地底湖(前編)

「ソニア、大丈夫かい?」
「ああ、そっちはどうだ?」
フェリアーテは体を動かしてみたが特に痛い所は無い。
「あたいは擦り傷だけで何処も打ってないね。しかし、洞窟にこんな所があったとはね。」
「流石に私も驚いたな。うん、私も擦り傷だけだ。どこも痛くはない。」
二人は少ない陸の孤島になっている部分に、背中合わせでしゃがみ込んでいた。周りは幻想的な所で地底湖が広がっていた。光コケが湖底にも、離れた壁にもついていて微妙だが綺麗に光っていた。
「しかし、困ったね・・・。周りは意外と深そうだし、向こう側の陸地が見えない。」
フェリアーテは少し溜息混じりに言った。
「慌てる事はないさ。少し休んだら水が大丈夫か確かめる所から始めよう。たまにはゆっくりしろっていう事かもしれない。」
落ち着いた口調でソニアは言った。
「ふふっ。いつも思うんだけどさ、ソニアといると安心出来るね。こうやって背中を合わせていて心配ないのは嬉しいね。悪いけどさ、あたい昨日あんまり寝て無くてさ。ちょっと寝させて貰うよ。」
「私のパートナーだった奴等は皆居なくなってしまったが、フェリーは未だにいる。ふふ、私も嬉しいよ。ゆっくり寝てくれ。私はこの綺麗な景色を眺めさせて貰うとするよ。」
ソニアの言葉を聞ききったフェリアーテはその場で目を閉じた。ソニアは落ちてきた真上を見上げたが、暗くて良く見えなかった。
暫くして、フェリアーテの髪の毛が水分を含んでストレートになり、ソニアの背中にかかった。ソニアは一瞬ビックリして振り向いたが、状況を見て驚いてる自分が可笑しくなって少し笑いながら再び前に向き直った。
(本当にフェリーは不思議な人間だ。チャオの天真爛漫さや破天荒さに初めは目を奪われていたが、こうやって一緒にいる回数や時間を経て私にとってはフェリーの方が近い存在であり、また不思議とホッと出来る存在だと気が付いた。今まで数多くの人間と組んできたが、フェリーは今までに会った事の無い特別な人間なのかもしれない。人に心を許す事は滅多に無かったが、フェリーには自然とそれが出来る・・・。本当に不思議だ。しかも、悪い気はしない。)
ソニアは少し微笑みながら、美しく光る水面を見ていた。

ドボーン!

暫くして突然離れた所で音がして、フェリアーテは目を覚ました。ソニアも音のした方向を見て、構えた。直後特に何事も無かったが、

ビシャーン!
ドボーン!

初めの音から少し遅れて、ほぼ連続で音がした。
「上から何か落ちてきたな。」
「もしかして、あたい等みたいに上から落ちてきたのかもしれないね。」
「ハンターだとして、ここか他の陸地まで辿り着けるかは怪しい所だな。」
「素直に助けにいけないのは口惜しいね。」
「まあ、ハンターじゃなくエネミーかもしれないから何とも言えんとこだな。」
二人は身構えながら、会話していた。
「どうなるか分からんから、さっきみたいに背中合わせになっておく。」
「あいよっ!」
音のした方はフェリアーテが正面になり、ソニアがその背中合わせになった。
着水音からは何も無く、さっき同様静かで、二人は緊張していた。


「いだだだ・・・がばがば。」
トロは着水の時に運悪くもろに体の前面を打ち付けてしまい、痛みに耐えていた。
セシールの方は本能的に綺麗に飛び込んだ。先に落ちていった女性をすぐに抱きかかえてから、痛がっているトロの手を取った。
先に落ちていった女性は頭を打っているらしく、完全に気絶していた。トロの方はセシールに腕をとられると急に苦しくなくなったのでびっくりしていた。
「おろろ???」
「トロさん大丈夫ですか?」
不思議がっているトロにセシールは心配そうに声を掛けた。
「ちょっと痛いけど大丈夫。そっか、これがテムの言ってた状況なんだね。ほんとに苦しくないや。」
「うふふ。とりあえず、気絶はしていますが先に落ちた方もいますので安心して下さい。」
「でも、ほんとに地底湖あったんだねえ。しかも、何だかとっても綺麗だし。」
トロは周りの光っている状況を見て素直な感想を言った。
「水自体もとっても綺麗で良い水ですね。自然浄化されていると思います。」
セシールは嬉しそうな顔をして言った。
「ラグオルのおいしい水になるのかな?飲んでも大丈夫かな?」
「ええ、全然平気ですよ。」
トロは試しに少し飲んでみた。
「!?ラグオルの変な水よりよっぽど美味しい。味もちょっとあるけど気にならないね。」
喜んでいるトロを見ながらセシールは微笑んでいた。
「ここで苦しくないのは良いんだけどさ、帰らないと不味いんだよね。陸地探してまずは上がらないと。その後で道か転送ゲート見つけないと。」
「そうですね。水の比重は普通ですから浮く事も簡単に出来ます。申し訳ないんですが、この方を抱えて少し浮いていて頂けないでしょうか?その間に上陸できる所を探してきますから。」
「オッケー。じゃあ、待ってるから。一時的に上がれる所でも良いからさ。そうすればゆっくりセシールが他の所探せるからね。」
「はい、じゃあお願いします。行ってきますね。」
セシールは気絶している女性をトロに託して、凄まじいスピードで二人から離れていった。
「本当に凄いよねえ。」
トロは離れていくセシールを見て驚きの声を上げた。


