地底の決戦(後編)

プレアとシェイリーは走っていた。
「シェイリーはん。あそこまで行けば合流できそうですわぁ。」
「はあっ、はあっ、やったー。休めるー。」
シェイリーは息も絶え絶えに言った。
「下も全力移動してるんやねえ。黙ってて構へんから聞いててやぁ。多分下は、何かから逃げてる思うんですわぁ。せやから着いたら、分かれて迎撃しまひょ。」」
プレアは、シェイリーが転ばないか心配して後ろを見て言いながら走っていた。シェイリーは聞こえていたが、頷く余裕も無かった。

その頃下の方も、何人かバテ気味になっていた。
「ト、トロさん・・・。わ、私・・・・もう・・・。」
セシールは赤い顔を通り越して青い顔になり始めていた。
「うわわわわ!は、走るのまだなのー?」
流石に焦ったトロは前に向かって叫ぶ。
「後、ちょっとだ、死にたくなかったら走れ!」
後ろを向かずに、包帯に血が滲んでいるソニアが言う。本人も決して楽じゃない。
(私も駄目かもしれない・・・・。)
黙ってトロの前を走っているカルーネも平気そうに見えるが、かなり参っていた。そんな中で無言ながらフェリアーテはエネミーの次を走っていた。

先に出口付近に到着したプレアは穴の中へ向かってAARを構えた。
「よう、息整えてやぁ。それまでに敵が着たらうちが踏ん張るさかい。」
「はあっ!はあっ!」
答えたいが息を切らして頷くのが精一杯のシェイリー。何とかヴィスクーだけ取り出すが、まだ構えられない。
「うちのお仲間が来ますぅ!」
プレアの言葉に緊張するシェイリー。そして、無理矢理ヴィスクーを構えた。
「フェリアーテはん。急いでなぁ!」
プレアの声を聞いたフェリアーテはエネミーを抜いて先に出口に踊り出た。すぐに急転換して、エネミーや後続の全員を左右に振り分けた。そして、それが終るとその場に崩れ落ちた。
「フェリアーテはんっ!」
「あ、あたいは・・・・はあっ、いいから・・・はあはあ・・・後から来るの頼むよ・・・。」
プレアの焦った言葉にその場で軽く手を上げて答えた。
「姉さん!?」
「お姉はん!?」
今度はシェイリーの口から出た言葉に驚くプレア。当の本人のカルーネは酸欠で倒れ込んでいた。
「はあっ、はあっ・・・。そこの誰だか知らないが、ヴィスクーを私に貸してくれないか。その間に皆の介抱を頼む。」
ソニアはシェイリーに言う。
「いや、それはお姉さんに任せるよ。その傷じゃあ、反動のあるこれは辛いよ。これでも腕良いから見ててよ。」
シェイリーの言葉にソニアはプレアを見る。プレアは黙って頷く。それを見て、安心したのか、まずフェリアーテを引き摺って穴の横に移動した。そして、ヤスミを抜いてシェイリーの隣にしゃがみ込んだ。
(このお姉さん・・・慣れてる。)
シェイリーはちょっとびっくりしたが、向かい側のプレアを見て改めてしっかりと構え直した。
「ほえー。くらくらー。」
トロは倒れているセシールの様子を見ようとしているが、自分もヘロヘロでよろよろしている。その近くでエネミーとセシールがひっくり返ってピクピクしている。さながら、陸に打ち上げられて弱りきった水生生物の様だった。

