新しい道(完結編)
一週間が経ち、チャオは視力以外の怪我などは全て回復していた。目が見えない事にも大分慣れてきていた。
{このまま見えなくてもやっていけるかもしれないにゃ〜。}
チャオはそんな考えを持ち始めていた。
「チャオさん、お食事ですよ。」
「うんっ。今日はなかなか豪華だにゃ♪」
チャオは軽く匂いを嗅ぐとにっこりと笑った。
「チャオさんは鼻が良いんですねえ。」
感心した様にフレナが言う。
「実は、その事すっかり忘れてたにゃ。にゃはは。」
少し照れ臭そうに笑った。その顔を見てフレナは微笑んだ。
「はい、あーん。」
「あーん。んにゅ〜♪」
チャオは幸せそうに頬張った。
「はい、あー・・・・んふっ。」
「にゅ?」
フレナが急にむせるのを我慢したのでチャオは不思議そうにしていた。
「唾が器官に入ったのかにゃ?」
「はい、大丈夫で・・・がはっ。」
途中まで言いかけたフレナは我慢出来ずに何かを吐き出した。
「うにゃ!?この匂いは血かにゃ!?!?」
チャオはびっくりしてナースコールを鳴らした。
「「どうしました?チャオさん。」」
「大変だにゃ。フレナが血吐いてるにゃ!!!」
「「今すぐ行きますっ!」」
チャオがナースコールで話している間もフレナはずっと咳き込んでいた。その度に血を吐いていた。
「チャオ・・さ・・・・・ん。」
ドサッ
「ふみゃ!?フレナ!しっかりするにゃ!!!」
チャオは自分が見えない事も忘れてベッドから降りてフレナに近付こうとした瞬間、フレナの吐いた血で滑った。
「ふぎゃ!」
そのままバランスを崩して即頭部から床に倒れ込んだ。そして意識を失った。
「うみゅう・・・。」
チャオは目が覚めた。
「ふみゃ〜!!!頭が痛いにゃ〜〜!!!」
即頭部を抑えてチャオはベッドの上でもがいた。
少ししてから様子に気がついた看護婦が来て痛み止めの注射を打って痛みが治まった。
ただ、チャオは痛みが落ちついてから疲れて暫くぐったりとしていた。
{やっと落ちついたにゃ・・・。ってフレナ!}
チャオはガバッとベッドから飛び降りた。
その様子を見て周りにいた看護婦や他の患者はびっくりしていた。
「フレナは、フレナは何処にいるにゃ!」
チャオは近くにいる看護婦を捕まえて詰め寄った。迫力に気圧された看護婦がいる場所を教えると一目散に駆け出した。
「チャオさん。見えてる!?」
少しあっけにとられた看護婦が見送りながら呟いていた。
「あなた・・・チャオさん・・・は・・・。」
フレナは弱々しい声で言った。
「即頭部を強打したが、大丈夫だと思う。フレナ、もう話さなくて良い。」
辛そうな顔をしてチャオの担当医が言う。
その時、
「フレナに会わせるにゃ〜。」
廊下からチャオの大声が聞こえた。
「チャオ・・・さん?」
フレナは少し驚いた様に担当医の方を見た。
「入れて良いかい?」
その問いに黙って頷いた。
「チャオさん。」
中から扉が開いて、担当医が出てきた。
「先生。フレナに会わせてにゃ!」
チャオは必死になって言った。担当医はチャオの目を見て一瞬驚いたが、黙って頷いた後中へと招き入れた。
中はいろいろな計器に繋がれたフレナがいた。
「フレナー!」
チャオは駆け寄ってフレナの顔を見た。
「チャオ・・・さ・・・・・ん。目・・・・が・・・・。」
フレナが弱々しく言う。
「ふにゃ!?目!?おおっ!見えてるにゃ〜!!!」
チャオの驚く顔を見てフレナは微笑んだ。
「ありがとうにゃ!フレナのおかげだにゃ。早く元気になって、またお話しようにゃ。」
「ごめんなさい・・・。私・・・・もう・・・・。」
「にゃんですと!?」
チャオは凄まじいショックを受けていた。
「チャオさん。フレナはね、もう寿命なんだ・・・。」
後ろから辛そうな声で担当医が言う。
「寿命!?だってまだ、18年くらいしか生きてないんだにゃ!?にゃんで?」
