肝試し(完結編前半)

「それにしても・・・テムどこいっちゃったのかにゃ〜?さっきまで見えてたのににゃ〜。」
チャオは首を傾げながら辺りをキョロキョロしていた。

そのテムはと言うと、顔の無いチャオ?に未だ追い掛けられていた。
「ひええぇ〜。ちゃおさんやめてぇ〜。もうはしれないれすぅ。」
テムは走っていたが、息も絶え絶えにヨロヨロと歩き始めた。そのうちに歩くのも辛くなったって、その場でしばらく肩で息をしていた。
少しして、息が整ったテムはぼんぼんの付いた帽子を直しながら、恐る恐る振り向いた。目の前には顔の無いチャオが立っていた。
「!?」
テムは驚いたが、特に近付いてくる感じもないので下から覗き込んだ。
「じゅるるるる・・・。」
「???」
顔の無いチャオは唾を鳴らす音を発したが、口が無いのでテムは不思議そうに口があろう場所を見ていた。
「あのぉ、ちゃおさん。いたづらですよねぇ?わたしはじゅうぶんおどろいたから、もういいですよぉ。」
そのテムの言葉に顔の無いチャオに口が現れ一気に耳元まで裂け、涎に混じって赤黒い液体がポタポタと地面に落ちた。
「うふふ〜。もういいんですよぉ。それってちのり・・・。」
そこまで言いかけてテムは青くなって硬直した。
(ど、ど、どういうことぉ?ち、ち、ちのにおいですぅ。)
そう思った途端怖さで小刻みに震え始めた。そんなテムを無視するように、舌なめずりしながら口裂けチャオがゆっくりと近付いてくる。テムは、目に涙をためて首をイヤイヤと横に振りながら後ずさり始めた。
テムは耐え切れずに少ししてから、一気に振り向いて声も上げずに一目散に逃げ出した。

和夜は何か出ないかと期待しながら歩いていた。
「全く、わらわに恐れをなして何も出ないのじゃ。」
そんな事を言って歩いていると、道端で泣いているヴィーナを見つけた。
「むう、ヴィクにメビは何やってるのじゃ。」
和夜はぶつぶつ言いながら泣いているヴィーナに近寄っていった。
「ふええ〜。ぱぱ〜。まま〜。」
「ヴィーナ、どうしたのじゃ?ヴィクとメビと一緒じゃなかったのか?」
声を掛けられたヴィーナは泣くのを止めて、和夜に抱きついた。
「よしよしなのじゃ。わらわと一緒に探すのじゃ。」
「うんっ!」
(やれやれ、安心したらすっかり笑顔なのじゃ。でも、本当にあの二人らしくないのじゃ。これは何かあるのかもしれないのじゃ。)
和夜は真剣な顔になって、ヴィーナと手を繋いで歩き始めた。
暫くして、突然目の前に現れたテムに二人は正面衝突してしまった。凄い音の後には三人がそれぞれショックで気を失って倒れ込んだ。

ハオはフェリアーテと手を繋いで歩いていた。初めは何で繋ぐんだと講義したが、フェリアーテの危険だからという意味ありげな一言に気圧されて繋いでいた。
(まあ、離すなって言う言葉に返事はしたけどさ、何だか恥ずかしくなってきたぞ。)
「ハオ・・・。あっちに行かないと。」
「何でだ?」
いきなり違う方向を見て言うフェリアーテに不思議そうにハオは聞いた。
「三人が襲われそうになってる。放っておいたら危険。」
「三人って誰だ?」
「和夜とテムとヴィーナ・・・。」
「マジかよ!?とっとと行こうぜ。」
ハオの方から手を引いた。フェリアーテは頷きながらハオと一緒に走り出した。

「うーん。一体何なのじゃ。」
和夜は頭を振って起き上がった。
「ちゃおさんがぁ・・・う〜ん。」
テムの方はまだ気が付かずにうなされていた。
「チャオがどうしたのじゃ?しっかりするのじゃ。」
和夜はテムを強く揺さぶった。
「おほしさまがきれいなの〜。」
二人から少し離れた所でヴィーナは気が付いたものの、立ち上がってふら
ふらしていた。

