アルダの逆襲(中編)

「アルダ。いらっしゃい。」
そういってから母親はアルダを部屋へ招き入れた。
「お母様。ご心配お掛けしました。」
「ア・・・アルダ・・・・貴方・・・。」
アルダの母親は涙を流しながら抱き寄せた。アルダの方も黙ったまま母親を抱き返した。暫くそのままだったがアルダの方から離れた。
「長かったわね。2年以上かかったものね。」
母親は涙を拭きながら小さな声でいう。
「ええ。本当に長かったですわ・・・・。」
アルダは目を細めて何処を見るでもなく呟いた。
暫く二人の間に沈黙の時間が流れる。
アルダはそっと首元をさすった。アルダの首には生々しい傷跡が残っていた。
「アルダ。何故その傷を消さなかったの?」
母親は、アルダの首元の傷を見て不思議そうに聞いた。
「お母様・・・復讐の為・・・ですわ・・・・。」
アルダは静かに、はっきりとそう言った。
「最後まで私にも話さなかった犯人への復習なのね。」
母親の言葉にアルダは頷く。
「良いわ。誰にとは言いません。ただし、公になら無い様に、ね。」
そう言うと、アルダの手に一枚のチップを渡した。
「お母様。これは?」
「好きにお使いなさい。その復讐が終ったら、その傷を消しなさい。良いわね。」
アルダは力強く頷いてから、チップを握り締めた。


「今日の講議はここまでにゃ。みんなお疲れ様にゃ。」
チャオはアカデミーの講議を終えた。
「チャオ先生ー。」
「にゃ?」
チャオは声をかけられ振り向いた。
「チャオ先生今晩暇ですか?」
「うんっ!どっか飲みにでも行くかにゃ?」
「良いんですか?他にも誘って良いですか?」
「勿論にゃ。じゃあ、悪いけど片付けとか終ったらビジフォンに連絡入れるにゃ。あたしの端末のアドレスに連絡先入れておいてにゃ。」
「はいっ!」
生徒は嬉しそうに返事をして一礼すると去っていった。
{あたしもあ〜ゆ〜生徒だったのかにゃ〜。}
チャオはぼんやり見送りながら考えていた。
「さってと、待たすと悪いからさっさと用意するにゃ。」
軽くガッツポーズを取って気合を入れなおして、駆け出した。


「チャオ君。」
「にゃ?プロフェッサーにゃにか?」
そう呼ばれた教授は一生懸命帰り支度をしているチャオに申し訳なさそうに声をかけた。
「実はな、わしはそろそろ引退しようかと思ってな。」
「引退かにゃ〜・・・・って、にゃんですと!?」
自然な流れで相槌を打ちそうになったチャオは目を真ん丸くして教授を見た。
「はっはっは。そうじゃよ。わしも頭の回転が追いつかなくてなあ。サイバー手術もしたくないしな。」
{むぅ。サイバー手術すればまだ20年は教授できるのににゃあ。にゃんでだろ?}
チャオは不思議に思っていた。
「なんで、そうしようかと思ったのかはチャオ君じゃ。」
「にゃ???」
チャオはさっぱり分からず首を傾げながら教授を見た。
「チャオ君。教授にならんか?君なら十分にその素質はある。生徒の受けも良いしな。」
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃんですと!?!?」
突然の教授の言葉にチャオは驚いて口をパクパクしていた。何か他に言いたいのだが言えなかった。
「そんなに驚く事もあるまいて。承認を上げれば、間違い無く通るじゃろ。」
「でも、教授はどうするにゃ?」
「わしはもう十分稼いだ。残った金でばあさんと旅行三昧でもするわい。」
そう言って大きく笑った。
「まあ、すぐに返事しろとは言わん。今日は待ち合わせもあるんじゃろうから近いうちで構わんよ。早く行ってやれ。」
チャオはそう言われてハッとして。すぐに荷物をバタバタとまとめた。
「プロフェッサーさっきの答えは近いうちに必ずするにゃ。それでは、お先に失礼するにゃ。」
一礼して部屋を後にした。
「全く、可愛い子じゃわい。」
教授は呟きながら目を細めてチャオを見送っていた。


