく。アンヌの言葉には振り向かずに軽く手を上げていた。
「く・・・ぅ・・・。」
プレアのあちこちの関節部分から火花が出ていて体が動かなかった。
(何とかならんのかぁ!)
〔プレア様。ハードダメージが80%を突破してまともに動けません。ソフトも私と私以下のプログラムしか残っていません。ディメンションバスターは撃てるのですが、エネルギー供給の道筋の途中が破損していて発射できません。リジェレネート機能が微弱に働いているのとバリアフィールドは完全に使える状態ですが、もう一回衝撃波を食らったら・・・間違いなく大破します・・・。〕
プレアの悲痛な叫びに、PULAが絶望的ともいえる報告を出す。
「何だ?このロボット動けねえのか?」
カインズは恐る恐るプレアを覗き込みながら言った。
「カインズ・・・はん。」
「どわぁっ!?な、何で俺の名前を知ってるんだ!?」
プレアが弱々しく呼びかけると、カインズは驚いて後ずさる。
「うちは・・・マザーブレインを・・・破壊する為に・・・極秘に作られた・・・ロボットの・・・プレア。」
「何だって!?」
カインズは信じられないと言う表情でプレアを見た。
「きっと・・・皆はんも・・・同じ目的・・・。せめて・・・うちに・・・一矢だけでも・・・。」
「俺は・・・壊す事は出来ても、直す事なんて出来ねえぞ?」
「かまへん・・・どうせ・・・うちは・・・後・・・一発でも・・・貰えば・・・壊れる身体・・・。」
「どうすれば良い?」
カインズは真剣な表情になってから、しゃがみ込んでプレアに聞く。
「うちの・・・右腕を・・・切り落として・・・。そこから見える・・・背中のパーツを壊したってぇ。」
「良いんだな?」
人に近い形をしたプレアを見て、確認するように聞き返す。
「うちはもう・・・まともに動けへん。うちの・・・武装でまともに効くのは・・・多分一つしかあらへん。それを・・・動かす為ですわぁ。」
「分かった。」
カインズは持っているレーザーナイフで一気に右腕を切り落とした。
「うぐぅっ・・・。」
「わ、悪い・・・痛かったのか?」
声を上げるプレアに驚いて申し訳無さそうに言うカインズ。
「かましまへんわぁ。気にせんで、早う、背中のパーツ壊したってぇ。」
「どりゃぁっ!」
銃口を押し付けて、カインズは背中にあるパーツに打ち込んだ。鈍い音がすると、ガランッという音がして、プレアの身体からパーツが落ちる。
〔プレア様、メイン動力復帰。リジェレネートシステム80%まで回復。切れていたディメンションバスターのエネルギーも供給されています。ディメンションバスターを出す時間さえあればいつでも撃てます!〕
「カインズはんおおきにぃ。これでもう少しだけ動けますわぁ。」
少し興奮気味に伝えてくるPULAの言葉に少し微笑みながらカインズに言った。
「そうか。俺みたいな壊し屋でも役に立つんだな。」
「はいなぁ。とりあえず、何とか後一発だけでもあの衝撃波が何とか出来れば、チャージして武器がまともに撃てる。カインズはん、他の皆はんと合流しまひょ。」
そう言ってからプレアは立ち上がって、残った左手をカインズに差し出した。
「ああ、行こうぜプレア!」
カインズはその手を取って一緒に走り出した。
((PULAディメンションバスターをうちの右腕後に出しながらチャージ開始。次の衝撃波は何としてもバリアフィールド機能を失ってもええから、耐えるんやぁ。))
〔了解しました。ディメンションバスターの準備とエネルギー供給をしつつ、次の衝撃波に備えます。〕
そのPULAの答えが終わると、プレアの右腕からどんどんと大きな物体が出始める。
「待たせたなユーシス。俺も参加するぜ。後は、ここでの新しい仲間のプレアだ。何でも極秘にマザーブレインを破壊する為に作られたロボットだそうだ。」
「そ、そうか。よろしく。」
ユーシスは大きなプレアに少し驚きながら挨拶して、すぐにマザーブレインに向き直った。
「さっきまでと違って凄い変わり様だな。」
ルドガーは横目でチラッと見て呟く。
「あの、レスタ使いましょうか?」
火花の散っているプレアを見て、心配そうにアンヌは聞いた。
「うちはロボットやさかい、多分テクニックの類は効かへん。他の三人に力を貸したってぇ。」
「はい。プレアさんもご無理をなさらないように。」
プレアの言葉にアンヌはそう言ってから、向き直る。
「ガラクタ一体が増えた所で、何も変わりはしない。消えるが良い!」
マザーブレインはそう言うと、四本の腕を突き出して衝撃波を放ってくる。
「デバンド!」
「バリアフィールド!」
アンヌとプレアが同時に言ってテクニックとバリアフィールドが融合するように発動する。
(なんや?この暖かな感触は!?)
