プレア起動

一ヵ月後・・・
途中で何者かによってプリーの部屋が荒される事件があったが、犯人は見つからないままついにプレアの外装を含め全てが完成した。今日は全員の前でのお披露目となっていた。
「それでは、起動します。四人の方スイッチを押して下さい。」
司会役のメンバーがそう言うと、ヴァイリス博士、ゼラム、ミール、アイリーの四人はそれぞれ起動スイッチを押した。
[PULEA・・・最上級プログラム起動。システムチェック・・・。ハード、ソフト異常無し。プレア起動します。]
無機物的な音声が流れ終わると低い起動音が鳴り始める。
通常のロボットには無い人間で言うまぶたの部分が動き、人間で言う瞳の部分が開いた。そして、滑らかな動きで手をついて仰向けの寝た状態から起き上がった。
全高は2mを越えて非常に大きかった。全体のボディの色はプリーの好きだった水色がベースの綺麗な色だった。一見プリーと見違えるほどの精巧な出来だった。
「みなはん、初めましてぇ。プレアですぅ。よろしゅうにぃ。」
プレアが話すとメンバーの皆から歓声が上がった。プレアはびっくりしてきょとんとした顔をしていた。
「プレア。君自身が何の為に作られたか分かっているね?」
ミールが言うとプレアは頷く。
「うちは、マザーブレインを破壊する為に皆はんが必死の思いで作ったロボットやという事は重々承知してますわぁ。必ずや刺し違えてでもマザーブレインを破壊してみせますぅ。実際にマザーブレインと対峙した事はあらへんけどぉ、うちがどのくらいの力を持っているかデモンストレーションにはもってこいの相手が迫っているさかい。皆はんはこの中で特と見ていて下はい。決して、ハンターの人も中に入れたらあきまへんよぉ。ほなら行って来ますわぁ」
言い終わると、ガシャガシャと音を立てて拠点の外へと走って行った。外にはウィルが手筈したモタビア軍が迫っていた。