「目標、アカデミーを出ました。数人の生徒と一緒です。如何しますか?」
「一人になるまで見張ってて。一人になったら連絡頂戴。」
「了解。」
アカデミーのゲートからは少し影になる所で、マントに見を包んだ男がビジフォンで話をしていた。チャオも、生徒たちも全く気がつかなかった。


「にゃひゃひゃひゃ〜。」
チャオは完全に酔っていた。
「チャオ先生大丈夫ですか?」
流石に心配そうに生徒の方が声をかけた。
「らいじょ〜ぶにゃ。にゃはっは。」
全然大丈夫そうに無い返事だった。その様子をみた生徒達は、飲みに走る方と、セーブする方の両極端になった。
チャオの方は暫くして眠ってしまった。
生徒たちの間では、誰がチャオを送っていくかでもめていた。
チャオは助教授とは言え18歳の年頃。仕草の可愛さもあり男性陣の中には本気で狙っているものもいた。
「むにゃ・・・。」
言い争う男性陣と寝顔を見て微笑んでる女性陣との中でチャオはぐっすりと眠っていた。



サテラはホテルの駐車場へ向かっていた。
「コルファ様・・・。」
駐車場の影から声がした。
「ん?どうした?」
「アルダ様が、殺し屋を動かしています。」
その言葉にサテラの表情が険しくなった。
「それで?」
「詳しくは分かりませんが、復讐の為と聞きました・・・。」
サテラはその言葉にピンと来た。
「アカデミーのチャオ助教授の居場所をすぐに探せ!大至急だ!!!」
「はっ!」
その場から緊張した空気が消えて、サテラは溜息をついた。
「チャオ・・・無事でいてくれ。」
呟いてから車へ向かって歩き出した。


チャオは眠りから覚め、周りの男性陣の乱闘に目をぱちくりしながら、女性陣に見られて首を傾げていた。
「おろ?あたし寝ちゃったにゃ。みんなゴメンにゃ」
チャオは軽く舌を出して、皆に謝った。
「チャオ先生。可愛いー。」
「可愛くなんかにゃいよ。」
チャオはそう言ってから、立ち上がった。
「さあ、みんな〜。今日はこれでお開きにゃ〜。」
手を上げると、乱闘騒ぎだった男性陣も大人しくなって、皆で会計をした。

「それじゃあ、みんな気をつけてにゃ。明日の講議に遅れちゃ駄目だにゃ〜。」
軽くウインクしてから手を振ってチャオはその場を後にした。
「あーあ。先生行っちゃったよー。」
「手前が悪いんだろ!」
「んだと!」
「ちょっと、貴方達止めなさいよー。」
チャオが去った後、居酒屋前では一騒動になっていた。


「ターゲット、一人になりました。作戦に移ります。」
「行くまでに殺さないでね・・・。」
「了解。」
マント姿の男はビジフォンを切って歩き始めた。

{むむっ・・・。誰かついて来てるにゃ。}
チャオは少ししてから一気に走り出した。
途中で曲がってから、身を潜めた。マント姿の男がキョロキョロしているのが見える。
{見た事ない顔だにゃ・・・。}
チャオは不思議に思った。つけられる覚えが無いからだった。
「チャオさん・・・ですね。」
「ふみゃっ!?」
突然後ろから声をかけられたチャオはびっくりして飛び上がった。その後恐る恐る振り向いた。
「こちらを向くのが遅いですよ。」
相手のにこやかな顔を見た瞬間、凄まじい痛みが手から走りチャオは気を失って崩れ落ちた。
「全く、こんな素人ニューマンに巻かれるようではあの男は役立たずだな。」
サイレンサー付きの銃に撃たれ、チャオの後を追っていたマント姿の男は倒れた。
「さて、これから地獄へ参りましょうね。チャオさん・・・。」
崩れ落ちたチャオを見下ろしながら、にこやかな顔でそう言った。その人間が辺りをうかがうと数人出てきてチャオをそこから運び出し車に乗せた。
「私は地獄への案内人で、地獄を見せる役目は負ってないんでね。」
それだけ言うとその男はその場から立ち去った。