プレアは不思議に思うと、衝撃波が来て両方が消える感じになるが殆どダメージを受けておらずにまだ動けた。
〔バリアフィールド消滅。バリアフィールド機能完全停止。以降バリアフィールド使用不能。〕
((耐えただけでも十分やわぁ。PULAチャージは何%やぁ?))
〔40%ですが・・・。〕
((ですがなんやぁ。))
煮え切らない答えを返してくるPULAに間髪居れず突っ込む。
〔プレア様が体は覚悟の上なら、ギリギリまで衝撃波を引きつける時間と、出力を集中させる事で52%まで上げられます。〕
((どうせ、このまましとっても流石に次は耐えられへん。なら、覚悟の上でやったろうやないかぁ。))
〔プレア様・・・。〕
((例えうちが壊れたとしても、ここにおる皆はんが何とかしてくれるわぁ。うちに今出来る事をするだけや・・・。無駄な動力は全部落として、全てディメンションバスターに回すんや。うちは照準だけ合わせる、PULAは制御を頼むわぁ。))
〔了解しました。〕
内部でのやり取りを済ませると、プレアは上を向いてマザーブレインの頭部を見て、そこに照準を合わせる。右目の瞳に十字の照準が現れ固定される。それと同時にプレアの右腕跡から出ているディメンションバスターの巨大な銃身も腕の方へ向けて動いていく。
その間にも、ユーシス達はマザーブレインに攻撃をしていた。
(流石は歴戦の勇者達やな。)
プレアは照準の合っていない左目でチラッと四人を見て、その頼もしさに少し微笑んだ。その後、キッとした顔つきになって再びマザーブレインを睨むように見上げた。
〔チャージ・・・49・・・50・・・51・・・。〕
ゆっくりと確実にPULAから聞こえてくる言葉に、プレアは耳を傾けていた。
((PULA短い間やったけど、よう働いてくれたなぁ。))
〔いえ、当然の事です。プレア様のお役に立てて嬉しかったです。〕
プレアの言葉に、少し照れ臭い感じでPULAは答えた。
〔衝撃波来ますっ!〕
「皆はん伏せたってぇ!!!いっけぇぇええっ!!!!ディメンションバスタァアアアアーーーーーーー!!!!!!!!」
プレアが叫ぶと、一気に銃口に水色の光が収束して、細く青い線が一瞬でマザーブレインの頭を貫いた。コンマ数秒遅れてその細く青い線の半径2mくらいを巻き込んで轟音と共に凄まじい衝撃波が飛んでいく。
その衝撃波がマザーブレインの衝撃波を吸い込むように一気にプレアを襲う。
〔プレア様、マザーブレインの奥に多数の生命反応が・・・。〕
((まさか・・・。))
ディメンションバスターを中心にしてプレアの身体全体がひしゃげて大破した。
その瞬間、プレアの視界は真っ白になりメモリーがとんだ・・・。
ユーシスとカインズは伏せて何とか逃れたが、
「きゃあっ!?」
アンヌが衝撃で吹き飛ばされる。壁にぶつかる直前でルドガーになんとか抱え込まれて助かった。
「大丈夫かアンヌ?」
「は、はい。なんとか。凄いですけれど・・・綺麗・・・。」
マザーブレインの頭部を貫いたディメンションバスターは宇宙船の壁もろとも吹き飛ばし、宇宙空間にまで出ていた。宇宙に出るとディメンションバスターの粒子が散らばって大きな青い帯のようになる。
アンヌはルドガーに答えながらも思わずそれを見上げていた。
「見ろよあれ!」
空を見上げて興奮気味に言うミール。変に興奮して言うミールが気になって、エアカーを止めてアイリーは指差す空を見上げた。
「ん?青い帯・・・あれは・・・ディメンションバスター・・・。」
アイリーは視界に青空よりも濃い青を見つけて呟くように言った。
「マザーブレインと対峙したって事かな?」
「恐らくそうだろうな。あれを貰ったら上手く行けば破壊、そうでなくてもかなりのダメージを与えただろう。プリー博士、見ていますか。貴方と私達の想いを載せて作ったプレアが・・・。」
ミールの言葉に答えるように言いながら、アイリーは涙を流していた。
「プリー博士は間違いなく見ているさ。後少しだ急ごう。」
ミールも涙ぐみながら、アイリーを促す。
「ああ、そうだな。」
アイリーは涙を拭ってから、再びエアカーを発進させた。
その光を研究所後の地下にいた故郷を失ったヴァイラス博士やゼラムも万感の思いで見ていた。
プレアの吹き飛ばされた残骸が残る中、ユーシス達はついにマザーブレインを破壊する事に成功した。だが、それで全てが終わったわけではなかった・・・。
そして、ユーシス達が新たな展開を迎えている中、プレアの残骸は消えていくダークファルスと共に異空間へと飲み込まれて消えて行った。
それからどれだけの時間が流れたのだろう・・・
「ん?何だこりゃ?」
メビウスは遺跡の片隅で周囲の不気味な場に似合わず、鈍かったが青く輝くロボットの残骸を見つけた。