温泉でびっくり(最終回)

「てりゃあああーーー!!!」
メビウスは気合とともにセイバーを振り下ろした。当たる瞬間に相手の女性の目つきがきつくなった。
ガシャーーン!!!
セイバーは女性に触れる事無くばらばらに砕け散った。
(セイバーが・・・いや、フォトンが砕け散った(にゃ)!?)
それを目の当たりにした周りは驚いていた。女性はほんの少しだけ後ろに下がっただけだった。
「悪いが俺の勝ちだ。」
メビウスの言葉に驚いていた皆は相手の女性の方を見る。頬に少しだけかすり傷がついていた。その部分は少し黒くなっていたが一瞬で傷がスーっと消えた。
「約束だ、返して去ろう。貴様を甘く見くびったか・・・。」
別に悔しそうな感じも無く冷静に女性は言った。
「違うな。お前が見くびっているのは俺だけじゃねえ。せいぜい足元すくわれねえようにな。」
メビウスのその言葉には少し眉が動く。しかし、その後すぐに女性は消えていった。
「めびぞ〜!」
チャオは一目散にメビウスに駆け寄った。
「ふうやれやれ。奴さん気抜いててくれて助かったぜ。それと、ハオが居て助かった。」
「ふみゃっ?」
チャオは前者は分かったが後者の意味が分からずに首を傾げた。
「悪いなハオ。壊れちまった。」
「構わねえよ。しっかし、ありゃとんでもねえ奴だったんだな。それに傷つけたメビも凄えけど・・・。」
ハオは返事しながらも砕け散ったセイバーのフォトンのかけらを見ていた。
「うわわぁ。ふぉとんってかけるんでうねぃ。」
「はー、まともなフォトン武器が壊れるの初めて見たよ。フォント驚いたねえ。うっしっし〜。」
しゃがみ込んで見ているテムの頭の上から更に覗き込んでいるトロだった。
「撃たなくて良かった・・・。」
ソニアは思わずぼそっと呟いた。
「あれは何者なんだにゃ?」
チャオは真面目な顔をしてメビウスに聞いた。
「そうだなあ・・・。悪魔って奴の一種かな。害の有無は微妙な連中だけどな。人にも色々居るように、悪魔にも色々居るってこった。再会する事は無いと思うぜ。」
「そうにゃんだ?」
「多分な。」
不思議そうに聞くチャオに少し笑いながらメビウスは言った。
「いい加減だにゃ・・・。」
チャオは呆れたように両手を上げて首を横に振った。
「さーて、元凶は去ったしヴィクとヴィーなの所にでも戻るか。」
「メビ!」
去ろうとするメビウスにハオが声を掛けた。
「ん?どうしたハオ?」
「なあ、何で俺のセイバーだったんだ?」
不思議そうに聞くメビウスに聞き返した。
「簡単だ。助ける相手が誰なのか。一番思いが通じるのは誰なのか。それだけさ。」
「それは俺じゃ無くたって良いんじゃないのか?チャオじゃ駄目なのか?」
どうしても納得が出来ないという感じでハオは食い下がる。
「ったく、しゃあねえな。フェリーが近くに居て一番安心できるのは誰か、孤独に襲われた時誰の傍に居るのが良いのか。ここまで言えば分かるだろ?」
面倒臭そうにメビウスは言う。
「例えそうだとしてもだ・・・何で・・・」
「腕力や武器の良し悪しだけであいつに傷がつけられたと思ってるのか?」
メビウスはハオが言う途中で遮って言った。
「違うのか???」
ハオは驚いて思わず叫ぶ。
「だったら、お前の言う通り、他の武器選んでるさ。あいつに傷がつけられたのは思いの力さ。こっから先はもうてめえで考えてくれ。俺はもう行くからな。ちゃんとフェリーの面倒見てやれよ。」
メビウスは途中から答える気が無い感じで皆に軽く手を上げてから背を向けて、また茂みの中へ消えていった。
その後全員が沈黙していたが、突然消えた所からフェリアーテが姿を現した。
「フェリ!」
「フェリ〜!」
「フェリー!」
「姐さん!」
「ふぇりさん!」
全員が声を上げた。フェリアーテは現れた瞬間立っている状態だったが力なく倒れ込みそうになった。一番近いハオが自然と受け止めていた。
ズザザザーーー。
その受け止めた下を、トロが凄い勢いでヘッドスライディングして通過していった。
「おい、トロ大丈夫か?」
うつ伏せ状態でピクリとも動かないトロを見てハオは流石に心配になって声を掛けた。
「うっしっし〜。ナイスキャッチ!」
トロはガバッと起きて親指をグッとやって言った。ただ、泥だらけの上にかなり涙目になっていた。
「にゃんか・・・さっきのめびぞ〜の話を聞く限り・・・。ハオじゃにゃいと起こせないのかもしれないにゃ。と、いう訳で邪魔者退散にゃ〜。」
チャオの声で他の皆もその場を去り始める。
「おいw」
ハオは突っ込んだが誰も聞く事も無く全員居なくなってしまった。
「マジかよ・・・。」
苦笑いした後、諦めてフェリアーテを寝かせてから、何となく膝枕をしていた。
「ったく。桜が綺麗だぜ。」
ちょっと自棄気味に呟いてから、フェリアーテの様子を静かに見ていた。


