暗闇の激闘

プレアは走ってシェイリーの手を引きながらも、シェイリーの体の状態を調べさせていた。
「「プレア様。シェイリー様はかなり打ち身がありますね。走る時にも結構な負担になっていると思われます。」」
下級プログラムのL(エル)が言う通り、よく見ると時々痛々しそうな表情をしたり、足を引き摺っていた。
(このままやと、あかんなぁ。流石に手当てした方がええなぁ。)
プレアはゆっくり減速してから止まった。シェイリーはそのままの速度で走っていたので、後ろに引かれるような形になった。後ろに引っ張られる感覚に気が付いて不思議そうな顔をしながら、プレアに合わせて減速して止まった。一緒についてきている、シノワ達も止まって二人を守るように周りを固めた。
「どうしたの?何で止まるの???」
シェイリーは不思議そうな顔をして手を繋いでいるプレアに聞いた。
「体のかなりの場所に打ち身があるさかい手当てした方がええと思うてなぁ。このまま走り続けるのはしんどいやろうし、逆に途中でへたばってまうと思うてなぁ。」
「確かにあちこち痛いんだけど、今は姉さんの事が心配だしこの位・・・。って、ええっ!?触らないで何で分かるの!?打ち身目立ってないよね???」
びっくりした顔をしてプレアをまじまじと見る。
(くすくす。なんや、えらい変わった反応するお人やなぁ。)
「医療ソフトやとかも入ってるさかい分かるんよぉ。走っている間にシェイリーはんの身体データを取っていたんですわぁ。」
にっこりしながらプレアは答えた。
「なるほどねえ。プレアは何でも出来るんだね。」
驚き半分、感心半分の顔をして言うシェイリー。
「そんな事はあらへんよぉ。とりあえず、後でお姉はんに会うた時に心配かけへん為とこれからの時間短縮の為にも今のうちに治療しまひょ。」
「そうだね。じゃあ、お願い。正直結構辛かったんだ。」
申し訳無さそうに苦笑いしながらシェイリーは言った。
「ほなら、一番やりやすい体勢になってもろた方がええからぁ。壁を背にしてしゃがんでもろてもええかなぁ?」
「うん。よっこいしょっと。うわっ!」
しゃがもうとして痛みでバランスを崩して倒れ込みそうになった。プレアは掴んでいる手を無理に引かず、逆に手を離して素早く抱え込むようにして下敷きになった。
「プレア大丈夫!?」
流石にびっくりしてシェイリーが声を掛ける。
「くすくす。大丈夫ですわぁ。こんな床と喧嘩しても負けまへんよぉ。それにぃ、シェイリーはんは軽いさかい。」
「そ、そうかな・・・。」
シェイリーは軽いと言われて、ちょっとドギマギしてそっぽを向いて呟いた。
(この反応は、さてはシェイリーはん好きなお人にでも重いやとか言われたんやなぁ。)
「シェイリーはんは、うちの四分の一くらいやからなぁ。」
「ええっ!?プレアってすごい細いのにそんなに重いの!?」
更に驚いてシェイリーは下敷きにしているプレアを見ながら叫んだ。
「くすくす。うちはロボットで金属やからなぁ。重くて当然ですわぁ。もし、うちが逆にシェイリーはんに覆い被さってしもたら潰してしまいますわぁ。」
「あ、そっか。プレアって周りで見るロボットと外見とか全然違うから、ついつい人と勘違いしちゃったよ。」
頭を掻いて舌を出しながらシェイリーは言った。
「ほなら、体動かしますさかい、気いつけてやぁ。ただ、体に力入れると痛むかも知れまへんからぁ、動かされるんだなという心構えだけしといてえなぁ。」
プレアは器用に下から入れ替わってシェイリーを座らせた。
「はやや。ちっとも痛くないや。何だかマジックとか見てるみたい。」
「くすくす。ある意味マジックはこれからかなぁ。」
プレアの言葉にシェイリーは今度は何をしてくれるのかという好奇心の目が光っていた。
プレアの両腕の肘から先が変形していく。液体金属のようにどんどん変形していき、最終的には、直径六十センチの平面があるつぶれた円錐のようになった。
「そのまま、楽にしててなぁ。」
そう言うとプレアは、その両方で体の部分を挟み込むようにする。体には直接つけずに五センチくらいあけてゆっくりと動かしていく。最初に右足の先からスタートする。挟み込むと、綺麗な水色の光が両方から出てくる。
「ふあぁ・・・き、気持ちいぃ・・・。ほえ〜。」
足に照射されると、何ともいえない感覚で、それにぽわーんとした顔になってふにゃーんとなって、シェイリーは思わず甘い声を上げた。
(くすくす。人にやると皆こんな反応するんやなぁ。機械系やとこういう反応無いさかい見てて楽しいわぁ。)
プレアは反応を楽しみながら体中を照射していった。シェイリーの方は途中で気持ち良くなって寝息を立てていた。
「はい、終了やわぁ。って寝てしもうとる。しゃあない、後で起きてもらうとしてぇ、急がなあかんのは変わらんさかい行きまひょ。ちょっと揺れるんは堪忍やでぇ。」
照射し終わって、腕を元に戻してから、再度身体データを取ってプレアは起こさないようにゆっくりと抱え上げて再び走り出した。

