地底の罠
(ん?浅瀬。結構遠浅ね。さっきの事もあるし・・・。)
セシールはかなり離れた所からそーっと水面に顔を出した。
かなり先ではあるが陸地になっており、先に続いているのが見える。流石に周りが明るいとはいえ遠くまでは良くは見えなかった。
(戻ってどうするか相談してみましょう。)
セシールは再び水の中に潜って、他の皆が待っている所へと向かった。
「それにしても起きないねえ。」
口を開いたトロはをはじめ、フェリアーテ、ソニア、そしてエネミーも気絶して目を覚まさない女性を覗きこんでいた。
「怪我は良くなってるはずだからもう気が付いてもおかしくないんだけどねえ。」
「一種のショック状態なのかもしれないな。ただ、今気が付いて貰っても、今度はエネミーを見て気絶する恐れはあるな。」
ソニアはそう良いながら、エネミーの方を見た。見られたエネミーは不思議そうにソニアを見返した。
「後は、足手まといになる可能性も高い。トロ、セシールは陸上で戦力に考えて良いのか?」
今度はトロの方を見て聞くソニア。
「そうねえ。フェリーやソニア程じゃないけど十分戦力にはなるよ。あれで、結構強いんだから。それに、接近戦ならエネミー君も心強いしね。」
トロは少し笑いながら答える。
(心強い・・・か?)
ソニアはなんとも言えない顔をした。
「お、セシールが戻ってきたね。陸地は見つかったのかな?」
セシールは少し離れた所から頭を出した。
(あれはエネミー!?!?)
流石に驚いて、少し陸離れていく。
「おーい、セシール。このエネミーは話通じるのだから大丈夫だよー。」
トロにそう言われると安心した様で上がってきた。
「あの反応の後、あの言葉で安心して戻ってくるのも何だかなあ・・・。」
「それだけ、トロの事を信頼しているって事さね。」
フェリアーテは呟くソニアに軽く肩を叩きながら言った。
「皆さん、奥へ続く陸地を見つけました。遠浅で途中からは歩く事になります。」
上がってきたセシールの言葉に皆はホッとした。
「さて、後はこの女をどうするかだが・・・。」
ソニアは再び気絶している女性を見下ろす。
「歩くんじゃあ起こした方が良いね。少々荒っぽいけど、トロ、そっち持って。」
「合点だ、姐さん。」
フェリアーテはそう言うと、トロと一緒に女性を両肩をそれぞれ抱えて水辺に来た。そして、屈んでがら開いている手で水をすくって女性の顔に勢い良くかけた。特に反応が無いとそれを繰り返した。」
「う・・・。」
流石に冷たかったのか、女性が目を開けた。
「ふあ?あれれ?シェイリー何やってんの???今日は友達多いねえ。うふふふ。」
「寝ぼけてやがる・・・。」
ソニアは女性の反応に呆れて呟く。
「よーし、ここは更にお目覚めの一発を〜。」
スパーーーーン!!!
そう言ってトロはハリセンでツッコミをいれた。女性は音にびっくりして目をぱちくりしている。
「驚いてるとこ悪いけど、名前聞かせてもらえるかな?」
「あ、私はカルーネ。」
「あたいはフェリアーテ。フェリーでいいよ。それと反対にいるのがあんたの命の恩人のトロ。それでもってあっちにいるトロにそっくりなのがセシール、後はソニアと名前の分からないエネミー。」
「エネミー!?」
一旦は普通に戻ったカルーネだったがエネミーを見て再び目をぱちくりして驚いている。」
「大丈夫!襲ってこないから。それでさ、妹さんって何処ではぐれたの?」
「あ、えっと、洞窟の部屋で突然消えてしまって。呼んでも返事が無いし・・・。」
カルーネは俯いて小さな声で言う。
「多分別の場所だろうな。気がついて早々で悪いんだが移動した方が良さそうだ。」
ソニアの言葉にはセシールだけが頷いたが残りは不思議そうな顔をする。エネミーの方はじーっと水面を見ている。
「良く見てみれば分かる。水位が上がっている。ここは直水の中に沈む。」
「皆さん、私の手に捕まって・・・。」
言いかけたセシールだが、エネミーの方を見て言いよどむ。
「真ん中はセシール、右側で外に向かってトロ、ソニア、カルーネ、左にあたい、エネミーで良いね?」
「良いんですか?」
フェリアーテの助け舟にも、セシールは聞き直す。
「エネミーは、あたいかトロじゃないと不味いだろうからね。あたいは構わないから早く行くよ。」
フェリアーテはそう言ってセシールの左手を取った。トロもそれを見てセシールの右手を取って、左手をソニアに差し出した。ソニアは先にカルーネの右手を左手で掴んでから、トロが差し出した手を左手で掴んだ。
そして、全員で並んで水の方へ向かって歩き始めた。カルーネもエネミーも恐々と水面を見ている。
「大丈夫だよ。」
フェリアーテはエネミーと繋いでる手を軽く握ってそういうと、エネミーは言葉が通じた様に頷く。
「安心しろ。息も出来るしこれからは夢を見るようなものだ。」
ソニアの言葉の意味がいまいち分からないカルーネの方は苦笑いしながら首を傾げていた。
そして、いよいよ足から水に入る。
「シャ!?」
一番最初に驚いたのはエネミーだった。さっき、冷たさで死にそうになっていたのに冷たくない。そして、フェリアーテの顔を見るが、フェリアーテの方は何も言わず軽く微笑み返すだけだった。
次にカルーネが驚いた時には、エネミーも同じ驚きを感じていた。
(えっ!?息が出来る???苦しくない!?!?)
