〜Before Story〜 MEBIUSU(メビウス)後編


「良い面構えしてるぜ。」
メビウスは嬉しそうに言った。
「ふふ、人間最強と言われるお前を相手出来る事が嬉しいぞ。」
サーラルは巨大な矛を振り回しながらそれに答えるように言う。
「行くぜっ!」
「うおりゃぁーーー!」
両者は中央で真っ向から激突した。凄まじい衝撃に周りの空気が震え、地面が少し陥没した。
「す、凄い・・・。」
幾多の戦いを見てきたリプラスだったが双方の最初の激突を見て、思わず言わずには居られなかった。
グレートソードのメビウスと巨大な矛のサーラルは双方の刃が動かない。
(人間だというのに俺の一撃を平気に受け止めた。ふふふ、こうでなくては面白くない。)
サーラルは不敵に笑いながらその腕に力を込めた。今度は力比べになった。
「通りで神軍の奴等もやられる訳だぜ。だが、それだけじゃあ俺を一騎打ちじゃ倒せねえぜ。」
メビウスはそう言うと、一気にサーラルを押し返す。
「何っ!?」
それを見ていたリプラスは目を疑った。
(サーラル様を力で押しているだと!?)
サーラルはバランスを崩す前にその場から飛び離れた。
「ふふふ、色々と言っていた意味が分かってきた。お前のような奴がまだ5人残って居る事が脅威だという事が・・・。」
少し焦りの色を見せて呟く。
「何言ってやがる。俺なんぞ他の四人に比べりゃ雑魚みたいなもんよ。他の四人は俺なんかよりよっぽど強いぜ。ったくよ、後100年も待てば俺らも死んで居なくなるってのにそっちのお偉いさんも事を急くんだな。」
「俺は一人の戦士だからなそんなのは知らん。」
「それもそうだ。俺等はそういう性分だからなくだらねえ事言っちまって悪かったな。おっしゃ、仕切り直しだ!」
「おおっ!」
それから、その場所では凄まじい一騎打ちが繰り広げられ始めた。本来指示を出すはずのリプラスもその凄さに思わず見入ってしまっていた。


「リィナ様。リプラス殿からの指示が止まりました。こちらで自由に動いても良いと思われます。」
「敵ながらにランサーと言う男もかなりの知恵者。もう少し様子を見て引くぞ。陽動もそろそろばれるだろう。何も相手のフィールドで戦う必要もない。正反対にはそう伝えてくれ。」
「はっ!」
遠くから戦況を見つめるリィナは側近の一人に言った。
「リプラスは消えては居ない・・・。戦いの場に飲まれたか。あれだけのものを引き入れるとは・・・。見てみたいがそうもいってられんか。それにしても・・・、色男ってのには力はあっちゃいけないだろうに、ねえ?」
少し妖しく笑いながらリィナは誰に言うでもなく呟いた。

ほぼ最前線で指示を出しながら戦っていたランサーは、悪魔軍の攻めの中途半端さを感じていた。
(こちらは陽動か・・・。相手は智将のリィナ。こんなものでは無いはず。本当の狙いはセラ側か、メビウス側か・・・。)
「西門は私が引き受ける、残りは南と東へ援護に。こちらは陽動だ。」
「はっ!」
ランサーがそう言うと一気に門まで兵が綺麗に引き西門が閉じられた。
「さあ、どう出る?私を潰すチャンスだぞリィナ。」
遠くに居るリィナを見るようにランサーはたった一人で西門の近くに立っていた。

