地底の決戦(前編)
(立つと肩の高さか・・・。最低でもしゃがんでか、座って接近武器で応戦は厳しい・・・。)
ソニアはヤスミノコフを構えながらも、考えていた。
「なあ、トロ。」
「ん?何?」
声を掛けられたトロは不思議そうにソニアの方を見た。
「エネミーに聞いて欲しい。内容はここに穴を掘れないか。それと、こんな風に出来るかどうかなんだが・・・。」
そう言ってソニアは、ナイフを取り出して岩に形を作って説明した。
「うむむ?良く分かんないけど、聞いてみるね。」
「しゃーしゃ?」
トロが聞くと伏せっぱなしだったエネミーが顔を上げる。
「シャー。」
「しゃしゃーしゃ、しゃーしゃっ。」
「シャシャ。」
暫くトロとエネミーの会話が続いていた。
会話中、ソニア以外は緊張していた。
「カルーネ。あんた何か武器扱えるのかい?」
フェリアーテは丸腰のカルーネを見て聞いた。
「一応いつでも、こういうものは持ってるけど・・・。」
そう言うと、スーっと右腕の所に盾が出て来る。その後、軽く左腕を振ると見た事も無い斧を持っている。
「お、斧ですか?」
セシールはまじまじと見ながら言った。
「うん。妹がね、剣とかよりこっちの方が戦い以外にも使えるからって持たせてくれたんだ。」
「分かったよ、カルーネは接近ね。セシールは?」
「私は、どっちでも大丈夫です。」
「じゃあ、とりあえずはソニアと二人で来たら銃で応戦して、あんまり乱戦になるなら、武器変えて戦っておくれ。」
「は、はいっ!」
緊張した表情でセシールは答えた。
「ふふっ。なーに、そんなに緊張しなくても大丈夫さね。皆がついてるよ。」
フェリアーテは微笑みながら肩を軽く叩いた。
「この位なら楽勝だって言ってるよ。」
「よしっ、だったら早速掛かってくれ。順番はこの通りで頼む。」
ソニアはトロに説明して、更にトロがエネミーに通訳する。そうすると、エネミーは凄まじい速度で岩盤を掘り始める。それには、全員がびっくりする。完全にエネミーの方に目が行く。
〈この速度なら、十分間に合う!)
ソニアは驚きながらも確信していた。
そうこうしているうちに、道になっている両端に壁が築かれ、更にその中は掘られて一段低くなっている。
「これなら、立って相手を応戦出来る。それに、大人数は入って来れない。」
「流石はソニアだね。」
フェリアーテは出来上がったものを見ながら感心した様に言う。
「いや、さっきと同じでこのエネミーのおかげさ。そして、エネミーと通訳出来るトロがいてくれたおかげだ。出来は文句無し、いや正直私が思っていた予想以上の早さに出来だ。皆とりあえず銃を渡すから、最初は接近して来る前に応戦しよう。
銃に自信が無ければ、接近武器を構えて壁に張り付いていてくれ。出来は良い、そんじょそこらの武器で叩いた所でびくともしない。それと、混乱しない様にそれなりの説明を・・・。」」
そう言ってから、ソニアはフェリアーテ、トロ、カルーネに銃を渡しながらこの後の戦闘について全員に説明した。そして、説明が終ってからトロに声をかけた。
「そうだ、トロ。戦闘前にそのエネミーに二つ伝えてくれ。」
「あいさっ。」
「絶対に守って上まで送り届ける事と、後で礼をしたいから欲しいものがあったら考えておいてくれとな。」
「うっしっし〜。おっけ。」
トロは嬉しそうに笑って答えた。
「しゃしゃ」
「シャッ!?」
「しゃーしゃー。」
トロは話途中で、ソニアを手で見せてから更に続けている。
「シャ!」
「分かったってさ。」
ソニアはエネミーの方を見て、一回だけ頷くと壁の隙間から外を狙う様に膝を立ててヤスミノコフを構える。
「皆、正念場だよ。気を抜かないでいくよっ!」
フェリアーテの言葉に皆頷く。エネミーはその場で座って周りを見ていた。
バシュッ!
「ぐわっ!」
少し時間が経って、何も物音のしなかった回りの沈黙を破ったのはソニアのヤスミノコフの一発だった。
「足音を消してるが、近くに複数いる。」
それだけ言うとソニアは再び牽制で数発ヤスミノコフを撃つ。中には緊張感が走った。
中の布陣は道の上側の外壁に張り付いているのがトロ、少し内側にセシール。真ん中にエネミーとソニア、少し下側にフェリアーテ、下壁に張り付いているのがカルーネ。全て、ソニアの指示通りになっていた。
そして、一気に上側、下側の隙間から入り込んでくる。両方ともショットを持ったロボだった。
丁度真横にいる、トロとカルーネは一気にロボ本体でなくショットに向かって一気にハリセンと斧を振り下ろした。トロの方は撃たれる直前に足元に照準が行き、地面に撃つ形になった。そこにセシールとソニアの一斉射撃が当たる。トロは更に相手のバランスを崩すのに顔面を叩く。仰け反った所に更に二人の弾が当たり火花を散らせて倒れ込む。
片や、カルーネの方は斧でショットを破壊した所で、フェリアーテの撃った弾がロボットの喉元に当たる。カルーネの二振り目で喉元を破壊、その間にフェリアーテは胸部に当てる、カルーネは後を追って更にそこに狙いを定めて斧を振る。
2ヶ所から火花を散らせて倒れ込んで動かなくなった。
(随分慣れてるね。ちょっとぼーっとしてるかと思ったけど、かなり良い戦力だね。)
フェリアーテはカルーネの良い動きに感心していた。
息つく暇も無く第二波が入って来る。今度は、接近武器を持ったのが一人と、銃を持ったのがそれぞれ入ってくる。
中にいる方は迷う事無く、トロとカルーネは接近武器を持ったのを相手して、内側にいる方がそっちを無視して、銃を持った方を一気に片付ける。その後で、トロとカルーネはしゃがみ込んでそれぞれ武器を受ける。
その間に、内側が頭を狙って撃つ。無防備な方向からの攻撃に倒れる。
(す、すげー!ソニアの行った通りだ。)
(ソニアさんって一体何者なの!?)
(今日の斧いまいちだなあ。)
(流石はソニアだね。さあ、次の段階だね。)
カルーネを除いては皆、驚いたり感心したりしていた。そして、布陣を入れ替えるべく動き出した。相手の方は流石に入りずらいらしく少し時間が空く。これもソニアの読み通りだった。
まず、フェリアーテが下側の壁に向かって移動。張りついた所でインペリアルピックに持ち替える。それを確認したカルーネが上側の壁へ行きトロと並んで迎え撃つように構える。
ソニアは、下側を狙う様に向きを変え、セシールは上側を狙う為にそのまま。
エネミーの方は何か思いついたらしく、床を静かに掘り始める。流石に今のこの状況では誰も、エネミーのその行動には気が付けなかった。
「第三波、来る!」
小さくソニアが呟くと、背中合わせにしているセシールは銃を握る手に汗をかいていた。
「セシール。先に手を拭いとけ。こっちは向かなくて良い。大丈夫だ、このメンバーなら乗り切れる。」
「えっ!?あ、は、はいっ!」
(ソニアさんは心を読めるの!?)
セシールは驚きながらも、着ている服で手を拭いてから改めて銃を構え直した。