〜Before Story〜 MEBIUSU(メビウス)完結編


人類最後のレストナールの三人の青い聖騎士が率いる青騎士軍とキルリアとラーティス率いる黒騎士軍がデーモンキャッスルに到着しようとしていた。
「ランサー、セラとメビウスは頼んだぞ。私はキルリア様のサポートに徹する。」
真剣な顔でラーティスは言った。
「分かった。間違いなく向こうは罠を仕掛けている。バラバラになるかもしれない。その時でもし、キルリアと別れる事になったら他の二人の事は頼む。もし、私がキルリアと二人になったらラーティス程は出来ないだろうが全力を尽くしてサポートする。」
「その時は不満はあるが、サポートしよう。」
「ありがとう。」
ランサーは爽やかに笑ってお礼を言った。それを聞いた後、ラーティスはランサーから離れて、キルリアの元へと戻って行った。


「ふふ・・・。いよいよ来るわね。」
そう言ってから相手の軍勢を見て、リィナは目を細めながら不敵に笑った。
「リィナ様、準備は万端です。」
リプラスはリィナの前に片膝をつきながら報告した。
「ご苦労様。流石はリプラスね。見事な事前準備ね。戦いが始まればこの中は乱戦になるのは間違いないわ。貴方が自分で判断して支持が必要な所へ行って指揮を取って頂戴。それが私としての貴方への指示よ。」
「はっ!かしこまりました。微力ながら全力を尽くします。」
「私はランサーを相手するわ。チューリッヒは希望通りセラの相手を。マイラ様にはキルリアに当たって頂く。責任を取ってハーネスはメビウスを相手する。残ったラーティスには遊んでおいて貰う。最後の戦いだ、後は任せたわよ。また私達を勝利に導いて頂戴。」
リィナは最後に優しく微笑んだ。顔を上げて言葉を発しそうになっていたリプラスは思わずドキッとして赤面して黙ってしまった。その様子を見て、少し微笑むとリィナはその場から消えた。
リプラスは一旦目を閉じて自分を落ち着かせた。
(マイラ様、リィナ様の期待に応えなくては!)
キッとした顔つきになってリプラスもその場から手レポートして消えた。

マイラはデーモンキャッスルの最上階から、人間の軍勢を見下ろしていた。
「リィナ、彼らを迎え入れろ。」
「はっ。」
リィナは返事をしてから立ち上がった。それと同時に、デーモンキャッスルの城門がゆっくりと開いていく。既に城の中では迎え撃つ準備がされていた。
「恐れるな!俺に続け!突撃――!」
メビウスはグレートソードを抜いて先頭を切ってデーモンキャッスルに突入した。それに続いて青いタワーシールドを構えた部隊が突入した。凄まじい数の矢や魔法が飛んでくる。メビウスはそれにももろともせずに一気にその場で一閃して大きなワイドカッターを飛ばす。城の一角が崩れてそちらからの攻撃が弱くなる。
「あそこから城内に突入!突入部隊は私に続け!」
後ろからキルリアの声と共にラーティスと黒騎士軍団が一気に城内へ向かって進み始める。それを守るように青い壁が出来ていく。
「後は私に任せて突入してくれ。」
「オッケー!」
ランサーに声を掛けられ、メビウスもキルリアとラーティスに続いて城内へと突入する。
「ランサー、外は頼んだ!」
「片がついたら後を追う。セラも気をつけて。」
更にセラも城内へと突入して行った。すると、どういう訳か突然攻撃が止む。
(どう言う事だ?)
ランサーは訝しげな顔になる。
「ランサー・・・。貴方への直接の招待状は送ったわ。さあ、決着を着けましょう。」
「リィナか・・・。私だけをここに残したのも、四人を先に行かせたのも作戦だったか・・・。」」
「気が付くのが遅かったようね。ふふ・・・。」
リィナが笑うと城外の景色が歪んで変わっていく。
「貴方以外は全て先に死ぬわ。貴方が折角育てた軍師の卵も、可愛い部下達もね。」
妖しく微笑むと、周りに居るランサー以外の皆が苦しみ始める。
「ランサー様・・・。どうか・・・。」
隣に居たアイはそれだけ言うと吐血して倒れる。他の屈強な騎士達も次々と倒れて行った。ランサーはそれを見て、改めてリィナを睨みつけた。


