アルダの逆襲(後編)

ルミナスはビジフォンの呼び出し音に気が付いて出た。
「はい、ルミナスで・・・す・・・。」
ルミナスはビジフォンの向こうにいる人物を見てあからさまにいやな顔をした。
「お久しぶりね。実は貴方にお願いがあるの。」
「何ですか。貴方にお願いされる覚えないんだけど・・・。」
相手が少しニヤニヤしているのが気に食わないルミナスは不機嫌そうに言った。
「これでもかしら?」
「?」
ルミナスは相手の意図が分からなく、ビジフォンをただ見ていた。
「チャオ!!!!」
ビジフォンの画面にはぐったりしたチャオが写っていた。服装は乱れていなかったが、手枷・足枷・首輪をつけられていた。どう見てもアクセサリーには見えない。
「これから良かったら、ここに来てみない?」
「・・・。」
ルミナスは無言でビジフォンの相手を睨みつけた。
「返事が無いようね。これからどうなるかは明日のニュースでも見て頂戴。」
そう言ってビジフォンの相手は薄く笑った。
{この人・・・本気だわ・・・。私が行っても何も変わらないかもしれない・・・。でも・・・ナルの時みたいに・・・いえ・・・今回はもう・・・。}
「じゃあ、さようなら。親友を見捨てた事を一生後悔するのね。」
「待って!場所は何処なの?」
ルミナスは苦しそうに言った。
「これから、貴方の端末に送るわ。待ってるわね。」
相手は少し笑いながらそれだけ言うとビジフォンを切った。
ルミナスは暫くその場で立ち尽くしていた。
{ナルの時は全然知らなかった。でも、今回はいる場所は分かってる。チャオ・・・待っていてね。}
ルミナスは意を決した様に歩き出した。
途中で端末に地図が入ったが無視して歩き続けた。


「まだ、分からないのかっ!」
サテラは腹立たしく言った。
「申し訳ございません。」
「謝罪は後で良い。とにかく探せ。チャオ助教授でもアルダでも構わん。大至急だ!!!」
それだけ言うとサテラはビジフォンを切った。
「ふう・・・。」
サテラは溜息をついた。
{まさか、昔の遺恨を引き摺っているとは思わなかった・・・。}
アルダの端末を呼び出しているが全く反応が無かった。サテラにはこれから起きる事がなんとなく想像出来ていた。
{ナルに続いてチャオまでも私から奪おうというのかっ!!!}
力一杯握られた拳からは血が滲んでいた。
少ししてから、突然ビジフォンの呼び出しがかかった。
「はい、どな・・・。」
サテラは相手を見て途中で言葉を失った。
「久しぶりね、サテラ。」
ビジフォンの向こうにはルミナスがいた。いつもの落ちついた雰囲気とは違い鬼気迫る表情だった。
「ルミナス。久しぶりだね。何か嫌な事あったのかい?随分怒っているようだけれど・・・。」
そう言われたルミナスは、ハッとしてから苦笑いした。
「全く・・・。皆変な所だけ察しが良いんだから・・・。」
「私で良ければ相談に乗るよ。何があったんだい?」
サテラは普通に聞いた。
「これから起こる・・・かしらね。あのねサテラ。私、ナルだけじゃなくてチャオまで失いたくないの。」
ルミナスの言葉にサテラの表情が強張った。
「その顔だと、分かっているみたいね・・・。チャオを失うくらいなら私がアルダを道連れにして死ぬわ・・・。」
「何、いって・・・。」
サテラは続けて言おうとしたがルミナスの気迫に押されて押し黙った。
「遺恨は消えない・・・。そうアルダの方がね。ナルを殺した事なんて忘れているわ・・・。そして、チャオが死んで貴方からどんな事を言われたりするのかも分かっていない。きっとそれを言われた後は自動的に私の番ね・・・。」
ルミナスは悲しそうに言った。分かっているサテラは何も言えなかった。
「今では、貴方がアルダの事を許して愛しているのは分かってるわ。だって、おめでたですものね。その人を私は奪う気でいる。その後に貴方やチャオに合わす顔が無いわ。だから・・・分かって・・・。」
サテラは苦しい顔をした。
{気が付けなかった、私が悪いんだ・・・。ルミナスも、チャオも、アルダも悪くは無い・・・。}
「貴方がいなくなってバッドエンドは無しよ。そうしたら誰もいなくなってしまうわ。」
少し苦笑いしながら言うルミナス。
「参ったな・・・。やっぱりルミナスが一番察しが良いな・・・。君が一番の被害者だ。君は何も悪くないのに・・・。」
サテラは苦い顔をして言った。
「うふふ。一番の被害者ナルよ。次にサテラ、貴方よ。そして、チャオ・・・かな。」
昔を思い出す様に言う。
その後暫く二人の間に沈黙の時間が流れる。
「じゃあ、私行くわね。ここを逆探知しても私を見つける事は出来ないわ。ちゃんと考えてあるから。それじゃあ・・・さようなら・・・そして、ごめんなさい。」
それだけを聞いた瞬間にビジフォンは切れた。
「サテラ様・・・逆探知はアカデミーになっていますが如何しますか?」
「アカデミーの中に協力者がいるんだろう。探しても無駄だよ。」
溜息混じりに答えた。
「これで、探すのは3人に増えた。チャオ、アルダ、ルミナスを至急探すんだ!」
「はっ!」
{何としても、犠牲者は出したくない・・・。ナルだってそれは望まないはずだ。何が出来るか分からないが、止めないと・・・。}
サテラは少し強めに唇を噛んだ。


