チャオのアカデミー時代秘話(前編)

チャオは13歳になっていた。
アカデミーにトップクラスで入学を決め楽しい学生生活を謳歌していた。
「にゅっふっふ〜ん♪」
鼻歌交じりでキャンパスを元気良く歩いていた。
アカデミーではまだ若い部類ではあったが類稀なる記憶力と知識力で周りをあっという間に追い越し、早ければあと1年もすれば博士号が取れるのではと噂されるほどだった。その背景には軍から逃亡してきた後の3年で猛勉強したと言う事がある。そんなチャオが可愛くて仕方ないと言う人達の協力もありすっかり一部では人気者になっていた。
「チャオ〜」
「にゃ?」
チャオは呼びとめられて声のした方へ振り返った。そこにいたのはチャオと親しい女友達だった。
「どうしたにゃ?ルミナス?」
「あのね、うふふ。チャオに会いたいって人がいるのよ。」
ルミナスの言葉に首を傾げるチャオ。
「あたしに?改めてかにゃ???」
「そうよ。それでね、これが待ち合わせ場所とかのデータチップね。」
そう言ってからルミナスはデータチップをチャオへ渡した。チャオは不思議そうにデータチップを受け取った。
「一応今の時点では私の用事はこれだけね。また今度生物学教えてね。」
そう言って手を合わせながら舌をペロッとだす。
「にゃは。良いけど遊んでばっかりじゃ駄目だにゃ〜。」
「もちろん。でもね今は遊びたい年頃なのよ。それじゃあね。」
そう言ってルミナスは走っていった。
「まったね〜チャオ!バイバイ!!」
チャオはブンブン手を振って見送った。ルミナスがいなくなった後チャオはデータチップを見てみた。

チャオ様
初めまして。少しお話がしたくてルミナスさんにお願いしてこのデータチップを送らせて頂きました。もしご都合が宜しければキャンパスティールームに来て下さい。宜しくお願い致します。
サテラ

「サテラ・・・聞いた事無い名前だにゃ〜・・・。まあ暇だから行ってみようかにゃ。」
チャオは呟いた後ティールームへ向かった。



「だから・・・何度も言ってるだろう。僕には好きな人がいるんですよ。お見合いなんて止めて下さい。良いですね。予定組まれても行きませんからね。」
サテラは一方的にそういうとビジフォンを切った。
「ふう・・・。全くしつこいな・・・。」
溜息混じりに呟いた後辺りを見渡した。
「チャオさん・・・来てくれるかな・・・。」
少しそわそわしながらサテラは少し震える手でカップを持ってコーヒーを飲んだ。
そんな様子をチャオはティールームの入り口の陰から見ていた。
(お見合いってにゃんだろ〜?)
チャオは知識は凄まじく豊富だったが世間一般の事には疎かった。
「チャオどうした?」
「!?」
突然後から声をかけられてチャオは驚いて飛びあがった。
ドキドキしている胸を押さえながら恐る恐る後ろを振り向いた。そこには1人の男が立っていた。
「にゃんだ、ナルか。」
ホッとした表情になって言った。
「何だじゃねえだろ。驚いてたくせに。」
ナルはジト目でチャオを見ながら言った。
「別にナルなら構わないにゃ。」
「誰だったら不味いんだよ。」
にっこり笑いながら言うチャオに即座につっこむナル。
「にゃ〜?」
チャオは言われてからそう言われてみると確かにそうかなと思い首をかしげた。その様子を見てやれやれと言う表情になる。
「で、サテラがどうかしたのか?」
ナルにそう言われてデータチップを素直に見せるチャオ。
「お前な・・・見せて良いのか・・・これ・・・。」
「駄目にゃの?」
データチップの中身を見た後で何とも言えない複雑な顔をしながら言うナルにチャオは本気で分からないという表情で驚いていた。
「・・・まあ良いか・・・とりあえず行って来いや。」
「うんっ!」
呆れた顔をしながら行ったナルだったが、そんな顔を全く気にせずチャオは元気良く返事をしてサテラの方へと歩いていった。


「あ!」
サテラはチャオが来たのを見て驚いたと同時に嬉しかった。両方の気持ちがこもっていた一声だった。
「来たにゃ〜♪」
チャオはサテラの前に座った。はっきり言って全く分かっていない様子だった。ニコニコとしていてサテラが話し出すのを待っている。
「えっとですね・・・その・・・つまり・・・。」
しかし、サテラにはチャオの様子を気に出来る程の余裕が無かった。顔が赤くなっていつもなら言えそうな言葉が出ない。頭の中が真っ白になっていた。
「にゅ?」
チャオは不思議そうにサテラを覗きこんでいる。


5分後
「チャオさん・・・私は貴方が好きなんです。お付き合いして下さい。」
サテラは言った後に大きく深呼吸をする。
「お付き合いって何するにゃ?」
チャオの言葉に椅子から転げ落ちそうになるサテラ。その後気を取りなおして座りなおした。
「え〜とですね・・・一緒にデートというか・・・出かけたりとか、食事をしたりとか・・・他にもいろいろと・・・。」
「ふ〜ん。別に構わにゃいよ。」
「そうですか。って・・・え!?」
あっさり言われて断わられたかと一瞬思ったサテラだったが驚いてチャオをまじまじと見る。
「本当に良いんですか?」
「うん。何かまずいのかにゃ???」
チャオは目をぱちくりしながら言う。
「いえいえいえいえ、とんでもないです。良かった。」
サテラは大きく手を横に振った後、安心して少し椅子に寄りかかった。
「?」
チャオは良く分からず相変らず目をぱちくりしていた。


こうしてチャオ本人が何も分かっていないままサテラとの付き合いが始まった。