「ハンターの皆はん、逃げた方がええですわぁ。ここにいるとモタビア軍に吹き飛ばされてしまいますわぁ。」
突然出てきた2mを越える水色のロボットを見てハンター達はギョッとしていた。その中にいたウィルもプリーと外見が変わらない事と既に起動しているプレアに驚いていた。
スドーーーーン!!!
そう言っているうちに最初の爆弾が近くで着弾した。ハンターの何人かは巻き込まれて死んでいた。しかし、プレアは着弾点の中心からさほど離れていなかったが無傷で微動だにしていなかった。
「離れた所からやられっ放し言うのも悔しいさかい反撃したるわぁ。」
プレアがそう言うと変形していった。見る人が見れば分かるのだろうが、遠距離攻撃用の武装が次々と出てくる。
「目標確認!標準セット!!いっけぇ!!!」
プレアがそう言うと綺麗な光が放物線状と直線状に飛んで行く。モタビア軍の方はまさかこんなに遠くから攻撃されるとは思っていなかったので、回避が遅れかなりの被害にあっていた。
「ハンターの皆はん見とれてる場合やないやろぉ?早う逃げなあかんわぁ。」
そう言われて、度肝を抜かれていたハンター達は我に返って散り散りに逃げていった。ただ、ウィルだけはその場に残っていた。
「流石はプリー博士を殺した犯人やなぁ。しかも泥棒猫の真似までしとったとはなぁ。ウィル中尉はん。」
「何っ!?」
プレアの言葉にウィルだけでなく中からモニターを通してみていたプロジェクトのメンバーも驚いていた。
「うちはただ破壊兵器としての能力があるだけちゃうんやでぇ。軍如きの甘ちゃんプロテクト抜けてデータは全てもろうたわぁ。軍を蹴散らす前に仇を取らせて貰うわぁ。」
プレアは恐い顔をしながら、再び最初の姿へと変形して行く。
「く、来るなっ!寄るなっ!」
ウィルは死んだプリーが迫ってくるようで、何時に無く動揺していた。それでも、流石は現場叩き上げの軍人、レーザー銃や実弾銃を間接部分などに的確に当てる。しかし、全く効果が無い。
「くすくす。そんなおもちゃで、うちは傷すらつかへんわぁ。覚悟しいやぁ!」
プレアが腕を振るうと大きいのに予想外の早さだったのでウィルは避けれなかった。
「くっ、速いっ!」
水色の丸太より太いプレアの腕が凄まじい衝撃でわき腹に直撃した。
「ぐぼぁっ!」
血を吐きながら、くの字の状態のまま宙に浮いて20メートル以上吹き飛ばされ、地面に落ちてピクピクと痙攣していた。プレアはそのまま、ウィルの所まで来ると小銃を取り出した。ウィルはわき腹を抑えて、プレアの方を睨んでいた。
「プリー博士と同じやり方で死んで貰いますわぁ。」
そう言うと腿に一発撃った。
「ぐわぁっ!」
相手の悲鳴に構わず今度は肩口に一発。
「うぐ・・・。」
ウィルは耐え切れずその場に倒れ込んだ。
「まだ、終わりやあらへん。」
プレアはウィルの髪の毛をつかみ無理やり起こした。ウィルは既に虫の息だった。しかし、構わず顔、胸、腹の三ヶ所に打ち込んだ。流石に、悲鳴を上げるまでも無くウィルは倒れた。
「残念やったなぁ。プリー博士はここで息絶えたんやったなぁ。このままやったら楽に死ねるんやけどなぁ。お前はお終いちゃうでぇ。」
プレアがそう呟いてから、小さなチップを倒れているウィルに放った。チップは放電してウィルに電気ショックを与えた。
「うぎゃあーーーーーーー!!!」
ウィルは無理矢理蘇生させられたのである。凄まじい痛みと苦しみで悲鳴を上げた。
「痛みの中で、己のしてきた事を反省するといいわぁ。自分が頑丈な分痛みは続くだけやわぁ。あんさんには相応しい最後やろぉ。」
プレアは冷たく言い放つと、後ろで悲鳴を上げ続けているウィルを放置し、その場を後にしてモタビア軍に向かって走り出した。途中で中距離攻撃モード、通常である近距離攻撃モードで暴れまくり、30分もしないうちにモタビア軍を無傷で全滅させた。プレアの視覚から送られてくるモニターを見ていたメンバーはあまりの凄さに唖然としていた。
「拠点の中の皆はん見てましたかぁ?この程度の相手には防御装備のバリアフィールドを使うまでもありまへんでしたわぁ。このまま、これからぁ、マザーブレインに向かいますわぁ。皆はんの中でぇ、宇宙船に乗り込む人達以外はそこからすぐに避難して下はい。乗り込む予定の人達わぁ、今から出来るだけ拠点内にある食料と水を積み込んで中で待機していて下はい。マザーブレインが破壊されたと同時にぃ、宇宙船は、パルマとデゾリスとに向かって発射されますぅ。宇宙船の装甲はうちの程ではないけどぉ、モタビア軍程度の火力やったらぁ、傷一つつかんさかい。ほなら、うち、行って来ますわぁ。」
「いってらっしゃーい。(ズラ)」
拠点の全モニターに映し出されたプレアにメンバーの全員は挨拶をした。そして、それぞれの次の目的の為に動き出した。