「ソニア。分かるかい。」
「ああ、何か近付いてくる。水中からだ・・・。」
背中合わせだった二人は前にインペリアルピックを構えるフェリアーテ、後ろにヤスミノコフを構えるソニアという形で、近付いてくる何かに備えた。

ザバッ!

二人から5mくらい離れた所に、頭が現れた。ソニアは反射的に引き金を引いたが、間一髪フェリアーテがインペリアルピックの柄で、銃を叩いたので弾は近くに逸れて着水した。
撃たれた方はその場で固まっていた。そして、恐る恐る両手を上げた。
「フェリー・・・。」
静かだが、少し怒気を含んでソニアが言った。
「何だとしてもいきなりは不味い。まだ距離はあるんだし、攻撃の第一波位はあたいが止めれるって。それにさ、あたいの知り合いだよ。」
「えっ!?」
苦笑いしながら言うフェリアーテの言葉に驚くソニア。
「悪かったね、セシール。一人なのかい?」
セシールは撃たれた恐怖で固まっていたが、聞き覚えのある声の方を恐る恐る見た。
「あ、フェリーさん。とその方は?」
フェリアーテを見て安心して笑顔で聞いたが、もう一人の方は流石に第一印象が悪かったので訝しげに見ていた。
「ああ、二人は初対面か。こっちはソニア。あたいが一番信頼出来て背中を預けられる相手だよ。でもって、あっちはセシール。ソニアはハオ知ってるから、そのハオの知り合いの知り合いってとこだね。」
「ソニアだ。さっきはすまなかった。近付いてくる時のスピードが凄まじかったから、この距離だと一瞬で襲われると思って引き金を引いてしまった。」
ソニアはすぐにセシールに頭を下げて謝った。
「いえいえ、正直驚きましたけど、当りませんでしたしね。ソニアさんの言う事も分かりますから。もし、私がお二人を襲うつもりだったら、この水辺だったら一瞬でそこまで行けるのも事実ですからね。」
にっこり笑いながら結構凄い事を言うセシール。
「それでですね、ちょっと離れた所にトロさんと知らない方なんですが助けた方が一人います。ここに連れてきても宜しいでしょうか?」
「構わないよ。それで、セシールが他の所を探してくれるって事だろ?」
「はい、流石はフェリーさん。お察しの通りです。それではすぐに二人を連れてきますね。」
セシールはそう言うが速いかすぐに水中に姿を消した。
「彼女は一体何者なんだ?」
ソニアは見送りながら聞いた。
「水の星のお姫様だったんだってさ。陸上ではあたいらの敵じゃないけど、水の中じゃ適わないと思うよ。まあ、良い子だからこっちに牙をむく事は無いけどね。」
「なるほどな。それに戦闘向きの性格をしていない。」
「まあ、怒らせたりどうしようもなくなった時の度胸はあると思うけどね。」
「微妙かな・・・。ただ、フェリーがそう言うならそうなのかもな。」
ソニアは冷静に受け答えしていた。
「でも、さっきは悪かったね。邪魔しちまって。」
「フォローの言葉があったからな。あれで納得した。逆に今の言葉の方が意外だ。」
「ふふっ。あたいも同じ事考えていたからさ。あたいもあそこでは引き金を引いてたと思う。ただ、ソニアがあたいみたいに柄で叩く事は無かったかなと思ってね。正直言ってあの場を収める為の苦し紛れの言い訳だったかな。一時的とはいえ悪者にしちまって悪かったね。」
苦笑いしながら言って謝るフェリアーテ。
「ふっ。構わないさ。そこまで気を使ってくれた事と、今の事を正直に言ってくれた事でチャラだ。」
ソニアは少し笑いながら言った。
(フェリーの言う通り、逆の立場だったら銃を叩く事はしなかっただろう。言わずして理解出来るパートナーも今までに何人かいた。だが、こうやって種明かしをする相手は初めてだ。あたしがどう思っているかは別で、あたしをいろいろな意味で信用・信頼してくれている証拠と考えて良いだろう。私には無い能力・出来ない事が出来ると言った所かな。)
ソニアはフェリアーテの事が更に気に入っていた。