プロジェクト始動前

半年後・・・

プリーは極秘に自らのプロジェクトを一ヶ月でまとめた後、必要な人材と機材を集めていた。この時点で半分は揃い、満足していた。そして、何より満足していたのはストラとの結婚と、今お腹に宿っている赤ちゃんだった。
「プリー。そろそろ外を回るのはよした方が良い。プリーにも、赤ちゃんにも負担になるからね。」
ストラはプリーのする事を影から支えていた。何も口出しせず、資料作りやプリーのスケジュール管理などをやっていた。ただ、ここに来てプリーのお腹が目立ち始めて、初めて意見を述べた。
「そうね。あなたの言う通りにするわ。これからこの子が生まれるまでは外には出ないようにするわね。」
「その代わり、短い時間だけれど俺が外出していろいろ少しずつだけど集める様にするよ。何もしないでいると、プリーは心配しそうだからね。」
「やっぱり私の事分かってるわね。それに関してはお願い。でも、この子が生まれたら一緒に育てましょう。」
プリーは微笑みながら言った。
「ああ、無論そのつもりだ。」
そう言ってストラはプリーを優しく抱き寄せた。


一年半後・・・
初めての子供はすくすくと順調に育っていた。
「フィルー。」
「あー。」
プリーが呼ぶと小さな手を伸ばして元気良く答えた。生まれたのは男の子でフィルと名付けられた。
「プリー。ちょっと良いかい?」
「何?あなた?」
フィルを抱えながら不思議そうに聞いた。
「例のプロジェクトの事なんだけど、一つだけ良いかな?」
「え、ええ?」
フィルを保育器に入れてから改めて二人は向き合った。
「プリーが揃えるメンバーや機材は分かったよ。でもね、プリー。壊す事は分かった。でも、その後の事はどうするんだい?残されるであろうフィル達子供はどうなるんだい?」
ストラの一言に、あっという顔をするプリー。暫くは何も言葉が出てこなかった。
「そう思ってね、密かに作っておいたんだ。良いと思ったらこれもプロジェクトに加えてくれないかな?」
そう言ってストラは書類の束をプリーに渡した。プリーはすぐにその書類に目を通し始めた。食い入る様に書類を見るプリーをストラは微笑みながら見ていた。
「あなた・・・これ・・・。」
「だから、言っただろ。良いと思ったら加えてくれ。伊達にプリーより長く環境システムには携わってないって所かな。」
驚いているプリーにストラはウインクして答えた。
「ここにいる人達は俺が口説くよ。この人達なら協力してくれる。それに、プリーの言っている事も理解してくれる。プリーの情熱に心を動かされた俺が言うんだから間違い無い。」
「ありがとう。これで、本当のプロジェクトが始められるわ。絶対に成功させましょうね。」
「ああ、勿論だ。」
二人は手を取り合い言い合った。


三年後・・・
プリー達は二人目の子供に恵まれていた。フィルは二歳になっており、生まれた娘はライナといってもうすぐ4ヶ月になろうとしていた。
(ストラとフィルとライナは巻き込めない・・・。いえ、巻き込みたくない・・・。)
「どうしたんだい?プリー?」
「どうしたの?まま?」
ストラと彼が抱えているフィルが難しい顔をしているプリーを見て不思議そうに聞いた。ライナは保育器で寝息を立てている。
「あなた、後で相談があるけど良いかしら?」
「分かったよ。」
「ふたりでないしょばなしはずるいー。」
フィルは頬を膨らませて拗ねたように言った。
「後でパパが教えてあげるから、ね?」
「うん・・・。絶対だよ。」
「パパがフィルに嘘ついたことあるか?」
ストラのなだめの言葉でフィルは渋々頷いて納得した。
そして、フィルが寝静まった後でプリーは切り出した。
「いよいよ、来月からプロジェクトが始まるの。」
「あれから三年。ようやくなんだね。」
真面目な顔をしているプリーと対称的にストラは嬉しそうな顔をして言った。
「私も嬉しいけど・・・、今そんな顔しないでよ・・・。」
プリーは苦い顔をして言った。
「分かってるよ。でもさ、プリーの考えていた事は正しかった訳だし、ここまで来るのに何だかんだで三年掛かったんだからね。まあ、それはそれとして、今プリーが言いたいのは、あの時に言っていた墓場の中に入る時が来たんだろ?」
「・・・・・・・・・。あなたも、フィルもライナも巻き込みたくないの。マザーブレイン自体に睨まれる可能性も高いし、勘違いしたマザーブレインの反発組織に関わりを持たれて欲しくもないの。三人には普通に幸せに暮らして欲しいの・・・。」
暫く黙り込んだ後、本当に辛そうにプリーは言った。
「もう、二度と会えないのかい?それとも時が経てば会えるのかい?それだけは教えてくれても良いよね?」
プリーの気持ちを察してストラは優しく聞く。
「プロジェクトは一ヵ月後から五年で完了予定なの。でも、途中で失敗するかもしれないし、成功したとしてもマザーブレインが破壊された後どうなるか予想もつかないわ。それは、私と一緒にいたあなたなら分かるわよね。」
プリーの言葉にストラは頷く。
「それは、分かっているよ。だからさ、その後でも会う気があるのかどうかって事だよ。」
「勿論あるに決まっているじゃない。あなたとも、フィルともライナとも別れるのは身を引き裂かれる思いよ。本当だったらこんな話だってしたくないわ。でも・・・。でも・・・・。」
プリーは涙ながらに叫ぶように言ってから最後は言葉になっていなかった。
「ごめんよ。俺じゃあプロジェクトの力にはなれない。けど、二人の事は安心して任せてくれ。次会える時には俺は少し老けてかっこ悪くなっているだろうが、フィルとライナは立派になってるよ。何時までだって俺等は待ってる。」
そう言いながら旦那はプリーを抱き寄せた。プリーは胸の中で何度も頷いていた。
「最後の夜になるかもしれないんだね・・・。俺は本当にプリーを愛しているよ。例え離れていても、何時でも何処でも君の事は忘れない。そして、プリーの強い信念がこの世界を救う事を、プロジェクトが成功する事を祈ってるよ。もし、プリーと出会わなかったら俺は平凡で面白くない人生を過ごしたと思う。俺は幸せ者だ。本当に君に、いやプリーに会えて良かった。」
「私もよ・・・愛してるわ。世界中の誰よりもあなたを・・・。」
二人はそのままキスをした。ストラがプリーをベッドに運び、最後になるかもしれない逢瀬を惜しむように二人は時間を忘れて全てを重ねあった。

次の日、プリーは全てのコンピュータ上、独身になった。ストラの妻は他の人間になりその妻は病死。フィルとライナはストラの子となった。
そして、プリーはキッとした表情で、プロジェクトのメンバーが待つ場所へと旅立って行った。


そう、プリーとストラが中心となり、この世界を救う為に資料、人材、機材をあちこちから3年かけて集め、これから5年計画で始まる「マザーブレイン破壊プロジェクト」を成功させる為に。