「短い間だったとはいえ、この星にお世話になったズラ。デゾリスに戻っても決してこの事と皆の事は忘れないズラ。」
「わしも、パルマに戻っても決して忘れん。この星にはストラという若く優秀な環境システムに詳しいものがおる。このビジフォンで連絡を取ってくれ。そして、宜しく伝えてくれ。頼んだぞ。」
「我々も、このモタビアの為にこれからも尽力します。お二人共お元気で。」
それぞれのチームリーダーの四人はがっしりと握手した。それ以外のメンバーもそれぞれ別れを惜しみながらも挨拶をしていた。ヴァイリス博士を中心にしたパルマ帰還組とゼラムを中心にしたデゾリス帰還組はそれぞれの宇宙船に乗り込んだ。ミールとアイリー達を中心としたモタビア残留組はそれぞれの乗船を確認し終わってから、拠点を出始めた。大型の宇宙船は2台だったがそれ以外にも、試作品や小型の宇宙船が数台あったが、それらは放置される事になった。宇宙船は地価深くにあり、拠点から切り離す為に最後には拠点を爆破する事になった。
「それでは、残っている皆様、本当にお疲れ様でした。そして、これから起こるであろうマザーブレイン破壊による環境システム停止によって、環境は激変すると思われます。プリー博士がシミュレートして下さったよりも酷い事になるかもしれません。しかし、我々を生み育んでくれたこの星とこれからの未来の為に頑張りましょう。また、それぞれが何処かで会う事があったらその時は今回のように協力しましょう。そして、笑って暮らせるように祈って私の挨拶とさせて頂きます。」
拠点の入口の目の前で、ミールが挨拶した。皆はその言葉に今までの事を思い出し泣いているものや、これからの事で決意を新たにしているものなどそれぞれがそれぞれの表情を見せていた。
「さあ、軍が来る前にそれぞれ別れよう!皆元気でなー!」
アイリーがそう言ってその場から離れていくと、一気に皆がそこからいなくなっていった。

「私を・・・生かしておいたのは・・・間違い・・・だ・・・。お・・・のれ・・・プリー・・・。思い通り・・・・には・・・終ら・・・せ・・・・・ん。」
ウィルは這いつくばって拠点の入口に辿り着いていた。
チッチッチッチッ
「!?」
(しまった!)
ウィルがそう思った瞬間、拠点は大爆発を起こした。

「そうですか、プレアがマザーブレインに向かいましたか。それと、ヴァイリス博士がパルマに帰られますか。」
ストラは嬉しい顔をした後に残念そうな顔をした。
「「それで、ヴァイリス博士からのお話がありまして・・・。」」
「博士から言われる事といったら分かっていますよ。今後のモタビアの環境システムと環境についてですよね?」
ビジフォン越しに話していたミールはびっくりした顔をしていた。
「あはは、このプロジェクトには俺も一枚噛んだんですよ。大きくはアルゴル太陽系の未来の為、我々にとってはモタビアの未来の為に出来る事は何でもさせて貰いますよ。プロジェクトに参加した貴方達だけでなくプリー博士の思いもこれで終りじゃない。これからが、本当の俺達の戦いになります。お互いに頑張りましょう。何かあればこのビジフォンで呼んで下さい。」
「「そう言って頂けると助かります。」」
「それでは、ちょっと子供が呼んでいますのでこれで失礼致します。」
「「では、いずれまた。」」
ミールの方が切ると、ストラは自分の服の袖を引っ張るフィルの方を見た。
「お父さん。お母さんが命を懸けて頑張ったプロジェクトはどうなったの?」
心配そうに見上げて聞くフィル。
「ああ、とうとうプレアと言うロボットが完成して、マザーブレイン破壊の為に向かったそうだよ。後は父さんやフィルが頑張らないとな。母さんが作ってくれたプレアはきっとマザーブレインを破壊してくれる。」
「うんっ!僕ね、死ぬ間際までお母さんの事ライナには内緒にするよ。僕もお父さんと一緒に環境について勉強して頑張るよ。」
「ああ、すまないな・・・。お前にもライナにも辛い思いをさせてしまって。」
ストラはフィルの頭を撫で涙を浮かべながら言った。
「大丈夫だよ。だって、僕もライナもお父さんとお母さんの子供だもん。」
フィルの言葉に、堪えきれなくなったストラは声を出したいのを我慢して泣きながらしゃがんでフィルを正面から強く抱き締めた。一方のライナは何も知らずに隣の部屋で幸せそうにスヤスヤと寝息を立てていた。

ストラは妻を、フィルとライナは母を、プロジェクトメンバーは一人のリーダーであるプリーを失った。
代わりにプレアというプロジェクトメンバーがアルゴル太陽系の未来を託したロボットが誕生した。
プリーやプレア、このプロジェクトの事などは正史には出てこない影の物語である。ただ、アルゴル太陽系の未来を憂い協力した人々ががそこにいたのは紛れも無い事実である。


この時ユーシスはネイファーストによってネイを失っていた。