〈シャシャシャ!?!?!?)
カルーネと、エネミーは驚いたが決して口を開こうとはしなかった。
そして、自分では泳いでもいないのに、すいすいと水中を進んでいく。カルーネは、ここで初めてソニアの言った言葉の意味が分かった。
そして、浅瀬前まで付くと全員ゆっくりと周囲を警戒しながら水面から顔を上げた。確かに先に陸地が続いている。全員で一気に浅瀬に上がった。
「何か来そうになったら、あたいが何とかする。あたいだったらこの位の水温だったら平気さね。エネミーは大丈夫か聞いてくれるかい?」
「しゃーしゃーしゃ?」
フェリアーテの言葉にトロがエネミーに聞く。
「シャシャ!」
「こんなものなら、いつもと変わらないから大丈夫だってさ。」
「じゃあ、あたいとエネミーは手を放して臨戦体勢で行くね。」
「でも、かなり冷たいですよ?止めた方がいいんじゃあ・・・。」
セシールは心配そうに言う。
「なーに、大丈夫さね。心配はありがたいけど、何かあった後じゃ困るしさ、本当に大丈夫だから。ね。」
フェリアーテはセシールと繋いでいた手を放した。
「シャ!?」
急に冷たさが来たのでエネミーはちょっと驚いていた。フェリアーテの方は心配そうに見ているセシールの方を見て軽くウインクした。
暫く歩くと、遠浅だった水も無くなり完全な陸地になった。周りもすっかり岩場になっていて奥へと続いていた。5人と1体は一本道になっている岩場をゆっくりと進んでいった。少し行くと上りになっていた。ここは、どう言う訳か、下が結構平らになっていた。滑らない様にエネミー以外は慎重に進んでいた。
(おかしい・・・。)
ソニアは地形の変化に胸騒ぎを覚えていた。
「シャシャシャーーー!」
「皆!仲間と他の多くの血の臭いがするって言ってる!」
その言葉に、皆がピタッと止まり辺りをキョロキョロする。
(ん?周りの壁の高さが・・・肩の辺り!)
「皆その場に伏せろーーーー!!!」
ソニアの言葉にまず5人が伏せて、それを見てエネミーも伏せる。そして、その直後、
チュイン!チュイン!チュイン!!!!
右側の岩場の内側と、左側の岩場の外側であろう場所からかなりの着弾音がする。セシールとカルーネは顔面蒼白になった。
「あ、あはは・・・。」
トロは乾いた笑いを浮かべていた。
「良く分かったねえ。あたいは全然分からなかったよ。」
フェリアーテの言葉には、ソニア以外が全員頷く。エネミーは突っ伏したまま動いていない。
「正直、血の匂いって言ってくれなかったら分からなかった。血が消されていたんだろう。この場所で潜んでいる気配も無いのに血が飛び散る。何でか考えた。丁度ここの周りの地形は狙撃して下さいと言わんばかりに、向こうから見ると頭だけが出ている。それで、気が付いたんだ。エネミーのお陰さ。」
突っ伏しているエネミーの方を見て言うソニア。
「相手はプロで、しかも集団だ。仕留められなかったら、周りから出てくるかもしれない。皆用心しろ!」
ソニアはそう言ってから、ヤスミノコフを岩場の隙間に向けた。全員に緊張が走った。ただ、エネミーだけは分かっておらず相変らず突っ伏していた。