暫く行くと、ドアが開いていてその先が暗くなっていた。
「よっしゃ、皆一気に突っ切るでぇ。」
プレアがそう周りに言った途端、
「「お待ち下さい、プレア様。」」
滅多に出てこない上級管理プログラムのPULA(プラ)の警告が突然頭の中に響いたので、プレアは急停止した。それに合わせて、周りも止まった。
「「PULA、あんさんが出てくるやなんて珍しいわぁ。どないしたん?」」
PULA(プラ)はプレアの中にあるプログラムの中でも数少ないプレアの次に権限がある上級管理プログラムで、その中でも滅多に表には出てこないタイプである。それだけにプレアは不思議に思って聞き返していたのである。
「「プレア様自身お気付きだと思いますが、あの中には数多くのロボットの熱源反応があります。きっと待機状態や沈黙状態でいるものも他にいるでしょう。そんな中にシェイリーさんを抱えたまま入るのは危険かと思いまして、余計な進言と思ったのですが出て参った所存です。」」
「「つまりは、ここでええ策があるいう事やなぁ?聞くさかい言うたってぇ。」」
プレアは久しぶりに出てきたPULAに喜びながらも、自分の考えとどう違うのかを聞きたい事もあり優しく言った。
「「安全策として、まずは、ここでシェイリーさんを起こして中の状況が分かるならお聞きになる事。この構造や部屋の大きさからいって、何処かに照明装置があるかと思います。その場所や、その先の出口の事も聞いて今まで通りすぐに進めば良い訳ですね。プレア様も薄々は感じられていると思うのですが、今まで来た道は一本道です。つまり、シェイリーさんはあの中を越えてきたはずです。体中の打ち身も、見えない所で必死にシノワゴールドや他のものから逃げていた証拠ではないでしょうか?逆にあれだけいるのに暗闇で見えずに打ち身だけで済んでいるのは正直奇跡的だと思うのですが・・・。
そして、お話を聞かれた後に、ここにいる者達をシェイリーさんを守らせるものと、プレア様自身を守らせるものに分けます。プレア様は、武器を持たず両手をフリーの状態にして突入して頂きます。プレア様のお優しい性格は心得ておりますが、出来るだけ時間を無駄にしたくない状況ですから、ここは多少の犠牲は目を瞑って頂いて、出来るだけ早く、多く中にいるものを味方につけ内部を即制圧。その後に安全になった内部にシェイリーさんと一緒に入られるのが宜しいと思います。ご説明の時間を頂けただけの納得のいかれる策だと宜しいのですが。如何でしょうか。」」

PULAは恭しく言った後、プレアの答えを待った。
「「うちも、それは考えたんやわぁ。片腕でこのまま抱えて強行突破しようと言う選択も考えたんやわぁ。まあ、PULAの言う通り、ここは安全に行く事にするわぁ。時間も大切やけどぉ、今はシェイリーはんが最優先やからなぁ。おおきになぁ。迷いは吹っ切れたさかい。ええタイミングで出てきてくれて助かったわぁ。また、よろしゅうなぁ。」」
「「はい。プレア様のお役に立てた上にお褒めのお言葉を頂けて光栄です。また、何時でもお呼び立て下さい。何かの際にはお邪魔かもしれませんが、進言させて頂きます。それでは失礼致します。」」
PULAの声が消えてからプレアはその場でゆっくりとシェイリーを下ろした。壁に寄りかからせてから軽くゆすって起こした。
「シェイリーはん。シェイリーはん。」
「ん?ああ、寝ちゃったんだ。ごめんね。って、ここ何処?」
シェイリーは寝覚めが良いようですぐにパチッと目を開いてキョロキョロしながらプレアに聞いた。
「多分、シェイリーはんが、打ち身作った原因であろう場所の前やわぁ。」
「って事は、あの暗い部屋の所か。部屋の明りをつける場所は分かったんだけど、とにかくシノワゴールドから逃げるのに必死で構ってられ無かったんだよね。」
当のシノワゴールドの方はさっきの逆でシェイリーを守る様に立っている。
さっきの事を思い出したのと今の状況に、シェイリーは苦い顔をしながら言った。
「出口が数ヶ所ある可能性があったとして、何処から入り込んだかわかるやろかぁ。」
「そう言われると、はっきり言って自信無いかな。」
「ふむふむぅ。そうと分かればぁ、時間欲しい所やけどぉ確実に行きまひょ。とりあえず、うちとの突入組とシェイリーはんの護衛組に分けるでぇ。それとぉ、シェイリーはんハンドガンはいけますかぁ?」
「物によるかなあ。」
プレアは腰からヤスミノコフを取り出した。
「うわあ!ヤスミだあ!良いの?」
シェイリーは目を輝かせてヤスミノコフを見ていた。
「上手く使ってやぁ。万が一の時の護身用やからぁ。うちはあの中をスッキリさせてくるさかい、それまでここで待っててなぁ。」
「うんうん。」
半分聞いてない風でシェイリーは渡されたヤスミノコフに見入っていた。
「ほな、分けたさかい行って来ますわぁ。お前達、シェイリーはんの事が最優先やからなぁ。」
その言葉に、シェイリー護衛組はそれぞれ任せて下さいと言うそぶりをした。

