温泉でびっくり(第7回)

「そっか、チャオ部屋で寝てるんだ。」
トロの言葉にテムは口をもごもご動かしながらコクコク頷いた。
「まあ、まだまだ先もあるし一回くらいはドンマイドンマイ。」
そう言いながらトロは、料理を頬張った。
「えへへ〜。どんまいなの〜。」
トロの真似をして言った後に頬張るヴィーナ。それを、ヴィクスンとセシールが微笑ましそうに見ていた。
(こんな量じゃあっという間に無くなっちまう。)
メビウスは周りを気にしつつも、ゆっくり食べていた。
部屋はかなり宴会モードになっていて、あちこちで酔っ払いが生まれていた。ある程度は知り合いで固まっていて、カルーネやシェイリーの周りにも人だかりが出来ていた。
トロ、セシール、テム、メビウス、ヴィクスン、ヴィーナの六人は固まって食べていた。今夜出されている料理は肉料理が中心だった。その肉が何の肉なのかは知らされてはいなかったが、美味しいので皆から文句は出なかった。

鶴の間では、真っ暗な中でプレアとウルフがチャオを見ていた。ウルフのビームアイだけが暗い部屋の中に光っていた。
「ほんまにすっかり眠ってしもうてるなぁ。どうやらメディカルセンターの時と同じみたいで極度の疲労状態になってるみたいやわぁ。」
少し苦笑いしながら言うプレア。
「ふむ。まあ、あの時のような輩はいないだろうしな。ゆっくりとしていられるだろう。」
「せやねぇ。あ、仲居はんが来るみたいやから灯り点けな驚いてまうわぁ。」
そう言って、立ち上がってから電灯ののスイッチを入れた。明かりが点くと広い部屋が見える。遠くにコタツも見える。
「すいません。いらっしゃいますか?」
仲居が外から襖を軽く叩いて声をかける。
「はいなぁ。今開けますわぁ。ウルフはんお願いしてもええかなぁ?」
「ああ、分かった。」
プレアは言った後、チャオを軽く抱き寄せる。ウルフは立ち上がって襖を開ける。仲居さんは料理の皿の載っている膳を持って入ってくる。匂いでチャオの鼻が少し動いた。
「ちゃんとあげるさかい、大人しゅうしとってなぁ。」
寝ているチャオに言い聞かせるように言うプレア。一瞬ピクッとチャオは反応したが大人しくしていた。
「適当に置いておいてえなぁ。後はこっちでやるさかい。終ったら呼べばええんやろぉ?」
「はい、内線でお呼び下さい。それでは失礼致します。ごゆっくりどうぞ。」
仲居は頭を下げて出ていった。
「さーて、気を付けへんとぉ。」
そう良いながらプレアはまず膳を見た。その後にウルフの方を見た。
「俺はどうしたら良いかな?」
ウルフはちょっと困り顔のプレアを見て聞いた。
「ほな、うちと代わってもろてもええかなぁ。うちがチャオはんに食べさせるさかい。」
「ああ、分かった。」
そして、二人は入れ替わってプレアは膳から皿を一つ持って来た。
「流石にお椀ごとっちゅう訳にはいかんさかいなぁ。」
そう言いながら、箸で料理をつまんでチャオの頭から落とした。元々プレアは全高が高いので落ちるまでには以外と時間がかかる。
「ウルフはんチャオはん放したってぇ。」
声に反応してウルフは抱えていたチャオを放す。チャオは落ちてくる料理を見事にキャッチしてモグモグ食べている。
「ウルフはん捕まえてぇ。」
不思議そうな顔をして再び抱きかかえるウルフ。チャオは食べ終わった後、凄い力で振りほどこうとしている。
「な、チャオにこんなに力が!?」
流石にウルフは驚く。ウルフもかなりパワーはあるが、それでも振りほどかれそうになっている。
「チャオはん大人しゅうせんと、あげまへん!」
プレアの一言でジタバタしていたチャオが大人しくなる。
「ふう、一苦労やわぁ。」
プレアは苦笑いしながら言った。
「確かにこれは大変だな。」
ウルフも何ともいえない感じで言う。
「この状態のチャオはんを完全に抑え込めるのメビウスはんだけやったしぃ。ウルフはんも流石やわぁ。代わってもろて良かったわぁ。ほな、続き行きますわぁ。」
プレアの箸から食べ物が落ちる度に上手にキャッチして食べるチャオ。ウルフも途中からはコツがつかめて来て上手く抱えたり、放したりしていた。
そして、1時間程して全て食べ終わった。チャオの方は満足したらしく再び寝息を立てている。
「お疲れはんでしたぁ。」
「ふふ、そんな事も無いさ。違う一面が見れて楽しかったかもしれない。」
「くすくす。点滴やとかないさかい栄養ちゃんと取らなあかんからなぁ。生存本能なんやろねぇ。さてとぉ後はゆっくり寝させてあげまひょ。」
「そうだな、行くか。」
二人は布団を敷いて、そっと寝かせてから中の電気を消して鶴の間を後にした。

