狂い出す歯車(チャオのアカデミー時代秘話(後編))
チャオとサテラはあの日以来、すっかり打ち解けていた。
ただ、アカデミー内ではいちゃつくことなくそれぞれの勉強をこなしていた。
だから、二人が付き合っている事実を知っているのは極少数だった。
そんな幸せな二人の裏ではある企みが同時進行していた。
当然二人は知る由も無かった。
「ええ、こういう事で如何でしょう?」
ビジフォンの前で座って話す女性は相手に問う。
「そうですね、ではそう言う事で・・・。」
それだけ相手が言うとビジフォンが切れた。
「絶対にあの訳の分からないニューマンにたぶらかされたあの子の目を覚まさせないと・・・。サテラ家がこんな所で変な血を入れて貰っては困りますからね。」
女性は厳しい表情で呟いていた。
「チャオ、チャオ〜。」
「にゃ?」
ひそひそ声で後ろから呼ばれたチャオは振り向いた。
「にゅ?ルミナス、声潜ませてどうしたにゃ?」
「いいから、ちょっとこっち来て。」
チャオは訳が分からなかったが、真剣な顔をしているルミナスを見て黙って着いて行った。ルミナスは人気の無い所まで来て振り向いた。
「あのね、チャオ。実はね昨日ナルが何者かに襲われたの・・・。」
「にゃんですと!?」
ルミナスは苦しそうに言う。それを聞いてチャオは驚きを隠せなかった。
「そ、それで、怪我の具合はどうなんだにゃ?今何処にいるにゃ?メディカルセンターかにゃ?」
矢継ぎ早に質問するチャオにルミナスは黙って何度も首を横に振っている。
「ま、まさか・・・そんにゃ・・・冗談だにゃ?」
チャオはその場でへたり込んだ。
「ナル・・・酷い暴行を受けた後で・・・運ばれた時にはもう・・・。」
ルミナスは泣きながら言う。
「そ、そんにゃ・・・。」
チャオは愕然とした。一瞬目の前が真っ白になった。
チャオ、サテラ、ルミナス、ナルの四人はアカデミーで出会い珍しいカルテットとして結構知名度が高かった。
チャオはその頭の良さで、サテラは家が富豪という事で、ルミナスは綺麗な女性として、ナルは男らしさで、それぞれ有名で好かれていた。
ナルはいろいろな女性と付き合っていたが、相性が良い相手がいないようだった。実際にチャオにも言い寄ったが、遠回しに言った為理解されていないまま、あっさりと断わられた。最近ではルミナスと良い雰囲気だという噂がちらほら聞かれていた。
ナルはチャオが落ち込んでいたり、躓いている時良く精神的に助けてくれた。ルミナスの様に丁寧ではないが、ストレートな意見がチャオは好きだった。
口はちょっと悪目だったので、チャオと喧嘩も絶えなかったが、後腐れなくその場で激突して納得した方があっさりと負けを認めた。結構いいコンビとして見られていた。
「にゃんで・・・ナルが・・・あいつ、口は悪いけどいい奴なのににゃ・・・どうしてだにゃ〜〜〜!」
チャオはその場で叫んだ。ルミナスはその叫びにその場で泣き崩れた。
チャオ、サテラ、ルミナスは三人でナルの式に出席した。
ナルの両親は泣き崩れていた。三人は言葉を掛けられなかった。
チャオはそれから犯人探しに躍起になった。
「絶対に犯人を見つけてやるにゃ!」
ルミナスとサテラは危険だと止めたが、チャオの想いを止める事は出来なかった。
そして、チャオはついに犯人達を割り出した。
「にゃんですと!?」
チャオはモニターを見て驚いていた。
「コルファ様。」
サテラはうんざりした顔で声の主を見た。サテラの本名は「コルファ・サテラ」。本名で呼ぶ人は少ない。親族か、今ではチャオくらいのものである。
「止めてくれないかな。私はその呼び方を貴方に許した憶えはないんですけれどね。」
不機嫌な顔をしてサテラは相手に言った。
その相手とは、サテラ家と同じ規模の富豪「フィアール家」の長女、「アルダ・フィアール」だった。容姿端麗なのだが、性格がちょっとキツイ。サテラはアルダの性格が嫌いだった。
「そうおっしゃられるのも、後少しですわ。」
意味ありげに笑いながらいう。
「どう言う事だ?」
サテラは滅多に怒らないがどう見ても怒気を含んでいる表情で言う。
「さあ?そのうち分かりますわよ。」
サテラは踵を返してその場を早足で去った。
(まさか・・・ナルの死と何か関係が?)
サテラは嫌な予感がしていた。
「止めてよ!」
ルミナスは裏路地で知らない男達に絡まれていた。
「そんな事言わずにさあ。」
男達は口を塞いで無理矢理ルミナスを黙らせた。
「そこまでにゃ。誰に頼まれたのかも知ってるにゃ。死にたくなかったらさっさと去るにゃ。」
(チャオ!?)
ルミナスはチャオを見た時に悪寒が走った。いつものチャオとあからさまに雰囲気が違う。
「何だ、でめえは?」
ナイフを持った一人がチャオに向かっていく。男がナイフを振り上げた瞬間、何かが光った。それと同時にナイフを持った方の腕が根元から落ち、腕の根元から鮮血が飛び散った。
「ギャーーーー!」
それを見たルミナスは気を失った。
「さあ・・・次は誰にゃ・・・。」
暗闇でチャオの目は無気味に光っていた。そう、その目は一学生の目ではなく実験体のそれだった。