先に城内に突入していたキルリアとラーティスは大廊下の前方に気配を感じて走るのを止めた。
「そなたがキルリアか。私はこのデーモンキャッスルの主であり悪魔を束ねているマイラという。そなたと一騎打ちをしたいのだが受けてくれるか?」
静かな口調だったが凄まじい殺気と威圧感が感じられていた。キルリアとラーティスの後ろに居る黒騎士達でも、気圧されて二、三歩後ずさった。
「御大将自らお出ましとはな。ラーティス、メビウスとセラの面倒を見てやれ。」
「しかし・・・。」
「俺で倒せぬのなら、セラかメビウスでなければ相手すら出来ん。分かるな?」
「は・・・い・・・。」
キルリアの言葉にラーティスは悔しそうに返事をする。
「ここで俺が勝てばそれで良し、俺が負けてもまだ希望はある。敵の大将から一騎打ちを挑まれて断る理由はあるまい?」
「かしこまりました。ご武運を。また後程。」
それだけ言うとラーティスはキルリアに背を向け、来た道を走り出した。黒騎士達もラーティスに続いた。
「ふっ・・・。ラーティス、すぐ後か、来世でな・・・。」
キルリアはそう呟いてからマイラの方を見据えた。
「キルリアよ。一騎打ち受けてくれるのを嬉しく思うぞ。いざ、邪魔の入らぬ場所へ。」
マイラは嬉しそうに笑ってからそう言った。そして、その場からキルリアと共に消えた。

「ん?」
メビウスはふと足を止めた。
「ちっ、しゃあねえな。おい!てめえら等、すぐに後退してセラの指揮下に入れ。その後戻ってくるラーティスと一緒に城内を押さえろ。」
突然のメビウスの言葉に周囲に居た青騎士達は戸惑う。
「わりい。俺は多分こっから消えちまう。だから・・・。」
そこまでメビウスが言っていると突然メビウスがその場から消えた。突然の事に驚いた青騎士達だったが、メビウスの言葉を聞いていたのですぐに引き返してセラの元へと向かった。

(メビウスは引き離されたか・・・。)
少し苦い顔をしてラーティスは全力で戻って来ていた。
「陣を突撃型にしつつ、全力でセラの援護に向かう。万が一私の指揮が届かなくなった際にはセラの指示に従え。」

その頃セラは、先行組をやり過ごしていたチューリッヒの軍と激突していた。
「体勢を立て直して防護陣形に。」
セラの指示で一旦待ち伏せにあって混乱していた青騎士達を集めて入り口際に少し下がった。
「ふむ、敵ながら見事なものよ。」
チューリッヒは見事な指揮を見て感心していた。
「チューリッヒ様。奥から青騎士が来ております。」
「うむ、分かっておる。そちらは他の方に任せよう。我々はセラに全力で当たる。」
消えたメビウスの配下だった青騎士達は途中で他の悪魔達の妨害を受けていた。指揮官の居ない状態で次々と撃破されて行っていた。そこへ、キルリアたちが到着していた。
「セラの元へ一刻も早く到着するぞ。こんな連中に戸惑う必要はない!お前達も行け!」
悪魔軍へ無傷の黒騎士達と、残った青騎士、そして、味方にしていた悪魔が指揮官のラーティスを得て凄まじい勢いで襲い掛かった。悪魔軍はひとたまりもなく消えていった。
「チューリッヒ様、奥からラーティスの率いる混合軍が迫って来ております。」
流石に焦った口調で部下は報告した。
「そうか、流石にリィナが一番警戒していたものよ。よし、我々はセラと正面からぶつかるぞ!陣形を整えておけ。」
そして、次々とチューリッヒの軍勢が消えていく。それと同時に、セラの軍勢も次々と消えて行っていた。

ラーティスが到着した時には、セラの軍勢は全てその場から消えていた。
「遅かったか・・・。」
悔しさで唇を噛んで、城内の壁を叩いた。
「城内の探索に移る。残っている悪魔軍を全て蹴散らし、皆が戻ってくる場所を確保する。」
ラーティスは残った軍勢を引き連れて城内の探索を始めた。


