ウォーターランドへゴー(後編)

七人は一旦プールから上がって何かをしようという話から何時の間にか雑談に変わっていた。
「あのさフェリー。」
「ん?何だい?」
「さっき、プールの中でセシールと手を繋いで水中で漂ってたろ。息苦しく無かったのか?」
「ああ、あれね。なんかね、セシールと手を繋いで目を閉じているうちに水の抵抗が無くなった訳じゃないんだけど、何ていうかこう違うものに包まれるみたいな感じになったんだよ。凄くリラックスしてて、呼吸の事なんて忘れてた。実際、全然苦しくなかったしね。今思えば不思議なもんだ。」
(俺が苦しくなかったのも、何かに影響されてたのかな?)
ハオはそう思いながら、フェリアーテと話をしていた。さっきまでと違い、変に意識する事は無かった。
テムとチャオはカキ氷を食べていた。
「ひんやりぃ。しゃくしゃく〜♪」
「にゃひゃひゃ。冷たくて美味しいにゃ〜。」
そう言うチャオの横には既に食べ終わっている空き容器がいくつも積んで置いてあった。
「本当にチャオは良く食べるのじゃ・・・。」
焼きそばを食べながら、積んである空き容器を見て半分感心、半分呆れたように言った。
「何処にあれだけの食べ物が入るんでしょう?」
セシールは驚いた顔をしながらトロに聞いた。
「普通の女の人には羨ましい体質かもしれないねえ。あれだけ食べても太らないし。多分、胃が沢山あるんだよ。10個くらいあったりして。うっしっし〜。」
聞かれたトロはフランクフルトにケチャップとマスタードをかけながら答えた。
「くすくす。トロさんは良く食べるんですか?」
「うーん、そうだねえ。良く動くからその分食べるかな。流石に今のチャオ程食べないけどね。さってと、いたっだきまーす。!?!?」
そう言ってフランクフルトを食べた途端、トロの顔色が変わった。良く見ないでかけていたので、ケチャップの二倍以上の量のマスタードがたっぷりと乗っていた。トロは飲み物が無いかとキョロキョロしたが無い。目の前のセシールは変化に驚いておろおろしている。
「にゅ?トロこれ食べるかにゃ?」
トロに気が付いたチャオは食べかけのカキ氷を差し出した。
「うおおーーー。」
トロは一気にカキ氷を食べ切った。
「ふうっって・・・。くおおおおーーー。」
そして、次の瞬間頭を抑えてしゃがみ込んだ。
「そんなに勢い良く食べちゃ駄目だにゃ〜。トロ大丈夫かにゃ?」
心配そうなチャオの呼び掛けにも暫くトロはしゃがみ込んだまま反応しなかった。
「ったく何やってんだか・・・。」
ハオはトロの姿を見て呆れたように言った。


「と、言う訳で順位当てクイ〜ズにゃ〜♪」
「おういぇ〜♪」
チャオのノリノリな感覚にテムもあわせてノリノリだった。
「ルールは簡単にゃ。ここからそれぞれのペースで向こう側まで泳ぐにゃ。そして、その順位を当てるにゃ。ピッタリ賞を狙って頑張って予想してにゃ。一番当たりの多かった人に他の人全員から何かプレゼントをするにゃ。そりでは、予想開始にゃ〜」
チャオの声で全員に配られた予想カードにそれぞれ入力していく。最後にチャオが回収して、収集ボックスに入れた。その後に、全員で準備体操をしてからそれぞれスタートの準備を整えた。係員に話すと専用レーンを貸してくれた。
「それでは、行きますよ。用意。」
パーン!
ウォーターランドの人にスタートをお願いして一斉にスタートした。
「にゃはははは。」
笑いながら楽しそうに泳いでいるがやっぱり早いチャオ。
圧倒的かと思われたが、思った以上にトロが早い。チャオと殆ど同じ速度で泳いでいる。
(うっしっし〜。「君も魚になれる!水泳上達講座」は伊達じゃないよ〜ん。)
しかし、その二人より圧倒的に早い影がもうゴールに着こうとしていた。
セシールである。一回も水面に出る事無く凄まじいスピードで水中を進んでいた。良く見えている係員は唖然としていた。
(くっそー。トロの奴早いじゃないか。何としてもフェリーには負けねえ!)
トロの後をクロールで追うハオは燃えていた。殆ど同じ位置にフェリアーテがいた。

スタート前・・・
「チャオはああ言ってるけどさ、二人で賭けしないかい?」
「ん?賭け?」
フェリアーテの言葉にハオは首を傾げた。
「あたいとハオは多分同じぐらいの早さだと思うんだよ。あたいじゃプレゼントは無理そうだからねえ。」
そう言って、フェリアーテはチャオの方を見た。
「まあ、そりゃ言えてるわな。それで?」
「それでさ、あたい自身何か無いとダレちまいそうだから、あたいが負けたらハオの言う事一つ聞くって事にして欲しいんだ。」
「そっちの要求は?」
「特に無いよ。」
「まてwそれじゃあ賭けにならないだろ?」
ハオは納得いかないと言う口調で言った。
「あたい自身にプレッシャーが欲しいだけだからさ。気にしないで良いよ。」
「だから待てって。それじゃあ不公平だから俺が負けたらフェリーの言う事一つ聞く。それで良いな?」
ムキになって言うハオを見てフェリアーテは少し笑った。
「何が可笑しいんだよ。」
「何でもないよ。じゃあ、公平にそういう事にしよっか。じゃあお互い全力を尽くそうね。」
笑っていたフェリアーテは真面目な顔になって言った。
「よし、負けねえからな。」
ハオは気合を入れで答えた。

(やっぱり、ハオとは同じくらいだね。苦しいけど頑張らないとね。)
フェリアーテは賭けの事などすっかり忘れて、気合を入れなおして泳いでいた。
更に後方には和夜がいた。
(チャオは例外としても、身体のサイズの差で勝てる訳無いのじゃ。こうなったら裏技を使うのじゃ。)
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
和夜がその場で泳ぐのを止めて、目を閉じながら水中で何かぶつぶつと言い始める。
そして、更に後方に最後のテムがいた。
「ゆっくり〜♪すいすい〜♪」
平泳ぎでゆっくりと確実に泳いでいく。係員の一人は微笑ましそうにその姿を見ていた。
和夜が言い終わると、和夜を中心にして一気に水の色が変わる。それと同時に水温が一気に下がった。
それと同時にセシールはゴールイン。プカっと頭を水面に出した。
「にゃんですと!?」
「ええええ〜!?」
自分が一番と思っていてデッドヒートしていたチャオとトロは驚いてその場で泳ぐのを止めてしまった。そして、お互いに向き合った。
「にゅっしっし〜。」
「うっしっし〜。」
お互いに不毛な笑いを浮かべる。
「勝った方が・・・。」
「ごはん一食おごりだにゃ!」
お互い頷きあって再び泳ぎ出した。
ゴールしたセシールは、和夜の周辺からの変化に気付いて寒気がしてすぐにプールから上がって、そっちの様子を見た。
水の色の変化は、ハオとフェリアーテの足元に急速に迫っていた。
それと反対に、後ろのテムの方にも迫っていた。