親子水入らず(中編)
「また、すっかり寝ちまったな。」
「ああ、そうさね。」
ヴィーナはヴィクスンの胸の中でペットボトルをしっかり抱き締めて眠っていた。
「丁度昼飯も食ったし、俺も少し寝るかな。ヴィクも少し寝た方が良いかもな。」
「ヴィーナが起きたらどうするんだい?」
「そん時は俺が起きて何とかすっから気にしねえで良い。」
そう行ってメビウスはヴィクスンを背中から抱き寄せた。ヴィクスンはメビウスにもたれ掛かるようにして、静かに目を閉じた。暫くして、ヴィクスンの寝息を確認してから、メビウスも目を閉じた。
気持ち良い風と程よい日差しが三人を柔らかく包んでいた。
「白狐のヴィクスン・・・見つけたぞ・・・。まさか男と娘までいるとはな・・・。クックック。」
少し離れた所から鋭い視線で見ているものがいた。
「ふあ?」
ヴィーナは目を覚ましてキョロキョロした。
その後、ヴィクスンとメビウスが寝ているのを下から見上げていた。
「まま〜。ぱぱ〜。」
「ん?ヴィーナ起きたか。」
「うんっ!」
メビウスはすぐに目を開けてヴィーナを見た。
「ママはもう少し寝かせてやろうな。」
「うんっ!」
ヴィーナは元気良く返事してから、ペットボトルを見ていた。太陽にかざすて乱反射する様子を不思議そうに見ていた。
「ヴィーナ、ちょっと貸してみ。もっと綺麗にしてやるぞ。」
メビウスの言葉に素直にペットボトルを渡した。メビウスは持ってきている半透明の水色の飲み物を中へ入れた。ヴィーナは好奇心一杯の目でそれを見ていた。
「これで良し。ほらヴィーナ、これでまたさっきみたいに見てみな。」
渡されたヴィーナは早速太陽にかざした。水色の液体が透き通ってとっても綺麗だった。
「うわ〜。きれいなの〜。」
ヴィーナは瞬きも忘れてずっと見入っていた。
(やっぱり、好奇心旺盛だなあ。まあ、元気良く育ってくれりゃ良いけどな。)
メビウスはヴィーナを見ながら少し微笑んでいた。
ヴィーナはペットボトル越しに見える不思議な世界に引き込まれていた。
「う・・・う・・ん。」
暫くしてヴィクスンが目を覚ました。
「お、起きたな。」
「あ、済まないねえ。随分寝ちまったかい?」
ヴィクスンは申し訳無さそうに言った。
「そんな事ねえよ。にしても、ヴィーナの奴あれがよっぽど気に入ったみたいだな。ずっと見っ放しだ。」
「ほんとだねえ。いや、さっき会った人に感謝だね。」
ヴィクスンは驚きながらヴィーナを見ていた。
「ヴィクスン。」
「ん?何だい?」
ヴィクスンが振り向きながら見上げると、メビウスがその顎を持って軽くキスをした。
「全く・・・人前で。」
「見ちゃいねえよ。寝顔可愛かったぜ。」
少し呆れた顔をしていたヴィクスンだったが可愛いと言われて、少し照れ臭そうにしていた。
「んじゃ、動物見に行くか。ヴィーナそれで動物も見てみようや。」
メビウスは優しくヴィクスンを抱きかかえて一緒に立ちながら言った。
「ふっふっふ。準備は万端だ。後はここに来るだけだ。早く来いヴィクスン・・・。」
動物園の一角で無気味に笑う者がいた。
三人は動物園の中にやってきていた。
ヴィーナはメビウスに肩車されていて、高い所からあちこちを見ていた。勿論ペットボトル越しにも見ていた。
そして、大型肉食獣のゾーンに入ってきた。
「すごいのがいっぱいいるの〜。」
ヴィーナの言う通り、大きいものでは4mはゆうに越えるものもいた。
周りにも多くの家族連れなんかもいて、檻を少し遠巻きにして見ていた。
しかし、メビウス達三人は平気で近くまで行って見ていた。何匹かの肉食獣はメビウスの手にじゃれ付いていた。
「はっはっは。可愛いもんだぜ。」
「そりゃ、あんただから言える言葉だね。噛まれないように頼むよ。」
笑いながら言うメビウスを見て、心配そうにヴィクスンは言った。
「ぱぱすごいの〜。」
メビウスが肉食獣の頭を撫でている所を見てヴィーナははしゃいでいた。
そして、いよいよこの動物園での一番大きな肉食獣の所へやってきた。
「でけえな。」
メビウスは少し見上げながら言った。
「一飲みにされちまいそうだね。」
少し苦笑いしながらヴィクスンは言った。
「ふえ〜。おっきいの〜。」
ヴィーナはペットボトルの事も忘れて見上げていた。
見上げている三人に、4mの肉食獣が寄って来た。
(ん?目が変だな?)
メビウスはすぐに異変に気がついた。
「ヴィク、ヴィーナ連れてすぐに離れろ。」
メビウスは真面目な顔になって肩車していたヴィーナをヴィクスンに渡して、二人の前に出た。
「な、何なんだい!?」
ヴィクスンは訳もわからずヴィーナを抱きかかえた。ヴィーナも訳が分からず目をぱちくりしている。
ミシミシミシ・・・
檻がどんどんひん曲がって行き・・・
バキバキバキッ!!!
ついに折れて、中にいた肉食獣が檻から出てきた。口からはよだれが出ていて荒く息をしている。
「こいつ・・・何かされたな・・・。」
メビウスは呟きながら腰に有る柄を取り出した。柄から一気に刃が出て長刀になった。
「全く、良く出来てるぜ。チャオの奴。良いもんくれたぜ。」
少しニッと笑ってメビウスは構えた。
「二人共動くんじゃねえぞ!」
「あいよっ!」
「うん。」
そして、メビウスは二人の返事を聞いた後肉食獣に突っ込んでいった。