新しい道(前編)
「先生、患者さんの具合はどうなんでしょうか?」
心配そうに聞く一人のニューマンの看護婦がいた。
「意識不明で既に2週間が経っている。もしかしたらこのまま意識が戻らないかもしれない。」
担当医は辛そうに言った。
「そうですか・・・。」
その言葉に心配そうに看護婦は意識不明の状態でいる患者の方を見た。
「ただ、フレナ。君の時もそうだった。あの爆発事故で意識を失っていた君は1年以上意識が回復しなかった。だが、今はこうやって元気にやっている。この子も誰かに必要とされているなら、きっと目を覚ますさ。君の様にね。」
「はい。そうですね。笑顔で迎えてあげないといけませんよね。」
フレナは笑顔になって何度か頷いた。
ベッドにあるプレートには「チャオ」と言う名前が入っていた。
ルミナスはリハビリを受けていた。
ルミナスはまだ怒りが冷めていなかったが、何よりチャオの意識が戻らない事だけが気がかりだった。
「あの・・・チャオの意識は戻ったんでしょうか?」
「先程聞いたのですが、まだ戻らないそうです・・・。」
心配そうに聞くルミナスに申し訳なさそうに答えるリハビリ担当の医師。
「そうですか・・・。」
ルミナスは俯いて小さく呟いた。
「今日は、もう・・・良いです。」
顔を上げて言うルミナスを見て、苦い顔をしながら医師は黙って頷いた。
{私・・・あの女を許せない・・・。}
病室へ戻る帰り道で握り拳を作っていた。
アルダの方はゆっくりと病室で外を眺めていた。
二週間前の事が嘘の様に表情は晴れ晴れとしていた。
「意識が戻ったらチャオとルミナスに謝りにいかないと・・・。随分と酷い事をしたわね私・・・。許してくれるかしら・・・。」
自分がやっていた事を思い出して、天井を仰いで呟いた。
「んにゃ?」
チャオはふと気が付いた。辺りは真っ暗で何も見えなかった。
「こ、ここは何処にゃ?」
辺りをキョロキョロしてみるが、本当に何も見当たらない。音もしなければ光も見当たらない。チャオは急に不安になってきた。
{何だか・・・寒いにゃ・・・。}
チャオは自分を両腕で抱え込んだ。
「にゃー。」
遠くで小さな泣き声が聞こえた。チャオはそれが聞こえた瞬間に、無意識にそちらへ駆け出していた。
そのうち辺りに風景が現れ出した。どこかで見た風景だった。そして、風を感じた。
「ここは・・・・・・・。」
チャオはその場で立ち尽くした。
{にゃんで・・・こんな所が・・・。}
そう、チャオの目の前にある風景は昔見たものだった。
「にゃーーーーー!!!」
チャオは声のした方に振り向いた。そこには死んだはずの昔の実験体の戦友がいた。戦友は昔と同じように敵に向かっていっていた。
そして、少し離れた所に・・・
「あ、あたしがいるにゃ・・・・・・・・・。」
特殊な司令官の戦闘服を着て、指揮をしている自分がいた。チャオは暫くその景色に見入っていた。
「ふにゃーーー。」
一体の実験体が倒れた。
「あの時と同じだにゃ・・・。」
チャオは冷静に見ていた。ただ、指揮中のチャオはショックを隠しきれない様子だった。
すると、突然景色が消えて、辺りが暗くなった。そして、倒れた実験体がむっくりと起き出した。
「!?!?」
流石にその様子にチャオは目を真ん丸くして驚いた。
「にゃー。」
そして、その実験体はチャオの事を見ている。
「みんにゃ・・・みんにゃ・・・死んじゃったんだにゃ・・・。あたしだけがおめおめと生き残ったんだにゃ。ごめんにゃ・・・。あたしがもっと優秀で力があれば皆を助けられたのににゃ・・・。」
チャオは急にぼろぼろと泣き出した。
「うにゃーん。」
実験体は近付いてきて涙を舐め取った。
「優しいんだにゃ・・・。」
チャオはますます悲しくなって涙が止まらなくなった。
「にゃー。」
「にゃ〜。」
「なーお。」
何時の間にかチャオの周りには見覚えのある猫達がいた。そして・・・
「チャオ。こんなとこで何やってんだよ。」
「にゃ!?!?!?ナ、ナルかにゃ????」
チャオはその声のする方を見た。
「お前がこっち来るにゃ、まだ早い。俺や、そいつ等の為にも生きろや。ルミナスの事頼むぜ。お前はまだ、必要とされている。お前等、もう帰してやれよ。いずれチャオはここに来る。な?」
ナルの言葉に名残惜しそうに猫達は離れていく。
「ナル・・・。」
「しけた面してんじゃねえよ。お前らしくねえぞ。」
チャオは涙をいっぱいにためてナルを見ていた。
「にゅふ、馬鹿。」
「そりゃ、お前だ。さっさと戻って安心させてやれよ。」
懐かしい笑顔にチャオは思わずナルに抱きついた。
「おいおい、ったくしょうがねえな。少しだけだぞ。絶対戻るな?」
チャオは泣きじゃくりながら頷いていた。そのうち疲れ切ったのか、意識を失っていた。
「先生!患者さんが泣いています。」
フレナは急いで担当医へ伝えた。
「分かった、今行く。」
担当医が来る前にチャオは気が付いた。
「チャオさん???」
フレナはチャオに問いかけた。
「んにゃ???誰にゃ?何処にいるにゃ???」
チャオには声は聞こえても相手が見えなかった。
「チャオさん・・・まさか・・・。」
フレナにはチャオの目は開いているが焦点が定まっているように見えなかった。
「どうしたにゃ?うにゅう・・・あちこち痛いにゃ〜。」
チャオはあちこちに来る痛みに一気に襲われた。
「ふにゃ〜〜〜。」
チャオは痛さに耐え切れずに暴れ出した。しかし、それはますます痛みを悪化させた。少し暴れた後、痛みで気絶してしまった。
チャオがぐったりしている後は酷かった。医療機器が滅茶苦茶になっていた。
「こりゃ、酷いな・・・。」
担当医は苦い顔をした。
「先生・・・。チャオさん・・・失明しています・・・。」
遅れて来た担当医に静かにフレナは言った。