「リィナ様!」
リィナの側近はランサーの行動に思わず叫んだ。
「騒ぐな・・・。陽動は読まれたのだ。それに、言ったであろう。相手のフィールドで戦う必要はない。一人といえども十輝星。それに、まだ策があるとも限らん。デーモンキャッスルでこちらの好きにさせて貰うさ。」
「はっ・・・。」
悔しそうな顔をする側近を見て軽く肩を叩く。
「悔しいのは私も一緒だ。馬鹿にされていることには変わらないのでな。花でも送ってやるか。受け取れランサー・・・。死の花をな・・・。」
そう言うとリィナは呪文を唱え始める。それを見て側近は冷や汗を垂らして一歩下がった。呪文が完成するとリィナの手に黒いバラが一輪現れる。
「デーモンキャッスルで待つ・・。」
そう呟いて黒いバラにキスするとそれを軽くその場で放った。
「さあ、我が軍は撤退だ。」
「はっ!」
リィナの声で西門を攻めていた悪魔軍は一気に消え去った。

(ん、何か来る!)
ランサーが飛びのくとそこには黒いバラが一輪刺さっていた。
「デーモンキャッスルで待つ・・。」
リィナの声がすると黒いバラはその場で散った。
「リィナ・・・。」
ランサーは消えていった悪魔群の方を見ながら呟いた。


「リィナ様が撤退なさいました。」
「分かっている。陽動で無ければ決着を着けたかったが・・・。」
悔しそうにチューリッヒは言う。
「チューリッヒ様、デーモンキャッスルで決着を着けましょう。どうか、撤退のご命令を。」
「・・・。」
側近に言われて思わず黙り込む。
「デーモンキャッスルに撤退!」
チューリッヒの言葉に側近はホッとしていた。
「まだ、サーラルも、リプラスも居るといというのに・・・。」
唇をかみ締めながらもチューリッヒは側近に抱えられその場から消えていった。

「セラ様、残るは南だけです。ランサー様からの援軍も着ております。南を退けましょう。」
「そうだな、全軍東門を閉じて南門へ。」
セラの指示でランサー以外の全軍が南門の前に集結しようとしていた。
「さーて、そろそろ皆来るぜ。」
メビウスはそう言って一旦離れる。
「ふふふ、ならばけりをつけるぞ!!」
そうサーラルが言うと、矛から文字が浮び始める。
「俺は真っ向勝負だぜっ!」
メビウスはそのまま一気に突っ込む。
「食らえメビウス!」
サーラルが一気に矛を振るうと、文字が実体化して次々とメビウスに襲い掛かる。メビウスはグレートソードで切り払えれるのだけ払って、後はあえて鎧で受け切った。無数の数の文字が語っていたが、メビウスの突進のスピードは全く衰えていなかった。
「でりゃあぁーーーー!!!」
メビウスはサーラルの目の前で大きく力一杯一戦した。サーラルは矛で一旦は受け止めたが、刃が文字もろとも砕け散った。
「ば、馬鹿なっ!?」
そして、蒼い軌跡が残ってサーラルは消え去った。
「ふう・・・。ぺっ。」
メビウスはフルフェイスのヘルメットを開けて軽く血を吐いた。
「さーて、後残るはてめえだけだな。」
メビウスはリプラスを見据えた。リプラスは目の前でサーラルが倒されたとはいえ怖気付いてはいなかった。むしろ仇を打つ気で気分は高揚していた。
「サーラル様の仇・・・。」
リプラスは体中に黒い雷をまとい始めた。しかし、その目の前に急に数体の悪魔が現れた。
「リプラス様、作戦は失敗です。どうかお戻りを。」
「うるさいっ!このままおめおめと戻れるかっ!」
側近の言葉にリプラスは激高する。
「サーラル様を一閃で葬った相手にまともにぶつかっても勝てません!」
メビウスはやれやれと言う感じで最初は構えていたグレートソードを一旦下ろす。
「おいおい、てめえ等。言い合ってるのは構わねえんだかえどよ。もう少ししたらセラ達が押し寄せてくっぞ。」
その言葉を聞いて、側近達は青くなって黙る。
「リプラスとか言ったな。良い部下もってんじゃねんか。俺はサーラスと一騎打ちしただけだ。けりは付いた。ほかに用が無いならとっとと帰れ。俺を憎もうが何しようが構わねえさ。どうせ、デーモンキャッスルでまた顔をあわせる事になる。そん時に改めてけりをつけようや。」
「くうっ!」
リプラスは悔しい顔をしてメビウスを睨む。
「サーラルの首とてめえの部下に免じててめえを見逃してやるって言ってんだよ!さっさと行きやがれ!」
「なっ!?」
その後言葉を続けようとしたリプラスだったが、その瞬間にメビウスの後方の南門が開いたのを見て、側近が複数で無理矢理押さえ込んでテレポートしていった。
「メビウス!大丈夫か。」
「おう、サーラルは討ち取ったぜ」
後ろからセラの声がして振り返ってメビウスは軽く手を上げた。


