温泉でびっくり(第9回)
温泉旅行も終盤になっていた。
「後は今夜泊まったら終りだにゃ〜。」
チャオは綺麗な桜の木を見上げながら言った。
「そうさね。ところでこの綺麗な花は何て言うんだい?」
同じく見上げながらフェリアーテは桜を見上げながらチャオに聞いた。
「これは、桜って言うんだにゃ。咲いて散るまでが短いけど、とっても綺麗な花なんだにゃ。こうやって咲く時も綺麗だけど、散り際もまた綺麗なんだにゃ。」
チャオは微笑みながら答える。
「パッと咲いてパッと散るってのは良いものかもしれないねえ・・・。」
フェリアーテは意味ありげに目を細めて眩しそうに桜の木を見上げる。
「にゃ?」
チャオは意味が分からずに首を傾げた。
「朝の桜も良いけど、夜桜も良いものだにゃ。今夜はここにお風呂は入りにくるにゃ。」
「そうさね。」
チャオの提案に大きく頷いてフェリアーテは頷いた。
「流石にはしゃいじまって、疲れたか。」
少し笑いながら自分の膝元で寝ているヴィクスンと、ヴィクスンと一緒に寄り添って寝ているヴィーナを見ながら呟いた。
「ん?」
メビウスは少し離れた所に気配がしたのでそちらの方を向いた。力が集約しそこに何かが現れた。
「カストミラか。親子水入らずに無粋だぜ。」
「ごめんなさいね。」
そう言って現れたのは人ではないが美しい女性の形をしたものだった。
「何でまたお前がこんな所にいるんだ?」
メビウスは不思議そうに聞いた。
「困った部下がいてね。ちょっと様子を見に来たの。」
「部下って直属か?」
「そうよ。」
そう言ってカストミラは妖しく微笑む。
「魔皇かよ・・・。リプラスじゃねえよな?」
「彼は部下じゃないし、彼は困った子じゃないわ。そうね、彼だったら部下に欲しいわね。」
「すりゃあいいじゃねえか。」
「まあ、相変らず気楽に言ってくれるわね。」
言葉とは裏腹に少し嬉しそうに言う。
「困ったってのは、昔のお前みたいな奴なのか?」
「私ほど血の気は多くないけれどね。その分頭が働くかしらね。」
「中途半端ってのは危ういな。」
「そうね・・・。まあ、その時はその時よ。魔皇たるもの自己責任位取れないとね。」
「ったく、そいつ嫌いなんだな。そう言やいいだろ。」
呆れたようにメビウスは言う。
「そんな事言ったら可哀相でしょ。一応部下なんだし。」
「全然そう思ってるように思え無えんだけどな。その笑顔で言われてもよ。」
微笑みながら言うカストミラを見てメビウスはなんとも言えない顔をして言う。
「可愛い奥さんに子供ね。」
「まあな。」
自慢気にメビウスは言う。
スッ
その時襖が開いて、ソニア・カルーネ・シェイリーが黙って銃を構えていた。和夜は緊張した面持ちで手に札を持っていた。
「あらあら、可愛い人達ね。」
緊迫した三人とは逆に落ち着き払った笑顔で言うカストミラ。
「貴方を招待した覚えは無いわ。」
カルーネはそう言って、引き金に手を掛ける。
「止めとけって。お前等が束になってかなう相手じゃ無えって。」
真剣な顔をして言うメビウスに、ソニアは渋々だがヤスミを下ろす。その後ろでセシールとテムが抱き合ってガタガタ震えていた。
(こ、このひとわ・・・・あわわ・・・。)
テムはカストミラの本質を感じ取っていた。セシールもそういうのには敏感だった。二人も襖を開けるまでは武器を構えていたが、開いてカストミラを見た途端に体中に寒気が走り、力が抜けた。
「まあ、良いじゃない。撃って見なさいな。それで納得するでしょう。外しちゃ駄目よ。」
挑発的な言い方にメビウスはやれやれといった表情になる。そして、カルーネとシェイリーは引き金を引いたのだが、音は出ずに弾だけが発射された。弾はマジックの様にカストミラに届く前に消し飛んだ。和夜の方もお札を投げたが半分も行かないうちにひらひらと地面に力なく落ちた。書いてあった文字が何時の間にか消えていてただの白紙になっていた。
「へっ!?」
「えっ!?」
カルーネとシェイリーは目を疑った。
(わらわの術は問題外という事なのじゃ・・・。)
和夜の方も無言で項垂れていた。ソニアもその状況を見て納得したように頷いてからヤスミをしまった。
「お互いさ、俺の知り合いって事で納めてくれねえかな?」
「わかりました。すいませんでした(なのじゃ)。」
変にぎこちなくなって姉妹と和夜はカストミラの方に頭を下げた。
「私は別に気にしてないわ。ただ、メビウスに挨拶に来ただけだし長居をするつもりはないから。」
何事も無かったかのように微笑んで言うカストミラ。それを見て逆に姉妹の方の顔色が悪くなっていた。
(も、もしかして私達・・・)
(助かった?)
姉妹は無言で向き合ってアイコンタクトで話していた。
「それじゃあ、奥にいるお姫様と天使ちゃんにも宜しくね。じゃあ、メビウスまた。」
「ああ、またな。」
軽く手を上げて挨拶した後に、カストミラは妖しく微笑んだ後消えていった。カルーネとシェイリーはその場にへたり込んだ。
「ねえハオ。」
「んあ?」
縁側に座りながらトロはハオに聞いた。ハオはお茶菓子の醤油ぜんべいを咥えたままトロの方を見た。
「今回は、フェリー姉さんとは何にもないの?」
「何にもってのは何だ?」
ハオはジト目でトロを見返す。トロの方は涼しい顔をしてお茶を飲んでいる。
「いやあ、お茶が美味しいなあ。」
「待てw人に聞いといて何だよそりゃ!」
ハオはお茶を飲んでいたトロに問答無用で突っ込んだ。突っ込まれたトロは飲んでいたお茶を顔面にもろに被ってしまった。
「おちゃちゃちゃ!」
「熱いのにボケてんじゃねえw」
顔面を抑えているトロにハオはタオルを渡した。
「ふう、顔面は止めてね♪」
トロはそう言いながら顔を拭く。
「知るかっw」
ハオはそう言って、無視する様に再び醤油せんべいを食べ始めた。
(あったって、無くたって言わねえよ・・・。)
ハオはこの前の雪景色の事を思い出しながら心の中で呟いた。
「うっしっし〜。やっぱり最後の夜だよね。一番ムード的にも盛り上がるし・・・。って、おちゃちゃちゃ。」
ハオは無言で含み笑いしているトロの足にお茶を垂らした。
「顔じゃなきゃ良いんだよな?」
「足もいや〜ん。」
「まだ、足りないか?」
「いえ、すいませんでした。」
トロは怒っているハオの顔を見て素直に謝りながら足を拭いていた。
チャオは夕方になって旅館のあちこちを走り回っていた。
「みんにゃ〜、夜桜見に行くにゃ〜。」
いつものメンバーに同じように声をかけていた。