アルダの逆襲(完結編)

「そんなっ!?」
アルダは目を疑った。
{軍の最新の拘束用機具なのに・・・。まあ良いわ、今回はちゃんとこんな事もあろうかと用意してるから・・・うふふ。}
一瞬驚いて焦ったアルダだったが、昔と違い冷静だった。

バヂッ!バヂバヂッ!!!

チャオが動くと次々と火花が散り拘束具が消えていった。
「ルミナスを離すにゃ・・・。」
チャオは小さく呟いた。
そんな声は届くはずも無くルミナスは既に服がボロボロになっていた。

ヒュン!

少し低い音がしたかと思うと、ルミナスの近くにいた男達はあっけなく肉片と化した。これから、ルミナスに何かしようとしていた取り巻きの男達は恐怖のあまりに気絶するものや、逃げ出すもの、その場から動けないものになった。

チャオの手の爪は指よりも長くなり、足の爪もも靴を突き破って出ていた。何よりも目付きが尋常ではなかった。
「ふ〜〜〜。」
チャオはアルダの方へ向いた。
流石にアルダは迫力に気圧されて2、3歩後ずさったが、前に武装した数人が壁になる様に立ちはだかった。
「アルダ様は後ろへ。」
「任せたわよ。」
アルダは少し後ろに下がって様子を見る事にした。
チャオはその様子を見ながら少しニヤッと笑った。口元には長く伸びた犬歯が見えていた。

「各人散ってあのニューマンを消せっ!!!」
その声と共に一気に壁が無くなりチャオを目掛けて攻撃が始まった。
チャオはつまらなそうな顔をして、そんな連中を無視してアルダを睨みつけた。
(アルダ・・・お前を殺すにゃ。}
アルダの方は悪寒が走り自分を抱き締めた。

チュイン!

一人が放った銃の弾はあっけなくチャオの爪で弾かれた。
「そんなものじゃ、あたしの爪にキズ一つつかないにゃ・・・。」
チャオは撃った本人に向かって咆える様な仕草をした。周囲も、本人も不思議そうな顔をした瞬間、
「うぎゃーーーー!!!!」
一気に耳、鼻、目から凄まじい出血をして倒れた。
「このーーーーっ!!!」
違う方から一気に撃った弾がチャオを直撃したがチャオは微動だにしない。
「そ、そんな馬鹿な・・・。」
「戦いの最中の動揺は命取りだにゃ。」
チャオがそう言った瞬間に五体バラバラになった本人と、その後ろにチャオがいた。
「な、何て言うスピードだ・・・。」
「あたしなんてまだまだだにゃ。こんな事でどうこう言ってるようではにゃ・・・。」
そう言いながらチャオは次の相手を決めていた。


「頼む、急いでくれ。パトロールに捕まっても構わん!人の命がかかってるんだ!!!」
サテラは運転手を急かした。
「分かっております。しばしお待ちを。」
サテラは、アカデミーの生徒の話しを元にチャオの行方を追って、ついに居場所を掴んだのである。
{頼む!皆無事でいてくれ!!!}
サテラはその場で手を合わせて祈っていた。


ルミナスははっきりしない意識の中でボーっと周りを見ていた。
{これは夢なのかしら・・・。}
周囲には真っ赤に染まった景色と、肉片が転がっている。その先で銃撃戦が行われている。
{こんな様子・・・何処かで見たような・・・・。}
ルミナスはおぼろげになりながら過去の記憶を辿っていた。


「そ、そんな・・・。」
アルダは驚愕していた。
「さあ、後はお前だけだにゃ・・・。」
チャオはニヤリと残酷な笑いを浮かべて言う。
アルダは確実に死の恐怖に捕われていた。ふと見ると焦点の合わない眼のルミナスが足元にいた。
「チャオ、そこを動いたらこの女を殺すわ!」
アルダはルミナスの髪の毛を掴み引き起こした。しかし、ルミナスは痛がる様子も見せず、ただアルダのされるがままになっていた。
チャオはピクッとしたが、反応しないルミナスを悲しそうに見た。
「お前が引き金を引いても、引かなくても死ぬ事に変わりは無いにゃ。死ぬにゃっ!!!!!」
チャオは一気にアルダに襲いかかった。
アルダは諦めてルミナスを放して、チャオめがけて撃った。

キンッ!キンッ!キンッ!

全てチャオの爪に弾かれた。そして、チャオが振りかぶった瞬間・・・
「うぐっ!?」
アルダが前のめりになった。前のめりになった事でチャオの爪をかわす形になった。そして、勢いでアルダの背中側に出ていた。
「にゃに!?」
チャオは不自然さを感じて振り向いてアルダを見た。
アルダはその場で蹲っていた。床には血が広がっていた。
「貴方を殺すのは私よ・・・。」
「!?」
さっきまで無反応だったルミナスが血に染まったナイフを持っている。
「この・・・くたばりぞこないがっ!」
アルダは一気に起きあがってルミナスに銃を乱射した。2発くらいはルミナスに当たったが、残りは庇う為に飛び出したチャオに当たった。
「チャオ!!!」
ルミナスはぐったりしているチャオをそっと床に置いた。
「アルダ・・・貴方は私が・・・。」
その目には恐ろしい程の何かが宿っている様だった。アルダは恐ろしくなって銃を撃ったが、エネルギー切れで弾が出ない。
「ひいぃ〜。」
「アルダー−−−−!!!!」
ルミナスがアルダに襲いかかった瞬間、ルミナスのナイフを持つ腕が後ろから掴まれた。
「えっ!?」
ルミナスは驚いて後ろを振り向いた。
そこにはサテラが立っていた。
「済まない・・・ルミナス・・・。」
その言葉でルミナスの腕から力が抜けた。
「アルダ・・・。もう良いだろう?」
アルダの方はホッとした表情になって頷いてから、その場に崩れる様に倒れた。
「ル・・・ミ・・・ナス。」
チャオが弱々しい声で呟く。
「チャオ、私は大丈夫よ。」
「にゃ・・・はは・・・。良かった・・・にゃ・・。」
チャオはそれだけ言うと気を失った。
「サテラ・・・。後はお願い。私も・・・もう・・・。」
サテラは頷くのを見てルミナスは安心した様に倒れ込んだ。
「間に合った・・・と言って良いのかな・・・。」
辺りの様子をみてから難しい顔をしてから、ビジフォンで救急隊を呼んだサテラだった。


・・・・・一週間後のメディカルセンター・・・・・
「あなた・・・。ごめんなさい。」
アルダはサテラに頭を下げた。
「今何を言っても、終わってしまった事だ。」
優しい顔で言うサテラ。
「あの二人は?」
「ルミナスはもう気が付いてるがチャオはまだ意識不明だ・・・。」
サテラの言葉にアルダは俯いた。
「ただね、二人とも君の事は許してくれると思うよ。後は君の気持ちだけだ。」
「私は馬鹿だったわ・・・。何も知らずに一人で突っ走ってしまった・・・。許されるなら、もうこんな事はしないわ。約束する・・・。本当に・・・本当に・・・ごめんなさい。」
アルダはサテラだけでなくここにいないいろいろな相手に向かって謝っているような言い方だった。そして、最後の方には偽りの無い涙が頬を伝っていた。
「アルダ・・・。後で二人に謝りに行けるね?」
サテラの言葉にアルダはしっかりと頷いた。
「お腹の赤ちゃんは大丈夫だって先生が言ってた。良い子を産んでくれよ。」
アルダはサテラの言葉に顔を上げて優しく黙って微笑んだ。
そこには復讐に燃えていた頃の面影は消えていた。