親子水入らず(前編)
「チャオ、悪いけど、明日出掛けっから。」
夕食の時にメビウスから言われたチャオは不思議そうに見ていた。
「いつも行き先言うのに、言わないなんて珍しいにゃ。」
「ああ、明日はなヴィクとヴィーナと一緒にテーマパークなんかに良く予定だ。ただなヴィーナの行動次第でどうなるかわからねえからな。」
メビウスは笑いながら言った。
「ヴィーナは好奇心旺盛な上に行動力があるからねえ。目を離すと何処良くか分からないさね。」
少し苦笑いしながらフェリアーテが言う。
「にゃはは、この前突然居なくなっちゃったもんにゃ〜。」
3日前にフェリアーテと一緒に買い物に出掛けた時に、いきなり途中で見失って大騒ぎになったのである。最終的にはプレアが見つけて事無きを得た。
「まあ、仕方ないですわぁ。それにぃ、好奇心あってもええと思うしぃ。可愛いもんやわぁ。くすくす。」
「まあ、可愛いっていうのにゃ、あたいも同感だわね。あたいにも出来るのかねえ。」
プレアの笑いながら言う台詞にフェリアーテは賛同しながらも天井を見上げて呟いた。
「大丈夫だにゃ。フェリーにはハオがいるにゃ。」
チャオのその台詞には特に答えず、フェリアーテはただ、微笑んでいた。
夕食が終わり、フェリアーテはメビウスに声を掛けた。
「ねえ、メビウス。」
「ん?どうした?」
「あたいのやり方って間違ってるかな・・・。」
フェリアーテは少し暗い顔をして聞く。
「お前は変にぶりっ子するたまじゃ無えだろ。それに嫌だったら、相手してくれねえだろ。良いじゃねえか。飾りっ化の無い素のフェリアーテでよ。お前色に染める位の勢いでやればいいさ。ハオだってそうそう染まる奴じゃねえし、お前達だったら何時の間にか上手くお互いを理解し合えるさ。お前は良い女だ。自信持てよ。」
メビウスはそう言ってフェリアーテの肩を軽く叩く。
「すまないね。あたい、何言ってんだか。」
苦笑いしながらフェリアーテは言う。
「良いって事よ。じゃあ、俺は寝るからさ。お休みな。」
「ああ、お休み。明日は楽しんできなよ。」
メビウスはフェリアーテの言葉に軽く手を上げて寝室へ入っていった。
次の日
「あんたー。」
「ぱぱ〜。」
メビウスは正面から来るヴィクスンとヴィーナを抱きしめた。
「待たせたな、二人共。」
二人は特に答えずメビウスに抱きついていた。
「ったく、しゃあねえな。」
そう言ってメビウスは二人共抱き上げた。
「わ〜い。」
ヴィーナは無邪気に喜んでいる。
「あんた、恥ずかしいよ。下ろしとくれよ。」
ヴィクスンは周りの視線を気にして恥ずかしそうに言った。
「やなこった。返事しねえ罰だ。」
メビウスは少し笑いながら、そのまま暫く歩き続けた。ヴィクスンは諦めてそのままの状態でいた。
「えへへ〜。ままとおんなじなの〜。」
ヴィーナに言われてヴィクスンはますます恥ずかしくなった。
「あんた、頼むから下ろしておくれよ。」
「ああ、分かった。」
流石に泣きが入ったので、メビウスはヴィクスンを下ろした。
「代わりに、もっと眺め良くしてやるぞ。ちゃんと掴まっとけよ。ヴィーナ。」
「ひゃ〜。」
メビウスはヴィーナを抱えていたが、今度は肩車をした。
「うわ〜いなの〜。」
ヴィーナはいい眺めに大喜びしている。その様子をヴィクスンは微笑ましそうに見ていた。
「確か、あそこに見えるのが今日行くテーマパークさね。」
「ヴィーナ、見えるかー。」
少し、上を向いて聞くメビウス。
「いろいろ見えるの〜。」
ヴィーナは指差しながら好奇心一杯の目で答えた。