「にゅっしっし〜。」
「にっしっし〜。」
「うふふぅ。」
チャオ、トロ、テムの三人はソニアを先に帰らせて懲りずにまた、木の陰から覗いていた。ただ、さっきよりはかなり離れた所だった。
「ここからなら見つからないにゃ。」
「ソニアは帰らせたしね。」
「じゅんびばんたんおういぇ〜♪」
やはり下からテム、チャオ、トロの順で今度はスコープを使って見ていた。しかし、今度はさっきのように全然動きが無く、三人は何時の間にか寄り添って眠っていた。


(寝顔は可愛いもんだし、綺麗なんだけどなあ・・・。)
ハオはフェリアーテの寝顔を見ながら思っていた。
「う・・・ん・・・。ハ・・・オ・・・。」
フェリアーテはそう言うと、寝ぼけているのか手を宙に上げる。顔は険しくなり、脂汗がにじんでいた。ハオは宙をさ迷うその手を取って優しく握った。
(俺はここに居るぜ。)
何となく口に出すのが恥ずかしかったので心の中で呟いた。それに安心したのかフェリアーテの険しい表情が消え元に戻った。手は無理がかからないように、下ろした。ただ、手は握ったままだった。
「本当に俺の力なのか・・・。メビみたいのが良いんじゃないのか・・・。」
ハオはふと呟いた。
(何言ってんだ俺・・・。)
「メビはあいつに傷つける事tが出来た。俺は何も出来ないままだった・・・。何をしたらいいか分からなかった・・・。何とかしたかった。でも、俺には何も・・・。」
「そんな・・・事・・・無い・・・・さね。」
「!?」
流石に驚いたハオはその場で硬直した。フェリアーテは薄目を開けているが、かなり辛そうな感じだった。
「ハオの・・・・お陰・・・・だよ・・・。あり・・・・が・・・・と・・・・・」
それだけ言うとフェリアーテは気を失った。話している間短かったが、手に少し力が入っていた事に気がついていた。
「一方的に言われっぱなしかよw」
思わず突っ込んだが、気が付いた安堵感が大きかった。
(起きてねえ・・・よな。)
ハオはまじまじとフェリアーテを見た後、辺りをキョロキョロしてから、そっとフェリアーテにキスをした。フェリアーテは見ていないのだが何となく恥ずかしくなって誤魔化す為に暫く桜を眺めていた。
その内に、落ち着いて来て、ハオも何時の間にか眠りについていた。


「ん・・・。」
ハオは目を覚ました。目の前にぼんやりと誰かの顔があることに気が付いて焦点を合わせた。
「えっ!?」
驚いているハオの目にフェリアーテの顔が映っていた。さっきまで自分が膝枕していたのに、今はフェリアーテに膝枕されていた。
「おはよう、ハオ。」
「あ、ああ・・。」
微笑むフェリアーテに突っ込むのを忘れて何となく生返事していた。
(俺・・・気が付かなかったのか・・・。)
「ありがとね。」
「えっ!?」
小さく呟いたフェリアーテの言葉を拾えなかったハオは聞き返した。
「何でもない。」
フェリアーテは軽くハオの髪をなでた。ハオは急に恥ずかしくなって真っ赤になった。それを誤魔化すように、フェリアーテに背を向けた。フェリアーテはそれを見て軽く笑った。
「あのさ、ハオ・・・。」
「ん?」
あえてフェリアーテの方を向かずに返事した。
「あたいね・・・。暗闇の中で一寸の光をみたんだよ。」
「へえ。」
「そこにね、ハオの影が見えたの。夢だったのかな?」
「さあな。」
(メビの一撃の時だったのかな・・・)
ハオは少し考え始めていた。
「ふふっ。」
フェリアーテは考えているハオに上から抱きついた。
「まてw」
「あたい、疲れているさね。」
「嘘つけっ!無視しないで離れろっw」
ハオはその場でじたばたしていた。
「離れるからその場でちょっと動かないでね。」
「わかったよ。」
少し体の密着が解けた瞬間ハオの目の前に目を閉じたフェリアーテの顔があった。
「まてw」
ハオの言葉に反応せずにフェリアーテはそのまま動かない。
(キスしろってか・・・。)
諦めたように苦笑いしてから、意を決してハオはフェリアーテにキスした。
少しして二人は自然と離れた。ハオは少し顔が赤かったがそのまま立ち上がって無言のまま宿へと戻った。


そして、朝ご飯を皆で食べてから宿を後にした。
「にゅっしっし〜。ハオ〜。」
「何だよ!w」
チャオはにまにましながらハオに話し掛けた。ハオはそっけなく聞き返した。
「口紅ついてるにゃ〜。」
「えっ!?」
ハオはチャオに言われて慌てて口をこすった。
「にゅふふ。嘘だにゃ〜。」
「嘘って・・・ああっ!チャオてめえ覗いてたな!」
「あちしだけじゃないにゃ?」
「んな事わかってる。って待てや!」
ハオの言葉にチャオとトロとテムは逃げ出した。
地面にはひとひらの桜の花びらが落ちていた。