「ん・・・にゃ・・・。」
チャオはふと目を覚ました。焦点が合わないが誰かが目の前にいるのは分かった。
「お目覚めかしら。チャオ。」
久しぶりに聞いた声だったが誰だかはっきり分かった。
「アルダ・・・。」
体を動かそうとすると動かない。
「良い格好ね。」
アルダは少し笑いながら言った。
「これは一体何のマネにゃ!」
チャオはアルダを睨みつけて言った。
「この2年間の恨みを晴らさせて貰うだけよ。」
笑っていた表情が消え厳しい表情になった。
「ナルを殺した奴が何言うにゃ!恨みはこっちの台詞だにゃ!!!」
「私を殺す気だったくせに!」
チャオはプルプルと肩を震わせた。
「何、馬鹿言ってるにゃ!殺そうと思えばあそこで殺してたにゃ!周りに被害を出さなかったのは、お前を発見してもらう為だにゃ!家の人より、慌てて消したビジフォンの相手が真っ先に連絡入れるって予想してやったんだにゃ!!ナルとルミナスの恨みをあそこで晴らさせてもらったんだにゃ。それにサテラの為でもあったんだにゃ。そんな事もわからないのかにゃ!!!!」
チャオは吐き捨てる様に怒鳴っていった。
「あっはっは。そう・・・。なら丁度良いわ。今回は貴方のお友達もいるわよ。」
「にゃんですと!?」
アルダが笑いながら言う言葉にチャオは驚いた。
「チャオ!」
「ルミナス!?なんでここにいるにゃ???」
チャオは驚いた。何でルミナスがここにいるのかが分からなかった。
「私が呼んだのよ。チャオ・・・貴方の最後を見届けさせる為にね・・・。」
アルダは静かに、しかしはっきりと言った。
「あたしは良いとしても、ルミナスには指一本触れるにゃ!!!ルミナスは関係無いにゃ!!!!!」
チャオは動かない体を必死に揺さ振って言った。
「そうは行かないわ・・・。この女、私を殺そうとしたんだもの。ただでは帰せないわ。」
チャオはアルダの言葉に信じられないという顔でルミナスを見た。
「チャオ。これが一番良い選択だと思ったの。この女は分かってないのよ・・・。ナルを殺した事、もし、ここでチャオを殺してしまってからサテラから何を言われるのか・・・。」
「コルファはこの事は知らないわ。」
「馬鹿ね・・・。もう貴方とチャオを必死で探しているわよ。」
ルミナスはアルダの言葉に呆れたように溜息混じりに言った。
「そう、ならそれでも良いわ・・・。私のやる事に変わりは無いわ!」
{アルダはもう精神的に冷静じゃ無いにゃ。}
チャオはアルダを見てそう思った。
「先ずはチャオ!貴方からよ、楽に死なせないわよ。」
薄く笑うと少し変わった銃を取り出した。そして、チャオの腿にに向けて一発放った。
「ふぎゃ〜〜〜!!!」
チャオは凄まじい痛みに教われた。
「あっはっは。特殊に作ってもらった銃よ。殺傷能力は低いけれど、その代わりに凄まじい激痛が走るのよ。そう、痛みで気絶したくても出来ない様にもなっているわ。」
満足そうに笑いながらいうアルダ。すでに常気を逸していた。そして、2発、3発と次々とチャオに向けて撃った。
チャオは2発目からは歯を食いしばって声を上げなかった。
「何処まで我慢出来るか見物ね。」
アルダはそう言ってから容赦無く撃ち続けた。
「もう止めてっ!もう十分でしょ!」
余りの酷い仕打ちに我慢出気無くなったルミナスは叫んだ。
「五月蝿いわね。」
アルダはそう言って振り向き様にルミナスにも1発撃った。
「きゃーーー!」
ルミナスは撃たれた肩を抑えて膝をついた。
「う・・・。お願い・・・もう・・・止めて・・・。」
それでも、ルミナスはアルダに向かって必死の形相で言った。
「貴方達。その女を好きにして良いわよ。くれぐれも殺さない様にね。」
アルダは見下ろしながら、冷たく言い放った。
「きゃー。止めて!お願い!嫌ーーーーーっ!!!」
ルミナスは以前に襲われていた事で完全な男性恐怖症になっていた。ナルの事を想っていたのもあったが、恐くて今でも付き合っている相手はいなかった。
しかし、泣き叫ぶルミナスに容赦無く男達が襲いかかっていた。
「止・・・め・・・・る・・・にゃ・・・。」
チャオが小さく呟いた。
「そんな状態の貴方に何が出来るというの?」
アルダは小馬鹿にした様に言う。

バヂッ!!!!

チャオの手首を抑えていたフォトンの腕輪が火花を散らせたかと思うと消え去った。
チャオ自身の目付きが実験体のそれに変わった。