「う・・・うん?」
「おお、気が付いたのじゃ。チャオがどうしたのじゃ?」
「う、う、う、うしろぉ〜。」
和夜は後ろを向かずにテムを抱えてヴィーナの居る方へ一気に離れた。そして、テムを下ろしてから振り向いた。
「な、なんなのじゃ!?」
流石の和夜も訳がわからず目をぱちくりしていた。
「じゅるる・・・・。」
顔無しチャオから進化した口裂けチャオはゆっくりと三人の方へ歩き始めた。
「ヴィーナもしっかりするのじゃ。」
和夜はヴィーナを揺さぶった。
「はれ???あたしなにやって・・・!?!?」
ヴィーナは口裂けチャオを見た瞬間固まった。
そして・・・
「あわわわわ。」
「ふえ〜ん。こわいよ〜。」
凄まじいスピードでヴィーナとテムは一緒に和夜の後ろに隠れた。
「ふっふっふ。ここはわらわに任せるのじゃ。」
自信に溢れた言葉だったが、怖がっている二人の耳には入っていなかった。
「食らうのじゃ!」
和夜がそう言うと、見たことの無い文字が相手に向かって飛んでいく。口裂けチャオに直撃して吹き飛んだ。
しかし、すぐにむっくりと立ち上がる。そうすると、口裂け状態だった顔が見るも無残なスプラッタ状態になっていた。
「はうわぁ。」
「きもちわるくて、こわいよ〜。ふええ〜。」
テムとヴィーナは更に混乱していた。
「ええい。手加減したのが間違いだったのじゃ、これで終わりにするのじゃ!」
和夜は手で呪を切ると、さっきの比じゃない大きさと数の文字や模様が飛んで行く。口裂けチャオはにやりと笑いながらそれを食らい爆散した。
「ふう、終ったのじゃ。二人共大丈夫か?」
「うん。ありがとうなの〜。」
「たすかりますたぁ〜。」
和夜の言葉にヴィーナはにっこりと笑い、テムの方は走り疲れてたのもあってホッとしていた。

「フェリー。まだか?」
「もう少しだよ。相手の負の力が増している。急がないと大変な事に。」
少し走っていると、前に三人の姿が見えた。
「おーい!テム、ヴィーナ、それからそこのバケツ。そこは危ないからすぐこっち来い。」
「わらわはバケツじゃないのじゃ!和夜という名前があるのじゃ!」
和夜はハオのバケツ発言に怒っていた。
「三人とも早くこっちに。」
フェリアーテの言葉の真意がよく分からない三人だったが、すぐに二人の方へ走ってきた。
「フェリ姐、久しぶりなのじゃ。今、幽霊にとどめを刺したのじゃ。」
「いや、とどめは刺せてないよ・・・。」
「どういう事なのじゃ?」
「ま、ま、またおそわれるのれすかぁ〜?かんべんですぅ。もうはしれないれすよぉ。」
「こわいのいやなの〜。」
和夜は真剣な顔をして聞いているが、テムとヴィーナは半泣き状態だった。
(この状態で俺が落ち着けっていっても収集つきそうにねえな。ここはフェリーに任せるか。)
「フェリー後は頼むな。俺じゃあどうしようもねえ見たいだし。」
「あいよ。ただ、あたいに何かあったら頼むね。」
「縁起でもねえ事言うなよ。」
ハオの最後の言葉にはただ、にっこりと微笑むだけだった。
「み、み、み、みんな、う、う、うしろぉ〜。」
テムが指差している方向を全員が見る。
吹き飛んだはずの口裂けチャオだけでなく、他にも見た顔の口裂けバージョンがうようよ居る。
テムとヴィーナは、残りの三人の後ろで蹲って、声もなくガタガタと震えていた。
「和夜は手を出すんじゃないよ。」
「わ、わかったのじゃ。」
和夜はそう言いながらも、実際は手を出したくてうずうずしていた。
「へっ!?」
ハオが素っ頓狂な声を上げた。無理も無い。いきなりフェリアーテが着ているものを脱ぎ始めたのである。
「フェリ姐!?」
流石に和夜も何事かと目を真ん丸くしている。
そんな間に、フェリアーテは一紙まとわぬ姿になった。ハオは赤い顔をしながら、目を首ごと逸らしていた。
「綺麗なのじゃー・・・。」
和夜の言葉に思わずハオはフェリアーテを見た。
(確かに綺麗だ・・・いつもと違う綺麗さだ・・・。)
ハオと和夜の二人はフェリアーテに見入っていた。
「我御名において・・・汝らを・・・彼の場所へ・・・導かん・・・。」
向かってくる相手や、二人の視線を全く気にせずに呟いた。すると、フェリアーテの体が光り出し、その光が辺りを一気に包み込んだ。とても暖かい光だった。その光が止むと目の前の口裂け軍団はすっかり消えていた。
そして、フェリアーテは力なくその場に倒れ込んだ。
「おいっ!フェリーしっかりしろ!」
ハオが抱き起こして、声を掛けるが全く反応しない。

「テム〜。どうしたんだにゃ?」
テムは恐る恐る見上げた。
「にゃ?」
そこにはいつものチャオがいた。
「よかったれすぅ。ちゃおさんくちさけでないよぉ。」
「?????」
チャオは不思議そうな顔をして、抱きついて来たテムの頭を撫でていた。
「もう大丈夫だにゃ。きっと怖い夢でも見ていたんだにゃ。」
そういって、微笑みながら少し強く抱きしめた。

「ぱぱ〜。まま〜。」
ヴィーナはメビウスとヴィクスンに抱きついて泣いていた。
「よしよし、もう大丈夫だからな。」
メビウスは優しくヴィーナの頭を撫でた。そして、ヴィクスンに目配せした。
「ほーら、一緒に帰ろうね。」
ヴィクスンはヴィーナを抱きかかえてゆっくりと歩き始めた。泣き疲れたのか。ヴィーナはすぐに眠ってしまった。