チャオは振り返って、担当医に聞いた。
「ニューマンはね、寿命が一定ではないんだ・・・。フレナは18年しか生きられない体だったんだ・・・。」
「そんにゃ!だって・・・。」
納得行かないチャオは担当医に詰め寄ったが、担当医の目に涙が見えて黙り込んだ。
「チャオ・・・さん。」
「はいにゃ。」
フレナに言われてすぐに振り向くチャオ。
「私・・・とっても・・・幸せだった。最後に・・・チャオ・・・さんの・・・目が・・・・見える様に・・・・なって・・・・良かった。ゴホッ、ガハッ。」
フレナは咳き込むと吐血した。
「フレナッ!!!」
チャオと担当医は同時に叫んでいた。
「ゴホッ。ゴホッ。あなた・・・ありがとう・・・我侭・・・聞いてくれて・・・。あの子達・・・・をお願い・・・。」
「当たり前だ、フレナ。俺は君に会えて本当に良かった。」
担当医はフレナの手を取って涙ながらに行った。
「私も・・・。みんな・・・・ありがとう・・・・。」
それだけ言うと、フレナは目を閉じた。その瞬間計器の数字が一斉に変化して、それ以上変わる事が無くなった。
「ふみゃ〜〜!!!フレナ〜〜〜!!!!」
チャオはフレナの体にしがみついて泣きじゃくった。担当医は後ろでただ俯いて声を殺して泣いていた。
3日後・・・
「チャオ。退院おめでとう。」
「ありがとうにゃ。ルミナス。」
ルミナスの言葉にチャオはにっこりと微笑んだ。
「でも、本当に良いの?教授にならなくて?その上アカデミー止めちゃうなんて?」
「うん。もう決めたんだにゃ。」
チャオは真っ直ぐルミナスを見てはっきりと言った。
{こういう顔する時は何言っても無駄だものね}
「そっか、じゃあ止めない。」
少し苦笑いしながらルミナスは言った。
「じゃあ、あたしアカデミーに行って教授に話してくるね。」
「一人で大丈夫?」
チャオはピースサインを出した。それを見てルミナスは少し笑った。
「また、連絡入れるにゃ〜。」
そう言うとチャオは走り出した。
「失礼しますにゃ。」
「どうぞ。」
チャオは教授の部屋へ入っていった。
「おお!チャオ君!!!退院おめでとう。」
「ありがとにゃ〜。それで早速なんだけどお話があるにゃ。」
いつもと違う真面目な顔をするチャオを見て教授も真剣な顔に変わる。
「じつは、あたしアカデミーを辞めて看護婦になろうと思うんだにゃ。」
流石にその言葉に教授は驚いて言葉が出ない。
「入院してて分かったんだにゃ。あたしの本当に目指すもの。人の役に立ちたいんだにゃ。」
「ここで教える事では、駄目ということかな?」
教授の言葉に首を横に振るチャオ。
「駄目じゃないにゃ。でも、あたしより優秀な人が他にもいるにゃ。教え方も上手い人だって。ただ、アカデミーで教えられる事とは違う事が沢山あると思うんだにゃ。それを今回の入院で知ったにゃ。本気で助けたいって思ったんだにゃ。その手伝いが出来れば・・・・って。」
何かを思い出す様に言うチャオを見て教授は小さく溜息をついた。
「若者の前途を奪う気はわしには無い。チャオ君、君自身が決めた道だ。頑張るといい。君ならきっと多くの人を救う事が出来るじゃろ。後の事は心配せんで良い。わしが何とかする。その代わりきっと立派な看護婦になるんじゃぞ。」
「教授・・・・。今まで本当に、お世話になりましたにゃ。」
チャオは深深と頭を下げた。床には涙が落ちていた。
「ただな、送別会はきちんとやらんといかんからな。生徒に恨まれたくないからな。それには出てもらうぞ。」
茶化した様に教授が言う。
「はいにゃ。」
顔を上げて涙ぐみながらもにっこり笑ってチャオは答えた。
チャオはアカデミーを後にして、ふと空を見上げた。
{フレナ見ててにゃ。あたし必ず看護婦になるにゃ!}
決意を込めて目を閉じながら、ぐっと拳を握った。