「遠くから来るでぇ。個体数10!」
プレアの言葉に、深呼吸を一回してシェイリーが構える。
「今やぁ。」
プレアがAARの引き金を引くのとほぼ同時にシェイリーもヴィクスーの引き金を引いた。
(こんな遠くで!?)
流石にソニアはびっくりして先方を見ていた。あっさりと先頭の二人が倒れた。相手側は流石に驚いたのか、進軍を止めて防御に入る。しかし、その間も、二発ずつ命中させ、6人倒していた。
(プレアはともかく・・・この女・・・やるな。)
ソニアは驚いたのと何だか嬉しくなって少し笑っていた。
「向こう止めたんはええねんけどぉ、反対側からも来てますわぁ。」
「何っ!?」
「ええっ!?」
プレアの言葉に、ソニアとシェイリーは驚いて思わず声を上げた。
「個体数・・・25!向こうも増援で10に戻りましたわぁ。こらぁ、あきまへんわぁ。」
「万事休すか・・・。」
ソニアは苦い顔をして言った。
「ねえ、ちょっと大丈夫?そっちもー!しゃー?」
セシールは返事無しでぐったりしている。エネミーの方は相変らずピクピクしていて返事は無い。カルーネとフェリアーテもせーはー荒い息をして倒れ込んだままである。
「あかん、包囲され始めてるわぁ。」
その声と共に、外側から銃声がして数発がソニアとフェリアーテにそれぞれに当る。
「くっ!」
「うぐ・・・。」
「こんのぉ!」
プレアが一人に対して撃ち返すが焼け石に水状態。全員が駄目かと思った瞬間・・・
「キシャーーーーーー!!!!」
エネミーが跳び起きて、咆哮を上げる。周囲の狙いが一気にエネミーに集中する。それを察したプレアがエネミーを抱え込んで一気に転がった。
「ふう、危ないですわぁ。」
「シャ!?」
エネミーは驚いていた。
「シャ。」
プレアはにっこり笑ってエネミーに答えた。そして、次の瞬間プレアのレーダーにとんでもない数の光点が浮かび上がった。
「個体数・・・300!?」
周囲の光点の周りや、まだ穴の中にいる光点の周りに一気に光点が増える。そして、多くのエネミーの声が聞こえる。さっきまで来ていた銃声もピタリと止んだ。少しして、光点が集ってくる。少しずつだがエネミーが見え始める。反射的にソニアはヤスミを構える。
「ソニアはん、武器しまってぇ。」
「しかし・・・。」
「ええから、早う!!!」
戸惑うソニアに問答無用でAARを突き付けていうプレア。流石のソニアも黙っままヤスミを大人しくしまう。それを見て、プレアもすぐにAARをしまった。
少しするととんでもない数のエネミーが集まってきた。
「うっわー・・・爽快だね。これは。」
トロは驚きと嬉しさでまじまじと見ながら言っていた。
「はあ・・・トロさ・・・ん!?」
一旦気が付いたセシールはとんでもない数のエネミーを見て驚いて気絶してしまった。
「あっちゃあ。」
トロは苦笑いしながらセシールを抱きかかえた。
「これは、一体・・・。」
「う・・・ん・・・・。」
シェイリーは驚いてポカンとしていると、カルーネが息を吹き返して起き上がった。それに会わせるようにフェリアーテもゆっくりと起き上がった。
「何だいこりゃ!?」
フェリアーテは起き上がった後、流石に驚いて声を上げた。
「シャシャ。」
そんなフェリアーテの所に一緒にいたエネミーが近付いてきた。
「お礼やそうやわぁ。命の恩人を見捨てる訳にはいかへんてぇ。」
「あああ、あたしの出番が無いー。」
プレアに通訳されてしまいトロが悔しそうに言った。
「ふふっ。ありがとう。助かったよ。」
フェリアーテはエネミーの体に額をつけながら言った。エネミーは言葉を理解しているかの様に頷いた。
「通じてるんやろかぁ?」
「しゃーしゃ?」
プレアが不思議そうに言うと、トロがすかさずエネミーの方へ聞く。
「シャ!」
短く言うと軽くフェリアーテの頭に手を置いた。
「えええ!?分かるの!?」
トロが驚くとシェイリーやカルーネだけでなくプレアも驚いた顔をしていた。
(フェリー・・・・。ふふっ、全くいつも驚かせてくれる。)
しかし、ソニアの方は納得したように小さく頷きながら口元だけが笑っていた。
暫くフェリアーテとエネミーはそのままだったが、両方ともどちらからとも無く離れた。
「トロでもプレアでも良いから伝えとくれ。あたいにとって境なんて無いってね。」
「はぁ?」
「オッケー。しゃーしゃ。」
プレアは言葉の意味が分からず首を傾げたが、トロは聞いたままを伝えた。エネミーは暫く動かなかったが、周りが見ても分かる位何だかとても嬉しそうにしてから手を上げた。そうすると、エネミー達が皆から離れ始めた。それに続いて一緒にいたエネミーも離れ始めた。
「しゃーーーー!」
トロは言いながら手を振る。エネミーは振り向いて手を振り返した。そして、再び仲間達と一緒に歩いて、皆の視界から消えていった。

「ほな、めでたく姉妹も再開出来た事やしぃ。しまいっちゅうことで帰りまひょ。」
「うぐぐ・・・。上手くまとめられたあー!」
プレアの言葉に悔しそうにトロが言うとセシール以外は笑った。セシールはその笑い声で目を覚ました。
「あら?エネミーが一杯・・・じゃないですね?」
不思議そうに言うセシール。
「後で、トロが面白おかしく話してくれるさ。な?」
「お、おう。」
ソニアからでた言葉にちょっと戸惑い気味で答えたトロだった。
「姉さん大変だった?」
「そうでもないかな?周りが大変だったんじゃないかな?」
「そっか、良かった。」
二人の会話は周りには聞こえていなかったが、プレアだけには聞こえていた。
「あかんやろぉ・・・。皆ボロボロやしぃ・・・。しかも・・・・チャオはん・・・・無駄足やわぁ。」
ポツリと呟いた。


「にゃんですと!?もう終ったのかにゃ?ま、まあ、いいにゃ。そりじゃあお留守番お願いだにゃ。」
チャオはビジフォンを切った後暫く無言だった。少し遠くの方で水の音がしていた。プレアからのビジフォンを聞いてホッとしていた反面ふつふつとやり場の無い怒りが込み上げていた。
「あたしの心配はなんだったんだにゃーーーー!!!」
静かな洞窟にチャオの虚しい叫びが木霊していた。