モタビアの光

アルゴル太陽系・惑星モタビア

かつて砂漠の荒れ果てた土地に覆われていたこの惑星は何時の頃からか、巨大コンピュータ「マザーブレインに」よって緑豊かな惑星に生まれ変わっていた。このマザーブレインには反発する者たちもいたが、環境的も物質的にも不自由しない生活と平和があったのは事実であり、何時までも続くと思われていた。
その予兆のように、二年前には宇宙船事故が原因で宇宙船使用禁止令が出ていた。一部では、只の事故ではないと囁かれていたが二年と言う時によってその事実は風化しようとしていた。
しかし、ついにその平和にピリオドが打たれようとしていた・・・。

「暴れるモンスターが発見された?」

誰が言ったか分からないこの不明確な言葉がこれからの全ての始まりだった。


「全く・・・。平和ボケした連中に何が出来るって言うのよ!二年前の宇宙船の事だって鵜呑みにしか出来ないんだから!」
プリーは苛立たしげに机を叩きながら叫んだ。
プリーは自分を落ち着かせる為に紅茶を入れて、少し目を閉じていた。
(1000年近く眠っていたモンスターが眠りから覚めた?覚ましたのは何?伝説の勇者のアリサが倒したと言うもの?それを、マザーブレインが黙って見過ごしていると言うの?管理外のものは放置とでも言いたいの?・・・・・・・・。)
「まさか!そんな・・・でも・・・。」
プリーが辿り付いた結論は余りにもショッキングなものだった。それと同時に、それが事実だとしても今の世にこの事を発表すれば相手にされないどころか、奇人、変人扱いされるのが関の山だった。指示されたとしても一部の反発している人間にしか相手にはされないだろう。
「もし、これが事実なら暴れるモンスターは確実にいる事になり、更にそれが増える事も間違いない。そして、問題はモンスターだけじゃない・・・きっと動いているメカや、システムも全ておかしくなる・・・。そうなったらこの星は・・・。」
プリーはそれから数日間、夢でうなされ続けた。

「博士。最近顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
一緒に書類整理しているストラが心配そうに聞いた。
「ちょっと、夢見が悪くてね。困ったものだわ。」
プリーは苦笑いしながら答えた。
元々はロボット工学の権威とまで言われたプリーだが、その歯に衣を着せぬ過激な発言が学会の怒りを買い、島流し的な立場になっており今は環境整備に携わっていた。ただ、権威や名声、ご機嫌取りなどが大嫌いだったプリーには今の仕事が楽しくて性に合っていた。元々ロボット工学を勉強していたのは、人の役に立つロボットを作りたかったからである。今の仕事はロボットは作れないが、環境をマネジメントする事で多くの人が幸せになれる。そんな仕事だったので、やる気に満ち溢れていた。
「博士が、初めてここに来られた時も、そんな顔をしてましたね。」
プリーが初めてここに来てストラと会ったのは二年前の事だった。丁度、宇宙船の爆発事故があり、宇宙船使用禁止令が出る直前だった。プリーは爆発事故に関しても、ロボット工学の権威の立場から故意に行われたものだと言っていたが、マザーブレインが事故と判断したという発表にその声は殆どの人には届かなかった。
「まあ、状況的にはそうかもね。うんざりだったからね。実際来た瞬間はその影を背負ってたからね。ここに来たお陰でそんなの吹っ飛んだけどね。」
思い出すのも嫌と言う顔をしながらも最後には笑顔になっていた。
「俺も含めて、博士は恐い人だと聞いていましたが、全然そんな事無かったんで嬉しかったです。」
「そうなの?はっきり容赦無くものは言うけど、それは恐いってのには入らない訳?」
笑いながら聞くプリー。
「恐いなんてとんでもない。そういう所が良いんですよ。前いた責任者はとにかく判断が遅いし、言ってくれないしで大変でした。博士が来てくれてから業務が止まる事も無いですし、内緒にしてましたけど、溜まりに溜まってた仕事は全部片付きましたから。」
ストラも笑いながら答えた。
「溜まってた仕事の事は知ってたよ。何でこんなの片付かないのか不思議に思ってたんだけどね。まあ、そのうち片付くとは思ってたしね。これで君の肩の荷も下りた訳だ。」
少しニヤニヤしながら言う。
「知ってたとは参ったなあ。でも、博士の言う通りホッとしましたよ。これで俺も変に周りから言われずに済みますから。」
頭を掻きながらも嬉しそうに言うストラを見てプリーは軽く微笑んだ。
「そう言えば博士。ここだけの話なんですが・・・。ちょっと耳貸して貰えますか?」
いつもとはちょっと違う真面目な顔で小さくストラは呟くように言った。
「ん?君がそんな事言うなんて初めてだね。良いよ、聞いてあげる。」
プリーは楽しそうな顔をしてストラに耳を貸した。
「実は、ここ最近のデータで変なのがあるんですよ。しかも、それが次の瞬間消去されているんです。まるで、その変なデータが無かったかの様に・・・。」
「!?」
ストラの言葉にプリーは数日前に考えていた事を思い出して顔色が変わった。
「それってどんなデータか分かるだけ情報集めて貰っても良いかな?今後出るデータも出来るだけ拾って欲しいの。」
「何か思い当たる節があるんですね。もし良ければ博士のお名前を貸して頂けませんか?それを良しとして下されば、多くの情報が得られると思います。その代わり・・・。」
プリーの真剣な顔に、ストラも真面目に話していると途中でプリーがストラの口を人差し指を当てて話している最中で止める。
「私の名前くらいバンバン使って良いわよ。そんなの、覚悟の上。私一人の犠牲で多くの人が救われるのなら喜んでこの命差し出すわ。」
ニッと笑ってさらっと凄い事を言うプリーにストラはあっけにとられた。
「博士が考えてる事はきっと凄い事なんでしょうね。俺、博士の今の一言感動しました。博士が何を考えているかは分からないけれど、俺も出来るだけ協力します。それと出来るだけこの事は秘密裏にしますね。」
「ふふっ。今までいた助手とか、使えない人間と違って君は信用出来そうだね。そうだなあ・・・もうちょっと私の中で君のポイントが上がったら教えてあげる。」
ストラの真剣な眼差しに少し悪戯っぽくプリーは言った。