プレアはその様子を見て頷いてから、くるりとシェイリーに背を向けて暗闇の部屋に突入していった。

部屋の中はかなりの数の敵がいるのが入った瞬間確認出来た。
(PULAの言う通り、良うこの中を打ち身だけで済んだもんやわぁ。)
感心しながらも、辺りを見渡してシェイリーの言っていた照明装置を探した。そうすると、遠くの方にボーっと光っている部分が見える。
(あれやなぁ。せやけど結構な距離がある。しゃあない、まずはこの部屋制圧するでぇ。)
「皆行くでぇ!」
プレアの声に突入組であるシノワレッドとカナバイン数機はそれぞれ散らばった。

プレア自身は上空にいる敵のカナバインを無視して、一気に地上にいる敵に向かっていった。味方のカナバインは固まって一斉に敵のカナバインを各個撃破し始めた。ここが、司令塔がいるかどうかの違いだった。シノワレッドはプレアにぴったりくっついて、シフタとデバンドを唱える。
ギャランゾもいたが、プレアとシノワレッドは素早くミサイルを避けつつ先に動きの速く先行して来るシノワ部隊をわざと自分の近くに接近させて、両腕で二体ずつ自分の味方にしていった。制空権を得つつあった味方のカナバインはギャランゾのミサイルで一機ずつ破壊されていった。
遠くからくる、ギャランゾのミサイルと、ギルチッチのレーザーを味方にしたシノワを盾にしつつ前進した。ギャランゾのミサイルと、カナバインの電撃、さらにギルチッチのレーザーの猛攻に、味方にしたシノワ達は次々と破壊されていく。
(元は敵とは言え、心苦しいわぁ。)
プレアは口元を歪めていた。ギャランゾに一気に接近して味方につけ、完全な盾と攻撃手段にした。気がつけば上空の味方のカナバイン残り一機になっていた。
「ほんまにぃ・・・堪忍なぁ・・・。」
プレアはギャランゾの影から上空を見上げて、悲しそうな顔をして呟いた。
今度は逆に敵の方のカナバインがミサイルで次々と破壊され始めた。プレアとシノワレッド達の方はギャランゾの影からレーザーを避けつつギルチッチと乱戦状態になり、プレアはギルチッチを次々と味方にしていった。そして、ギャランゾのミサイルとギルチッチのレーザーで一気に上空に残ったカナバインを破壊した。その後も、残った敵のギルチッチを制圧してようやく部屋の内部を完全に制圧した。
「ふう。思ったよりは早かったかなぁ。皆キズだらけのボロボロやけどぉ、ほんまに御苦労はん。」
プレアの言葉に周りにいる、ギャランゾ、ギルチッチ、シノワ達はそれぞれ大人しくしていた。
自分に歯向かうものがいなくなったのをもう一度確認してからプレアは照明装置の方へ走っていった。

「「プレア様。出口3ヶ所なのは目視で分かりますね。現在のプレア様の方から見て三時方向に複数の動体反応と熱源反応。この熱源はヒューマンかニューマンと思われます。」」
突然のPULAの言葉に驚くプレア。
「「照明は点けへん方がええやろかぁ。」」
「「もし、お待ち頂けるなら、ギャランゾの影に隠れて頂き、今従えてるもの達をばらして自然にいるように配置して下さい。この部屋に急接近しています。」」
プレアはすぐに残っているもの達に命令してばらけさせた。
「「うちは、来る連中に集中するさかい、シェイリーはんの周囲に異変が無いかだけずっとサーチしててえなぁ。」」
「「かしこまりました。シェイリーさんの所だけでなく他でも変な反応があったら、私もしくは他のものがお伝え致します。では、沈黙致します。」」
プレアは緊張した面持ちで改めてAARを構えて、複数の熱源反応を照明装置の前で待った。照明装置は他のどの方向から見ても分からない様に、ギャランゾで隠していた。

「プレアさん遅いなあ・・・。姉さんも大丈夫かなあ・・・。」
シノワゴールドとギルチッチとカナバイン一機に守られているシェイリーはそう言いながらも、ヤスミノコフを持ってレーザーサイトをいろいろな部分に当てて、撃ちたくてうずうずしていた。