・・・デーモンキャッスル・・・
「大変申し訳ございません・・・。」
不機嫌なチューリッヒとリィナに挟まれた状態のハーネスはマイラに頭を下げていた。
「サーラルを失い、神軍を打ち破った功労者のリプラスをも危険にさらしておいて何たる様だ・・・。」
マイラの突き刺さるような視線はハーネスを恐怖に陥れていた。
「大体ねえ、陽動作戦をチューリッヒに頼む事もおかしいのよ。私は良いとしても、あの時点だったら一気に攻勢に出ればメビウスは駄目だったとしてもせめて他の一人は何とか出来たかもしれないのに・・・。」
リィナはちくりと刺すように言った。
「マイラ様の御前ながら、敵ながらセラとはなかなかの者と見受けました。あのまま最後まで戦い尽くしても良いと思いました。」
チューリッヒは正直に片膝をつきながら言った。
「終わった事をこれ以上咎めても言ってもサーラルが戻って来る訳ではない。ここでの指揮はリィナに任せる。不服は無いなハーネス?」
「はっ!」
頭を上げることすら出来ない状態のハーネスは恐縮して答えた。
「マイラ様、宜しければリプラスを協力させたいのですが宜しいですか?サーラルの事についてもかなり責任を感じているようですし、彼の知は悪魔軍にとっては無くてはならぬものですから。」
「という事だが、どうだハーネス?」
「はい、どうかお役立て下さい。」
「許可が出たので良かろう。それと、少しリプラスと話がしたい。皆の者下がれ。」
「はっ!」
リィナ、チューリッヒも一緒に三体で頭を垂れてから、マイラの部屋を後にした。

「マイラ様が私にですか!?」
リプラスはきょとんとした顔になって聞き返していた。
「そうだ、すぐに行け」
「は、はい。」
ブスッとしていたハーネスの態度よりも、何故自分が呼ばれたのか分からずに少し動揺しながら返事をして緊張しながらマイラの部屋へと向かった。
「失礼致します。」
「着たか、入れ。」
リプラスは恐る恐る中へと入った。
「今回は大変だったな。」
「いえ、私の不始末です・・・。サーラル様を失ってしまいました・・・。」
リプラスはその場でメビウスの事を思い出して歯を食いしばりながら言っていた。
「今回の出陣はお前の本心だったのか?」
「えっ!?あ・・・。」
思わず本音を良いそうになって言いよどんだ。
「ふっ、違うようだな。ならば安心した。」
「ええっ!?」
思わずリプラスはマイラの意外な言葉に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「次は5人が一丸となってここへ来る。リィナと共に迎え撃つ策を練ろ。そこでサーラルの無念も晴らせ。良いな?」
「恐れ多く、そして勿体無いお言葉です。我が名に恥じぬよう、悪魔軍として恥じぬよう最善を尽くします。」
しっかりとマイラを見てから深々と頭を下げた。
「早く、魔皇になれ。そしてリィナと同じく私の知恵となれ。待っているぞ。」
「はっ!」
リプラスは頭を下げたまま返事をした。
「さあ、リィナの所へ行け。きっと待っている。」
「はっ、それでは失礼致します。」
マイラの言葉にリプラスは足早に部屋を出て行った。
「狸の部下にしておくには勿体無い・・・。」
少し笑いながらマイラは呟いた。


そんな頃、レストナール城に、キルリアとラーティスの黒騎士軍が到着しようとしていた。