〜Before Story〜 MEBIUSU(メビウス)中編


ハーネスはリプラスが見てもあからさまに焦っている様子が分かるほどにうろたえていた。

(何で俺がこんな奴の・・・。)
リプラスは言いたかったが情けないこの上司に怒りを覚えていた。
「残った十輝星の始末の事だ。」
「各個撃破は現時点では無理かと。こちらに来るまで、もしくはここで各個撃破を狙うが良いかと。噂ではラーティスに取り込まれたものもいるらしいですし。」
「出来ればここは戦場にはしたくない・・・。次の報告は誰かを片付けると言った手前マイラ様に申し訳がたたん。」
(こいつは・・・。)
リプラスは腹が立って仕方なかったがじっと堪えて聞いていた。
「二時間で何か策を考えて来い。そして、必要ならばお前が行くのだ。良いな?」
「かしこまりました。」
リプラスはすぐにでもここにから去りたい思い、言い終わるとテレポートして自室に戻った。

「リプラス様、お戻りになってからご機嫌斜めですわね。」
「どうせ無茶な事でも言われたんだろ。」
「ハーネスの下についちまったのが運の尽きだったのかも。」
リプラスの側近達は戻ってきてから自室に閉じこもっているリプラスの事を案じながら話し合っていた。戻ってきてから1時間が経ち、リプラスが自室から出てきた。
「皆、集まってくれ。これから、重要な事を話す。」
いつに無く真剣な表情をしながら言うリプラスに側近達は緊張した。
「ハーネス様より十輝星の残った5人のうちの誰でも良いから片付ける為の策を出せと言われた。猶予は2時間。俺なりに1時間考えたが正直今の現状で策は無い。本来の俺の考えは、ここに来た時にバラバラにして各個撃破をするのが良いと言ったのだが、聞いてはくれなかった。何か良い策があれば言ってくれ。」
「リプラス様、策が出せなかった際にはどうなるのでしょう?」
側近の一人が聞いた。
「俺に行けと言うだろうな。誰かを片付けるまでは戻ってくるなとでもいうおまけつきだろうな。」
リプラスは吐き捨てるように答えた。皆はその言葉に黙り込むしかなかった。しばらくの沈黙が流れて一人の側近が口を開いた。
「ハーネス様は総司令官です。魔皇の方も動かせるはずです。血気盛んな方もいらっしゃいますから、リプラス様はその方の部下の一人として行くのが宜しいかと。」
「魔皇の誰を動かす?」
「サーラル様が宜しいかと。」
「そうだな。あのお方ならやってくれそうだ。」
リプラスは納得したように頷いた。
「お急ぎになる方が宜しいかと。3と2に分かれている内にどちらかに標的を絞って更に最終的に誰を狙うかをお決めになった方が良いでしょう。後は陽動の為に他にもお力をお借りするのが宜しいかと存じます。」
「よし、それで行く。すぐに出撃になるだろうからな。すぐに出れるように準備しておけ。」
それだけ言うと返事も待たずにリプラスはその場から消えた。
「大体は決めていらっしゃったのだろうが、あえて俺等にも聞いてくれたな。」
「それがリプラス様ですわ。」
「何とか成功させないとな。それと、後一歩でなれる魔皇にまではなって貰わないと。そうすれば変にこき使われる事も無茶を強いられる事も無くなる。」
「後は、お妃様ですわね。」
楽しげな会話だったが、側近達の顔にはこれから直面する厳しい現実に顔が少し強張っていた。

「分かった。こちらも受け入れ準備と、出陣の準備を済ませておく。本当にありがとう。」
ランサーはラーティスの使い魔に向かって礼を言っていた。それを聞き終わると使い魔は消滅した。後ろで見つめていた部下達はランサーの言葉にホッとしていた。
「今聞いて貰った通り、キルリア、ラーティスの協力を得られる事になった。受け入れと出撃の準備をすると共に、悪魔軍の急襲にも備えてくれ。合流前のチャンスとばかりに来るかもしれないからな。それでは解散。」
ランサーは部下達が出て行くのを見届けてからセラとメビウスの元へ向かって部屋を出た。
(問題はこちらに来るかあちらに行くかだが・・・。援軍を出したくともこちらから兵は出せる状況ではないし・・・。今はこちらに来る事を考えて備えておくとするか。)
廊下を歩きながら少し悩んでいたランサーだが最後は吹っ切れた顔になって歩く速度を速めた。