宴会場は寝ている人間や、すっかり酔っ払った人間などが溢れていた。ただ、それとは別に、ソニア、和夜、ハオ、フェリアーテの四人は別の部屋にいた。
「ったく、紛らわしいことするなよな・・・。」
ハオは和夜が語った事の顛末を聞いて呆れて言った。
「やれやれだねえ。ソニア、とりあえず和夜も招待客の一人って事でさ勘弁してやってよ。」
「まあ、フェリーがそう言うなら仕方ない・・・。」
ソニアは渋々と言った。
「申し訳なかったのじゃ。あのボンボンの子はチャオとかと一緒なのを見たから連れて行って脅かそうとしていたのじゃ。」
和夜は土下座して三人の方に謝った。
「まあ、テムの事だから驚いちゃいるが軽く許すだろ。まあ根に持つ奴じゃないしな。」
そう言いながらソニアの方をチラッと見るハオ。
「何だ?」
見られたソニアはハオの方を見返す。
「別に何でもねえよ。」
「じゃあ、訳も分かった所でどうしようかねえ。大広間は凄い事になってそうだしねえ。」
「騒がしいのは勘弁だな・・・。」
「わらわも戻る気はしないのじゃ。」
そう言いながら三人はハオの事を見ている。
「ん?何で俺見るんだよ!w」
「そりゃあねえ・・・・。」
「ああ・・・。」
「なのじゃ・・・。」
まともに答えず三人は頷きながら言う。
「だから、何だっつうんだよ!」
ハオはジト目で言う。
「つまり、招待してくれた主催はハオの姉達だ。お前がどうするかにかかっていると思うんだが。どうだ?」
ソニアは淡々と答える。
「そういう事か・・・。まあ、俺は戻るつもり無いし姉貴達は放っとくw」
「じゃあ、ここで解散なのじゃ。」
和夜はそう言うなり凄いスピードで逃げるように部屋を出ていった。
「逃げたか・・・。」
ソニアは冷めた目で見送っていた。
「まあ、良いじゃないかい。十分反省はしたみたいだからね。」
「あれで、ケラケラとかヘラヘラしてたら考えがあったけどな。」
ハオがそう言うとフェリアーテと向き合って意味ありげに少し笑った。
「やれやれ、何を恐がるかは分からんが私も失礼するかな。二人のおかげで少しは気分が良くなったが、正直まだくすぶっている部分もあるからな。ちょっと温泉にでも静かにゆっくり浸かってくる。」
「ああ、じゃあ、また明日にでもね。」
フェリアーテの言葉に軽く手を上げてソニアは部屋を出ていった。
「あいつ、いつでもクールだな・・・。」
「そう?ふふっ、そうでもないけどね。」
「ふーん。」
(何かフェリーとソニアってのは不思議な繋がりだよな・・・。)
少し笑うフェリーを見ながらハオは思っていた。
「さてと、あたい等はどうする?」
「うーん、って・・・まてw」
「ん?ああ、待つけどさ。どうしたんだい?」
少し慌てるハオをフェリアーテは不思議そうに見ている。
(俺が一人で勘違いしてるだけか。情け無えなあ。)
心の中で苦笑いしながらハオは思っていた。
「じゃあ、あたいは適当な部屋で寝るよ。おやすみ。」
「ああ、おやす・・・っ!?」
見送ろうとして顔を上げておやすみと言おうとした瞬間、フェリアーテの唇がそこにあった。
「まてw」
ハオは赤くなりながらも、出ていこうとするフェリアーテに向かっていった。
「うん、ここであたいと一緒に寝てくれるのかい?」
「いや、待たなくていいです・・・。」
にっこり微笑んで言うフェリアーテにハオは力無く答えた。軽く手を振ってフェリアーテは部屋から出ていった。
「ちっ・・・。」
ハオは見送りながらもやりきれない気持ちで舌打ちした。

「いやあ、しっかし凄い状況ですなあ。」
「みなさんたのしそうれすぅ。」
トロとテムは周りを見渡しながら言い合っていた。大広間は凄い事になっていた。流石にあまりに酷いものは撃沈されていた。
「セシール寝ちゃったから、漫才も出来ないしなあ。そうだ、ハオは何処だ?」
「はおさんいないですねぃ。」
「もしかして、フェリーと一緒に!?うっしっし〜。」
「おおっ!うふふ、おういぇ〜。」
二人は向かい合って含み笑いをしていた。
「メビウス達は途中で出て行っちゃったしねえ。」
「び〜なちゃん、おおきくなりますたぁ。」
「そうだねえ、テム抜かれちゃったもんねえ。とりあえず、セシール連れてここから出よう。ついでにチャオの様子も見に行こっか?」
「ぉぅぃぇ〜♪」
そして、トロがセシールを抱えて大騒ぎの大広間を後にした。テムの案内で途中迷子になりながらもどうにかこうにか鶴の間に到着した。
「テムー。頼むよー。ふいー疲れたっと。」
トロはセシールを下ろしながらテムに行った。
「うぅ〜、ごめんでぅ。」
テムは素直に頭を下げた。
二人がチャオの方を見ると、よだれを垂らしながら寝ていた。
「よーし、今夜は四人で寝るぞー。」
「おういぇ〜♪」
トロは自分とセシールの分の布団をチャオの隣に敷いた。テムも何とか布団を引っ張り出してトロと反対のチャオの隣に敷いた。
「んじゃ、テム、セシール、チャオおやすみ。」
「みんなおやすみ〜♪」
そして、鶴の間の電気が消えた。