温泉でびっくり〈第3回)
「ぎょえーーーなのじゃーーーー!」
凄まじい和夜の叫び声が上がった。
「はぅあ!?」
気を失っていたテムはびっくりして目を覚ましてキョロキョロした。
「あわわわわぁ・・・。」
初めは驚きの声が出たがその後は目を見開いた状態で声も出なかった。
和夜の首筋に噛みついているチャオの口には血がべっとりくっついている。更に、噛みついている部分からは血が噴き出している。更に和夜の胸部から4本の鋭い刃物が貫いている。その刃物からも血がポタポタと垂れている。和夜の体は手がダランとしてビクビクと痙攣している。目は驚きで見開かれた状態である。
テムはあまりに凄惨な光景に何か言おうとしたが、口をパクパクするしかなかった。
「なーお・・・。」
チャオが鳴くと、和夜の体を壁に投げ捨てた。人形の様に壁に叩きつけられて、血だまりを作っていた。テムが刃物だと思っていたものは、長く伸びたチャオの爪だった。
そして、ゆっくりとテムの方を向いた。いつもの優しい目ではなく猫の様に縦に長い瞳はテムにとっては恐怖でしかなかった。
「ひ・・・えぅ・・・。」
恐怖のあまり涙を溜めて、腰が抜けてその場にへたり込んだ。
「今のチャオは・・・危険なのじゃ・・・・。」
「っ!?」
突然真後ろから声がして、へたり込んでいたテムは飛び上がった。
「わ、わ、わ、わやさん!?」
テムは振り向いて見てから、壁の方を向いた。壁にはボロボロになった人形が転がっていた。
「わらわの術でも、完全にかわせないとは・・・本当に死ぬかと思ったのじゃ。恐るべき能力なのじゃ。」
そう言いながら和夜は首筋を抑えていた。テムが見ると少し、血が滲んでいた。
「今は、ここから逃げるのが先なのじゃ。」
「で、で、でも、あのちゃおさんど〜すればぁ?」
二人のやり取りを見ているチャオだが、あからさまに和夜に敵意を剥き出しにしている。
「狙いはわらわだけだから、先に行くのじゃ。わらわ一人なら何とか逃げおおせると思うのじゃ。行くのじゃ。」
「おういぇ〜。」
そして、テムが外に出た瞬間目の前で誰かにぶつかった。
「どわぁ!?」
小さいテムは吹き飛ばされた。運の悪い事に、和夜とチャオの中間位の場所までコロコロと転がった。ぶつかったのはソニアだった。
「見つけたぞ!怪しいフォマール!」
ソニアは瞬間的にヤスミを抜いた。
「それ所ではないのじゃ!」
和夜は困った顔で言った。ソニアは和夜にヤスミを付きつけた後に凄まじい殺気を感じてそちらを見た。
「・・・。」
何も言わず、チャオはヤスミを構えているソニアも敵とみなし、ゆっくりと歩き始める。一番近い場所にいるテムは這いつくばって、その場から離れようとわたわたしていた。
「この!化け物め!!!」
「駄目なのじゃ!」
ソニアは和夜の制止を無視してチャオに向かってヤスミを撃った。
キンッキンッキンッ!
澄んだ音がして、全て弾き返した。テムは弾が当るのを恐れて動くのを止めてその場に蹲った。その場でブルブル震えていた。
(えうぅ。なんでこんなめにぃ。)
テムは心で号泣していた。
「馬鹿な!弾いただとっ!」
ソニアは自分の目を疑って驚きの声を上げた。チャオはニイッと笑った。
(い、いかんのじゃ・・・。余計な所で・・・。)
和夜は心の中で舌打ちしていた。
「遊びは終りかにゃ?」
チャオは冷たく言い放った。
「な!」
「待つのじゃ。」
ソニアが言おうとした瞬間和夜が止めた。
「ここは、協力するのじゃ。かなりの銃の腕があると見たのじゃ。わらわの術と組み合わせれば行けるかもしれないのじゃ。」
和夜はぼそぼそと呟いた。
「分かった。行くぞ!」
ソニアはヤスミをしまってマシンガンに持ち替えて一気に撃った。それと同時に和夜も札を投げた後術を唱えた。チャオは微動だにせず、歩いていた。マシンガンの弾は全てすり抜けた。更に和夜の放った札が変形してチャオに襲いかかったが触れる前に四散した。
「な!?」
「どうなっておるのじゃ!?」
二人が驚いていると、チャオは叫ぶような仕草をしようとする。
「ちゃおさんだめですぅ。」
足元にしがみついてテムが言う。テムの頭を軽く撫でるチャオ。驚いて上を向くテム。
そして、二人に向かって叫んだ。テムにだけは空気の揺らぎが見えた。ソニアはその場で防御体制になった。和夜の方は気にせず、次の札を投げようとしていた。
「くっ・・・。衝撃波・・・だったか・・・。」
ソニアはそれだけ言うとその場に崩れ落ちた。和夜の方は何も言わずに後ろに倒れ込んだ。テムはそれを見て、安心した。
「ちゃおさん、てかげんしてくれたんですねぃ。」
そう話しかけると、さっきまでのチャオの姿は無く、何時の間にか丸まって寝息を立てていた。テムは?マークが頭の上を回っていたが、三人に押入れから毛布を引き摺って来てかけて帽子を拾ってから、コタツに入ってみかんを食べ始めた。
「ぬくぬくで、おいしぃです〜。」
嬉しそうに笑いながらお茶も入れ始めた。
「ったく、挨拶終ったら終ったで聞か無えでさっさといっちまうし・・・。」
ハオは二人の姉との挨拶回りの付き合いが終ってから割り当てられた部屋で荷物を整理しながら軽く愚痴っていた。
「ハオ。風呂でも行くか?」
部屋の外からメビウスの声がした。
「ああ、ちょっと待ってくれ。」
ハオは道具を用意して襖を開けた。
「お待ちどうさん。」
「いや、しかし男いねえよな。」
メビウスは笑いながら行った。
「もしかして、俺等だけか?」
「いや、他にもいるみたいだが知らん。」
「そっか。」
二人で軽く笑いながら露店風呂を目指した。
「ここにゃ、かなり多くの風呂があるらしい。まだまだ先は長いから、入れるだけ入ろうと思ってな。」
「そうだな。俺もちょっとムシャクシャしてたから丁度良い。」
「姉貴達か?」
「ああ。ったく困ったボケ姉貴達だ。」
ハオは苦笑いしながら言い放った。
「はっはっは。まあ、しょうがねえよ。さっぱりして忘れようぜ。」
「だな。」
外に出ると、少し離れた所に雪が降っているように見えた。
「雪・・か?」
「みてえだな。そういう仕掛なんだろうな。まあ、近くから行こうぜ。」
メビウスは案内板を見て一番近い脱衣場への表示を指差した。
「そうだな。しっかし、ラグオルでなんて良い度胸してやがるぜ。」
ハオは半分感心半分呆れた様に言った。
「確かにな。そういうのは置いといて素直に楽しもうぜ。」
「おうよ。」
二人は男用の脱衣場へと入っていった。