「ラーティス、ランサーへは伝わったのか?」
レストナール城へ行軍中のキルリアは隣に居るラーティスに聞いた。
「はい、特に邪魔も入りませんでした。後は、最後の決戦になる前にこちらと向こう側に茶々が入ると思われますが、あちら側には踏ん張って貰いましょう。守る側で無ければ我々に恐れるものはございません。キルリア様の手を煩わす事もございません。」
少し笑いながらラーティスは答えた。
「味方としては誰よりも頼もしいが、敵に回すとお前程恐いと思う奴は居ないな。」
冗談交じりで少し笑いながらキルリアは言う。
「何があろうとも他の全てのものが敵になったとしても、私はキルリア様の味方です。」
ラーティスの方は真剣な顔できっぱりと言い切る。
「こちらに、来た際には頼むぞ。出来るだけ被害を出さずに最後まで温存したいからな。」
「はい。お任せ下さい。キルリア様の邪魔はさせません。」
そう答えてからラーティスは少し妖しく微笑んだ。

ハーネスは今か今かとイライラしながらリプラスを待っていた。
(神軍を破った時のような秘策を出せば良いのだが・・・。まだ時間はあるか・・・。)
「ハーネス様、宜しいですか?」
「おお、待ちわびたぞ。して、どうだ?」
期待に満ちた表情でハーネスが聞いた。
「残る5人はどれも強敵です。今回は三人の方を狙い、陽動を含めてサーラル様を含めお三方の魔皇様のお力をお借りしたいと思います。倒す本命はメビウス。私はサーラル様の下につきメビウスを倒す為のご助力をしたく存じます。残りのお二方には陽動として、ランサーとセラを引きつけておいて頂きたいと思います。引きつけるだけでなく出来るのならそれぞれの首を取って頂ければと。サーラル様以外のお二方を誰にするかはお任せ致します。このような策ですが如何でしょうか。」
ハーネスは目を閉じて聞きながら聞いているうちに少し難しい顔つきになっていった。
「勝算あっての策だろうな?」
「勿論です。今回はあくまでも一人を確実に仕留める為の策です。それが終わったら、後はここでの最終決戦に臨むだけです。」
「その策聞き入れよう。して、準備にどの位掛けられる?」
「今夜が宜しいかと思いますので、それまでならば。」
「分かった。準備が出来次第呼ぼう。残りのものは私から声を掛けよう。今回の指揮はお前に任せる。準備をして待て。」
「はっ。では失礼致します。」
リプラスは一礼してからその場を後にした。
「流石はリプラスと言った所か。サーラルもメビウス相手というなら納得しよう。さて、動くとするか。」
ハーネスはゆっくりとサーラルの元へと移動し始めた。


日も暮れて夜がやってきた。
デーモンキャッスルの一室では今夜の出陣を控えた悪魔軍が集まっていた。
「以上が今回の作戦となります。もし現場で私の指示が届かない際には現場の皆様に判断をお任せ致します。今回の最大の目的はメビウスです。他ではご無理をなさらないようにして下さい。それでは、皆様参りましょう。」
リプラスの説明に皆は納得してそれぞれテレポートを始めた。その様子を見ながらリプラスは内心で溜息をついていた。
(正直乗り気じゃないが、そうも言ってられんか・・・。)
「リプラス。」
「はい。」
まだ残っていたサーラルが声を掛けた。
「今回の出陣はお前の本意じゃないだろ。」
「・・・。」
真意を言われたリプラスは思わず言葉に詰まってしまった。
「おかしいとは思ったんだ。まあ、いいさ。神軍を逆転して勝利できたのはお前のお陰だ。また一番の相手にぶつけてくれる事に感謝するぞ。お前の手腕見せて貰うぞ。」
「ご期待に沿える様全力を尽くします。」
頭を深々と下げるリプラスを見て少しニッと笑ってから先にテレポートしていった。
(お見通しだったか。)
苦笑いしながら軽く溜息をついた。
(だが、やるからには全力を尽くす!)
リプラスはキリッとした顔つきに変わってから皆の後を追って手レポートした。


