洞窟珍道中

一ヶ月前・・・
トロは暇そうにおせんべいをかじりながらテレビを見ていた。
「何か面白いのやってないかなあ・・・。」
そう呟きながらチャンネルを変えていた。
「「さあ、今回お勧めいたしますのは大好評だった前回のドラゴン語講座に続きまして・・・。」」
「むむっ!」
トロのチャンネルを変える手が止まった。
「「一ヶ月でマスター洞窟の生き物語講座です。一部のハンターの方や研究者の方にお勧めです。この機会に貴方も是非どうぞ。一ヵ月後には洞窟の生き物とフレンドリーになれるのは間違いありません。今回は洞窟の生き物の生態集をお付けして、何と二万ゼニ−でのご提供です。先着1000名様限定です。定員になり次第終了とさせて頂きますのでお急ぎ下さい。尚、ビジフォンのおかけ間違いのないようにお願いします。」」
「うおお、申し込みだー。」
トロは早速申し込んだ。そして、次の日に教材が届いた。
「さーて、早速やってみようかなっと。」
一時間後・・・
「なんじゃこりゃあ。無茶苦茶難しいぞ。」
言語形態が複数の上、発音が微妙だったり、機械がないと出せないような発音などが沢山あった。トロは、少し勉強するのを止めて「洞窟の生き物の生態集」を読む事にした。
「結構詳しく書いてあるねえ。」
感心しながら、何時の間にか読みふけっていた。そして、何時の間にか眠っていた。
次の日からはかなりの苦行を覚悟の上で、ドラゴン語講座のように頑張る事を決意したトロだった。
「セシールも出かけているらしいし、テムもハオもチャオ達もつかまらなかった。仕方ない寂しいけど、一人で行くかな。」
ちょっと溜息をついた後トロはラグオルへの転送ゲートをくぐった。
少し、ひんやりする感じで着いたのは洞窟だった。一ヶ月の苦行の成果を発揮しに来たのだった。
「うっしっしー。楽しみ楽しみ。ドラゴンの時みたいに上手くいくといいな♪」
気分上々で早速奥へと入っていった。
「何か・・・全然いない・・・。」
トロは大分奥まで来ていたが、あるのはやられてしまったエネミーの死体だけだった。歩いて行く度にどんどんテンションが下がっていった。
「エネミーどころか、誰も居ない・・・。」
溜息をつきながら歩き続けていた。
そして、一時間後、ついにエネミーを発見した。エネミーはハンターたちと乱戦中だった。
「私の出番だ−!」
トロは喜び勇んで乱戦中に飛び込んでいった。
「しゅーしゅー。」
トロがそう言うと、エネミーがぴたっと止まった。ハンターも訳が分からずぴたっと止まる。
(おっ!成功か!?)
「シュシュー。」
相手のエネミーが言っている言葉が分かる。
「よっしゃー!」
思わず叫んでハリセンを高々と突き上げるトロにハンター達もエネミー達もビクッとする。
「旦那達。ここはあのエネミーの巣らしいんで他に行ってくれないかって言ってるよ。」
その言葉に思わず、顔を見合わせるハンターたち。
「いや、実は一人迷子になった人を探していてな。そいつが見つかれば構わんのだが・・・。」
ハンターの一人が言う。
「ちょっと聞いてみるね。しゅーしゅー?」
「シュシュシュー!」
ハンターたちは奇妙なやり取りに武器をしまって見入っていた。暫くして会話が終った。
「あのね、女の子一人と男の子一人知ってるらしいよ。」
トロの言葉に、よく分かるなと言わんばかりの顔でハンター達は感心していた。
「多分男の子の方だ。女の子は知らん。」
「じゃあ、案内してくれるように頼むね。」
「あ、ああ・・・。」
思わぬ展開にハンター達は気が抜けていた。
「しゅっ?」
「シューシュ!」
「良いってさー。こっちだってー。」
先頭にエネミー、次にトロ、その後にハンターたちと言う不思議な集団が洞窟を進んでいった。一つの部屋の前でエネミーが止まった。
「シューシュシュ。」
「あのね、この先にいるんだけど、自分じゃかなわない相手なんでここまでしか案内出来ないって言ってるよ。」
「そうか、ありがとうと言ってくれ。それと重ねて、言葉が通じないとはいえ仲間を殺めてしまい済まなかったと。」
「あいあいさー。」
そう言ってからにっこり笑いながらトロは相手のエネミーに言った。
「しゅしゅー。」
「シュ。」
軽く手を上げるとエネミーは去っていった。それを、何とも言えない顔でハンター達は見送っていた。
「本当にありがとう。君のおかげで助かったよ。良かったらこの先も少し付いて来てくれないかな。」
「他のエネミーがいそうだしね。いいよーん。」

そして、トロ以外緊張の中一同は部屋へ飛び込んだ。
そこには・・・
小さなカマキリの子供と遊んでいる男の子がいた。その近くに大きなカマキリがいた。ハンターの数人は遊んでいる様を見てこけていた。相手の大きなカマキリはトロとハンター達を見ると襲い掛かってきた。
ハンター達は反射的に武器を構えたが、トロがそれを制した。
「じゅる、しゃー?」
トロがそういうとまたしてもぴたっと止まる。
「す、すげえ!」
それを見て、ハンターの一人が思わず叫んだ。
「シャー・・・。」
「しゃしゃー、じゅる。」

トロがそう言うと、大きなカマキリは器用に男の子を持ち上げるとトロの前に置いた。
「さあ、帰ろう。」
その言葉に誰も反対せず、その部屋を後にした。ただ、男の子はちょっと名残惜しそうにしていた。
「君のお父さんから頼まれて探しに来たんだ。さあ、一緒に帰ろう。」
ハンターの一人がそう言うと、男の子はトロの後ろに隠れる。
「おりょりょ?」
トロは不思議そうに振り返って男の子を見た。
「このお姉ちゃんと一緒じゃなきゃやだ!」
男の子の意外な言葉にハンター達は苦笑いした。
「と言う訳で、一緒に来てもらえないかな?報酬は払うから。」
「報酬は別に良いよ。代わりにお願い聞いて欲しいな。」
トロの言葉に不思議そうな顔をするハンターたち。
「皆も一ヶ月でマスター洞窟の生き物講座を受けて、言葉をマスターして無駄な殺生しない事。」
「そんなのあるんかいっ!」
思わずハンターの一人が言う。
「勿論!それでマスターしたのさ♪で、どう?」
「分かった、約束しよう。元々争う気は無かったしな。それに、君がいなければまだ見つけられていなかった。」
その言葉にトロは親指を立てて手を突き出してウインクした。男の子も真似して同じポーズをとっていた。
一同はそのまま洞窟からパイオニア2に戻る転送ゲートで戻った。男の子は無事両親の元へ戻り、それから暫くして、洞窟でエネミーと一緒に行動している変わったハンターが何人かいると言う噂がパイオニア2に広がっていた。

「うんうん。笑いは取れなかったけど、良かった良かった。そういえば・・・あの時あのエネミーが言ってた女の子ってどうなったんだろ?ま、いっか。うっしっしー。」
トロはふと疑問に思っていたが、流石に時間が経っているので助けているだろうと言う事で放っておく事にした。


その女の子はと言うと・・・
「あうあぅ。ひえええぇ〜。だれかぁ〜。おたすけぇ〜。」
テムは大きなカマキリに自分の子供と勘違いされて大切にされた上に気に入られて今も洞窟にいた。洞窟の奥深く、テムの助けを呼ぶ声は暫くの間誰にも届かなかった。