温泉でびっくり(第二回)

チャオは連れていかれたのを見送って暫くはキョトンとしていた.。
「なんだかにゃあ。まあいいにゃ。ぬくぬくだにゃ〜。」
コタツ布団に頬擦りしてふにゃ〜んとなっていた。そして、少しすると眠りに着いていた。

「おい!姉貴達。俺に質問させろよ!」
流石に頭に来てハオは二人に突っ込んだ。
「そんなの後よ!それよりも何であんなに可愛い小さい子と知り合いなの?返答次第によっては許さないわよ。」
カルーネはそう言ってハオを睨んだ。そのすぐ横でシェイリーも頷いていた。
「あのなあ・・・。」
ハオは溜息をついて呆れ顔で呟いた。
「とりあえず、後で話すから挨拶終らせようぜ。」
ハオの台詞に二人はすっかり忘れてたと言う顔をして手をポンと叩いた。
「ったく・・・。頼むぜ・・・。」
ハオは苦笑いしながら二人の後に着いて行った。

ソニアは全力で走って目的地に向かっていた。
(おかしい・・・。奴の形跡も気配も無い・・・。)
様子を伺ってはいるが全く感じない事に違和感を覚えていた。
(これなら、フェリーと一緒に来るんだったか。いや、今はあの妖しい奴にあの帽子についているボンボンの正体を聞かなければ・・・。いや、聞かずとも確かめなくては。)
ソニアは厳しい表情になって先を急いだ。

「しかし、困ったのじゃ。わらわは招待状を落としてしまったのじゃ・・・。」
宿の前で和夜は困った顔をしていた。
(う・・・ん・・・。うおぅ!?まっくら〜!?)
テムは気がついたが真っ暗な上に身動きが取れずにもぞもぞしていた。
(むむっ!気が付かれてしまったのじゃ・・・。そうなのじゃ。ふっふっふ。)
和夜は何かを思いついたらしく布を口に当てた。
「大人しくするのじゃ。」
くぐもった声を聞いて、テムはビクッと反応した。
「良い子なのじゃ。悪い子にはお仕置きしなければならないのじゃ。もう少しの間大人しくしているのじゃ。そうすれば、殺さずにすむのじゃ。」
(ひえぇ〜。だ、だれかたすけてぇ〜。)
テムは泣きそうになりながら心の中で叫んだ。そんなテムの頭に触られる感触がした。お気に入りのボンボンの帽子がスッと取られた。
(!?えうぅ。)
「動くな・・・。」
少しじたばたしたテムだったが、そう言われるとピタッと止まった。代わりに違う帽子を被せられた。
和夜の方は帽子を被り直してから、宿へと入っていった。
「いらっしゃいませ〜。」
「すまんが、今日ここに来ている客でフェリアーテと言うものがいるはずなのじゃ。知り合いが来た事を伝えて欲しいのじゃ。」
「かしこまりました。そちらにおかけになって少しお待ち下さい。」
仲居に言われて和夜は椅子に腰掛けた。
「もう少しの辛抱なのじゃ。悪いようにはせんからもう少しだけ大人しくしてるのじゃ。」
テムは相手の言う事を信じて、じっとしていた。何より暴れれば殺されるという恐怖感がいつもは活発なテムを大人しくさせていた。

「フェリアーテ様はいらっしゃいますか?」
仲居の声にフェリアーテはふすまを開けて顔を出した。
「あたいがそうだけど、どうしたんだい?」
「お知り合いとおっしゃる方が玄関でお待ちになっていますが如何致しましょうか?」
「身なりはどんな感じだったかい?」
「背丈は小さく、ボンボンのついた帽子を被っておられました。」
(テム・・・かな?)
フェリアーテは少し首を傾げた。仲居は困った様な顔をして返事を待っている。
「ああ、ごめんよ。あたいが確認に行くから案内してくれるかな。」
「かしこまりました。」
仲居はフェリアーテの前を歩き始めた。フェリアーテもそれに続いて歩き始めた。

「げげっ!まずいのじゃ。」
和夜は宿の窓から見えるソニアの姿を見て焦っていた。
「少し揺れるが我慢するのじゃ。」
和夜は、中の人間の目を盗んで椅子から飛び降りて、奥へと走り出した。
(うわわぁ〜。ぐわんぐわんゆれるれすぅ〜。)
テムは激しい揺れにクラクラしていた。
「はあっ、はあっ・・・。先に着いたと言うのか・・・。」
ソニアは宿の目の前で少し止まって息を整えていた。
「いらっしゃいませ。お水如何ですか?」
中でソニアの姿に気がついた仲居がコップに水を入れて差し出していた。
「ありがとう。すまないな。そうだ、これを。」
ソニアはポケットから招待状を出して仲居へ渡した。
「確かにお預かりしました。落ちつきましたら中へどうぞ。」
「ああ。そうだ、私が来る前に誰か来たかな?」
「先程、ボンボンの帽子を被った可愛らしい方がいらっしゃいましたよ。」
(おかしい・・・。)
仲居の言葉にソニアは眉をひそめた。
「確か、そこの椅子に座っていたような・・・。あれ?いない???」
「私はこの中を何処に移動してもいいのか?」
「他の団体様もいらっしゃるのでお部屋は不味いですが、お歩きになる分には構いませんよ。ちなみにお客様達のご利用頂けるお部屋は、東側の全室になりますので、お好きにご利用下さい。また、何かご不明の点がございましたら我々仲居をお呼び下さい。」
「わかった、では、暫く世話になる。」
ソニアはそれだけ言うとブーツを脱いで、中へと入っていった。
「どうぞごゆっくり〜。」
仲居の言葉を背に受け、厳しい表情で足早に東側へ歩き始めた。

和夜は、とりあえず近くの部屋に飛び込んだ。
「ふう、ここなら大丈夫なのじゃ。」
そう言いながらリュックを開け始めた。中では揺さ振られていて目を回したテムがのびていた。
「あうあうぁ〜。」
さるぐつわを外されたのにも気が付かずに床にポテッと倒れた。和夜は素早く帽子を入れ替えて自分のを被り直した。ボンボン付きの帽子の方は面倒だったので、部屋の真ん中へ向けて放り投げた。

ポフッ!

「ふみゃ?」
チャオは自分の頭の上に何かが被さるのを感じて目を覚ました。良く見ると何処かで見覚えのある帽子だった。キョロキョロすると、倒れているテムと怪しげなフォマールがいた。
「あうぅ。だれかたすけてれすぅ。」
「別に、もう大丈夫なのじゃっていっても・・・のびてるのじゃ。」
和夜は苦笑いしながらテムを見ていた。チャオの方はテムの声に弾かれる様に寝ぼけ眼でゆら〜りと立ち上がった。
「な〜お・・・・。」
チャオは静かに和夜の背後に迫っていった。口が軽く開かれていて牙が不気味に光っていた。