(着たか・・・。)
ランサーは閉じていた目を開いた。それを見たセラとメビウスはそれぞれ頷き合った。
「三方向から来る。陽動かもしれないがどうする?」
「分かれるしかねえだろ。二人を迎える場所が無くなっちまったらまじいし、被害を最小限にした方が良いだろ。」
「メビウスの言う通りだ。ランサー三方向は何処になる?」
「三時、六時、九時。十二時に居ないのが気になる。私は三時、セラは九時で十二時に備えながら行く。メビウスは六時の敵に向かって全力で当たってくれ。」
ランサーの言葉が終わるとそれぞれが一斉に走り出した。
「しかし、本当にメビウスはこっちに来るのか?」
サーラルは隣に居るリプラスに聞いた。
「そう仕向ける為の布陣です。あえて北側を空けたのは東西にセラとランサーをあてさせる為です。」
「何故そうなる?」
不思議そうにサーラルは更に聞いた。
「相手にはランサーが居ます。ランサーは敵ながらも優秀な頭脳の持ち主です。北側があえて空いているという所を気にして戦略的に転換の効く二人を東西に置き、メビウスには南側を任せるでしょう。ですのでこちら側にメビウスがやって来るという訳です。ご納得頂けますでしょうか?」
「成る程な。流石はリプラス。指揮を頼むぞ。俺は先に行って暴れてくる。」
「はっ!お任せを。」
(サーラル様が上司だったら・・・。)
リプラスは思わずにはいられなかった。
「リプラス。滅多な事を思うもうもんじゃないぞ。心を読める奴も、それを告げ口する奴も五万と居るからな。」
振り向いて少し笑いながら言ってからサーラルは城へと向かっていった。
「参ったな。」
苦笑いしながらリプラスは呟いた。その後すぐに気持ちを切り替えて、周りに指示を出しながらサーラルの後を追った。

「術系だけ何とか抑えてくれ。後は俺等に任せろ。」
メビウスは城壁付近で戦っているものに行ってから、南門を開けて外へと打って出た。既に場外には多くの悪魔達が居たが、メビウスはその数をもろともせずに一気に突き進んだ。その凄まじさに悪魔軍の一部は弱腰になり始めていた。
「メビウスは何処だー!」
一際大きく聞こえる声にメビウスはそっちを向いた。
「俺ならここだー!」
メビウスは叫んでそれに答えた。
間に居る悪魔軍の悪魔達がパッと散ってメビウスとサーラルが遠くに向かい合った。
「俺はサーラル、メビウス一騎打ちを申し込む!」
「名前は聞いてるぜ!申し込まれて断る俺じゃねえ。良いか、他の奴は城の中で守り固めてろ。」
メビウスはそう言ってから、フルフェイスのヘルメットを閉じた。
「リプラス、手出し無用だ。後の指揮は任せたぞ。」
「はっ!」
サーラルは武器を構え直してゆっくりとメビウスに向かって歩き出した。メビウスもそれに合わせる様にゆっくりと歩き始めた。
「他のものは距離を大きく開けろ。戦いに巻き込まれるな!別働隊は北側に回りセラとランサーの軍を陽動しろ!私はサーラル様を見届ける。」
サーラルが離れていったのを確認してから残っている周囲のものへ指示を出した。


そして、悪魔軍の中でも指折りの魔皇サーラルとメビウスの一騎打ちが始まろうとしていた。