一ヵ月後・・・
「博士・・・これって・・・。」
「静かになさい。」
プリーに言われてストラは口を抑えて黙った。普通の仕事の資料の他に、ネットに繋がないフリーのコンピューターをプリーは自費で一台増設してその中にデータを蓄えていた。流石にストラの方もデータを集めている内にプリーが何を考えているのか分かりかけていた。そして、自分も同じ結論に達していようとしていた。
最近では、部屋にこそ他人はいないが、二人には時々尾行がついたり、盗聴器が時々部屋で見つかったりしていた。
「「勘違いしている連中が沢山いるみたい。ただ、本当の事は誰も気が付いていないみたいね。」」
「「そうですね。でも、ここまで資料が集まったのなら、これ以上危険な橋を渡らない方が良いと思いますよ。この件は二年前に博士が言っていた事にも繋がりましたね。」」
プリーとストラは筆談していた。
「「そうね。どうやら貴方も気が付いたみたいだし、この辺で情報収集は終わりにするわ。君にも危険な橋を渡らせてご免なさいね。」」
「「いえいえ、まだ博士に実質的被害がないんで良かったですよ。勿論俺の方にも無いですけどね。」」
「「これだけ証拠が揃えば人を動かせるわ。ここまで来たからには問答無用で君には最後まで付き合ってもらうから覚悟しなさいね。」」
「「墓の中までお供しますよ。」」
「調子に乗るな!」
プリーは思わず叫んでグーでストラの頬を殴った。痛がって蹲っているストラを見ながら、プリーは満更でもない表情で微笑んでいた。
「さーて、無駄な情報収集は止め止め。お仕事に専念しましょうかね。ほら、そんな所で油売ってないで視察に行くわよ。」
盗聴器があるならそれにわざと聞こえるように大きな声で言った。ストラの方は頬を抑えながらヨロヨロと立ち上がったが、痛さで返事出来なかった。
「「君が本気なら、お墓の中まで一緒に行きましょ。」」
「えっ!?」
ストラはプリーが目の前で見せている文字の内容を見て驚いて思わず声を上げた。
「えっ!?じゃないでしょ?返事は?」
「はいっ!」
ストラの元気の良い返事にプリーは満足そうに微笑んで足早に部屋を後にした。ストラの方も遅れないように慌ててプリーの後を追った。