「何故まだ動ける?あれだけの魔法を食らっているというのに!?」
離れていた場所から驚愕の表情でハーネスは言った。離れた場所からの連続した魔法攻撃にも全く怯まずにメビウスは確実に悪魔を倒して行っていた。三人の青い聖騎士の中でも天空の騎士と言われたメビウスは縦横無尽に空間を飛び回っていた。
(ちっ!早く戻らねえとやべえかもしれねえ。)
メビウスは確実に悪魔の数を減らしていたが、不安にかられていた。
「しかし、メビウス・・・。お前の運命も後少しで終わる・・・。くっくっく。」
ハーネスは不気味に笑って天を見上げていた。
「!?」
異変に気が付いたメビウスはその場から離れようとしたが、動けなかった。
「ちっ!結界か!」
一気にメビウスの周囲に闇が収束してメビウスは動けなくなった。更に、鎧の隙間から中に入り込んでくる異物感があった。それが肌に触れると体の内側に向かって刃物のようになって無数に刺さり始めた。
「ぐっ!」
メビウスは痛みに耐えながらも何とか脱出しようと試みたが全く動けない。
「残念だったなメビウス。お前は殺しはせん。異空間で生き続けて貰う。勿論、半分死んだ状態でな。死んで転生などさせん。」
ハーネスは動けないメビウスの前に現れて言った。
「もう少し弱ってもらってからそこへ行って貰う。メタリックチェイサー!」
そう言うと金属の塊が現れる。
「少し離れておれ。これで弱らせたらお前の出番だ。」
「はい。」
そう言うと、ハーネスとメタリックチェイサーは動けないメビウスから距離を置く。
メビウスを中心に、10ヶ所から一気に魔法陣が現れ魔法が発動し、メビウスの所で収束して発動した。凄まじい閃光の後爆発音が響いた。更に衝撃やらでもやっていたが、暫くするともやが晴れた。そこには、魔法の相互干渉によって出来た次元の歪みが出来ていてメビウスはそこにはいなかった。
「しまった!メタリックチェイサーよメビウスを追え。そして、必ずや奴を次元の狭間へ。」
「かしこまりました。」
メタリックチェイサーはそう言うと時限の歪みへと飛び込んで消えた。
「リプラス!リプラスは居るか?」
「はっ、ここに。」
リプラスはかしこまってハーネスの前に現れた。
「リプラスよ、もうすぐ次元の歪みが閉じる。先に言ったメタリックチェイサーがメビウスを始末できるかどうかを見届けろ。もし、メタリックチェイサーが駄目ならお前が止めを刺せ。良いな。」
「かしこまり・・・ました・・・。」
「ハーネス様、御言葉ながら・・・。リプラス様はまだ魔皇にはなられておりません。あちらへ行ってしまったら戻って来れません。」
リプラスとハーネスの間にリプラスの部下が割って入って言った。
「直、魔皇になれるだけの実力を持っている。大丈夫だ。早くしないと閉じてしまう。行けリプラス。サーラルの仇を討って来い。」
「はっ。」
「リプラス様っ!」
「お前はもう良い。後は任せた。」
すがる部下の肩軽く叩いてを静かに言ってから、リプラスは無くなりそうな歪みに飛び込んでいった。リプラスが消えると歪みが消えた。


リプラスはパイオニア2の軍部に出ていた。いきなり囲まれていたが、不敵に笑うと、周囲に黒い雷が帯電し始めた。軍人がフォトンの銃を撃つが、雷に弾かれ全く聞いていない。
「お前等、メビウスという奴を知らないか?」
リプラスの問いに誰も答えず再び打って来たのでリプラスは帯電していた雷を一気に放出した。周りにいた軍人は全て一瞬で消し炭と化していた。
「くっ・・・何処だ・・・・ここは・・・。」
メビウスは木に寄りかかりながら呟いた。
「ちっ、流石にあんだけ食らったから効いたぜ・・・。」(
とりあえず、人の気配はしねえが、追っ手が来る可能性が高いな・・・。とりあえず、ここを離れるか。)
そう思って立ち上がろうとしたが足に力が入らない。
(マジでやべえな・・・。)
杖代わりにしようと思ったいつものグレートソードがない。それだけではなかった、いつものあの青い鎧も無かった。
(装備もねえのか・・・。くそっ・・・皆は大丈夫なのか・・・。)
メビウスはそう思いながらも、這ってあても無く動き出した。暫くすると、段々と意識が薄れてきた。
(ここまで・・・か。セラ・・・ランサー・・・・すまねえ・・・。)
メビウスはそう思った瞬間意識を失った。木々の間からの優しい日差しがメビウスや周りを照らしていた。

少し離れた場所にメタリックチェイサーは出ていた。
「メビウスを探さねば・・・。そう遠くには行っていない筈・・・。」
辺りを見渡してメタリックチェイサーは捜索を始めた。

チャオはそんな頃、猫八で買って来た魚のフライをお弁当にして、ラグオルへの転送装置で森へ降りようとしていた。