親子水入らず(後編)

「久しぶりだな、ヴィクスン・・・。」
ヴィクスンは後ろから突然声をかけられて振り向こうとしたが、背中に銃を突き付けられて体を強張らせた。
「一体・・・誰なんだい?」
ヴィクスンが目の前で真剣な顔をしているのを、ヴィーナは不思議そうに見ていた。
「下手に動かない事だ。お前だけでなく可愛い娘も死ぬ事になる。」
「狙いがあたいなら、他の二人は関係ないさね。」
ヴィクスンは苦しそうに言った。
「お前が一人身ならこんな状況でも関係なかったろうが・・・甘くなったものだな、あの男に骨抜きにでもされたか。」
「ふっ、バカだね。あんたの言うあの男はそんじょそこらに居る奴とは桁も格も違うよ。まあ、見てるんだね。」
馬鹿にするように言う相手に対して、ヴィクスンは真面目に答えていた。その後は後ろに居る人間も黙ってメビウスの方を見ていた。

ガキンッ!

当のメビウスは肉食獣の攻撃を受け止めていた。サイズ的にはありえない構図だった。
「へっ、でけえ割りにパワーねえじゃねえか!」
メビウスは受け止めていた相手の手を一旦自分側に引いた後、一気に押し返した。相手は横から手を出したが、それを避けるようにして一気にジャンプした。
「でりゃああああ!!!」

ビッターン!!!

剣の面の部分で鼻っ面を振り抜いた。凄まじいパワーに、肉食獣は一気に檻の中の壁に頭から激突した。そして、そのまま動かなくなった。
「ば、馬鹿な・・。」
流石にヴィクスンの後ろにいた人間は驚いた。
(今だ!)
ヴィクスンは相手の隙をついて、一気にしゃがみこんで相手の足を払った。不意を付かれた相手は見事に背中から倒れ込んだ。
「そこまでだっ!」
しかし、相手は自分の体勢を整える前に既に銃口をヴィクスンに向けていた。
「こんのー。」
ヴィクスンは硬直していたが、ヴィーナの方がペットボトルを投げつけた。見事に相手の銃を持っている手に当たり、銃口が逸れた。その瞬間にヴィクスンの蹴りがその手から銃を飛ばした。
「良くやったね、ヴィーナ。」
「えへへなの〜。」
ヴィーナは誉められた上に頭を撫でられて嬉しそうに笑った。
「そう、親子ごっこしていられるのも今のうちだ。」
「丸腰になってるくせに何言ってんだい。」
「丸腰?それはどうかな。くっくっく。」
そう言って相手は懐から爆弾を取り出した。
「キャーーー!爆弾よ!!!」
その声に周囲はパニックになった。
「あばよ。今まで良い夢見たんだ、あの世で会おうぜ。ここから数百メートルは消えるだろうな。はっはっは。」
狂気じみた笑いをして、爆弾を真上に放った。
「ヴィク、伏せろ。」
メビウスの声にヴィクスンはヴィーナを庇うように伏せた。メビウスはヴィクスンを飛び越えて着地した後、一気に爆弾に向かって跳躍した。そして、爆弾を一閃した。
爆発するかと思われた爆弾は、真っ二つになってから、光に包まれて消えた。
「へ?」
素っ頓狂な声を上げた相手も、メビウスも驚いていた。
「消えたぜ・・・。どんな剣なんだこりゃ。」
メビウスは剣を見ながら呟いていた。
「まあ、とにかくだ・・・。誰だか知らねえが、金輪際ヴィクに手出すんじゃねえぞ。っても、暫くは何も出来ねえな。」
走ってくる警官や警備員を見ながら言った。
「ぱぱすごいの〜。」
ヴィーナは拍手しながら言った。
「いや、ヴィーナもなかなかのコントロールだったぞ。」
そう言ってメビウスは近くに転がっているペットボトルをヴィーナに放った。
「白孤のヴィクスン。これで終った訳じゃないからな・・・。」
「あたいは一人じゃないからね。そっちのケツに火が回る前に止めときな。」
連れて行かれる相手にヴィクスンは言い放った。
「さーてと、今あった事は無しにして、行くか。」
メビウスの言葉にヴィクスンとヴィーナは無言で頷いた。
さっきまでとんでもない事をしていた三人は何時の間にか仲の良い三人の親子連れに変わっていた。
「あのおさるさんなかよしなの〜。ぱぱとままみたいなの〜。」
「ふふふ。そうさね。」
ヴィクスンは嬉しそうに笑った。
「違えな。俺等はもっと仲が良い。」
メビウスはそう言ってヴィーナを抱えているヴィクスンをそっと抱き寄せて軽くキスした。
「ままだけずるいの〜。」
「はっはっは。分かった、分かった。」
メビウスはヴィーナのほっぺたにも軽くキスした。ヴィーナはキャッキャとはしゃいだ。
「さあ、最後にお土産買って帰るか。」
「そうさね。」
「そうさねなの〜。」
三人は笑顔で寄り添いながら動物園エリアを歩いて行った。
舞い散る桜は、三人を祝福しているようだった。