テーマパーク「オールオーバー・ザ・ワールド」は、遊園地・動物園・水族館やアミューズメントパークなどいろいろなものが複合されている施設で一日どころか一週間かけても回り切れないくらい広い所である。3人も既にここには何回も来ていた。ただ、来る度に必ず一度はヴィーナがはぐれて迷子になっていた。
「さーて、ヴィーナ。今日は何処へ行く?」
メビウスは大きな案内板をキョロキョロと見ているヴィーナに聞いた。
「おさかなさんがみたいの〜。」
「よし、まずは水族館だな。ヴィクは何か気になるとこあるか?」
「そうさね・・・。午後から動物園でショーがあるらしいから行ってみる?」
「おっしゃ、今日のルート決定だ。」
ヴィーナはキャッキャとはしゃいでいる。
「その代わり、ヴィーナがいい子にしてないと全部見れないぞ。パパのいう事は聞かなくても良いから、ママの言う事はちゃんと聞くんだぞ。いいな?」
「うんっ。わかったの〜。ままのいうこときくの〜。」
そう言ってヴィーナはヴィクスンにぴったりとくっついた。
「なんだかねえ。良いんだか悪いんだか。」
ヴィクスンは少し苦笑いしながら呟いた。
そして、ヴィーナを挟むようにして三人は水族館へと向かっていった。
「うわ〜〜。」
ヴィーナは綺麗な水と魚達に完全に目を奪われていた。
水族館は3つのエリアに分かれていて、最初のエリアは人工的に作られた巨大水槽の中のパイプ状に作られた通路を通っていくように作られている。海中散歩を疑似体験しているような気分にしてくれる。
「綺麗なもんさね・・・。」
ヴィクスンも周りを見て目を細めていた。
(ここにゃ、二人共来るのは初めてだろうからな。驚くのも無理はねえか。ヴィクの奴も子供に返ったみたいな顔してるな。)
メビウスは二人を見ながら、特に何も話さずに歩いていた。
次のエリアは、魚ではなく水の動物が飼育されている場所で、抽選で餌やり等も出来るエリアである。
早速三人は餌やりの抽選に申し込んだ。
「まあ、抽選だからな。当たるかどうかはわからねえな。」
「確かにそうさね。」
そう言い合っている二人と違い、ヴィーナは自分の持っている抽選番号の書いてあるカードを持って、当選番号が順々に出てくる画面を必死に見ていた。
最後の番号が画面に出て、ヴィーナはガックリと項垂れた。
「無かったか。残念だったな。ん?俺のがあるな。よし、ママと行って来いヴィーナ。」
「うんっ。まま〜いこうなの〜。」
ヴィクスンはヴィーナに引っ張られる様にステージの方まで出ていった。
二人はおっかなびっくり餌をやっていた。楽しそうな二人の顔をみて、メビウスも嬉しそうな顔をしていた。時々ヴィーナから振られる手に、メビウスも手を振って答えていた。
餌やりが終って満足そうな顔をしてヴィーナが帰って来た。
「楽しかったか?」
「うんっ!」
メビウスの問いに満面の笑みでヴィーナは返事した。
最終エリアは、おみやげ物や魚料理が食べれるレストランやお店なんかがある。
「試しにあれでも食べてみるか。ヴィクちょっとヴィーナ見ててくれ。あそこで買ってくる。」
「あいよ。」
メビウスはお店で焼き魚を3匹買ってきた。メビウスは丸ごとそのままバリバリと食べた。
ヴィクスンは、ヴィーナの為にフーフーと冷ましてからヴィーナに食べさせた。
「まま〜。ちゃおおばさんのおさかなのほうがおいしいの〜。」
「どれどれ・・・。ん、店の奴にゃ悪いけどヴィーナの言う通りだね。」
ヴィーナの言葉に食べたヴィクスンも頷く。
「いらねえなら、俺が貰うぞ。昼にゃまだ早いしな。」
メビウスの言葉に無言で2人共焼き魚の串を差し出した。
「正直な二人だな、おい。」
メビウスは笑いながら受けとって一気に2本とも平らげた。
おみやげ物は動物園で見ようと言う事になり三人は水族館を後にした。